01


お昼休み
2年1組でもそれぞれ友人と皆お弁当を食べたりしていた。
未夢はいつものようにななみ、綾と一緒に雑談をしながらお弁当を食べ、彷徨は三太と少し離れた場所で。
クリスは彷徨くんファンクラブの面々と一緒に過ごしていた。
不意に綾が何かを思い出したように未夢とななみに聞いてきた。

「ねぇねぇ、ファーストキスの平均年齢って何歳だと思う?」

「「は?」」

未夢とななみは、綾の発言に目を丸くした。

「何言ってるの? 綾」

「どうしたの? 綾ちゃん」

「ん〜ちょっと、気になってさぁ…それでね、2人に聞きたいんだけど〜」

2人がびっくりしながら食べかけのお弁当をよそに綾を見ると、そこには頭に小さな蜜柑を乗せ、片手にメモを握りしめた「プチみかんさんモード」と化した綾がいたのだった。

((うっわ〜 プチみかんさんモードになってるよ〜))

「ねぇねぇ、未夢ちゃんは経験とかないわけ?」

「え? な、何言って…そ、そんなのある訳な………あ…」

未夢は慌てて否定をしようと思ったが、思い出したかのように止まってしまった。その反応に、綾とななみはすばやく反応したようで

「「えぇぇ!? 未夢(ちゃん)!! もしかして経験あるの!?」」

思わず、叫んでしまった。その声はクラス中に響き、教室内にいた生徒たちはなんだ?なんだ?と3人の方に注目したのだった。
彷徨ももちろん聞こえた様で3人の方を眺めていた。

「ちょ…そ、そんな訳ないじゃない!! やめてよぅ〜2人とも〜」

可愛らしく頬を真っ赤に染め、反論する未夢の姿を見て、ななみたちは顔を見合わせた。

((………どうみてもしてるよね…))

そんな風に確信しながら、ふと思ったことは「相手は?」という事だった。
未夢は前の学校は女子中だったと言っていたし、この少女の同居人は学校内で人気NO,1の男子生徒なのだ。
きっと彼だと思い、ふと見てみるとその姿はななみと綾の期待を裏切るかのように呆然というか、ショックというか、なんとも言いがたい表情をしていた。

(……なんか、あの様子からすると)

(うん…西遠寺くんじゃないみたいだね…)

(もしかして、ヤバイ事聞いちゃったのかな?)

(でもでも…未夢ちゃんのことだからさぁ…)

一方、彷徨はというと呆然とするしかなかった。箸でもっていたかぼちゃが落ちそうになるのに気づき、慌ててそれを口に含んだ。
さっきの話は彷徨にも聞こえていた。いや、むしろ聞いていたというべきだろうか。

(ファーストキス……経験済み〜?)

否定している未夢の姿を見るもどう見てもウソに見える。そもそも未夢はウソをつくのが下手なのだ。
あんなに真っ赤になり、ジタバタと手を動かしているのを見てどうして信じられるだろう?
そして、彷徨はだんだんと自分の奥底にある黒い感情がモヤモヤと湧いてくるのを感じ、自分の顔が強張ってくるのも分かっていた。

「ねぇ、未夢ちゃん……誰としたの?」

「だ、だから…してないってば!!」

「まさか、お父さんやルゥくんってオチじゃないわよね?」

「だから、そうじゃなくてね……」

「え───? 違うの!? じゃあ、誰? 誰?」

「キスなんて誰ともしていない」という否定のつもりで言ったのだが、2人には「違う相手」と言うようなニュアンスでとられたのか、ますますヒートアップしていった。
不意に彷徨の方を見てみるとこちらを見ていて、未夢はますます真っ赤になった。

(うそうそうそ───!? 彷徨までこっち見てるよ〜…ま、まさか…あの時のことばれてないよね…)

同居して間もない頃、台所で寝ている彷徨の姿が可愛くてみていたらルゥの悪戯で思わず彷徨の口唇に触れてしまったのだった。
その事を思い出し、未夢はぶんぶんと頭を振った。

(あ、あれは…あれは事故よ。事故だよ!)

そこへブツブツと呟く声が聞こえてきた。

「未夢ちゃんがキスを経験している…きっとそれは…それは…二人きりの部屋の中、未夢ちゃんがなにかの拍子に立ち上がるも何かに躓き『危ない!!』と彷徨くんが未夢ちゃんを助ける。『彷徨…ありがと…助けてくれて』照れながら彷徨くんを見つめる未夢ちゃん。抱き合ったまま見つめ合う2人『そんな、未夢がケガしたら大変じゃないか』『で、でも…このカッコ恥ずかしいんだけど…離してくれない?』『なんで俺は未夢とくっついていたいんだよ』そ──っして二人の顔と顔はどんどんどんどん近づいてしまいには────っっ」

「く、クリスちゃん!! そんなことあり得ないからっ!!」

「そ、そうだぞ!! 花小町、俺にだって選ぶ権利はあるぞ!!」

「まぁ、そうでしたの。あら、わたくしったら恥ずかしいですわぁぁぁ!!」

「「ふぅ…」」

クリスの暴走に未夢はドキドキし、彷徨もやれやれといった感じでため息を吐いた。ふと横を見ると、彷徨が立っている事に気付き、未夢は思わず彷徨から数歩離れた。
その行動に少なからず彷徨はムッとして、未夢の方を眺めた。

「なんだよ」

「べっ…別に。なんでもないよ〜」

なんとなく彷徨の顔を見るのが気まずくて、未夢は目を逸らした。見たら、口唇に目がいきそうで恥ずかしいのだ。
しかし、彷徨とはいうとますます腹立たしくなり舌をベッと出しながら

「お前となんかキスするわけね─じゃんな。俺はもっと可愛い子を選ぶぞ」

彷徨は半分自棄、半分嫉妬で言い放つと、隣に立っていた未夢はふるふると震えていた。

「………わ…私だって……か…なた…なんかお断わりよ……」

俯いたままそう言うと、未夢は足早に教室から逃げるように出ていってしまった。

「未夢っ?」

「未夢ちゃん!?」

ななみと綾は驚き、彷徨の方を非難がましく睨むと未夢の後を追って教室から出ていった。

「彷徨ぁ〜 あの言い方はマズイんじゃねぇの〜〜」

「………」

自分でも感情に任せて言ってしまった言葉に彷徨は罪悪感と自分自身に対して憤り感じてしまった。

(なんで…俺ってこうなんだろ……)

未夢の前だと素直になれず、口にする言葉はいつも反対の事ばかりで…さっきだって、本当は相手が誰か気になって、気になって…。
くしゃりと前髪を掻き上げ、はぁ〜…と彷徨はため息を吐くしかなかった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『俺にだって選ぶ権利はある』

『お前となんかキスするわけね─じゃんな。俺はもっと可愛い子を選ぶぞ』

彷徨の言葉が苦しくて未夢は、思わず教室から…彷徨から逃げるように廊下へと出てきた。

(なによ…私だって選ぶ権利あるわよ……彷徨のバ─カ…)

込み上げてくる熱いモノを抑えようと、碧玉の瞳をギュッと閉じるも目頭が滲んでくるのが分かった。

(そりゃ…彷徨は寝てたんだし……事故だったんだから彷徨には迷惑だろうけど…私にとっては大事なファーストキスなのに!!)

とそこまで思いながら、自分の思考にギョッとしたのだった。

(な、なんで…私……こんなにショックなんだろ──…)

ポロポロと零れてくる涙を手で拭いながら、ぐちゃぐちゃな自分の気持ちを出口へと誘おうとするが、答えが見つからず生き埋めになった気分だ。
なんで?なんで?
なんで、こんなに苦しいの?

「「未夢(ちゃん)っ!!」」

「ななみちゃん…綾ちゃん…」

名前を呼ばれ、顔を上げると走りよってくる親友が目に入った。2人は未夢の傍に来ると心配そうに手をとった。

「大丈夫? 未夢ちゃん」

「心配したよ、急に出ていくんだもん。まぁ、気持ち分からなくもないけど」

「でも、西遠寺くんは言いすぎよ!! 好きな人にあんな事言われたら誰だってショックだよ〜」

(え? 好きな人…?)

目の前で言い立てる2人を未夢はボーッと聞いていたが、綾の言葉で不思議そうに顔を上げた。

「ん? どうかした、未夢?」

「未夢ちゃん?」

「あ、あのね…別に彷徨は好きな人って訳じゃ……意地悪だし、人の事バカにするし…優しくないし…そりゃ嫌いじゃないけど…………でも好きな訳ないよ、理由がないもん」

そう言いつつも、一瞬胸の奥がトクン…となった気がした。聞いていたななみと綾は顔を見合わせ、はぁっとため息を吐いた。

「未夢ぅ〜人を好きになるのに理由なんていらないんだよ?」

「えっ…? だ、だって、みんなは格好いいから好きとか、クールだからとか言ってるでしょ…」

「そりゃ、そういう所が良くて好きな子はいるかもしれないけど…」

「それだけが『西遠寺くん』じゃないでしょ?」

「そりゃ、そうだけど…」

「それに未夢がショック受けたのだって、西遠寺くんに言われた言葉のせいでしょ?」

「………」

「もしさぁ、言ってきたのが黒須くんや光が丘くんだったら、そんなにショック受けてた? 未夢ちゃん」

綾の言葉に未夢は考えてみる。

(三太くんや望くんだったら…? どうだろ…)

思い描いてみるが、あまり気にならないような気がする。

「…………あまり、気にしないかも…」

「でしょ? 西遠寺くんの言葉だから、未夢、ショック受けてるんだよ。好きだから」

「………そうなのかな…」

確かに彷徨の科白だったから、ショックなのかもしれない。
突き放されたような気がして…思い切り拒否された気がして…。
事故とはいえ、キスした事をなかった事にされたようで…って、彷徨は寝てたから知らないけどさ。
そんな風に思い、また気持ちが沈んでいく。

「ねぇ、未夢」

「な、なに?」

「あのさ…もしかしてキスの相手って西遠寺くんなんじゃない?」

「えっ、えと……」

じっと見つめられ、未夢は観念したかのようにコクン…と小さく頷いた。

「で、でもね。彷徨は知らないの…」

「「知らないって?」」

「たまたま…寝てる彷徨を見てたら…ルゥくんが悪戯して、足滑らせちゃって……そしたら…だっ…だから…キスっていうよりは事故だと思うの…」

それでも触れたのは口唇と口唇なのだ。未夢は、真っ赤になって下をむいていた。
ななみたちは、どうしたもんかと顔を見合わせた。

「じゃあ、西遠寺くんは本当に知らないの?」

「た、たぶん。その咄嗟にルゥくんでごまかして…」

「ごまかしたって?」

未夢は、ななみと綾にごにょごにょと話した。2人は少し彷徨にお気の毒と思いながら、クスっと笑った。
そして、さっきの彷徨を見て思ったことは──

「(西遠寺くん、絶対気にしてたよね)」

「(うん、してるよ。絶対!)」

「(呆然としてたもんねぇ〜。ここは私たちが)」

「(なんとかして、仲良くさせちゃおぅ〜!)」

「(とりあえず、西遠寺くん呼んでこよ)」

「(そうだね!)」

ボソボソと2人は会話をすると、うん。と頷き合った。

「ねぇ、未夢?」

「なぁに? ななみちゃん」

「とりあえずは、悩んでも仕方ないよ」

「……う、うん…」

ななみにポンっと背中を叩かれながら、未夢は相槌をうった。すると綾が

「そうだ、未夢ちゃん。私たち西遠寺くんがどんな風かみて来るね、ここで待ってて!」

「えっ!? 綾ちゃん、ななみちゃん………行っちゃった…」

未夢が止めるのも聞かず、ななみの腕をとるとあっという間に走っていってしまった。
未夢は、はぁ〜とため息を吐き、自分が彷徨を好きなのかもしれないという事を考えていた。
確かに彷徨の事はキライじゃないし…認めたくはないけど。
頭もいいし、運動神経も抜群。そして、端正な顔立ち。あの顔で笑われるとドキっとしてしまう。
口は悪いし、意地悪だけど本当はとても優しくて頼りになる。
そんな風に考えると、胸の奥があったかくなったりもするが、きゅ─んと締め付けられたりもする。

「………好きなのかな…」

呟き、胸がギュッとなり、さっきの言葉が突き刺さった。


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