朧月が晴れるとき
春の宵、さらさらと夜の回廊を歩き、雪娟は天に朧げに浮かぶ月を眺めた。
「朧月夜、か」
ポツリと呟き、また優雅にかつ颯爽と歩く姿は後宮において、珠翠と並び誉れる女官の一人である。
しばし回廊を歩いていくと、堂々と回廊を渡る男性を見つけてしまった。
彼が向かう先には、女官たちの室がある。またいつものようにあちらこちらの花に手を出しに来たのかと思うと頭が痛む。
珠翠と共にこの男性を(珠翠いわくボウブラ)追い払うのか雪娟の仕事にもなりつつあるからだ。
「(まったく……)お待ち下さいませ、藍将軍」
名前を呼べば、彼は笑みを浮かべ優雅な仕種で振り向いた。
「これは雪娟殿」
「どこに行くおつもりでいらっしゃいますか?」
「無論、今宵はあなたの元へ」
優雅に手を取り、口唇を落とそうとするのに雪娟はスッと手を引いた。
「なぜ、私があなたと過ごさなければならないのです。全く、いくら珠翠殿に相手にされないからといって、あちらこちらに粉をかけるのはおやめ下さい」
ぴしゃりと言ってのければ、なぜか目を丸くしてこちらを見ていた。
「なんですか?」
「いえ。雪娟殿、なぜ珠翠殿と……?」
「そんなもの見ていればわかります。全くもういいお年なのですから、子供のような真似なさいますな」
雪娟は額に手をやり、なにを今更とばかり言えば、楸瑛が少し困ったような顔をしているのには気付かなかった。
「子供って……私はもう二十四の男ですよ」
「構って欲しいからと相手の出方を試すなんて、お子様ですわよ。残念ですが、珠翠様にその気がないので意味はなさそうですが」
くつり、と妖艶に笑う雪娟に楸瑛は何も言えなくなる。──しかし、楸瑛は顔を上げてそんな雪娟を見つめた。
黙ってしまった楸瑛を一瞥し、少し言い過ぎたかと雪娟は口をつぐんだ。
一女官にしかすぎない自分が、藍家直系、羽林軍将軍に出過ぎた真似をしてしまったと口に手を宛てる。
「と、とにかく! もうすぐ主上に貴妃様がお入りになられるのですから、ぐれぐれもお間違いなきようお願い申し上げます。では、失礼いたします」
くるり、とその場から離れようとすれば腕を掴まれた。
「……なんでございますか?」
「なにやら、勘違いをなされているようですので──」
「はっ……何を言って……んんっ……」
掴まれた腕を引き寄せられ、くるりと視界が回転したと思えば、口唇が塞がれていた。
「っ、ら、ん……将っ…軍…」
離れようと必死でもがくが、口唇は離れることはなく、一層深くなる。
息が続かなくて、口唇を開ければ舌が入ってくる。
「…んんっ……ちょっ……っ藍将軍!!」
流されてはいけない、と渾身の力を込めてドンッと押し退ければ、楸瑛は離れた。
雪娟は口唇を拭い、キッと楸瑛を睨んだ。
「なにをなさいますっ!」
「なにって、接吻ですよ」
「なぜ、私になさるのです! そんなだから珠翠様に……きゃっ…」
文句を言っていると、足を払われ、強引に抱きかかえられた。
「なにか、勘違いなさっているようですのでじっくり、教えて差し上げます。──私の想い人が誰なのか」
「はっ……!?」
優雅に笑う楸瑛の顔に驚きが隠せなかった。なぜなら、熱いまでの眼差しに胸の奥がトクン、となった。
「──貴方も私の事を愛してるでしょう、雪娟殿」
「……っ!」
「気付かないから教えてあげますよ、貴方は私に惹かれているってことを」
なぜなら私を見ていた、と貴方は自分で言ったのだからね。
今宵、朧げな貴方の気持ちをはっきりさせましょう。
END
あとがき
for.雪娟様へ相互記念小説
楸瑛夢でした。
一応、年上夢主なのですが、果たして年上なのか、こ、このようなめちゃくちゃなモノでよかったのかとびくびくしております。
こんなのでよろしければ、受け取って下さいませ。
雪娟様のみお持ち帰り可でございます。
2007/12/31
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