願う事はただひとつ
いつだって、彼は傍にいてくれる。
それは嬉しいことで有り難いことなのだが、彼の事を考えるといつまでも自分のお守りをさせたくはない。
でも、どこかに行ってしまうのは嫌。
幸せになって欲しいと願いながらも、心のどこかで傍にいて欲しいと思ってる。
だって「愛してる」んだもの。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
酒楼で賃仕事をしているとポツポツと小さな音がして、秀麗は帳簿から顔を上げた。
次第にその音はザーっという音に変わり、雨が降っていることに気付く。
「やだ、雨!? 邸、大丈夫かしら?」
この前雨が降った時も桶運び競走になり、ぐったりした。
翌々日あたりに静蘭が不要になったという瓦を宮城から持ち帰ってきてくれて、雨漏りを直してくれたが、荒れ果てた広大な邸内にはまだ雨漏りする箇所はあるだろう。
(……もう、この際使わない室の事は目をつぶろう…)
じゃなければ、あの邸には住むことは出来ないのだ。
だが、危惧するのはただひとつ。帳簿付けも終わり、次は道寺で子供たちの勉強を見る予定なのだが、この土砂降りでは行けない。
ふと、こんな時自分の無力さを感じてしまう。
傘がないなら荘おじさんに言って貸してもらえばいい……それなのに何故、こんなにも物憂い感じはなんなのだろうか。いつもの自分らしくない。
「……さっさと行かなきゃ、みんな待ってるわ…」
顔を振り、傘を貸して貰う為にもう一度裏口へと手をかけようとして、なんとなく手が止まった。
そして、その理由が分かり、つい微笑んでしまう。
「お嬢様」
聞き慣れた声が近寄って来た。少し足元に飛沫をあげて。
「静蘭」
「お嬢様、お迎えに上がりました」
傘を差し出し、にっこり笑う我が家の自慢の家人。
女である自分より綺麗で、頭もよくて、強くて、優しくて……大事な人。
「……どうかしましたか?」
「ううん、ちょっと……」
「ちょっと?」
不思議そうに見てくる静蘭に秀麗は笑う。
「なんだか、静蘭が来てくれるような気がして……ううん、来てくれて嬉しかったの。ありがとう、静蘭」
「……私はいつでもお嬢様の傍にいますよ、安心なさって下さい」
くしゃり、と頭を撫でられる。無骨で豆だらけの手だけれど、それが秀麗にとってとても安心する手だ。
「……うん、ありがとう、静蘭。あなたが傍にいてくれてとても嬉しい」
そう言えば、静蘭が一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になって
「いえ、ありがとうは私の方です。傍にいさせて頂けて……私はそれだけで充分幸せです。ありがとうございます、お嬢様」
「……なんだか、面白いわね」
互いの言っていることが同じでつい笑ってしまう。
でも、いいのだ。私たちは互いにいることが幸せなのだ。
「そうですね。さ、行きましょう、みんなが待ってますよ」
手を引かれ、傘に入る。さっきよりは雨足が弱まったが、それでも傘に当たる音は変わらない。
「そうね、待ってるわね」
いつでも傍にいてくれて、本当に感謝している。
幸せになって欲しいと願いながらも、心のどこかで傍にいて欲しいと思ってる。
出来るならば、いつまでも傍にいて幸せになり合えたらいいのに。
彼女は知らない――自分が彼女といることがどれだけ幸せかということを。
だから、ずっといつまでも傍にいられることが自分にとって計りかねないくらい幸せなのである。
そう、それは誓いのように――。
病める時も、健やかな時も――傍にいたいと願う。
あとがき
大好きな秋木の実様へ相互記念小説でした。
久々の二次創作にこんな書き方でよいのかとドキドキしてます。
しかも、書いていて意味が分かりません。す、すみません、これが精一杯でしたーっ!
気にいらなかったら、捨てて下さいませっ!
2008/02/22
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