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Treasure

SIDE:柳


『早速ですけど、さっきの弁解をしても良いですか?』

「もちろん」



“おいし〜っ!”と“幸せなのだ”を繰り返していた華が、ケーキを半分ほど食べ終えたところでそう切り出した。
俺の目の前にもケーキが置かれていたのだが、実のところ、その弁解を聞くまでは手を付ける気が起きなかったというのが本音である。



『私は蓮二くんもご存じの通り、欠点の多い人間なんです』

「欠点は誰にでもあるものだ。華だけが特に多いなどと感じたことは、一度たりともない」



話の腰を折るような台詞だと思ったが、ネガティブな思考がこぼれ落ちた時はすぐに否定しておかなければならない。



『ありがと、蓮二くん。でも私はきっと、ボコボコとあちこちが欠けていると思うんだよね。その欠けに大小はあるんだろうけど』

「……」

『その欠けている部分を、私は蓮二くんや国光に埋めてもらってるんだよ』




――なるほどな、と口にしそうになった。
なるほどと思ったのは、もちろん華が“あちこち欠けている人間”だという部分ではない。欠けている場所が一箇所ではない、イコール、自分が探している“かけら”が、必ずしもひとつだとは限らないということを、華の言葉で気付かせてもらったんだ。




「ほう、それは大役を仰せつかったようだな。華の言うように、一人の人間にだけ欠けている部分を埋めてもらおうと思ったら、相手にかなりの負担を強いることになるだろう」

『へへ。でもね蓮二くん。さっきは蓮二くんと国光の名前を出したところで話が終わっちゃったんですけど、和実や大石くん、乾やタカさんやジャッカルにもその“欠け”ている部分を埋めてもらっているんだよ。弦一郎とかジャッカルとか、み〜んなにですよ!』

「……そうか。俺は、大事な部分を遮断してしまったのか。というか、ジャッカルの名前が二度も出た気がするんだが」



悪意のない笑みを作って頷いた華に、二股疑惑は解けたけれど、それはそれで寂しいものだな……とは言えなかった。



『ボコボコしちゃって不格好な私だけど、みんなのおかげで、それなりに丸くなって転がって行けているんじゃないかと思うんだよね。だから、みんなには本当に感謝してる』

「……」

『今はみんなに埋めてもらっているボコボコした部分は、年を重ねて、経験を重ねて、時には失敗も重ねて、自分で埋めて行くんじゃないかな。それが成長して行くってことなのかも』



窓から見える景色に瞳を向けたまま、まるで独り言のようにそう呟いた華。
大好きなケーキには手を付けずに、まだ言葉を続ける。



『でもね、自分ではどうしても埋められない部分ってあるんだろうから、それをカバーしてくれるような相手に出会いたい……かな』

「……そうだな。大切な人がどうしても埋められない部分を、カバーできるような人間でありたいとも思う」

『そう思える蓮二くんは、心が優しいんですよ。蓮二くんは、私なんかの“かけら”も務めてくれているんですから!』

「フッ、華に褒められた」

『はい、褒めました!何かが伸びますかね』

「そうだな、たぶん鼻の下とかが伸びるだけだろう」

『わぁ、私と一緒だ!』



自分の手元からケーキを一欠片、フォークに乗せ、華の口元へと運ぶ。



『んま〜〜い!』

「それは良かったな」

「ち〜〜っとも、良くない!」

『蓮二くんに食べさせてもらうと、美味さと甘さが増すんですよ〜』

「そんなことで甘みが増すわけがないだろ……というか、人の部屋でイチャイチャするな!あ〜〜、腹立つ!」

『だ、誰がイチャイチャだ、ボケッ!』

「イチャイチャという言葉は安っぽいな。ラヴラヴだと言ってくれ」



向き合って座っていた俺と華を引き裂くように、腕を割り込んで来たヤツがいた。
俺は思わず眉間に皺を寄せ、その腕を思いっきりはね飛ばした。



「邪魔をするな、貞治。手塚のくしゃみ以上の邪魔だぞ」

「どっちが邪魔なのか、良〜〜〜く考えろ蓮二!」

『どう考えても、乾が邪魔だろう。そのチクチクした髪の毛の部分が特に邪魔』

「あのね……。お前たちが座っているこの場所、一体どこなのか言ってみなさい」

『「貞治の部屋」』

「分かっているなら、出て行ってくれ〜〜!」

「仕方がないだろう。カフェが混んでいて、お持ち帰りするより他なかったんだ」

『まぁまぁまぁまぁ、乾さん!ほら、乾さんもケーキを食べて!』

「バ、バカ、華!生クリームが床に落ちたじゃないか!」

『大丈夫大丈夫、青学では5秒ルールが存在するから。はい、アーンだ貞治』

「落ちた物を食べさせようとする……ぶっ!」



床に落ちた生クリームをフォークで拾い上げた華が、話をしている途中の貞治の口にねじ込んだ。
哀れなり、貞治。


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