ONEPIECE

 ダダン一家の小屋に泊まってから半月経過した。村長とマキノがわざわざ迎えにきてくれた上に、お詫びにと遥々酒を樽で持ってきてくれた。
 ルフィといえばやはり姉から離れないとばかりにくっついていたのを、マリィが「またすぐ会いに来るから」となんとか宥めて、村へと戻ってこれた。
 村人たちはマリィが戻ってきたのを、迎え入れ、以前と変わらぬ暮らしがまた始まった。違うのはルフィがいないことだが、半年もルフィはコルボ山にいるのを皆知っている。
 マリィは村長の家やマキノの家でお世話になっている事が多くなった。まだ齢十歳の少女が一人暮らしなど出来るはずもないからだ。

「マキノさーん、お掃除終わった〜」

「ありがとう、マリィ」

 箒と塵取りを片付け、マリィはカウンターの中にいるマキノに話しかけた。
 こっちへいらっしゃい、と手招きをされ、カウンター席へと上がれば、テーブルにジュースを出された。

「はい、ご褒美」

「ありがとう!」

 嬉しそうにコップを手に取り、ゴクゴクと飲んでいると、マリィは顔を上げた。マリィが出入り口を見て「ルフィがくる」と呟くと遠くから声が聞こえた。

「え?」

 マキノが入口を見ると同時に、バーンっ!と大きな音を立てて、ドアが開いた。少し壊れたのか、ギィギィと軋んだ音がしている。

「ねーちゃん!!いたァ!!」

「る、ルフィ?!」

 驚くマキノをよそに、ダダダと店内を走り、マリィに抱きついてきたのはコルボ山にいるはずのルフィだった。

「なんだよ〜〜、ねーちゃん、ぜんぜん、会いに来ねェじゃんかァ〜〜!!」

「ルフィ…ひとりで来たの?」

「うんにゃ、エースとサボもいっしょだ!!」

 ルフィが顔を向けた方を見れば、ドアの下からこちらを伺っているサボと呆れた顔をしているエースがいた。

「あら、二人とも遠慮しないで入っていらっしゃい」

「へへ…おじゃましまーす」

「………フン…」

 照れくさそうに入ってくる二人とルフィにマキノはコップを並べるとジュースを注いだ。

「はい、どうぞ」

「うわァ、マキノありがとう!!」

 一気にゴクゴク飲むルフィに対し、エースもサボも少し遠慮がちにコップを貰う。

「うまいな!」

「…………あめェ…」

 あまりジュースは飲んだことがないのだろうか、エースは顔をしかめたが、サボはうまい!と嬉しそうだ。マキノは微笑みながら「おかわりあるわよ」と瓶をカウンターに置いた。
 ルフィは「おかわり!!」とはしゃぐ中、マリィはサボとエースを見た。
 サボはマリィと目が合うと、頭を掻きながら口を開いた。

「いや、あの、ルフィがマリィに会いたいって言っててさ……」

「……うん?」

「……………………お、「ルフィがうるせェし、サボもおめェに会いたいとかで会いに来たんだよ」エース!」

 サボがなにか言おうとしてエースが面倒くさそうに口を開いたが、マリィは首を傾げた。

「なんで?」

「な、なんでって……」

 意味が分からなくていると、サボが少しだけ慌ててたが、ルフィが入ってきた。

「そーだよ、ねーちゃん!!すぐ来るっていってたのになんですぐ来ねェんだよ!!おれ、まってたんだゾ!!」

 ぎゅーっとくっついてくるルフィに、マリィはその頭を撫でてあげた。前は一緒にくっついて寝ていたし、その際によく頭を撫でていたからか、久しぶりに触れる髪の毛がゴワついているがどこか懐かしい。

「……ごめんね、ルフィ」

「ゆ、ゆるさないんだからな!!」

 それでも頭を撫でつづけていると、次第にニシシといつものルフィの笑みが溢れ始める。

(……かわいい…かわいい弟…)

 マリィも次第に嬉しくなって、ルフィを撫で続け、マキノはやはり二人が戯れている姿は可愛いと思えた。
 サボとエースは呆れたような顔をしていたが、マキノに席を勧められて椅子に座った。

「ふふ、あなたたち良かったらお昼食べていきなさい」

 マキノの言葉にルフィは「おれ、肉食いたい!!」と叫んだ。
 本当に肉が好きなのは知っているが、マキノは指でバツを作った。

「だめよ、ルフィ!肉ばっかりじゃ、野菜も取らないとね」

「えェ〜、肉がいい!!」

「オムライスとサラダです」

「サラダはいらねェ〜」

 ゲェと口を尖らせるルフィにマリィはムニッ!とルフィの頬をつねった。

「だめ!ルフィは野菜も食べないと!」

 私が作るから食べて!と伝えると、ルフィはむぅ〜と顔を顰めながらも頷いた。

「ねーちゃんがつくるなら食べる!」

 ふんすっ!と勢いよく言うとマリィはすかさずルフィを撫でた。サボとエースはルフィの聞き分けの良さに驚くしかない。
 ぴょんとカウンターの椅子から降りるとマキノのいるカウンターの中へと行く。
 マキノもそこから子供たちの食事を作ることにした。



「はぁぁ、うまかった!マキノ、ごちそうさん!」

「ごちそうさまです。あ、ルフィ、口の周り!」

「美味かったです!」

「……ウマかった…」

「はい、お粗末さまです」

 四人仲良くカウンター席に座り、マキノが作った大盛りオムライスを平らげた。マリィには普通の量だったが、他の三人は食べっぷりは見ていて面白かったりした。
 マリィは横に座るルフィの口周りに付いたごはんを取って、ケチャップを拭っている。ルフィも久しぶりにマリィにお世話されて嬉しいのか、笑顔である。ある意味、天使!としか言いようがないが、マキノはにこにこと笑うばかりだ。
 やはり、エースは呆れ、サボも苦笑いしている。

「おぃ!そろそろもどるぞ」

 エースが椅子から降りるとサボとルフィに向けて言うと、案の定ルフィから不満げに声があがる。

「オメェが会いてェいうから来たんだろ!会えたんだし、もういいだろ!」

「えーー」

「でもそろそろ戻らないとダメだぞ、ルフィ。夕飯前に狩りにも行かないとダメだしな」

 サボも外を見ながら話す。夕方まではまだ時間はあるが、今からコルボ山へ戻るとなると子供の足では多少時間は掛かるだろう。

「……ルフィ、行っちゃうの?」

 思わず溢れた言葉にマリィはハッとして口元を押さえた。我慢しなくちゃ、いけないのに!とマリィは黙り込んだ。

「…………ねーちゃん、一人は辛ェか…?」

「……っだいじょうぶだよ、ルフィ」

 マキノさんたちいるし!と笑顔を見せるマリィに、ルフィは考える素振を見せたが、そっか!と笑って答えた。
 それが胡散臭すぎて、エースは眉を顰め、サボもなにか言いたげだった。

「今度はわたしが会いにいくね!」

「…………ぜったいだぞ!」

「うん!」

 ルフィを頭を撫でながら、マリィは答え、そして、エースとサボの方を見た。

「……あの、サボくん、エースくん……ルフィにつき合ってくれてありがとう!」

「へ、へへ…」

「…………フン、」

 二人の態度にマリィは少しだけ笑った。コソッとルフィに耳打ちをすれば、ルフィもまた嬉しそうに笑うのだった。




 数日後、マキノに頼んでマリィはコルボ山に来ていた。

「ルフィたちいないの?」

「今、狩りに行ってるんですって」

 村長のボヤキを聞きながら、山を上ってきたのだが、いないのにガッカリしてしまう。

「今日はそのガキもいんのかい!」

「ダメなの?」

「……フンっ!こっちに迷惑かけなきゃどーでもいいよ!!」

 ダダンに対して、少しだけむぅっとしながらも見つめればダダンはため息をつきながら、シッシッと手を振った。

「じゃあ、ルフィの服とか洗濯します!」

 はい、と手を挙げるマリィに「ルフィのだけかいっ!」とダダンは怒鳴るが一番汚してくるのはルフィだ。それでも溜めこまれた衣類をまとめて、少女に押しつける。
 マキノが「手伝う?」と尋ねるが、マリィは首を横に振った。イヤだけど、ルフィがお世話になっているからと、マリィはルフィのだけではなく、サボとエースの汚れ物も洗うことにした。
 山賊からタライと洗剤を借りるとまずは水洗いをしてから、洗濯板に衣類を擦りつけた。アワアワとなるのを眺めながら、ゴシゴシと洗い、水で濯いだ。
 どこに干したらいいのか聞き、物干し竿に掛けては干していくと、賑やかな声が聞こえた。

「きょーはイノシシ獲ったぞォー……あ、ねーちゃん!!」

「オィ、ルフィ!!」

「急にはなすなよ!」

 マリィに気づいたのか、ルフィは三人で抱えてきたイノシシを放り出し、走り出した。
 ルフィを見ると、物干し竿の所にマリィがいた。   別にそれはいい、いいのだが、干されているモノを見て、サボもエースもぎょっとした!ついでに彼女が今持ってるのは下着だ。

「ねーちゃん!!」

「ルフィ!」

 抱き合う姉弟にまたか、と思わなくはないが、それどころではない。互いに十歳同士。まだ子供ではあるがサボは真っ赤になるしかない。可愛いらしい女の子に自分の下着を持たれているというのが恥でしかない。

「マ、マリィっ!!」

 バランスが崩れ、ズドン!と落とされるイノシシにエースは走るサボを見て、てめェもかよ!となる。

「っ、マリィ!そ、それ……!!」

「こんにちは、サボくん。それ?」

「あ、サボのパンツだ」

「そーなんだ、洗っといたよ」

 あわあわとするサボにマリィは、ん?と首を傾げているとルフィがトドメを刺すようにパンツは誰のかをバラした。しかし、パンツを持っていたマリィは笑いながら洗濯しといたと言うのでサボは「………あ、ありがと…」と言うしかなかった。
 ふと、エースは物干し竿を見れば、自分の下着も風に揺れていたのに、重いため息をしか出なかった。
 小屋に入れば、マキノが昼飯を用意したからと、獲ってきたイノシシは夜に使うことになった。
 飯を食べたら、勝負だ!と騒ぐルフィは、「ねーちゃんも連れてく!」と駄々を捏ねた。

「ルフィ…私、邪魔になるから」

「ダメだ!ねーちゃんはおれと一緒にいるんだ!!」

「……ルフィ…」

 頭が痛いとばかりにルフィを見ると、威嚇するようにガルルルル…と唸っている。
 ルフィはマリィを一人にしたくないのだろうとは思っている。

 この前フーシャ村に行った時に、コイツが無意識にルフィを引き止めたのを覚えてる。帰りがてら、ルフィは何度も振り返っては寂しそうにしていた。

「………………ひとりは辛ェ…」

 ボソリと呟かれた言葉にエースも来た道を振り返ったくらいには、マリィが気にはなったが、目の前に現れた巨大な蛇に鉄パイプを握りしめた。

 マキノに止められてもルフィはマリィからは離れないから、サボが「おれたちが送るから」と頼みこんだ。おれたちって、おれもかよ!と思いながら、いつもの特訓する場所へとやってくる。
 マリィが辺りを見渡し、板で作った対戦表を見ながら、驚いていた。

「いつもココで、訓練してるの?」

「そーなんだよ!これたいせんひょう!ひとりひゃくせんやれるんだ!!」

「ひゃく、せん…」

「あ、お、おれはそのうちエースやサボをボコボコにしてやるんだ!」

 ルフィはエースとサボと勝負してもいつも50敗ずつ負けているのを見られたのか、身振り手振りで説明している。
 横でサボが笑っていると、ルフィが「しょーぶだ、サボ!!」と離れた所へ連れていく。
 二人がエースからの掛け声を待っていたから「始め!」と声をかけた。大分、ルフィも動きが出てきたと思うが、それでもまだまだである。エースとサボ相手には1勝もしたことはない。
 あっさりとサボに一本取られ、くっそ〜〜!と言いながら「もう1回だ!!」と連戦するも、結局はルフィの負けである。

「ルフィ、交代だ!」

「よし、こい!エース!!」

「ちぇ〜」

「ルフィ、痛くない?」

「おぅ!ゴムだからいたくねェ!」

 やり取りをみて、やっぱり甘ちゃんだな…と思う。同じジジイの孫なのになんで女の方は弱いのだろう、と思ってしまう。
 ルフィも自分たちに比べたら全然弱いが、あんな殴ったらすぐに吹っ飛びそうな女を大事にするルフィもよく分からない。
 前にルフィは「ねーちゃんは怒るとコワいんだ」と言っていたが、絶対ウソだと思う。大体、ルフィに対して怒ったりなんかしないだろ、アイツ。
 考え事していたせいか、サボとの勝負に負けてしまい、くそっ!と苛立つ。
 今はサボとルフィが勝負しているが、すぐに終わるだろう。だけど、じぃ、とルフィの動きを見ている眼差しがなんだか得体がしれなくて、ぞわり、と背中に汗が流れた気がした。見ていたからか、目が合った。同時に、うわぁ!とルフィが木に激突して、サボの勝利で終わる。

「よし、また勝ったな!」

 くっそ〜!と悔しがるルフィにサボが頭を撫でながら「まだまだだな〜」と言っている。

「……エースくんたちって、強いんだね」

「………あたりめェだろ!」

 まさか話しかけてくるとは思わなかった。
 彼女はなにか周りを見てから、ルフィに声をかけた。

「…………ルフィ、逃げたほうがいいよ」

「え、」

「「は?」」

「おじいちゃんがくる」

「「?!」」

 彼女の言葉にルフィは立ち上がると姉の腕を引く。

「やべぇ!逃げねェと!エース、サボ!」

「は?なにいってんだよ、ルフィ」

「そうだせ、ルフィ」

 エースとサボは訳が分からないとばかりにルフィを見るも、ルフィはマリィの腕を取り引っ張っていった!彼女も「くるよ」と言って、ルフィと走り出した。

「はぁ?なんでジジイがくるなんて…」

「なんでわかるんだ?」

 エースとサボが首を傾げながらいると、もう二人はいなくなっている。あの女意外と足が速い。
 送って行かなくていいのか?と思いつつ、フーシャ村へはこっちの道だろ??と眺めていると、バキッ!と枝を踏む音が聞こえた。

「おぉ、エース!ここにいたかァ」

「ゲェ!ジジイ!!」

「うわ!ルフィの爺さん!」

「じーちゃんと呼ばんかァ!!む、ルフィはどこじゃ?!」

「ルフィたちなら、さっき逃げ「ぬぁにおぅ?!」」

 あっちに、と指させば、訝しむような顔をした。

「…………ここにマリィちゃんおったのか?」

「…あぁ…」

「なるほどのォ」

 何故かニヤニヤと笑うジジイになんだ?と思いながらも、エースとサボは掴まるなんてジョーダンじゃねぇ!とガープから距離を取った。二人は顔を合わせて頷くと、後で合流だ!と別方向へと駆け出した。

「こりゃ、待たんかァ!!」

 エースはなぜ、あの女はジジイが来るのが分かったのだろう、と思いながらも森を駆け抜けた。

 結局は現役の海兵とすばしっこいとはいえ子供が敵うはずもなく、ダダンの家まで連行された。後に戻ったルフィは、ジジイにゲンコツを落とされていたし、あの女はジジイに頭を撫でられていて、なんなんだ??としかならなかった。


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