Rain

Present

「……棗の…アホっ!!」

――パンッ!!


鈍い音とともに瞳に映った彼女は大粒の涙を溜めていた。

「……みかん…」

泣きながら横を走り去っていく彼女を見送り、棗は頬に手を添えた。じんじん…としていて痛いというよりは熱くて感覚が覚束ない。ポツポツと降りだした雨が頬を伝う。


なぜ、こんな風になってしまったのだろう。

いつものたわいもない口論がこんな風になるなんて……


『ルーカぴょん♪』

『わっ……な、なんだよ…』


流架と廊下を歩いていると後ろから蜜柑が抱きつき、くっついていた。
隣にいた棗は、紅い瞳を見開き力任せにぐいっと蜜柑を掴むと流架から離した。


『なにすんねん!!棗っ!!』

『お前……ちょっと来い!!』


そう言うと、無理矢理蜜柑を外へと連れていく。


『棗……?』


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


外に出るとどんよりした黒い雲が低く立ちこめていた。


『……お前、なんでいっつも流架に抱きつくんだよっ!!』

『へっ…?あかん?だって流架ぴょん可愛いんやもんvV』

『……………テメェは俺と付き合ってんじゃねぇのかよ?それとも流架の方が好きなのかよ!?』

『……何でそんな事言うん?棗……ウチの事信用しとらんの?』

『………………』

『…棗やって…ホンマにウチの事好きなん!?言ってくれた事ないやん!!』

『………うるせぇ!!男がそんな事言えっ――』


『……棗の…アホっ!!』



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


泣かせるつもりなんてなかった。

これはただの【嫉妬心】

俺以外のヤツには触れて欲しくなくて

たとえ…それが流架だとしても

否、流架だからこそ…

流架が蜜柑を好きだという事を知っているからこそ…

――――許せなかった。

これは只の【独占欲】



もう少し 素直になれたら

もう少し 勇気を出せたら

『悪かったよ』って男らしく言えれば

『好きだよ』って優しく言えたら


何よりも大好きな笑顔が見れたのに

素直じゃないって分かってても

言葉に出せなくて

勇気が少し足りないだけで
傷つけた―――。



雨が冷たく感じるも
心よりはまだ暖かい。

彼女の涙が消えるまで止まないで

すべてを悲しみを洗い流せ。



もう少し優しく出来たら

結び付く赤い糸が

絡まったり、ほつれたり、歪まないのに……



どうして足が竦むのだろう?

なんでこんなにも臆病になるんだろう?

たかが【恋】をしただけで…

でも………


ぃつの間にか歩いていた足が走りだしていた。

早く、早く、彼女を探して…

きちんと伝えたい事があるから




ようやく木の下で雨宿りしている彼女を見つけた。


「…みかんっ……」



すばやく後ろから抱きしめると、蜜柑は驚き振り向くと雨なのか涙なのか、棗の頬が濡れている事に気付く。
そっと、手を添えると少しだけ温かかった。


「………なつめ…?」

「……まだ、うまく言えないけど…誰よりも大事だから……蜜柑の事が………。ごめんな…怒鳴ったりして…嫉妬焼いたんだ…」


いつもクールな棗が頬を赤くしているのを見て、蜜柑は驚きもいたが、愛しさが込み上げてくる。
そっと、顔を近付けると


―チュッ


口唇に軽くキスをした。


「…蜜柑…?」

「あっ…その…えと…もぅええよ。ウチも悪かったんやし…ごめんな。」


そういうと蜜柑は、ニコリと笑った。


――この笑顔が見たかった…



棗は少し優しく笑うと、蜜柑も嬉しくて微笑む。
二人は、また重なり合った。



ほつれかけた赤い糸が直っていく。
気付けば、雨は止んでいた。



END






あとがき

秋羽ちゃんへお見舞い小説です。
今回の事で落ち込んでいたり空元気なご様子で心配です。
なんか、本当は甘々にしたかったのですが、力不足なのかなりませんでした。
切ないような、棗サマうじうじな感じでごめんなさい!!
棗はもっと決める時は決めると思ってます!!
こんな別人ではないですよね!!

こんなのでよろしかったらお受け取り下さい。


'04/11/22


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