そんな訳ない
「燕青、お酒飲みましょう」
ごとん、と数人の男がかりで運ばれてきたきた酒瓶を親指でくい、と指し秀麗はあっけらかんと笑った
【 そんな訳ない 】
「うーん!美味しいわぁ。さすが藍州のお酒だけあるわ」
「姫さん・・・それ何杯目?」
「10を越えたら数えない事にしてるの」
「・・・そうか」
男前な回答に燕青はこめかみを抑える
弱い訳ではないはずだが(比べる対象が人外で飲むから)
彼女もなかなか手ごわいようだ
飲み比べであの工部の尚書に勝ったというのは嘘でなかったらしい
「飲み過ぎんなよー」
「大丈夫。というか飲まないとやってらんないのよ!!もう聞いて貰わないとスッキリしない!」
「えっと、静蘭の奴は?」
「いつも付き合わせちゃうのも悪いからこの際当番制よ」
「なるほど、それで今日は俺な訳ね」
飲まないとやってらんない、なんて彩雲国1・2を争う紅家の直系の姫君の言葉じゃない
が、そういう彼女だから好きなのだ
どんなに嫌でも疲れても決して諦めようとはしない
そんな彼女だから一生ついて行くと決めたのだ
燕青は酒を瓶からついで一気に飲み干した
秀麗の言う通りかなり良質な酒らしく舌ざわりもいい
秀麗は御史台での成果を見せ着実に地位を上げていってる
一歩一歩、確かに玉座に近づいているのだ
御史台の仕事をやるうちに必然的に汚い世界も知った
場合に応じて処刑の判断もした。勿論死罪も入ってる
近くにいる燕青は知っている。その日の夜は耐えられず1人膝を抱えて泣いている事を
その回数も徐々には減ってきているがまだ割り切れずにいるのもわかっている
燕青はずきって痛んだこめかみを押さえた
実を言えば今日も二日酔いなのだ
昨日は酒の量は違うが静蘭の愚痴につきあわされた
勿論全てお嬢様中心の話だ。
もう少しくらい甘えてくれてもいいんじゃないかと、昔は私を見るだけで駆け寄ってきて抱きついてきたのにと
最後に至っては、最近なんでお前ばっかり頼られてるんだ。
もうこの際ムカつくから荷物まとめて出ていけ。私のお嬢様を奪うな。・・・などなど
(・・・・・)
なんか散々な事言われた気がする
それに比べれば今の状態はマシだ
目の前には大好きな姫さん。うるさい静蘭もいない
しかし机一つ以上に燕青が近づくことはなかった
(“官吏の姫さん”の力になってやるって決めたからな)
ただの紅秀麗ではなく官吏の彼女のために
本当に必要だったとき彼女の道を妨げないように
静蘭には出来ない役割をしてやらなければならないのだ
それが今の彼女に必要だ
「今回の案件こそ清雅より先に手柄立てようとしたのにまた先超されたのよ!有り得ないわっ」
「陸家の坊ちゃんもやるねぇ」
「ああもう、闇討ちに行きたい!一回死んで思いやり・優しさってもんを貰ってくるべきよ!」
「あー、それで怒ってるわけか姫さん」
闇討ちだったら喜んで静蘭が行くだろう
お嬢様の為なら体を張る男だ(全ての意味で)
しかし秀麗が首を横に振った
「それだけじゃないわっ!最近なんか嫌がらせされてるのよっ」
「はぁ?」
そんな輩を静蘭と燕青が見逃すハズがない
燕青は眉をしかめ身を乗り出した
大分実力が認められているのに、今もそんな嫌がらせなどする輩がいるとは。一体そんな暇なのは何処の誰だ
秀麗に目立った外傷や服に汚れがついてたりなどそういう事はない
それでは・・・・?
「最近手紙の量が尋常じゃないの!しかも恋文っぽいのばっかりよ?女官吏からかうつもりでしょうけれど必要な手紙と分別する私の身にもなって欲しいわ!
しかも妙に高価な紙とか使ってくるから余計手がこんでて悪質よ 私が貧乏性で捨てられないのを知ってるんじゃないの!?」
「・・・・悪質」
燕青はそう呟いてがっくり肩をおとした
それはどっちが悪質なんだ。
燕青はそう言いたいのを必死で抑えて無言を守った
いたいけな青年達の恋心を悪質なイタズラで片付けるなんて傷付いているのはむしろ青年達の方のはずだ
なんだか燕青は同情して泣きたくなってきた
全く気づかれない切なさはなんとなく身近にある気がする
ああそうだ、正に彼女じゃないか
「まだあるのよ?藍家から龍蓮との結婚の話もあるらしいの 全く、何の恨みがあるのよ。私なんかにあの孔雀男の手綱がとれる訳ないじゃないっ」
「それはかなり向こうさん必死だと思うけどなぁ」
何て言ったって藍家の宝、藍龍蓮に子供を作らせる事が出来るかもしれないのだ
それは少なからず今後の藍家にも関わる事だ
しかもあの龍蓮に懐かれる人間なんて稀過ぎる
それが紅家の人間となれば藍家が焦って秀麗を手中に収めようとしているのもわからなくない
かなり本気の問題のはずなのだが
「ってか姫さんモテモテだよなぁ。王様から言い寄られて藍家のあの藍龍蓮と結婚してくれって言われて他からもそういう話わんさかあんだろ?」
「私じゃなくて紅家ブランドがモテるのよ」
秀麗はまた一杯をすっかり飲み干した
一体何杯目だろう。しかも呂律はきちんと回っている
顔がほんのに赤くなっているぐらいであとは何ら変わらない
かと思ったら杯を置いてこつんと頭を机に乗せ溜め息をついた
「片付けなくちゃいけない問題が多すぎてもう大変よ」
「はは、それでもよく頑張ってんじゃん姫さん?」
「ありがとう燕青。あーあ、お休みが欲しい そしたら3人でどっか遊びに行きましょうよ 美味しい物食べてたくさん寝て・・・夢のようだわ」
「いいねぇ。俺としてはそれに“姫さんとどっか遠出”をつけたいわ」
「いいわね」
「2人でだぞ?」
「休みまで静蘭に私のお守りをさせちゃったら申し訳ないわ」
本当のところは秀麗が側にいない方がよっぽど静蘭は心が収まらないだろう。
秀麗と一緒にいる時の変貌振りを知っているからこそ燕青は確信を持ってそう思った
ちらりと酒瓶を見るとそろそろ底が見えてきている
ふと秀麗は顔をあげふふ、と笑った
「ねぇ燕青、私ここまで来たわよ」
しっかりした口調の言葉に燕青は口元を緩めた
「もう何年かしたらここを後輩が使って誰かに愚痴を零すようになるのかしら」
「かもな」
「楽しみね」
秀麗は窓から見える満月を見て微笑んだ
その目はまるで大海を目の前にして胸を踊らせる海賊のようだ。
その横顔を吸い寄せられるように見入っていると不意に秀麗が燕青を振り返った
「――――ありがとう燕青」
ああ、それだけで充分だ
これからも階段を駆け上っていく彼女の力になれるなら
燕青は残った酒も全て飲み干しおう、と大きく頷いた
少しだけそれが寂しいとか
まさか。そんな訳ない
【 end 】
秋木の実様からのコメント
・・・・相互小説に片思いって。片思いって・・・!!
前もこんな感じのやらかした気がしますが
すみませんっ!本当は最初は紅花双玉書こうとしたんですが気が付いたらこんな感じのに・・・っ
誤字とか一応確認したのですがあったらすみません
森川様にあんな素敵な小説頂いたのにこれぐらいのものしか返せなくて本当にすみません(涙)
相互リンクありがとうございました!
御礼
いいじゃないですかっ!もう送られてきたのを見て、悶絶っ…。
こちらこそ相互及び素敵小説ありがとうございます!
森川沙耶
-16-
treasure-彩雲国物語- / top