8.5
【エース視点】
マキノに渡された服を持ち、部屋に放り込むと同時に、ダダンとフーシャ村の村長が入ってきて足を止めた。
「ほんとうにあのガキはここに置かないンだな!!」
「そもそもガープがそれを許す訳がないわぃ!」
「はァ?!ルフィだってガープの孫だろォが!!」
差別かっ!とダダンが怒鳴るが、村長は「違わい!!」と言い返している。
「マリィもルフィもガープにはどちらも大事な孫じゃ……ルフィには厳しすぎるがのぅ……」
「差別じゃないかい!」
ジジイに対してイライラしてしまう。ルフィとあの女を差別してんのか!と。
「確かにマリィには過保護じゃわい……まぁ、マリィはガープのせいというか…人質にされたり、人攫いにあったりしたもんじゃかなぁ…」
「あぁん?」
ダダンが怪訝そうに村長を見る。村長は口を開いた。
「ほれ、今から何年か前にガープが“不確かな物の終着駅”で暴れた事があったろ」
「あ、あぁ……人攫いの一味を一網打尽にした」
「マリィが関わっとるんじゃ……」
「……マジか…」
「当時はルフィも生まれてなかっとったし、マリィはショックで覚えてはおらんのだが……ここだけの話、政府があの子を連れて行こうとしたらしい……」
「はぁ?!」
政府があの女を連れて行く?意味が分からずに聞き耳を立てていると、村長が大きくため息を吐く。
「……ガープの息子──マリィとルフィの父親に対しての人質にしようとしたようじゃ」
「ガープの息子?海兵じゃなかったかい?」
「いや、海兵はとっくに辞めておる」
「……これ以上話すのはやめとくれ!ただでさえ、ウチには厄介なのがいるんだらなァ、その上ルフィまでなんかあれとかやってられん!!」
ダダンはこれ以上深入りしたくないのか、村長を止めた。くわばらくわばらと小屋から先に出ていった。村長もそれに続く。
エースは先程の二人の会話を思い出す。
何かあるとすれば、それはルフィとあの女の父親が関係している。
ルフィは親はいない、ジジイと姉しかいない、と言っていた。父親がいるのか……呟いたが、自分の親よりはマシだろうと思い、頭をガリガリ掻いてから、小屋から出た。
サボとルフィに狩りに行くぞ!と声を掛けた時、あの女がどこか虚ろに見えた。
夜、帰ろうとしたあの女をルフィが離さなかったせいで、女は気を失った。
どんだけ弱いんだ…と思いながら見ていると、ルフィが涙ぐみながら「ねーちゃん、ごめーん!!」と縋りついたままだった。
サボがいつの間にかあの女の名前を呼んでいるのにも驚いた。
ルフィが離さないせいで、女は小屋に泊まることになった。ルフィは一緒に寝るんだ!!と騒ぎ、ダダンによって寝床に放り投げられた。
呆れたようにサボが二人に毛布を掛けてやり、いつの間にかルフィも眠ってしまった。
「……もう寝やがった…」
「嬉しかったんだろ」
どこが楽しそうなサボに訊いてみた。
「お前もどうしたんだよ…」
「なにがだ?」
チラリとあの女を目をやれば、サボがどこが浮足立つのが分かった。
「……あー……なんつーか……かわい、い…って思って……」
「はァ?!」
「ちょ!大声出すなよ、起きるだろ!」
「いや、だって、おまえ……」
「い、一般論だよ、うん、じゃ、おやすみっ!」
「おい、サボっ!」
毛布を被り、そっぽ向いたサボにエースはムカムカと苛立つ。このルフィの傍らで眠る女が腹立たしい。
ルフィもサボも奪われるんじゃないか、と焦るも、ぶんぶんと首を横に振る。
(──俺たちは兄弟の盃を交わしたんだ…)
俺たち三人の絆は”兄弟“としてつながってる。なにがあってもこの絆は切れねェ……!!
いつの間にかうとうとしていたらしく、どこからか声が聞こえた。薄っすらと目を開けると、あの女が目を覚ましたらしい。
まだみんな寝ているのだろう、寝息が聞こえるが静かだ。
「ね、ルフィ────お姉ちゃん、生きててダメなんだって……」
(?!)
「ルフィになにかあったら……お姉ちゃん守るからね……」
ぐすっ、と鼻を啜る音で泣いているのが聞こえた。静かに、泣いている声に胸が締め付けられた気がした。
(……コイツも、忌み嫌われるのか……?)