12.5

ONEPIECE

【ドラゴンの想い】


 むかし、まだルフィが生まれる前にマリィは人攫いに拐われた。父がちょうど村にいた事ですぐにマリィを救い出し、祖父として又は海軍中将として人攫い集団を壊滅させた。その実、奴らは政府が雇った奴らと判明したとドラゴンは父から連絡を受けた。ぐしゃり、と書類を握りしめた記憶がある。
 大切で弱味になる大事な娘が人知れずに拐われたという事実にゾッとした。父がいなければ、どうなっていただろうか──ドラゴンはフーシャ村に帰る事を止める事にした。妻となる、マリィの母はもう既に二人目を身籠っていた。その子に会うのは諦めた、これ以上大切なものを失う訳にはいかなかった。だが、マリィの存在は政府に知られてる以上どうしたものかと悩んだ折、妻が男の子を出産したと連絡が入る。そして、妻が殺された。傍には既に息絶えた小さな女の子がいた、という事実にドラゴンは荒れた。
 しかし、後日父より連絡が入った。『マリィちゃんもルフィも無事じゃわい』意味が分からなかった、妻は、妻は小さな女の子を抱いていたと報告されていた。
 ムリをして、彼女が安置された場所へと向かうと、そこには父であるガープがいた。棺に納まる妻の横にある、小さな棺を見るとどことなく娘に似ていた。娘ではない、嫌な予感に背中に汗が流れる。父が口を開くも、慧眼なるドラゴンはその嫌な予感は事実だと理解した。
 見知らぬ娘はどこからか見つけた遺体を、妻が娘に見立てたのだという。そして自分を犠牲にした。なんという事だ、とドラゴンは膝を付く。自分のしている事は理解し、自分が犠牲になる事など分かっていた、無論家族が犠牲になる可能性も理解していた、していたが、まさか妻がこんな方法で、自分の弱点を無くすなんて思わずにはいられない。否、もしくは理解していたのかもしれない、彼女は強い。己がどんな弱点になるかを理解しながらも、自分の子を産むという選択をした、させてしまった。
 妻と、見知らぬ娘だったが、丁寧に埋葬した。父に殴られても文句は言えないが、殴られはしなかった。きっと殴られた方が良かった、殴られないのがツラい。しかし、「殴らん方がキツいはずじゃバカもん」と話す父に頭を下げた。
 父でさえ我慢しなくてはならない、この世界を変えたくているが、自友軍から革命軍になっても、体制を変えることはまだまだだ。父にマリィとルフィを頼み、自分のことはいないものとして欲しいと伝えるが、拒否された。いや、何故だ、孫が可愛くないのか?と訊ねれば、可愛いに決まっとる!!と言い切った。
 父は頭を掻くと、大っぴらには言えんが自分のしてる事に異論はない、らしい。中将のままで居続けるのは『天竜人』に遣われるのが嫌だからという父だ。
「お前の事は聞かれたら話す、聞かれんかったら話さん」
 うっかり話してはいけないことを話す父がそんなことが出来るのかと思うも、それでいい。としか言えずにいる。定期的に連絡を寄越せば、孫の話を聞かせてやるわい、と言われてから数年。まさか、娘と会話出来るとは思わなかった。


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