愛情と食欲

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「なんで私、こんなの好きになったんだろ」

静蘭によって地面に叩きつけられて泥まみれになった猪肉の泥を払いながら、呟く。泥に塗れ、おまけに軒に轢かれたこの猪肉は食卓にだしても大丈夫なのかと考えながら。

「こんなのとはなんだ、こんなのとは」

隣から聴こえる抗議の声はもちろん無視する。

「外見は確かにいいけどさ、すんごく猫被りで実際の性格は腹黒いし言いたいことはズケズケいうし、おまけに嫉妬深いし?」

「それはお前が誰これ構わず懐くからだろう」

「だからって、燕青をドツくことないじゃんかー!燕青のおかげで今日の晩御飯は猪鍋だったんだよ!?久々の贅沢ご飯で秀麗お嬢様に力つけてもらおうとおもったのに!!せっかくの猪、突き返すことなかったじゃんか!!あぁ…私の猪鍋が…ッ!!」

静蘭の言葉に返ってきたのは、全力のというか魂からの叫びだった。それほどまでに猪鍋が食べたかったのかという突っ込みは心の中に止めておく。口に出せばまた、叫び声が返ってくるのは十分に承知しているからだ。

「そもそもお前は何故、燕青がお前に猪やら持ってくるのかがわからないのか?」

「燕青が料理できないからでしょ?」

さらりと返されては溜息をつくしかない。彼女は何故、燕青が秀麗ではなく彼女に食材を渡すのかが全く理解できていないらしい。

「お前、燕青に好かれているんだ。それぐらい気づけ」

「…そ、そうだったの…?」

「お前の行く先にちょこちょこ現れて手伝ったり、食材を差し入れるだなんて分かりやすすぎる行動だろうが」

溜息混じりに静蘭が言うと、彼女があははと乾いた笑い声を上げた。彼女は燕青の好意に全く気づいていなかったらしい。

「じゃあさ、これから燕青にどうやって接すればいいの?」

「そうだな…食材は受け取っても構わない。家計が助かるからな」

「静蘭って…」

ずる賢いとは口には出さない、口に出したら、その後が怖い。

「なんだ?言いたいことがあるならはっきり言え」

「静蘭、猪捕まえてきて」

「なぜ私が」

「静蘭が猪捕ってきてくれれば、私、燕青から猪もらわなくてもいいもん。そうすれば静蘭がやきもきする必要ないでしょ?だから」

――猪捕ってきて、と彼女の眸が雄弁に語っている。確かにそうだ。彼女の言葉通りだ。

そうすれば、彼女が燕青に向けていた笑顔をも独占できる、けれども。

先ず彼女の食べ物への執着心をどうにかすることのほうが必要なのではないか?

そう思わずにはいられない静蘭だった。



<終>


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