02
SIDE:柳
「待ち合わせ時間の1時間以上も前に到着……か。我ながら、フライングにも程がある」
一人で降り立った青春台の駅で、誰に聞かれることもない独り言を口にした。
携帯電話を取り出し、待ち合わせしていた人物のアドレスを探り当てる。どのボタンをいくつ押せば、彼女の名前が出てくるか……そんなことを考えずとも、指が覚えている。
「(俺の勝手な事情で早く出てきてしまったが、とりあえず連絡だけは入れておこう)」
出掛ける準備を急かすつもりは毛頭なかったのだが、逸(はや)る気持ちが俺にメールを打たせた。そのメールに反応があったのは、それから1分も経たない時間である。
「おはよう、華」
『蓮二く〜〜ん!早いです、早過ぎです!朝に強すぎです〜!』
「早く来たのは俺の都合だ。お前は約束通りの時間に、約束通りの場所へ来れば良い」
『そんなことできるわけがないじゃないですか!今日はちょっと気温が高くなりそうなのに、蓮二くんを外に置いておくわけにはいきませんっ!倒れたら困ります!』
俺が運動部だということを忘れているかのような発言に、思わず笑う。だが、過剰に心配されるのも悪くないと思うのも、相手が華だからである。
「俺は一人で時間を潰すことを苦にしないタイプではあるんだがな。では、じりじりとお前の自宅の方へ向かうか?」
『う〜む……それでも数十分で着いちゃうなぁ。でも、当分お出かけの準備は終わりそうもないし……ど〜してモタモタしちゃうんだ、朝の私!』
「別に家に入れてくれと言っているわけではない。どこか途中で落ち合うようにすれば、早く会うことが出来るだろう」
『それじゃ、駅で待っていてもらうのと同じです!家の近くまで来たら連絡下さい。お家にご招待しますから!』
「ほう」
『その代わりといってはなんですが、蓮二くん。準備が出来るまで待っていてくれますか?』
「ああ、もちろんだ。お望みとあれば、準備を手伝うぞ」
『んも〜〜、何を言ってるんですか!着替えの準備なんて手伝ってもらえません!』
「フッ、冗談だ。では、後ほど連絡を入れる。くれぐれも慌てることのないようにな」
『慌てるもん』
「それは俺の本意ではない。焦らずに、華のペースを守って欲しい」
華が慌てれば慌てるほど、良くない結果が出るのは明白。だが、そう言った俺に返って来た言葉はとてもシンプルなものであった。
『やだ』
「……ふむ、なるほど」
『おやおや蓮二く〜ん。今のお返事の仕方、ちょっとおかしくないですか?』
「ああ、すまない。少し思うところがあって……な」
『と〜に〜か〜く!私は慌てて準備をしますけど、蓮二くんは慌てず騒がず油断せずに来て下さいね!』
「分かった。では、また後で」
『うん!後で蓮二くん会えるのを楽しみにしています!』
「ああ、俺もだ」
素直で明るい返事を聞いて、また少しだけ早く会いたくなった。
電話越しに、この逸る気持ちが伝わらなければ良いがな。
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