片思い

Treasure

「会いたい...」


窓からそっと呟く。

知っていた。
駄目だと、分かっていた。
でも呟かずにはいられなかった。

あの日、一目見たときから、惹かれていた。
だけど、彼が主上だと知ったときは、どうしようもない胸の痛みを感じた。


邸を出て、気を紛らわすために、気の赴くままに歩く。
それが、気がつけば日常の一部になっていた。

いくら思ったって、いくら叫んだって、会うことなど有りえない。
何せ彼は主上だから。


「いいな〜...秀麗さんは」


彼に好かれて。
大切に思われて。
彼は私のことなど見ていない。
もしかすれば、私の姿を認めていないかもしれない。


「私も貴族の娘だったら...仲良くなれたのかなぁ...?」


どうしようもないことを考えているって分かっているけど、考えずにはいられない。
今頃せっせと公務を全うしているのだろうか。

すっと手を胸の位置まで上げて、手のひらを見つめる。

川に落ちそうになったのを、助けてくれた。
彼の手のひらはとても温かくて、まだ、.....残ってる。

そこに、すっと唇を持っていき、口付ける。
自分の手が大きく震えていることに、やっと気がついた。


「...何を、しているのですか?」


ばっと振り返ると、美青年が立っていた。
今自分がしていたことを、どうやってはぐらかすか。
そればかりを考えていた。
他人からは、手で口を覆っているようにしか見えないのに。


「あ、えっと.....し、秀麗さんは...」


手を強く握って目をそらした。
いつの間にか、あの日の川沿いに来ていた。


「お嬢様は仕事ですが。.....あなたはここで何をしていたのですか?」
「あ、その、川を、見ていました」

「...そのようには見受けられませんでしたが?」
「えっと...」

「...主上、のことですか...?」
「え!!?」


顔を上げると、苛烈なその瞳とぶつかった。
背中に電気が走ったように、ドキリとした。


「主上を、想っていらっしゃるのでしょう?」


何も、否定することができなかった。
すぐに何か言えば、少しは変わっていたかもしれないのに、いえなかった。
あまりにも真剣な表情の彼が、主上と重なった。
一瞬、呼びそうになるほどに。


「...っ...そんな顔を、なさらないでくださいっ」


体が傾いたかと思えば、ぽすッと頭が何かに当たった。
彼に抱きしめられていると分かった瞬間、上から声がした。


「どう、して...私では、ないのですか.....」
「.....え?」



体が震える。
止めようとしても、止まらない。
この胸に縋りたくなるのは、きっと、心が不安定だから。
夕餉に招待されて行けば、主上と秀麗さんが接吻しているところを見てしまって、敵(叶)わないと思った。


「嫌っ!!」


彼の胸を押して、これ以上の甘えを自分で拒否する。
視界がぼやける。
頬に伝う何か、地に落ちる何か、止まらない何かも、もうどうでもいい。
目の前の彼の傷ついたような表情を感じて、居た堪れなくなる。

彼が悪いんじゃない。
首を振って、それを伝えようとするけど言葉が出ない。


「や...」


離れて、掴まれないようにするも、それは意味をなさなかった。
何度も、逃げようとすればするほど、逃げられなくなる。
強い力。大きな手。
何もかもが圧倒的な差だった。


「...ん、んんっ...!」


腰に手を回され、顎を掴まれ強引に唇を奪われた。
ぶつかりあった歯から、少し血が滲み出て、彼との口付けは血の味がした。
胸板を押しても必死で離れようとしても、強い力で顎を捕らえられる。
ひどく求められ、貪られるような感覚...。

頭の中が真っ白で、もう何も考えることなどできない。
この瞬間を感じていたい。
理性というものが崩れていくような気がした。


このまま、流されたい...
たとえ、一時の夢であっても。
そして


―――ゆっくりと、目を閉じた。





Fin.



後書き


10000Hitありがとうございます!
皆様が足を運んでくださったおかげで、何とっ!とうとう夢の10000Hitを超えました!!!(笑)

本当にありがとうございますw
感激の極みでございます!!


10000Hitの御礼ということで、アンケート調査により、連載別ヒロインで静蘭夢を書かせていただきましたが、どうでしたでしょうか?

もしよろしければご感想くださると嬉しいですv


駄文を最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。

それでは、失礼致します。


   慈月亜紀


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