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『蓮二くん!蓮二くん!心の準備が必要な返答ではないですよ』
「それには個人差がある。……よし、一気に言ってくれ」
軽いストレッチを終えた蓮二くんは、足早に私の隣へと戻ってきた。
『えっとね、私の見つけた“かけら”は』
「……」
『蓮二くんと国光……』
「……華。それは……いや、ちょっと待ってくれ。俺にまた少しの時間を」
『はい、どうぞ〜』
蓮二くんはそう言うと、側にあったガードレールに腰を下ろし、あらぬ方向を見て円周率を唱え出した。
不思議な行動を重ねる蓮二くんを見ているのはちょっとだけ楽しかったんだけど、いつまで経っても戻ってこないので、蓮二くんが腰掛けていたガードレールに私も腰を下ろして顔を覗き込んだ。
『蓮二くん、蓮二くん。円周率は何桁までイケるんですか?』
「飽きる限りは。いや、そんなことよりもだ、先ほどの話の続きをしよう」
『私の見つけた“かけら”の話ですか?』
「ああ。先ほど、俺と手塚の名前を出したのは間違いではないのか?」
『……迷惑だった?ごめんね、図々しく名前を出してしまって』
「迷惑とかそういう以前に、手塚との二股宣言をされたような気分なのだが……」
『ええ〜〜っ!だ、だ、だだだだだ誰が二股を?』
蓮二くんの口から飛び出した“二股”という言葉に驚いてガードレールから立ち上がり、さらに誰が二股を?という問い掛けに対して、自分が指を差されたことに驚いて後ろにあった電柱に頭をぶつけた。
『痛っ!』
「大丈夫か、華?」
『痛いです〜!頭も心も痛いです〜!今日は頭の前と後ろが痛いです〜!』
「華が頭を強打するのは、これで二度目か……。一度目は(手塚が)防ぎ切れなかったが、二度目は俺のせいだ。すまなかったな」
『うむ』
「フッ、許しを請えてなによりだ」
驚き過ぎた自分に非があるんだろうけど、“うむ”と答えたのは、強打した部分を優しく撫でる蓮二くんの手が優しかったからだ。街中(まちなか)だということをも忘れて、もうしばらくこのままでいたい!と思ってしまうくらいに。
「どうやら、二股宣言は俺の勘違いだったようだな。その発言に至った経緯をゆっくりと説明してくれないだろうか。心の底から納得したいのでな」
『うむ、勘違いなのだ。というか、たぶん早とちりなのだ』
「早とちりか……。では謝罪の意味も込めて、あのカフェでケーキでも食べようか」
『おお〜っ、ケーキ!早く行きましょう、蓮二くん!』
蓮二くんが指差したカフェには、旬の果物を使ったケーキの名が書かれた看板が掲げられている。私はその蓮二くんの腕を引っ張って、カフェへと向かう。
『蓮二くん、早く〜早く〜』
「手塚の言っていたように、現金なものだな」
『蓮二くんとケーキが食べられるなら、現金上等ですよ!』
「それは俺とケーキが揃っていて、初めて上等ということか?」
『そ〜です』
「華が大好きなケーキと、俺は同等と言うことだな。なるほど、なるほど」
『ま、間違いではないんですけど、改めて言葉に出されると気恥ずかしんスけど』
大好きなケーキと大好きな蓮二くんを目の前にして、蓮二くんが勘違いをした「二股宣言」を上手く取り消すことができるのだろうか。
それにしても、蓮二くんと国光を二股だなんて……どうやって勘違いしたら、そんな結果が出てくるんだろう。
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