05
『どうしたの?足りないの?残したら、グーで殴るわよ』
『ち、違うよ!』
『じゃあ、何よ』
『あ、あのさ!蓮二くんは?』
『蓮二くんなら、さっきから中で良からぬことをメモろうとしていて困ってるのよ。下着以外でメモが隠せそうな場所は、全て引っぺがしたけどね』
『メモ?つーか、洋服を引っぺがしたのか?』
華が和実の部屋を覗き込んだので、それに合わせて和実がドアを大きく開く。
「華、どうしたんだ?」
『蓮二くんは……、あの〜……、朝ごはんは食べたんですか?』
「ああ、もちろんだ。華と楽しく美味しくランチするためには、起きてから1時間以内に朝食を済まさねばならなかったからな」
俺はそう言って立ちあがり、和実の横に歩いて向かう。
立ち止まった場所から華と和実の肩越しにダイニングを覗き込むと、テーブルの上にはまだ朝食が残されていた。
「華、食欲がないのか?先ほどから、ちっとも進んでいないように見えるのだが」
『アンタ、もしかして体調が悪いんじゃないでしょうね?蓮二くんには悪いけど、それなら絶対に外出させないわよ』
『……違うよ。今日も朝から元気だよ』
『それなら!ちゃんとご飯を食べなさい!』
「華。どうやらそれを食べ終えなければ、鬼……いや、和実は外に出させてくれないようだぞだ」
『……わざと“鬼”って言葉を紛れ込ませやがった』
『む〜〜……』
目に見えて不満のある顔をしているのだが、その理由をなぜか口にしない華。
渋々と朝食の並べられているテーブルの前に戻ったが、部屋のドアからその様子を眺めている和実と俺の顔を交互に見ているだけで、残っている朝食に手をつける気配がない。
『何か文句がありそうな顔をしてるわね、華。言いたいことがあったら言いなさい。お姉さんがど〜んと受け止めてあげるから!』
『む〜』
「唸っているばかりでは、和実に不満が伝わらないぞ。日毎から溜め込んでいた全ての不満をど〜んとブチ撒けてやれ」
『私に不満があるとは限らないでしょ!』
「ほう、では俺に不満があるとでも?」
『その上から目線のところが、私は不満』
「そう思っているのは、和実だけかもしれないな」
『蓮二王子は、どうやら私に対してだけ上から目線のようですからね』
「そうか?弦一郎ほどではないが、俺は和実に対してかなり下手に……華、どうしたんだ?」
『ん?』
そんな風に和実をからかっている間に、華はいつの間にかテーブルの前から俺たちの目の前にまで移動をしていた。
華の頬はやや紅潮していて興奮しているようも見えるし、大声を上げる寸前のような……そうだ、これは子供が駄々をこね出す前のような表情と言えるだろう。
『……ずるい』
『ずるい?何が?』
「ほう、狡(ずる)い……」
その表情のまま、絞り出すように声を出した華。その言葉は、俺にとって非常に不思議なものであった。
『和実、ずるいったらずるい!』
『急に何を言ってんのよ』
「俺ではなく、和実が狡いのか……不可解だな」
“ずるい”と言われた和実も不思議そうな表情を浮かべて、問い返している。
『だって、だってさ!』
『“だって”、何よ』
『今日は私が蓮二くんと約束したのに〜!』
『うん』
『和実ったら、ず〜っと蓮二くんを独り占めしてるんだもん!』
『あら!』
華の言葉の意味は謎のままだが、不満を訴えられた当人(和実)は瞳を大きく広げ、なぜか華に抱きついた。
『ギャ〜〜!何で抱きつくんだよ!おかしいだろ、リアクションが!』
『いや〜〜ん!華ったら私に嫉妬したんでしょ?ジェラスィ〜?』
『ち、違うわボケッ!つーか、ちゃんとジェラシーって言えよ、イラッとする!』
『アンタにもそんな可愛いらしいところが残ってたのね!んも〜、可愛い!』
『一人でぽっつりと食事をしているのが、寂しかっただけじゃボケッ!』
『ほらほら、蓮二王子!これが嫉妬よ〜!可愛いわね〜!可愛さが増すわね〜!』
「ほう、嫉妬……」
『し、嫉妬なんかしてませんっ!っていうか、蓮二くん!その紙切れはどこから取り出したんですか?』
「耳の後ろだ」
電話の近くにあったボールペンを素早く手にした俺は、長細く筒状にしていた紙を広げて[嫉妬 ケース30 華の場合]と書き記すと、和実と華から『すでに29件も実例を集めてたんかい!』というつっこみを入れられた。
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