恋心


いつも君を見ていた。

きらきらと輝く金の長い髪

美しい碧玉の瞳

映える真っ白い肌

くるくると変わる豊かな表情

名前以外知らない彼女は今日も目の前を通り過ぎていく


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『みーゆ♪一緒に帰ろ〜』

『そうそう、駅前に美味しいケーキのある喫茶店が出来たんだよ〜明日、未夢ちゃんも行かない?』

『えっ、うーん。行きたいかも〜』

『じゃあ、明日行ってみよう』

友人とじゃれあい、会話をしながら歩いて行く姿を横目で見ながら、青年は『今日も会えた』などと思った。そして

(駅前の喫茶店……あそこかな?)

ふと聞こえた会話に考えを巡らせていく。もしかしたら、明日会えるかもしれないと思い描いた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


カランカラン…
ごく最近OPENした駅前のカフェに青年は入って来た。
「いらっしゃいませ」とウェイトレスの声を聞きながら、思わず店内をキョロキョロと眺めた。その様子をみたウェイトレスは訊ねてきた。

「お待ち合わせでしょうか?」

「えっ! い、いいえっ……あ、はいっ!」

慌てたように顔を真っ赤にする客に店員は苦笑しつつ

「開いてるお席にどうぞ」

窓際の方を手で誘った。
青年は、参ったという感じで額に手をあてながら窓際の席に腰を下ろした。確かに待ち合わせには違いない。友人と会う予定ではある。
しかし、先程目で探したのは下校中によく見る「みゆちゃん」と呼ばれる少女だったのだ。相手は中学生……友人にバレたら『ロリコン』とか言われそうでこわい。
そもそも、たかが2、3才離れてるだけなのだが中学生と高校生だとなんでそうなるんだろう。
なんとなくそう呼ばれるのには如何せん譜に落ちないが、これが自分事でなく悪友の誰かであれば自分も他の友人等と同じく『ロリコン』と言ってただろうと思う。

はぁ〜とため息を吐き、まだ来ぬ友人を窓から探した。そして、目に入ったのは金色の長い髪。

──あの子だっ!

そう思い、目で追うと昨日一緒にいた女の子2人と笑いながらこの喫茶店に入って来た。

──会えたっ!

胸に広がる喜びを抑え、ちらりと視界の端で見ていると目の前の席に座った。自分からちょうど顔が見える位置に座り、友達とメニューを見ている。

『ねぇねぇ、未夢は何にする?』

『うーんと…どうしよっかなぁ〜綾ちゃんは?』

『私はね〜この苺のモンブランっていうのにする』

『あ─、それも美味しそう〜。ななみちゃんは?』

『私はね、これとこれとこれとこれ! それとコーヒー』

『そんなに食べるのっ?』

『ななみちゃん、食べ過ぎ〜〜。未夢ちゃんはどうするの?』

『うーんとね、生チョコも捨てがたいんだけどパンプキンパイもいいかなぁ〜って。でも生チョコシフォンにするよ』

きゃっきゃっと話す高めの声に何故か口元が緩む。
なんだろ…知らない一面を知れて妙に嬉しいな。そんな風に思っていると、バシッと頭を何かがぶつかった。
右上を仰ぎ見ると、悪友が本を片手に立っていた。

「…ってぇな」

「さっきから呼んでるのにボーッとしてたお前が悪いんだよ」

彼は目の前に座ると、やって来たウェイトレスにコーヒーとだけ告げ、こちらをちらっとみた。

「なーに、さっき1人でニヤニヤしてたんだよ。ムッツリくん」

「なっ! 何言ってんだよ、お前はっ」

「思い出し笑いはムッツリってな」

バカにする悪友の向こうで「みゆちゃん」がクスっと笑うのが目に入った。俺は恥ずかしくて、目の前の悪友を睨むしかなかった。

「おー、怖っ! なんだよ、そんなに怒るなよ。お前が読みたがってた本持って来たのに」

スッと出された本を見て、俺は慌てて表情を戻した。

「あ、あぁ。悪かったな、わざわざ」

「いや、構わないけど男と喫茶店で待ち合わせって虚しいよな」

いつの間にか運ばれてきたコーヒーを片手にぐびっと飲みながらいう友人に、確かに。と思った。
しかし、今回は自分の欲望の為であるからなんだか申し訳ないような気がする。
友人の向こうに座る「みゆちゃん」は、友人たちと楽しそうに話していた。

『そういえばこの後どうする?』

『うーん、どうしよっか? 買い物でもする?』

『あっ! ごめん、私帰らなくちゃいけないんだ』

『えぇ〜なんで?』

『うん、出てくる時ルゥくんに大分ぐずられちゃって…なんとか彷徨とワンニャーが宥めてくれたんだけど…』

『『ワンニャー?』』

『あっ、ほら! 親戚のお兄さん! ワンニャーっていうあだ名なの!』

『でもワンニャーってワンタンの事じゃなかったっけ?』

『えっとぉ…お兄さん、ワンタンが好物でそれでね』

『ふーん、でも西遠寺くんとお兄さんが見ててくれるならさ、大丈夫じゃないの?』

『それがさ、彷徨のヤツがルゥくんが淋しがるから早めに帰ってこい。って言うから』

『そんな事言って、西遠寺くんが淋しいんじゃないのぉ〜』

『そ、そんな訳ないじゃないっ!』

じたばたと手を動かし真っ赤になる顔を見て、可愛いと思いつつ胸が妙に引っ掛かる。

そいつって君の何?そんな風に真っ赤になるなんて……もしかして──好きな奴?

聞こえてくる会話になんとなくムッとしてしまう。
それを見ていた悪友は、なにか感付いたのかニヤッと笑ったのが目に入った。と思ったら、くるっと後ろを向き「みゆちゃん」たちに話し掛けた。

「ねぇねぇ、君たち」

「えっ、私たち……ですか?」

ショートカットの女の子が怪訝そうにこちらを振り向いた。同時に、三つ編みの子も振り向き「みゆちゃん」もこちらへと顔を向けた。

「西遠寺って『西遠寺彷徨』の事?」

「えっ…そうですけど」

不思議そうに見る少女たちを見て、ニッと笑うと

「いや、名前が聞こえたからそうかなって思ってさ。俺、四中出身だし、西遠寺とは委員会同じだったんだよ」

「あぁ、それで。じゃあ、私たちの先輩でもあるんですね」

「君たちも四中なんだ、まだ校長ってサルサル言ってるの?」

その言葉に、手前の少女2人は勢いよく答えた。

「そうなんですよ! 校長先生とうとう『モン吉』とかいう猿を飼い始めて〜」

「この前もサル作文出たしねぇ〜未夢ちゃん、西遠寺くんと残されたよね。あ、黒須くんもだけど」

「えっ、あ、うん。ルゥくんがひゃ…じゃなくて、風邪引いちゃって看病してたら、やれなくてさ〜アハハ〜」

「へぇ、まだあるんだ。サル作文。って君、西遠寺と仲いいの?」

突然の会話の成り行きを目の前で聞いていると、こちらを一瞬ちらっと見る悪友が視界に入った。

(こ、こいつ…感付いてるっ!)

「え? 私?」

「うん、そう。さっき『彷徨』って呼び捨てにしてたみたいだし」

「あぁ、未夢ちゃんは西遠寺くんの従姉妹なんですよ」

「へぇ〜従姉妹…」

「そうなんです、従姉妹…従姉妹」

なんだか分からないが慌てる姿が可愛くて、直視出来ずにフイッと横を向いた。

「そちらも四中でしたよね? なんか見覚えがあるような…」

ショートカットの女の子に言われ、そちらに顔を向けるて友人がそうそう、と答えていた。

「あぁ、こいつも四中だよ。それで何の因果かはわからんが高校も同じ、クラスも一緒の腐れ縁ってヤツ」

やれやれという態度に少女たちはくすくすっと笑い、青年は

「それは俺の台詞だっ!」

言い返していた。また「みゆちゃん」にクスっと笑われてしまったが、なんだかさっきとは違う気持ちで彼女をみた。
その時、みゆちゃんがこちらを向いて笑ってくれた事にドキっと胸が鳴った。

「でもたまに帰り道で会いますよね?」

「えっ? あ──…ど、どうだったかな?」

突然振られた事に、胸がバクバクしていた。

(やっべぇ、覚えててくれるなんて嬉しいし…マジで可愛いなぁ〜)

顔が熱いのを感じ、目の前にあった飲みかけのエスプレッソを一気に飲んだ。
その時のみゆちゃんは不思議そうに眺めていたが、悪友はニヤニヤと笑い、お友達の2人はびっくりした後感付いたらしくクスっと笑っていた。
俺は、慌てて席を立つと

「おい! もう行くぞ」

伝票を持ち、さっさと店から出る事にした。
友人は「お、おいっ!」とこっちを見たかと思えば、視界の端でみゆちゃん達に手を振っているのが見えた。

(──くそっ!)

支払いを済ませ、店から出ると横にいたヤツがニヤニヤ笑いながら立っていた。肩に腕を乗せ

「なーるほどね。」

「うるせぇよ…」

「まぁまぁ、しっかしお前って…」

(いやな予感…)

次の言葉に来る言葉を予想すればやはりという感じで

「ロ・リ・コ・ン?」

冷やかされていた。俺はため息を吐くしかなかった。

しかし、可愛かったな…みゆちゃん
ましてやすれ違うだけの俺を知っててくれた……彼氏いるのかな?
あの西遠寺の従姉妹か…
明日、会えたら、声……かけてみようかな──

ベッドに寝転び、今日の出来事を反芻させ眠りについた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


しかし、運命とは皮肉なもので…。あれから、学校の行事やなんかのせいで「みゆちゃん」と会える時間帯とかみあわず、会えない日々が続いた。
なんか、あの時の事が夢のようだな……。
そんな事思いながら、自販機で買った缶コーヒーを片手に近道の公園を通っていた。
すっかり、日も暮れて公園内は人の気配もなかった。すると街灯の下のベンチの所に人がいるのが目に入った。

(………こんな時間になんなんだ───…っ!)

ちらりと見てみると、長い髪を揺らして泣いている「みゆちゃん」がいた。泣いている彼女があまりにもいじらしく見えて、ふらふらと近寄った。

──なんだろ…何があったのだろう

ジャリっと音に気付いたのか、未夢はハッとして顔をあげた。

「あっ…えっと……大丈夫?」

そっとハンカチを出すと、不思議そうに見つめられた。涙で潤んだ瞳がまた「みゆちゃん」を可憐に見せてくれる。

「この間の方…ですよね?」

覚えててくれた事に胸が高鳴り、頬を流れてる涙に胸が締め付けられた。
心配になって、目の前にしゃがみ込むと「みゆちゃん」は、自分の涙にハッとして、出されてたハンカチを戸惑いながら、手を伸ばして目を押さえた。

「……すみません…ありがとうございます……」

「どうかしたの?」

恐る恐る声をかけると「みゆちゃん」困ったように苦笑いした。

「えと……ちょってケンカしちゃって…」

「……西遠寺…と?」

「……だって、彷徨ったら私の作ったおかずを『人間の食べ物じゃない』って…言うんですよ…」

「それはひど過ぎるな!」

「そりゃ…彷徨に比べたら料理下手だし…でもそこまで言わなくてもいいですよねっ…!!」

ぐすっと込み上げてくる涙を我慢しているのか、口唇を噛み締めているのが見えた。
ここまで泣かせる西遠寺に腹を立て、何かを口にしようとした時

「未夢っ…!」

横からかかる声に「みゆちゃん」はバッと反応した。

「彷徨……」

捜して走り回ったのだろうか、肩で息をしてるのが目に入る。
西遠寺は、困ったように「みゆちゃん」を見るとツカツカと近寄り腕を引っ張った。

「なっ…なにするのよっ…」

「……いい加減にしろ! ルゥが心配してるぞ……それに、アレは……お前、塩入れなかっただろ…」

「……え…嘘っ…」

目の前で繰り広げられる会話に俺はただ呆然としていた。そして「みゆちゃん」はやだっ!と恥ずかしそうに頬に手を添え、西遠寺はこちらをジロッと見てきた。

「………」

ほんの一瞬、鳶色の瞳の奥が炎のように燃えたった様だった。

「あっ、あの! すみませんでした。話聞いてもらっちゃって…」

横からかかる声にそちらを見てみれば「みゆちゃん」が真っ赤になっていた。なんとなく、隣から発せられる殺気を感じつつ「そんな事ないよ」と笑っていた。

「あの…ハンカチ洗って返します…」

「いいよ、気にしないで」

そういうと「みゆちゃん」の手にあった自分のハンカチを取り、ポケットにしまった。じゃあね、とさっさと歩いていこうとすれば焦ったような「みゆちゃん」の声

「あ、あの……本当にありがとうございました」

ペコリと頭を下げてくれたのをみて、なんとも言えず笑ってしまった。ヒラヒラと手を振ると、「みゆちゃん」はニコリと笑ってくれた。
横に立っていた西遠寺彷徨もペコリと頭を下げた。
そして、きびすを返し歩き始める2人を少し歩いてから振り返る。

『ほら、ルゥが待ってるぞ』

『分かってるわよ〜』

『大体、お前、自分が「一応」女だって自覚してないだろ〜』

『なによ、それ〜〜!』

『……危ねぇかもしれないんだから、夜はむやみに飛び出すなよ。』

『……ごめん…』

『もういいさ』

ポンっと頭を撫でてやる西遠寺の顔がやたらに優しい表情で頭を撫でられた「みゆちゃん」は真っ赤になりながらも幸せそうに笑っていた。

はぁ〜……

なんか、どう見ても『相思相愛』ってヤツだよな。あんな表情するヤツだったっけ?西遠寺って。
同じ中学だったとはいえ、よくは知らない。しかし、校内でやってる下らないイベント『美少年コンテスト』で、2、3年を抑えてのグランプリ
その時は、1年ながら冷めた顔してるよな。って思ったけどあんな顔出来るんだな。
そんな風に思いながら、ポケットを探ると先程「みゆちゃん」から返してもらったハンカチが出てきた。
涙で少し濡れたハンカチ。うまくいかないもんだよな……

未夢の気持ちに感付き『失恋』かと肩を竦めた。





END


あとがき


はい。今回は趣向を変えて第三者の視点で書いてみよう!と意気込んでみたら、誰かの未夢への片思いという話になってしまいました。
しかも、中途半端過ぎるぞ!私っ…\(゚口゚\)(/゚口゚)/

最後にようやく彷徨が出て来るだけだし〜失敗ですね、この試みは…
このような作品を読んで下さって本当にありがとうございました。よろしかったら、感想お待ちしております。


2006/9/25


-8-

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