或る日の藍邸にて。
(この状況は何なんだろうね)
楸瑛は眼前の認めたくない光景に、そう思わずにはいられなかった。
貴陽藍邸――風雅の結晶と賞賛されしその邸の庭院にいるのは、李絳攸の妹姫にして氷の尚書、紅家当主紅黎深の愛義娘――李暁緋。
そしてその傍らには。
藍家直系の末っ子、自分と本当に血の&繋がりがあるのか疑わしい――というよりも、血の繋がりを否定したくなる――ほどの、派手で妙ちきりんな衣装を纏った龍蓮がべったりとはりついている。
(――この状況は何なんだろうね)
心の中でもう一度繰り返す。
龍蓮は阿屋で椅子に座る暁緋の隣に座り、彼女のちいさな肩にこてんと頭を乗せてなにやら話しかけている。
暁緋は暁緋でほぼ密着状態にある龍蓮を邪険にもせず、楽しげに会話をしている。
自分が龍蓮と同じことをすれば、暁緋は間違いなく逃げようとするだろう――この差は何だ、と嘆かずにはいられない。
そもそも、吏部尚書の嫌がらせに耐え、暁緋を藍邸に招いたのは自分なのに、何故弾き者にならねばならないのか。
しかしこのままでは、龍蓮に暁緋を独占されたままである。
楸瑛は兄弟決戦を覚悟して龍蓮が座っている側とは反対の暁緋の隣に座ろうとし―――
「精神未発達な愚兄其の四、暁緋の近くに座るな!」
勢い良く立ち上がった龍蓮に叫ばれ、鼻先に鉄笛をつきつけられてしまった。
龍蓮の背に庇われるようにして座っている暁緋が目をぱちぱちとさせる。
「あの、龍蓮様。藍将軍が隣に座られても私は困ることなどないのですが…」
おっとりと響く声は楸瑛の心を瞬時に潤した。
が、龍蓮は暁緋の言葉に重苦しく頭を振り、暁緋に向き直り膝まづき彼女と視線を合わせ、小さな白い手を己が手で包み込むと。
「暁緋は愚兄その四が暁緋にした不埒な行い、そして他の女人に今まで行ってきた所業を知らぬわけではないだろう」
楸瑛を自身の隣に座らせるなと、とくとくと言い含めていた。まるで有害危険物指定である己が扱いに、楸瑛は反論しようとしたが――
「―――それは…そう、ですが――」
――楸瑛にちらりと目線を遣り、次の瞬間困ったような顔で小さく小さく囁かれた暁緋の声に、楸瑛は固まった。
「案ずることはない、暁緋。愚兄其の四の魔の手から、暁緋は私が必ず守ってみせる」
龍蓮の言葉に暁緋が顔を伏せ、こくりと頷く。
――この瞬間、本日の勝者と敗者が決定した。
この日一日、楸瑛は龍蓮の鉄壁の防陣により、暁緋の側に近寄ることも、会話を楽しむことすらままならず。
――黄昏刻の藍邸に、今までの己の行いを悔やむ楸瑛の姿があったとかなかったとか。
<終>
あとがき
相互記念に森川沙耶様に捧げる、連載ヒロインと藍兄弟話でした!
…折角の相互記念なのにこんなシロモノで申し訳ありません;私は素敵な話を頂いてしまったのにー!!
自分のダメっぷりに涙です。
こんな楸瑛不幸話で宜しければもらってやって下さいませ…。不要な場合は龍山にでもぺいっと放り投げていただいて構いませんので!
2007/05/25/蒼水ハル
頂いちゃいました!!ハル様より相互小説!!
もう感激です♪
連載夢主と藍兄弟の話とリクしたら想像以上の素敵な作品にノックアウトです…っ!!
本当にありがとうございました〜vv
森川沙耶
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