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SIDE:和実
『ちょっとお茶するだけの予定だったのに、買い物まで付き合ってもらっちゃって、気がついたらこの時間でしょ?家まで送ってくれなくても良かったのに』
「そういうわけにはいかんやろ」
『それは男として?』
「ん……どちらかと言えば、“忍足侑士”個人としてやな」
『ふ〜ん、それが忍足侑士がモテる理由なのかもね。あ、もちろん美形っていう要素は大事だけど』
「それは女としてか?」
『私個人として、外せない理由よ』
「なるほどなぁ」
侑士くんとのデートを楽しんだ一日は、こうして自宅が近付いている今もまだ続いている。
『華、もう戻って来ているかしら』
「立海の王子とデートやろ?もしかしたら、帰って来ないか……いたたたた!……ちょっとしたジョークやん!」
『今日は朝から色々とあって、まったくもって冗談に聞こえないのよ』
そう言いながら自宅のあるマンションを見上げれば、部屋に灯りが付いていた。私は手にしていたお土産用のケーキの箱を目の高さまで上げ、それがまるで華のように微笑んだ。
「和実ちゃんは、怖い姑になりそうやな」
『そうでもないわよ。ただ、今はまだ一緒にいたいだけ』
「今は?」
『うん、今は。でもあの子の結婚式では泣きそう』
「誰が相手でも泣くんやろな」
『そうね。そして1回はグーで殴るかも』
「何でやねん!」
部屋番号を押し、インターフォンを鳴らす。
華が応答するまでのわずかな時間に、私は侑士くんを家に誘った。
『は〜い』
『ただいま』
『あ、和実!お帰り!今、開けるね』
こちらからは姿を見ることはできないけれど、弾んでいる声が今日1日の全てを物語っている。インターフォンのカメラに写らないようにと姿を隠していた侑士くんもそれを感じたようで、“機嫌のええ姫さんに会うのが楽しみや”と呟いた。
ガチャ……
『ただいまー』
「なんか、美味そうな匂いがするなぁ」
『夕飯でも作ってくれているのかしら』
玄関を開けると、部屋の灯りとともに美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐった。
玄関先で私は華を驚かせるために、人差し指を立てて侑士くんに“静かにね”というサインを送る。そして侑士くんの背中を押して、リビングへと向かう。
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