曇りのち晴れ


「おはよ〜…」

未夢がダイニングへと顔を出すと、ワンニャーはパンを焼き、彷徨は朝食を摂り、ルゥはまだ寝ているのかこの場にはいなかった。

「おはようございます、未夢さん。今日は早いですね」

「おはよ。珍しいじゃん、未夢がちゃんと起きてくるなんてさ」

いつもは、目覚ましがなっても起きなくギリギリまで寝て、起こされるのが常なのに。と言わんばかりの彷徨に対して、いつもなら

『なによっ!!私だって、いつもそんなんじゃないわよっ!!彷徨のバカっ!!』

と言い返しそうなのにも関わらず、今日は違った。

「…ワンニャー、朝ご飯ちょうだい」

と軽く彷徨を無視したのだった。彷徨は調子が狂うな。と思いながら未夢を見てみるが気分が沈んでいる以外は、別に変わりないように見えた。

(?)

かちゃかちゃと運ばれて来た朝食を未夢は、ふぅとため息をついて食べ始めた。そして、じーっと見ている彷徨を見て

「なによ」

「お前さ…どっか悪いのか?」

「別に、大丈夫だから」

そんな受け答えを聞いて(どこが大丈夫なんだよ)と思いつつ、なんだか不機嫌そうな顔を見ると言う気分にもならなかった。
学校への道程はやけに静かだった。
いつもは、遅刻ギリギリでも二人で文句を言い合い走り抜ける道だが会話がないというだけで、いつもより遠く感じる。
まぁ、今日は歩いていけるのだが沈黙がやたら重い。天気も曇り空で何とも言えない気分だった。
ちらりと未夢を横目で見ると、さっきからため息を吐いている。気になって、声をかけようとした時

「み…「おーっす!!かっなた〜、光月さん」

「あっ…あぁ、三太」

「おはよ、三太くん」

道の向こうから、三太が現われさっきまで顔を下に向けていた未夢は、にこっと笑いながら三太に答えた。

(なんだよ、俺の前じゃ笑いもしなかったくせに…)

彷徨はそんな事を思いながら、未夢を見てフイッと顔を逸らした。

「今日1時間目から数学だよな〜やんなるよな〜彷徨、宿題見せてくれよ〜」

「自分でやれよ」

「冷たいよ〜かなたぁぁ〜」

泣きながら叫ぶ三太の話を聞き流しながら、彷徨たちは学校へと足を向けた。

「おっはよー。未夢」

「おはよう、未夢ちゃん」

昇降口に来ると、靴を履き替えていたななみと綾に声を掛けられ、未夢はさっき三太に笑ったように微笑んであいさつした。

「おはよう。ななみちゃん、綾ちゃん」

「早く教室に行こう」

「うん。彷徨、先行くね〜」

不満を洩らしつつ、靴を履き替えると未夢はふわふわと髪をなびかせてななみたちと行ってしまった。
彷徨はなんとなく、その後ろ姿を見ながら憮然としていた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


昼食も食べ、午後の授業が始まった。体育は、男子はサッカー。女子はマラソンらしく、未夢たちはトラックを走っていた。
グラウンドでは、男子が1組と2組で試合をするらしく彷徨たちはボールを蹴っていた。交代になり、彷徨と三太はグラウンドの隅に座りぐでーっとしていた。

「あー…疲れた〜」

「お前、さぼってばっかの癖になに言ってんだよ」

「走りっぱなしって疲れるじゃんかよ」

そんな会話をしながら、彷徨は視界に金色の髪が揺れているのが入った。
長い髪をゴムで括って、ななみや綾と走る未夢は疲れているのか、なんだか顔色が悪いように見えた。
今日は、朝からなにやら違う未夢。元気がないのを見るのは、彷徨としても調子がよくない。
ましてや、今日は未夢の笑顔を見ていないのだ。
登校時の見た笑顔は、三太や綾たちに向けられたもので、自分には笑い顔は見せてもらっていなかった。
だからこそ、自分ではなく三太に向けられた笑顔に腹が立ち、憂欝になってしまう。

(三太はともかく、小西や天地にまで嫉妬してどうすんだよ…俺…)

自分には笑ってくれないからと、そんな風に思うなんて独占欲が強いな。と思いつつ、彷徨は未夢を追っていた。
だからこそ、気付いたのは誰よりも早かった。──真っ青な顔になった未夢がグラリ…と倒れそうになるのを。
あっ!と思った時には、地面に降ろしていた腰を上げていた。

「きゃあ〜未夢ちゃんっ!?」

「未夢っ!?どうしたのっ?」

横で走っていたななみと綾は、急に前のめりになって倒れこむ未夢を地面すれすれで受けとめた。見れば、顔は真っ青でぐったりとしていた。
先生を呼ぼうと、未夢を抱き留めたまま顔を上げると駆け寄ってくる彷徨の姿が目に入った。

「どうしたっ!?」

「西遠寺くんっ!?」

いつも見るクールさはなく、すこし焦った感じの彷徨を見るのはあまりない事だった。

「西遠寺くん…わからない。急に倒れて」

「とにかく、保健室に。先生ぇぇ──」

綾が未夢を支えながら説明し、ななみは先生を呼ぼうとした時、さっと目の前の未夢は彷徨の腕の中にいた。

「先に保健室に連れていくよ」

未夢を抱え、走る彷徨の姿にななみたちは一瞬呆然とし、慌てて二人の後を追った。
綾は『きゃあぁ〜お姫さまだっこ─♪』と興奮し、ななみも驚きつつ『やるねぇ♪西遠寺くん』などとニヤついていた。
三太も慌てて追い掛けてきて、クリスとはいうと彷徨にお姫さま抱っこされている未夢の姿を見て、校庭の木を根こそぎ抜いて暴れていたのはいうまでもなかった。
保健室のベッドに横たわる未夢を、彷徨は心配そうに見ていた。さっきまで、ななみや綾、三太もいたのだが今は授業に戻っていた。

「ほらほら、西遠寺くん。大丈夫だから授業に戻りなさい」

保健医に言われるもなにやら離れがたい気がして、彷徨は「でも…」と呟いた。保健医は苦笑すると

「単なる貧血だし、少し休めば大丈夫なんだから。ほらほら、学生の本分は勉強勉強」

彷徨の背中を押し保健室から追い出した。彷徨は、後ろ髪引かれながらも…仕方ない。と思いグラウンドへと戻っていった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


しばらくすると、未夢は新緑の瞳をゆっくりと開いていった。

「…あ…れ?……わたし…」

見知らぬ天井が視界に入り、未夢はぼーっとしながら額に手を添えた。

「あら、気付いたのね」

不意に掛けられた声に目線を移すと、ここが保健室であることに気付いた。

「どう? 体調は?」

「え…あ、大丈夫です…」

「ん〜? でもまだ顔色悪いわねぇ〜今日何日目?」

「…まだ1日目です…」

「そっか、重い子は重いからね〜無理しちゃダメよ」

さらさらと名簿に記入し、保健医は薬棚から痛み止めを出してくれた。それを受け取り、未夢は口に含むと苦い感じがした。

「そういえば…先生? 私どうやって、ここまで?(ななみちゃんたちが運んで来てくれたのかな?)」

疑問に思い、口に出すと先生はニヤニヤしながら笑っていた。

「ふふ〜♪誰が運んでくれたか、気になるの?」

「は、はい…ななみちゃ…天地さんたちですか? それとも先生?」

お礼言わなきゃと思い口にしたが、保健医はどちらも違うという顔をした為、未夢は不思議そうに首を傾げた。

「え、じゃあ…誰ですか?」

「思い当たる人いない?」

「………はい」

含み笑いをしながら、未夢の顔を覗き込む保健医はやたら楽しそうだった。未夢は「ん──…」と考えても分からず答えた。

「正解わね、西遠寺くんよ」

「えっ? えええぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」

「さっき、光月さんが目覚める直前まで心配そうにいたのよ。学生の本分は勉強!って言ったら渋々戻っていったわ。なかなか光月さんも思われているわねぇ〜」

「なっ…何言ってるんですか──っ」

未夢は顔を真っ赤にしていた。

(かっ…彷徨が私を運んだなんて……ウソ─っ! 絶対、あとでバカにされそう〜〜私、重かっただろうしなぁ〜〜)

頬に手を添え、困ったような顔をする未夢に保健医はくすくすっと笑った。

「凄かったのよ〜あの西遠寺くんが慌てて駆け込んで来たんですもの」

「…あの彷徨が?」

「そう、あの冷静な西遠寺がよ。ましてや『こいつ倒れたんですっ!!』って光月さんを抱えてたのよ」

「かっ…抱えてって…」

「いわゆる、お姫さま抱っこ」

「えええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

未夢はもう顔をゆでだこのように更に真っ赤にしていた。どうしよう。どうしよう。と考えてると

「とりあえずはお礼言っときなさい。まずはそれからでしょ?」

保健医の言葉に未夢は、ハッと顔をあげた。

「そ、そうですよね…お礼言わなきゃ…」

うんうんと自分に言い聞かせるように頷いた。

「さて、授業もう終わりみたいだけど、どう? 戻れそう?」

「あ、はい。休めたし、薬効いてきたみたいですから…」

「まぁ、あんまり痛いようなら我慢しないで早退しても大丈夫だからね」

「はい、ありがとうございました」

ベッドのブランケットを畳み、未夢は保健医に礼をして更衣室の方へ歩いていった。
ちょうど、授業も終わり校庭から戻って来たななみたちと廊下で会った。

「あ、ななみちゃん、綾ちゃん」

「「未夢(ちゃん)大丈夫?」」

「うん。少し休んだから、平気。ごめんね、心配かけて…」

「ううん、こっちこそ未夢の体調気付かなくてごめんねぇ」

「ひどかったら体育見学すればよかったんじゃない?未夢」

「いやぁ〜平気だと思ったんだよね」

制服に着替え、教室へと向かいながら会話していると、後ろから声を掛けられた。

「未夢っ」

くるっと振り向くと、彷徨がまだ体操服姿のままでいた。彷徨はツカツカ近寄ると

「お前っ、もう大丈夫なのか?」

「えっ、あ、うん。もう平気平気」

あはは〜と手を振り、未夢は答えた。隣にいるななみと綾はニヤニヤ笑い

「未夢〜私ら先行くね〜」

「え? ななみちゃん、綾ちゃん?」

未夢が止める間もなく、ななみたちはさっさと行ってしまった。傍らにいた彷徨は、しまった。という感じで手で口を覆っていた。

(そういえば、あいつらの前で未夢を抱えたんだっけ…)

「あ、あの……彷徨…」

横から声を掛けられ、彷徨は未夢を見ると少し頬を赤らめていた。

「ん?」

「あの…あのね、ごめんね? 心配かけたみたいで…」

照れ隠しなのか、両手で髪の毛を持ち、顔の前で交差させながら言う姿はなんとも可愛らしく、彷徨は抱きしめたいと思ってしまった。
そして、真っ赤になりながらもジッと彷徨を見上げて来た。

「あ、あと……保健の先生から聞いたんだけど…運んでくれたんでしょ? 重かったよね……本当ごめん…」

「えっ! いや、そのっ……別に重くなかったから気にすんな…」

『お姫様抱っこ』した事はさすがに彷徨も恥ずかしかったらしく、慌てて顔を逸らした。
あの時は無我夢中で未夢を保健室まで連れて行ったので、冷静さを自分でも失っていたのかもしれない。そんな風に思っていると


「あ、あのね、だから……色々ありがとうね。彷徨」

極上の未夢の笑顔が自分を覗き込むようにあり、彷徨は真っ赤になってしまった。
ようやく見れた自分だけに見せる笑顔に彷徨は、嬉しくて堪らなかった。
今日は、朝は雲っていたけどのちに晴れたから彷徨の気分は上昇したのだった。



END





おまけ?


「そういえば、本当に大丈夫なのか?」

「うん、薬貰ったし大丈夫だよ」

「でも、なんで貧血なんかになってんだ?」

「〜〜〜〜」

「未夢?」

「彷徨のエッチ!! スケベっ!! 信じられんな──いっ!!」

「はぁ?」


END


あとがき

なんかちゃんと書けてないですね。中身が薄っぺらーって感じです…。リハビリどころじゃないよ、こんなの…(´人`;)

えと、最初に考えたタイトルは『憂欝な日』でした。未夢ちゃんは女の子特有の日で、彷徨くんは未夢の笑顔が見れないので『憂欝な日』ってことにしたのです。
でも、最後に笑顔を見れたので憂欝じゃないかも…と思いタイトル変更になりました。
『曇りのち晴れ』もまぁ、はじめは曇りのようにすっきりしなかったけど、後々お互い気分がよくなったので晴れましたよ。って感じです。説明下手ですいません…orz

しかし、彷徨くんは意外に鈍感にしちゃいました(笑)貧血の意味はちっとも分かっていません。のちに三太くんか望くん辺りから教えて貰って真っ赤になるって感じです。
基本的に女にキョーミなかった訳だし、父親と2人暮らしだったから意外に分からないかもって思います。

しかし、こんな乙女特有のネタを出すのは初めてかも。
実際、〇理痛ごときで早退するかよ。って感じかもしれませんが、私は高校の時毎月早退してました。
もう痛くて痛くて、授業どころじゃなかったです。
湯たんぽ持って授業に参加しましたが、ダメでした。
そのせいで1度病院へ行け!と言われ、行ったら行ったでお医者さんに妊娠したと誤解され大変でした。
小声で初体験はいつ?とか相手は何才?とかって…
私は、生理痛だから来たんだが?と言ったら、そうなんだ、なんだ。とホッとされました…(ぉぃぉぃ)



とまぁ、余計な話はどーでもいいですね(苦笑)
お読みになって下さってありがとうございました♪
感想お待ちしてます。



2006/9/19


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