07
SIDE:華
『蓮二くん!ここが図書館ですよ〜』
「以前に比べると、格段に綺麗になった。きっと蔵書自体も増えているだろう」
『以前?』
「ああ。この辺りに住んでいた時に、良く利用していたんだ」
『あ〜!そういえば乾もよく使ってたっけ、この図書館』
「貞治と俺が通っていた緑川第三小学校は、この先にある」
『どこどこ?』
蓮二くんが指差した風景の中には、古びた小学校の校舎が見えた。私よりも背の高い蓮二くんには校庭なども見えているだろう。
少しだけ歩く速度を落とした蓮二くんは、昔を思い出したのか、校舎の方角に向かって優しく微笑んだ。
『小学校に侵入してみますか?蓮二くんのためなら、フェンスくらいよじ登りますよ!』
「いや。それよりも、予定通りに図書館へ向かおう」
『は〜い!』
「ところで、華もこの図書館を利用することがあるのか?」
『うん。家や学校から遠いから頻繁には利用しないけど、ほら……アレが……“眼鏡のアレ”に連れられて来ることがあるよ』
「今日は休日だ。読書好きの“眼鏡のアレ”がいるかもしれないな」
『んも〜、不吉なことを言わないでくださいよ〜〜!』
「“眼鏡のアレ”に出会うことは不吉なのか?」
『昨日“眼鏡のアレ”に雷を落とされたから、あんまり顔を合わせたくないんですよ』
「フッ、また怒らせたのか。今度はどうやってテニスの鬼神を召喚したのかを、聞かせてもらおうか」
『でもねでもね、蓮二くん。そんなに怒るようなことじゃないんだよ。それなのにあの眼鏡ったらぁ……』
私が蓮二くんに“眼鏡のアレ”への愚痴を言っていたのは、私語厳禁の館内に入るまでの数メートルの距離。どちらからともなく会話を中断したのは、入口のドアが無機質な音とともに開いたからだ。
……だから、ドアが開くと同時に図書館の静寂をぶち破ったのは、私たちじゃない。
「ハックション!」
聞き覚えのありすぎるその爆音に、私は思わず頭を抱えた。
『く、国光だ!手塚国光がいやがる!』
「くしゃみが聞こえただけで、手塚とは限らないと思うが……」
自分の言葉の裏を取ろうと、蓮二くんがキョロキョロと周囲を見渡す。私も自分の勘を立証しようと、手前の通路から国光を捜し始めた。
「ハックション!」
さっきと同じ場所あたりから、聞こえたそのくしゃみ。
もうこれは間違いない!と、私は蓮二くんの洋服の裾を掴む。
『あの妙なタイミングのくしゃみは絶対に国光です!くしゃみの元を探しに行きましょう、蓮二くん!』
「華。ぶっちゃけるとだな、俺としては例えくしゃみの元が手塚だったとしても、あえて近づかずに放っておきたいのだが」
『ぶっちゃけてる場合じゃないですよ!立海の三人の鬼の一角を担う柳蓮二様が、そんな逃げ腰でどうするんすか!』
「三人の鬼ではなく、三鬼才だ。それではまるで、三匹の子豚のように聞こえる」
『どっちだって良いですよ〜!急いで、急いで蓮二くん!』
「いや、やはり手塚のことは放っておきたい。むしろ遠ざけたい」
好奇心旺盛なはずの蓮二くんが珍しく乗り気ではないことに疑問を感じつつも、蓮二くんの腕をぐいぐいと引っ張りながら、小難しそうな本が置いてあるコーナーへとやって来た私。
しかし、そこには国光の姿はなかった。
『あれ〜?クニたん、いないじゃ〜ん!』
「ほら、気のせいだ。気のせいだろう。気のせいだな」
「呪文のように三回言っても、気のせいじゃありません!ぜ〜〜ったいに、あのくしゃみは国光なんです!探すのだ!」
「(何やら、おかしな使命感に駆られているようだな)」
「ハ、ハックション!」
『眼鏡のヤツ、地味に移動してやがる!ほらほら蓮二くん、素早く移動です!獲物が逃げますよ!』
「それなら腕を引っ張るのではなく、指を絡めるようにがっちりと手を握って欲しい。第三者(手塚)から見て、一発でラヴラヴな感じに見えるようにな」
『ラヴラヴでも何でも良いから、早く追わないと逃げちゃいますって!ほらほら、行きますよ!』
「ふむ……。“どさくさ”や“勢い”というのは、意外と好結果を導き出すことがあるものだ」
蓮二くんが私に向かって手を差し出したので、その手を(力の限り)握りしめ、私は5つほど先の通路へと滑る込むように移動した。その場所で棚の最上段にある本に、楽に手を伸ばしていた人物……それこそ、私が探していた人物である。
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