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SIDE:手塚
「ここで会ったが百年目だ、手塚。“ぼくを探しに”という絵本の原作を探しているのだが、どこかで見た覚えはないか?」
『蓮二くん、微妙に言葉の使い方が間違ってますよ』
「今のはわざとだ」
『な〜るほど!そうやって口喧嘩の達人(マスター)に登りつめたわけですね!』
「(俺が“達人”と呼ばれているのは、口喧嘩のことではないのだが……)」
「(柳が気の毒過ぎて、俺の口から訂正する気にもならないな……)」
日曜日の午後、空いた時間を使って図書館へとやって来た。
何度となく通っている図書館で、何度となく見かけている書物を手にしたり、やはり読むことを止めたり……それは別段変わったことではなく、俺のライフスタイルの一環だ。
「原題は、The Missing Peace……だったか」
「ああ」
「今なら、大人向けの絵本のコーナーにまとめて置かれているかもしれない」
「ふむ、やはりな」
『大人向けの絵本のコーナーが設けられているってことは、蓮二くんの言った通りに流行っているってことですね〜』
「ああ。そして、俺がお前に嘘を付くはずがないことが実証されたというわけだ」
『テヘヘヘ……』
「ハックション!」
『……ったくウルセーな、国光』
案内してくれとお願いされた訳ではなかったが、俺は2人を伴って特設コーナーへと歩き出した。俺が歩く後ろからは2人の笑い声と、華のパタパタという足音が聞こえる。
「ところで、なぜ図書館へ?」
俺がそう質問を投げかけたのは柳にだ。
「昼ご飯を一緒に食べていた時に、絵本の話題が出てな。華が興味を持ったようなので、図書館でいくつか絵本を紹介しようと思っただけにすぎない」
「それでなぜ原作を?」
「せっかくなので、英語と日本語を読み比べてみたいと言い出したんだ」
「華が……か?」
「ああ」
『何か文句でもあるんですか、国光さーん』
思わず聞き返したのは、普段なら言いそうにないことだと思ったからだ。柳が華の行動の理由を説明し始めたのは、俺の疑問を汲み取ったからであろう。
「隣の席の“自慢の友達”が英語で書かれた本を読んでいるのを見て、自分もチャレンジしてみようと思ったそうだぞ」
『だ〜〜!蓮二くん、それはナイショですよ!』
「フッ、これは言ってはいけないことだったのか。それは悪かったな」
『だ〜〜!』
「“だー!だー!”とうるさいぞ、華……」
「そこで俺は、絵本を薦めてみたというわけだ」
「懸命な判断だ。小説などでは、すぐに挫折してしまうのがオチだ」
「まぁ、そう言うな」
特設コーナーは、通い慣れている図書館の中でも普段なら行かない場所、そう児童書が置かれているエリアに隣接している。
そのエリアに向かって駆け出そうとした華を引き留めた柳は、探している本のタイトルをゆっくりと言い聞かせた。
「華、“ぼくを探しに”だぞ」
『イエッサー!』
柳に敬礼して見せた華は、親子連れで賑わうコーナーへと消えた。
人を待たせているというのに、その場にいた小さい子に話しかけたり、立ち読みしていた大人にぶつかったりと、相も変わらずマイペースなその様子を見て、俺は近くにあったソファに腰を下ろした。
そして柳も、俺の隣に腰を下ろす。
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