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Treasure

※こちらは『ブルペン』様にて連載中の番外編になります。





学校のある日とほぼ変わらない時刻に目が覚めた休日、ちょっぴり損した気分のまま部屋を出た。
隣の部屋の親友が起きてくるまでには、まだ時間が掛かるだろう。そう思った私は、先に朝食を済ませ、空いた時間を部屋で過ごすことにした。

――そうして数時間が経ち、自分の部屋以外の場所から生活音が聞こえ始めた。それは生活音と言うよりは、騒音に近いけれど。



『もう……。朝から、何をバタバタしているのかしら』



人と会う約束でもあったのだろうか。それなら余裕をもって起きれば良いのに。
一緒に暮らすようになってから、何度となく言い続けた小言を今日も口にしては、その“らしい”様子に思わず微笑んだ。



『華のドタバタが一段落付いたら、部屋から出ますか』



騒音は、洗面所から玄関にいたるまで、あちらこちらから聞こえてくる。
その音をBGMにしながら、そしてそんな友達のことをネタしながら、私はメールを打って時間を潰していた。



『ん?急に静かになったわね』



それから数十分後、大きな独り言を声にしてから立ち上がり、部屋のドアを開けた。
開けたドアの先には、きちんと身支度を整えた華の姿と、その向かいに見えてはいけないはずの“モノ”が見えてしまったのだ。



『……華、おはよう』

『おはよ〜さんなのだ、和実!』

『華。私、やばいかも。休日の爽やかな朝の空気に勝るとも劣らない麗しさなのに、実はムッツリで腹黒な地縛霊が見えるようになりました』

「ほう……地縛霊。それならば、早急に眼科へ行くことをお勧めする」

『眼科で治るわけがないでしょ』

「ふむ、それもそうだな。では心の疾患ということで……」

『誰が心の疾患だ、誰が!』

『和実さんったら、休日も朝から元気だねぇ。私はまだテンションが上がってこないのに……』

「朝食を摂れば、きっと華も元気が出てくるだろう」

『でもでも!朝ごはんをしっかりと食べていたら、出掛けるのがまた遅くなりますよ!』

「今日は青春台で行き当たりばったりを楽しみつつ、美味しい物を食べ、何かしらのデータも集めてしまおうという、言わば“ちい散歩”がコンセプトだからな。華が朝食を摂るのを眺めるという時間も、俺には貴重な時間だ」

『(中学生が“ちい散歩”みたいな旅番組をコンセプトに、休日を過ごそうとするなよ……。つーか、数多い旅番組の中で、なんで“ちい散歩”をチョイスしたのかが謎すぎる)』



心の中でそうつっこみを入れている時の私は、相当に呆れた顔をしていたのだろう。
華と向かい合わせに座っていた“モノ”が私を見上げて静かに微笑み、それはそれは小さな声で「誘い出すには、理由付けが必要なんだ」と呟いたのが耳に届いた。



「華。俺のことは気にせずに、ゆっくりと朝食を摂り、落ち着いて準備を進めてくれ」

『む〜……でも〜』

『華、いいからご飯を食べちゃいなさい。出掛けるならなおさらよ。私はこの地縛霊とちょっとお話があるからね』




テーブルに並べてある私が作った朝食と、私の顔、そして“モノ”の顔を見比べるように視線を動かした華。私は華に向かって再度“朝ごはんを食べるように”と促し、今度は私が“モノ”に向かって微笑んだ。




『はい。柳蓮二くん、起立』

「華。俺は和実と討論……いやいや、穏やかにディスカッションをしてくるので、ゆっくりと朝食を摂るようにな。まだまだ寝惚け眼の誰かさんは、しっかりとたんぱく質を摂って、体温を上げることが必要だぞ」

『は〜い』

「フッ。華、同意したわりには不満げな表情をしている」

『うへへへ』



蓮二くんは起立した場所から華に手を伸ばし、頬を撫でるように優しく二度叩くと、穏やかな休日の朝に映える綺麗な笑顔を見せ、華をデレデレとさせた。



「さて、俺を“地縛霊”呼ばわりした理由を聞かせて貰おうか」

『非常に不本意ですが、私の部屋へどうぞ』

「ほう。それは“ちい散歩”にありがちな、ハプニングといったところだな」




蓮二くんはさらに“早起きは三文の徳と言う……”と続けながら、小さなメモ用紙をどこからともなく取り出したので、素早く没収した。
……私の部屋のデータなんて採って、何に使うのよ。


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