12
エース、サボ、ルフィが独立をし、マリィはガープとの約束を守りながら日々鍛えるようになった。毎日ではないにせよ、ルフィたちの元にも顔を出し、フーシャ村でもマキノの手伝いをしている。
ある日、いつまで経っても現れないルフィたちにマリィはどことなく不安があった。
フーシャ村にいるだけでは、世界で何が起きているかはあまり知る事はない。そして、フーシャ村はゴア王国に属していても片隅にある忘れられている、辺境の村なのだ。
そわそわとした胸騒ぎは昼間からあった、怖い、なにか厭なことが起きるのではないか、祖父が来るというものではなく、マリィにとって嫌悪する、厭ななにかが起こるのが分かる。
ルフィたちは大丈夫だろうか、心配で胸が苦しくなりコルボ山へと行こうと思うのだが、足が慄えてしまうのだ。
「……なんで…?」
何かに邪魔をされているのか、足が竦んでしまう。
「………………どうかしたのか?」
振り向けば見たことがない、男が背後にいて、マリィは飛び上がった。
普段から怪しい人には気をつけろ、と村長たちや祖父に言われていた為、目の前の知らない人間に後退りをした。祖父ガープによる特訓によって、多分不意打ちはつけれるだろうが、マリィは目の前の男が祖父並みに強いのが分かった。──彼女は憶えていないが、この男こそ、父 モンキー・D・ドラゴンである事だと知る由もなかった。
ドラゴンは娘──マリィとこんな所で会うつもりはなかった。ただ、そっと陰ながら姿が見れればと思っていただけだ。ルフィはガープからコルボ山の山賊に預けていると聞いていたが、娘が村から外れたコルボ山への入口にいるのが心配だった。
戸惑うようなマリィの様子に、ドラゴンは屈んでみせた。怖がられないようにきちんと距離も取った。その様子にマリィは何故か大丈夫だと思えた。
チラリと山を、ゴア王国の方へと目を向ける少女に男はもう一度声をかけた。
「何か気になることがあるのか?」
「……うん…」
「…………」
「……えっと、なにか、なにか厭な感じがするの……」
そう呟く娘にドラゴンはもしかして見聞色の覇気が使えるのではないか、と思ってしまう。己にも備わるそれらが子供たちに引き継がれていてもおかしくはない。
確かにドラゴンもどこか厭な気がしている。近々この国に天竜人が訪れる予定なのは新聞でも、報告でも上がっていた。
臭いものに蓋をする様なこの国の貴族たちが、王国の外れにあたる不確かな物の終着駅をそのままにするとは思えないからだ。
「……そうか。だが、心配することはない」
「本当に?」
真摯な眼差しにドラゴンは申し訳ないと思いながら、嘘をついた。
「あぁ、
さぁ、早く。と促せば、チラチラと山の方を見ながらも、村の方へと駆けていった。まさかとは思うが今夜、山に行く事はないだろう。
ドラゴンは立ち上がるとローブを翻して、コルボ山へと歩き出した。今夜何かが起きるのは間違いないだろうとその場から消えたのだった。
見知らぬ人だったが、彼が言う『大丈夫だ』という言葉がどこか安心させるものがあった。今夜、マリィは村長の家でお世話になっている。「あまり山に行くではない」と小言を言われてしまうが、ルフィたちに何度も会いに行ってるのは既に知られている。
また胸がドクドクと忙しなく鳴るのを、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と暗示をかけながら、どこか不安になりながら眠りについた。
翌朝、マリィは山の上で何かあったのを理解した。いつもはあんな風に、山の上の方で煙は見えないし、なにより風に乗って煙の臭いがした。ガクガクと身体が震える。なにか、何かが起きたんだ!!
村人たちに火事があったと教えてもらい、村長が止めるのを振り切り、マリィは一人で山へ向かった。
(ルフィ!!エース!サボ!だいじょうぶだよね?!)
不安になるのが強くなる、違う、そんな事はない、この胸騒ぎは勘違いに決まってる!!そう言い聞かせて、はぁ、はぁ、と息を切らして秘密基地に来るも誰もいない。火事は山ではなく、もっと違う方だ。
「ルフィ?!いないの?!エース?サボ?」
どこかに狩りに行ってるのか、それとも手合わせしているのか、マリィは走り回った。
「〜〜ぶ、じ、だよね……!」
涙ぐむながら、ダダン一家の小屋へと向かう。
「マリィちゃん?!」
ダダン一家の誰かがマリィを呼んで驚いた声を上げた。次の瞬間「ねーちゃん!!」とルフィの悲鳴に近い泣き声にマリィは小屋へ飛び込んだ。
「ルフィ!!」
「ねーちゃん……!」
そこには顔に包帯を巻かれた弟が布団に寝かされていた。
「ルフィ!ど、どうしたの?なにが、あったの……」
震えながら尋ねれば、ルフィは横になりながらぐしぐしと泣いている。「エースが……ダダンが……」と唸っていた。
「ルフィ……なにが、あったの……」
ルフィの傍にいたマグラさんがあった事を教えてくれた。ゴミ山は燃やされたのだ、人さえも。
山賊のみんなはルフィを助け出し、逃げることが出来たのだが、何故かエースは逃げなかった。それにダダンが責任持って連れ帰ると約束したという。
「エースも、ダダンさんも…」
「ルフィは傷が深い、今は安静にさせないとダメだ」
「エースとダダンを探しにいく……」
弱い口調のルフィにマリィは傍にいることしか出来ない。
「──今、ゴミ山の方は火事の後処理で軍隊が大勢ディ回ってる。『後処理』っチーのは焼けたゴミの一掃と…生き残りの処理も含まれてるんだ──今行けば殺されるぞ!」
彼らの言葉にゾッとした。それが同じ人間のすることなのか、と。そっとルフィの手を握ると、縋るように握り返された。
「……でも……!エースに会いたい……!きっとサボも心配してる……!」
「……サボ……そうだ!サボは?サボはどうしたの??」
周りを見ると皆が顔を逸らした。なに?と思ってると、ルフィが涙を流しながら伝えてきた。
「…………サボは、連れてかれた……あんなに『高町』を嫌ってたのに…ゔぅ"〜〜」
「…………連れて、かれた……」
サボが…。とマリィは呆然とした、あんなに、貴族を嫌がっていたのに……。なんで、こんな事に…とマリィは唇を噛んだ。怪我をしたルフィを看る為に、頭を下げて泊まらせて欲しいとお願いした。
火事から二日後、まだエースとダダンの消息は掴めていない。ルフィの包帯は取れたが、まだ傷があるから絆創膏を貼っている。今日はドグラがゴミ山の様子を見に行っているが、マリィはまた胸騒ぎを起こしていた。
(……怖い、怖い……)
ルフィが「エースは死んでねェよ!!」と騒ぎ、ドグラが宥めているが、厭な感じにマリィは震えていると、悔しそうにしてルフィがマリィに抱きついた。
「ねーちゃん……」
「だいじょうぶ……だいじょうぶだよ、ルフィ」
「……ゔん…」
不安を取り除くように強く抱きしめたのはどちらだったのだろうか。
マリィはそわそわしながらも、お世話になっている為、小さな身体で食事を作ることにした。とはいっても簡単なスープとかで他の人たちにも手伝って貰った。ルフィはただただマリィの傍から離れずにいたが、それを誰かが何か言うわけではない。
「おい!!みんな!!二人が帰ってきたぞ!!」
夕方近くに、エースがダダンを背負って帰ったきた。ダダンは山賊のみんなに支えられ、布団に横になった。マリィが水を運ぶと、ルフィは焼けた服を着替えているエースに抱きついていた。
「エ〜〜〜ズゥ〜〜〜〜〜!!」
「ルフィ、お前…おれが死んだと思ったのか?」
「だっで……!!」
「何泣いてんだよ!!人を勝手に殺すなバカ!!」
泣きながら心配していたルフィを殴るエースに、マリィは前に出た。エースはギッとこちらを睨んでいた。
「お前も、おれが死んだと思ったのか?」
「し、心配したんだよ!!ぜんぜん、知らないとこでいろんなこと聞かされて、どんだけ怖かったと思ってるのよ、ばか!!」
「〜〜〜ハァ?!」
「だから、わたしもルフィも、みんな心配してたの……無事でよかったァァァ!!」
いきなり抱きついてきたマリィにエースは驚いたのは仕方ない。心配した、そんな事を言われるなんて思ってもなかったからだ。ルフィも泣きながら抱きついてきて、クソ!とエースは頭を掻いた。
ぐすぐすと泣く二人は誰かが外に連れ出してくれた。マリィも落ち着いてきたら、なんとなく気まずくて、顔を洗う事にした。中に入れば、ダダンやエースが事のあらましを話している。
『エース…おめェ、あの時なぜ逃げなかった……』
『…………時々…カッと血が上るんだ……逃げたら何か…大きな物を失いそうで恐くなる……あの時は……おれの後ろにルフィがいた』
「!!」
『わからねェけど……たぶん、そのせいだ』
それを聞いて、マリィは小屋から外に出た。ルフィはエースが戻ったことに安心したのか、切り株のところでカブトムシとクワガタを戦わせている。
「ねーちゃん?」
「……ん?」
「どーかしたのか?」
「……うぅん、なんでもないよ……」
傍によりルフィを抱きしめていた。ルフィもエースも──みんな、無事で、よかった……。ほろりと涙が溢れた。
「ん?ドグラ!!」
森から現れたのはエース達を探しに行っていたドグラだった。ルフィは嬉しそうに声を上げた。
「エース達を探しに行っていたんだろ!?二人共も帰って来たぞ!」
「!あ……そうなのか。それは本当によかった……!!」
冷や汗をかいているのに違和感を感じていると、彼の発した言葉に皆が絶句した。
エースが飛びついて殴り倒した。
「ウソつけ、てめェ!!!冗談でも許さねェぞ!!」
「冗談でもウソでもニーんだ!!おりにとっても唐突すぎて……この目を疑った……!!夢か幻を見たんじゃニーかと!!」
マリィは話を聞いて、昼間の胸騒ぎはこれだったのかと呆然とする。
(…………そんな、サボ……)
ぐっと拳を握る。
サボは貴族の両親に連れて帰られたとルフィから皆が聞いていたのだろう。帰りたくないというサボの気持ちは彼ら山賊も分かるらしい。幸せならば、家族の元に戻るのが幸せかもしれない、と思っていたのに、海へ出たのは、彼が幸せではなかったという事だったのだと、息が詰まった。
「……サボ…幸せじゃなかったんだ……!」
「何で奪い返しに行かなかったんだ、おれ達は」
しがみついて嘆いているルフィと、頭を抱え後悔するエースに、マリィは(なんで…)と誰も答えてくれない問いばかり頭に浮かぶ。
「サボを殺した奴はどこにいる!!おれがそいつをブッ殺してやる!!」
仇を取ってやる!と鉄パイプを持ち、飛び出そうとするエースをダダンが力尽くで止めるも、怒りに満ちたエースは暴れている。
「サボを殺したのはこの国だ!!世界だ!!お前なんかに何ができる!お前の親父は死んで時代を変えた!!それくらいの男になってから死ぬも生きるも好きにしやがれ!!」
手に負えないエースをダダンたちは縛り、木に括りつけた。
「サボ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
ルフィはマリィにしがみつきながら、今までにないくらいに大きな泣き声を上げている。マリィはヤケドを負っているダダンも心配だが、エースも心配だった。ただ、ダダンたちにとにかくルフィを、と言われた為に、抱きしめていた。一晩中ずっと。
ルフィの泣き声が小さくなり、ヒックヒックと泣きながら、ようやく朝方に眠りについた。
「マリィ、大丈夫かい?」
眠れていないだろ、と言われたがそれは全員だった。眠ったルフィを眺めてから、水を飲むと、マリィはエースに水を渡そうと外に出た。
「お頭!!今、手紙が……サボからです……!あいつ、海に出る前に…手紙を出してたんだ」
「……よこせ!もう町には行かねェよ!おれ達にだろ!?その手紙!!」
木に括られていたエースは手紙を奪い取ると、マリィの手にある水を飲んでから森の方へと歩いていった。追いかける理由はなくて、ただそれを見つめていた。
たった数日の間に、自分たちの世界が目まぐるしく変わり、マリィはその場にしゃがみ込むしかなかった。
ルフィが心配でフーシャ村に戻れずにいると、村長が迎えにきてくれた。まだここにいたい!と伝えると、ため息を吐きながら、ダダンたちに交渉してくれた。
ダダンたちもずっと泣いているルフィからマリィを取り上げる気はないらしく、面倒はマリィが見ていた。
ご飯の時も、寝る時すらも、めそめそと涙が止まらないルフィはべったりとマリィに付いていた。エースが睨んでいたが、眠る時はエースもルフィの近くに横になっていた。慰める言葉を持たないマリィは、何も言えずにただ、今日もルフィの傍にいた。
「……マリィ……………ルフィ、どこ行った」
「たぶん、海岸の方かも……」
「…………そうか…」
家事をしていると話しかけられ、ルフィの居場所を聞かれた。答えるとエースは顔を見ずにくるりと反転していくのを見ると相変わらず何も言えない。
洗濯物を干していると、どしんっ!と後ろから突撃された。ルフィが抱きついているのを見て、マリィは身体を捩る。
「ルフィ」
「ねーちゃん、おれ、強い海賊になるよ」
「……うん…」
「もっともっともっともっともっと、強くなるからな!!」
「うん、ルフィならやれるよ」
目の前にある、決意した目にはまだ少し潤んでいる。マリィは額を合わせると「応援してるよ」と告げた。横を見ればエースはぶすっとした顔で、こちらを見ていた。
「……………なんだよ、」
「ううん、なんでもないよ。あ!」
「あ?」
「はい、二人共。干すの手伝って!」
洗った服を見せると、二人ともげぇ!という顔をして後退りをした。
「おれ達、狩りに行ってくる!」
「行ってくる!」
逃げ足だけは早いみたいで、マリィはポカンとした後に、ふふ、と笑った後に口を覆った。ぐすっと鼻水を啜る。その涙がなんで流れたのかはマリィは分からなかった。
次の日にはフーシャ村に戻ることになったマリィにルフィは粘った。
「ねーちゃんもここにいたっていいだろ!!」
「バカかい!!ガープのヤツがどんだけこの娘を可愛がってるか分かってるだろ!!」
「ここに住むなんて知られたらどんな事になるか!」
ダダンと村長がぎゃいぎゃいとルフィに対して説教していた。エースはマリィがここにいることに関しては何も思わない。ただ、山賊と暮らすというのが、自分たちとは違い、似合わないと思える。
コルボ山は森に囲まれているし、めったに人は来ない。ゴミ山の方からも来ないが、マリィは狙われてる可能性があるのをエースは知っていた。ダダンや村長も聞かされているから、安全な場所に置いておきたいのだろう。
それに関してはエースは少しだけマリィを気の毒だと思えた。安心安全な場所へ置くというのは彼女はきっとこれから先もフーシャ村に置かれるという事だ。自由なようで、自由を失くされていく彼女が、どこかサボのように思えた。
『何十年先まで決められた人生を送るよりいい』
兄弟の言葉を思い出す。
エースはルフィの横で苦笑いしているマリィの傍に行くと、ルフィは味方になると思ったのか「エースも言ってくれよ!」と声をあげる。
「なんだい、エースまで」
「マリィは女の子なんじゃぞ!山賊風情のところに置いておけるか!」
「ルフィ!」
「?なんだ、エース?」
「エース?」
どうしたの?と見てくるマリィを横目に、エースはこのままだとダメなのは理解している。一緒にいてもいいと思うくらいにはマリィを認めてはいるのを自身は分かっていたし、サボがやさしくしていたのもある。
「今のまんまじゃあ、ダメだ」
「エース?」
「ちゃんと守れるようになったら一緒にいればいいさ」
認めたくはないが、彼女を守るには自分たちはまだ子供なのは分かっている。それならいいだろ、とダダンたちを見れば、二人は顔を見合わせた。ため息を吐いた後「「良いわけないだろ!!」」と怒鳴られたのだった。
ぶぅぶぅ文句を言うルフィはダダンに頬に引っ張られながら、村長にも何か言われている。エースも小言を言われてるが、指で耳に栓をして聞こえないフリをした。肩をトンと突かれて、振り向けばマリィがコソッと内緒話をするような仕草をしていたから、耳を寄せた。
「……エースにそんな風に言われると思ってなかった……ありがとう」
肩を竦めるように嬉しそうに笑う彼女に、エースは「……ルフィの為だ、バーカ」と照れ隠しに口を尖らせる。
「ルフィは大事な弟だけど、エースたちがルフィのお兄ちゃんになってくれて、本当に良かった。ルフィをよろしくね」
「!…………おれらはルフィの兄貴だからな、当たり前だ」
ちゃんと、サボも入れてくれるマリィにエースは口角をあげて答えた。
なんとか、ルフィを宥めて、今夜は一緒にお風呂に入ろう、一緒に寝ようといえばルフィはぐぬぬ…となりながら頷いた。
狩りに行く際は一緒ではなかったが、それ以外はマリィにべったりなルフィに呆れたエースだったが、「お風呂、エースも一緒にどう?」と聞かれ、姉弟に「アホかっ!!」と言ったのは間違いではないと思う。それでも一緒に寝ようよと言われるともうため息をしか出ない。
最近は同じ部屋で寝ていたのもあって、抵抗するだけバカみたいだ、と思ったエースはルフィの隣に横になる。
「今日はねーちゃんが真ん中だ!」
「ハァ?」
「エースもねーちゃんいなくなったら寂しくなるだろ!!」
ルフィはエースの横からマリィを挟んで移動すると、にしし!と嬉しげに笑った。マリィもしょうがないなぁと笑いながら、ルフィとエースの間に横になる。
「おやすみ、ルフィ」
「おやすみ、ねーちゃん」
額にキスされているのを見ていると、マリィがエースの方を向いた。どくん、と胸が鳴った気がした。マリィが手を伸ばしてきたのを、思わず目を瞑る。さわさわと頭を撫でられた。
「おやすみ、エース」
「…………早く寝ろっ!」
ルフィがマリィにぴとっとくっついてた寝るのはもう見慣れてしまった。笑い合う姉弟に背を向けながらも、エースは頬が熱くなるのが分かった。今まで、誰からも頭を撫でられたことなんてなかった……だから恥ずかしいのを知られたくなくて、口角が上がるのを抑えるように口元を抑えた。
やがて、二人の寝息が聞こえてきた頃、エースは振り返る。マリィはルフィと寄せ合うように眠っているから、こちらを向いていない。手を伸ばして、触れた髪は自分やルフィのとは違い、サラサラしていた。それを指に絡ませているのが心地良いと思えた。なんとなく、なんとなく、近寄って、二人の寝息を聞きながらエースはもう一度眠りについたのだった。
翌朝、迎えに来た村長に連れられて、マリィはフーシャ村に戻っていった。ルフィはぎりぎりまでマリィを離さなかったが、「週に一回は泊まりに来るから!」と言ったので、「ぜったいだからな!!」と約束をしていた。
ダダンたちは驚いていたが、マリィが可愛らしく?「家事やりますよ?」と笑いながら言うもんだから、「〜〜〜〜分かったよ!!」とダダンが折れた。
舌を出しながらピースサインをするマリィにエースは笑うしかなかった。
やがて、ルフィとエースは『どくりつ国家』を作り、一人で生きる力をつける。と互いに『国』を作っていた。
久しぶりに会いに行った際、二人はいなかったが、雨が降り出した時にエースたちが戻ってきた。ただし、ルフィが怪我をして。
「ルフィ!」
マグラに治療してもらい、眠るルフィを見つめていたが、それよりも心配になったのは、あのエースが落ち込んでいた事だった。
「……エース…?」
「………すまねェ、ルフィ………弟に怪我、させた……」
震えるエースに、マリィは前に座り込んだ。怯えているエースの手を握れば、少し強い力で握り返される。不安なんだ、と思った。サボを失い、ルフィも怪我をした。
マリィはぎゅっとエースを抱きしめれば、戸惑うように、遅れて背中に手が回った。
「……だいじょうぶだよ、ルフィは強いから」
「………弱ェよ…」
「わたしの弟はエースたちの弟なんだよ、強いに決まってる………エース…」
「……………なんだよ…」
「ルフィを大事に思ってくれて、ありがとう!」
「……………おれ達の弟なんだから、当たり前だろ…」
「……………じゃあ、やさしくしてあげてね」
「…………………………おぅ…」
ふふ、と笑うと恥ずかしくなったのか、「笑うな、離せっ!」と怒鳴るから、ルフィが目を覚ましてしまった。
慌てたエースがルフィに近づき「だいじょうぶか?!」と聞けば、ルフィは「エース、手伝ってくれよぉ!おれはまだ七歳なんだぞ!」と言うもんだから、エースはきょとんとした後に「……しゃーねーなァ」とちょっとホッとしたように答えた。
にしし!と笑うルフィはエースの横にマリィを見つけて、「ねーちゃん!」と起き上がろうとしたが、怪我の痛みで「ゔ、いでェ…」と喚いた。
マリィはエースをルフィの横に移動させると、倒した。「オィ!」と怒鳴るエースを無視して、マリィは反対側に移動した。
「ルフィ、エースとお姉ちゃんが今日は添い寝してあげる!」
「ねーちゃん……エース……だいすきだぁ〜」
喜ぶルフィに負けたのか、エースは起き上がろうとした身体をパタンと寝そべった。外はまだ雨が降っている。雨音が子守唄になったのか、三人は手を繋いで眠ってしまったのだった。