内助の…

Treasure

「国試を受けようと思う」

婚約者の言葉に絳攸は我が耳を疑った。今、彼女は何と言ったのだろう。思わず問い返す。

「今、何と言った?」

「国試を受けようと思うと言ったのだが?絳攸殿は耳が悪かったか?」

軽やかな声で笑う男装の婚約者の言葉に、絳攸は固まった。男の身なりをしてはいるが、彼女はれっきとした女で彼女こそが紅家の正真正銘の――直系長姫だ。その立場を彼女が忌み嫌い、今まで紅家傍流で通してきたのだが、国試を受け官吏になれば真の素性が明らかになる可能性だってあるというのに――

「秀麗に素性がバレるぞ」

ずっと紅州で育ってきた彼女は、秀麗に実の姉だと名乗っていない。それは家族が一番大変なときに、紅州でぬくぬくと過ごしていたという負い目があるからだということを、絳攸は知っている。彼女がどれだけ思い悩んで、いまだに名乗りを挙げられずにいるかを。

だからこそ、彼女が国試を受けるだなんて言い出すのはまさに、晴天の霹靂だった。

「バレそうだったらどうにかしよう。可能性を今から論じてもしょうがないだろう?」

「それはそうだが…」

「それにね、絳攸殿。私は素性が明らかになるという危険を冒してでも官吏になって――絳攸殿、あなたの力になりたいのだよ」

「…俺の…?」

「あぁ、そうさ。夫――といってもまだ婚姻を結ぶかは未定だけれども、夫を助けるのは妻の役目。そうだろう?」

さらりと言う婚約者の鮮やかな笑みに、絳攸の顔が紅く染まった。

彼女が纏う紅の衣よりもさらに紅く――



<終>


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