17
無理を承知でワノ国へ連れてきて貰ったのには理由があった。エースの意思といえば言葉が過ぎるかもしれないが、ワノ国がどうなったのか知りたかった。
本来なら船で来るところをマリィと娘のエマはマルコの背中に乗ってくるというなんとも暴挙とも取れそうな移動手腕を取った。
既に、スフィンクスに着ていたネコマムシたちは先に出向しており、追いかけるにもこれが最短最速であったのだ。マルコに背中に乗れと言われた瞬間、マリィは固まった。「お、重いですよ?!」と不安になるマリィたちをマルコは乗せてみたが、重いなんてことはなく、難なくワノ国へ向かう事が出来た。流石に所々でエマの為に休憩を取ったりはしたが。
さて、やって来たのは編笠村であったが、村人はおらず、マリィは辺りを見渡した。どうやら荒らされていたようだ。
遠く向こうにある島は鬼ヶ島だが、視界には入らないものの、人の意識が集中しているのが分かる。
「ここで大丈夫かよぃ?」
「はい、前に来たところです」
「なにもないとは思うが、気をつけるんだよぃ」
「はい。マルコさんもお気をつけて」
「あぁ。麦わらになにか伝言はあるか?」
「ルフィなら大丈夫です、きっと明日にはワノ国は変わってます」
色々な感情がワノ国に渦巻いているのを感じている。あの向こうにある鬼ヶ島から。懐かしい気配をも感じるが、今は無事を祈ろう。
「じゃあ、おれは行くよぃ」
「まぁるぅ〜がんあってー」
「おぅ!」
エマからの声援に手をあげて、蒼い炎を纏った不死鳥は鬼ヶ島へと向かっていった。
「誰かいるとよいのだけれど」
決戦日はワノ国をあげての火祭りの日故に、編笠村にはほぼ人はいなかったが、数人は残っていた。始めはマリィに警戒していたが、「お玉ちゃん」と名前を出すと、天狗のお面を付けた人物は「ちょっとな」と言葉を濁した。
「以前、エースとここに来たことがあったのですが」
「エースだと?」
「え、えぇ……あの…?」
天狗の面を付けた男はジロジロと見てくるので、エマを守るようにしていると、両手をあげながら「すまない」と謝罪してきた。
「お姉さん、誰?わたしはトコっていうの!頭に“お”をつけてみて!」
天狗さんの後ろから、ニコニコと笑顔の女の子が顔を見せてきた。一見笑ってはいるが、どこか違和感を覚えてしまったのは何故か。
「私はマリィと言います。こちらは娘のエマよ。おトコちゃん?」
「男じゃないよ!!?アハハハ!おトコだけど!」
「ふふ、でもトコちゃんというのはあなたのご両親が付けてくれた大切な名前よ。おトコちゃんって可愛らしいわ」
「!!……そっかぁ、あたいの名前、大事なんだぁ……。エマちゃんも可愛らしい名前なんだね!」
触ってもいい?と聞いてくるトコちゃんに「大丈夫ですよ」と伝えると、わぁ!とまた喜びながらエマの手を取っている。
「天狗様、この方たちも一緒に行きましょうよ」
「なに?」
「火祭り、年に一度のお祭りなんだよ〜アハハハハハハ」
楽しげに笑いながら、天狗様の手を引き、私の手も引かれた。
「でも私、ここで待つことにします」
「お玉をか?」
「お玉ちゃんのこともありますが、会いたい人がいますから」
「えー、せっかくの火祭りなのにー」
「ごめんね、ありがとうございます」
「そっかー!アハハハハハハ」
おトコちゃんには申し訳ないが、あまりここを動かない方が良いだろうと思っている。マルコさんが分からなくなるのは申し訳ない。
天狗の面を被った御仁は沖のある、鬼ヶ島の方角へと目にやる。
「娘さん、お玉が戻ってくるやもせん。待っていてくれるか」
「お玉ちゃん、鬼ヶ島へ…?」
「………………」
肯定も否定もない。お玉は鬼ヶ島にいるというのは分かった。
「もし、お玉ちゃんに会いましたら、マリィが会いに来たとお伝え願います」
「な、」
笑顔を向けてくる目の前の女に天狗山飛徹は得体のしれない何かを感じた。先を見起こしている様子に、頷いた。
飛徹とおトコがその場からの去ると、マリィは沖の向こうにある鬼ヶ島の様子が明らかにおかしいので見聞色で読んでいた。ワノ国の人々に、ルフィの麦わらの一味、他にも海賊たちがいる。海賊以外にも……白い服を来た奴らが見えたが、気づかれてしまう前に遮断した。
見聞色とはいえ、正確ではないがルフィの姿が一瞬見えた事にマリィは胸を撫で下ろした。
「…………ルフィ、頑張れ」
私たちの弟なんだから、きっとやれる。ルフィならカイドウを倒せるとマリィは信じていた。
「エース、…………きっとルフィならやってくれるよね」
呟いたそれに「あい!」と元気よく返事をしたのはエマである。
異変を感じた時には、ルフィの気配が消えた時だった。ここからはだいぶ遠いが、沖にあるはずの鬼ヶ島が上空から感じたマリィは呆気に取られた。エマはマリィに抱っこされながら、円らな瞳で鬼ヶ島がある方角を見上げていたのだった。
(…………このままじゃ…)
起こりうる可能性にさすがにマリィも顔を青くした。見たくはない未来が一瞬見えた。鬼ヶ島が『花の都』へ落ちる。誰の思念なのかそれを強く願う声に頭が痛くなる。
マリィはエマの耳を手で覆うと、優しい笑みを浮かべた。
「エマはまだ聞かなくていいわ────ルフィ!目覚めなさい!!」
強く念を込めたそれは届くかは分からない。それでもマリィはルフィに、ルフィたちに友だちの国を、ワノ国を救って欲しいと願う。エースの出来なかったことを、ルフィならやれると信じている。
──だから、カイドウが願う未来など打ち消すようにルフィへ声を掛ける。
(ルフィ、あなたならもうやりたいことやれるわ)
──────ねーちゃん!!
(…………ルフィ、あなたは負けないわよ)
──────あぁ、もう負けねェ!
「マンマ?るー?」
ペチペチと頬を叩くエマにマリィは笑顔を向けた。
「えぇ、あなたのおじさんは強いのよ」
「あー!」
ワノ国の中心へと向かっている鬼ヶ島はもうすぐ、ルフィの手によって落とされるだろう、勝者はルフィたち、ワノ国だ。カイドウの支配は終わる。
空を見上げれば、満月が見える。美しい月夜だ、月の光で不浄なものが消え去るだろうと思うとマリィは笑みを浮かべた。
「明日には、お玉ちゃんとヤマトくんに会えたらいいのだけど……」
「う?」
「パパとママのお友だちに会えるといいわね」
「あぃ!」
ふあぁ〜と欠伸をし始めたエマを見て、もう終わったのだと思った。誰に似たのかこの子には色々と備わっているようだ。
だがまだ早い。知られる訳にはいかないだろう、マリィはエマを抱きしめる。
「あなたはまだゆっくりでいいのよ」
木の根元に横たわっていると、声が聞こえた。どこか懐かしいその声は弟だったと思うも、何かが違う。
目を覚ますも、辺りは蒼い空間に見えたのは月明かりのせいだろうか。もうすぐ夜も空けるだろう。
──────ねーちゃん
──────ルフィ?
──────ねーちゃんの願い事ってなんだ?
──────え?
──────ねーちゃんが望む事ってなんだ?
──────おれはねーちゃんが大好きだから、願い事を叶えたいんだ
──────ルフィ…お姉ちゃんの願いはね、
─────────────────
無意識に願ったそれに、彼もまたにししっ!と笑うと叶えてやると元気に答えるものだから、マリィはふふ、と笑みを零した。
「う〜〜マンマ?」
腕の中で温かいぬくもりが身動ぎ、マリィは自分の意識が少し飛んでいたことに気づいた。見ればエマがマリィの膝に足を乗せ、ペチペチは叩いてきたのだ。
「おはよう、エマ。ママ寝ちゃってたかな?」
「ぶぅーう!」
頬を膨らませてペチペチしてくるから、なにか娘にとって気に入らなかったのだろうと思い、ごめんごめんと謝った。
次の瞬間、二人の目の前に蒼い羽根を広げだマルコが降り立った。
「ふたりとも無事かよぃ」
「まぁるぅ〜」
「マルコさん!終わったんですね」
一見、怪我は見えないが疲れていりだろうに、迎えにきてくれたマルコに感謝しかない。
「あぁ、カイドウは麦わらがやっつけたよぃ。ビッグマムは他のルーキーがやったようだが」
どうやら麦わらと同盟関係の海賊たちが、ビッグマムを落としたらしく、まさか四皇二人が一度に落とされるなんて思ってもいない事実にマリィは驚いた。
「び、ビッグマムもいたんですか?」
「あぁ、カイドウと海賊同盟を結んだみたいだが……いやはや、さすがに大看板二人を足止めするのは疲れたよぃ」
「まぁるぅ〜、よしよし」
「ははっ、エマのよしよしは効くよぃ」
マリィの膝の上にいたエマは今やマルコの足にへばりつき、ペチペチとマルコを叩いていた。そらっと抱き上げれば、きゃあ!とごきげんな声を出している。それがなんだか、マルコにはホッとさせられる。
しかし、ここにいつまでもいる訳では無い。マルコはエマを抱っこしたままマリィを見た。その視線に気づいたマリィは「……イゾウさんが、」と目を伏せた。
「別れをしてやってくれ」
「もちろんです、エマこちらにおいで」
「あぃ!」
抱っこされていたエマを受け取り、マルコが鳥型になると、申し訳ないが背中に乗せてもらった。行く先は『花の都』。
そこには麦わらの一味や、マリィが探していたお玉とヤマトもいるのだった。
新たな将軍を迎えた城下では、火祭りの名残りと共に、カイドウ、オロチから開放されたこと、新しい将軍の誕生にまだ熱気があった。人々は寝るのが惜しいのか、朝方になっても町のどこからも灯りが灯されたままである。
マルコとともに、城へ入ったマリィはまずは麦わらの元へと言われたが、首を振り、イゾウの元へと案内してもらった。
畳に敷かれた布団の上に眠る、イゾウの姿にマリィは近づいた。近くにいるのは妹さんなのだろうか、綺麗な顔立ちが似ている。頭を下げると深々と返された。
エマを座らせて、手を合わせる。
「マンマ、いぞさん、ねんね?」
「……えぇ、お疲れになったのよ。ゆっくりお休みくださいって祷りなさい」
「パっパとおんなじ?」
「!……そうね、パパと同じところへ逝ったのよ」
「なむなむ」
ぺちんと手を合わせるエマに傍にいた方々が頭を下げる。イゾウさんを大切に思う方々なのだろう、マリィも頭を下げた。
彼らはワノ国の侍だと言い、ルフィによって助けられたと礼を言ってきたか、私に言う事ではないので、本人に言って欲しいと言った。今、ルフィは戦闘の疲れで眠っているという。
少し休んで下さい、ご案内します!と菊さんと言う方が、申し出てくれたが、イゾウさんの傍にいて下さいと遠慮させて頂いた。マルコさんもまだ傍にいたいだろうと、思い、呼ばれた方に違う部屋に案内された。
くぁ…とまだ眠いであろうエマを抱き、少しだけ横になろうと微睡んだ。
はっ!と目を覚ましたのはもう既に太陽が昇ってからだった。いやいや、何もしていないのに何寝てるのよ…と思いながら、廊下へと出る。
「マリィちゃん!?」
「マリィ!?」
名前を呼ばれたと同時に、どーーん!と抱きついてくる二人にマリィは笑うしかなかった。どうやら二人は元気な様子だ。
「お玉ちゃん、ヤマトくん」
ぎゅうぎゅうと抱きついてくる二人だったが、「あっぷぅ!」とエマが苦しそうな声をあげたところで、マリィの腕に小さな女の子がいることに気づいた。
口をあんぐり開けた二人は、マリィとエマの顔を交互に見た後で、顔を見合わせていた。
「お、お玉ちゃん……あの子って……」
「や、ヤマトちゃん、あれは」
「「エースの?!」」
「せいかーい」
「きゃう!」
マリィの軽い返事とエマが両手をあげて主張する様子に、二人は「「えええぇぇ?!」」と大声をあげたのだった。
そんな二人に、なんだなんだと部屋から出てきたのは、新聞や手配書で見たことがある人々だ。
「ちょっと、お玉!ヤマト!うるさ……誰?」
「綺麗なレディ!!」
「え?どっから来たんだ?」
ヤマトとお玉が、だっ、だって…とマリィたちを指差している。皆さん戦いで疲れでいるだろうに、騒がしくしてしまい申し訳ない。
「騒がしくしてしまってごめんなさい。初めまして、麦わらの一味の皆さん」
「「あ、はい、初めまして」」
あら、意外と礼儀正しい?と思いながら、エマを抱え直して、礼をした。
「ルフィの姉のモンキー・D・マリィです。いつも弟がお世話になっております」
「あぁ、いや………え?ルフィの…」
「……あ、ね…?」
「「「はぁぁぁぁぁ?!」」」
「こちらは娘のエマです」
「エマちゃ!」
指を一本立てて挨拶するエマに、良い子ね〜と頭を撫でてあげると、ヤマトとお玉が「エマちゃんかぁ〜」とついでとばかりに頭を撫でた。
えええぇぇぇ?!と混乱する麦わらの一味だったが、ニコ・ロビンが「とりあえずお部屋に入ったら」というので入らせて貰った。
「ルフィはまだ?」
「カイドウとの戦いで体力消耗したから」
「そうよね、お疲れ様、ルフィ」
ぐぁ〜ぐぁ〜と眠るルフィを眺めて、頭を撫でてやると、ムリしていないかと心配になる。
「マンマ…るぅ?」
「そうよ、エマのルフィおじさんよ」
「おじさん」
「十九でおじさん、か……」
周りがなにか言ってるが、事実なので修正しようもない。エマは眠るルフィをじっと見つめている。
「マンマ、ねんねのちゅー」
「ん?」
「エマもねんね!」
あぁ、ルフィの隣で寝たいのか、と思いながら皆さんは休んだのだろうかと見ているが、どうやら休んだのだろう。部屋にはあちこちに大なり小なり布団が並べてある。きちんと畳んであるのもある。
エマはルフィの横にどん!と横たわると、マリィにキスを強請った。
「はいはい、まだ寝ていなさい」
「るぅにも!」
頬にいつものように唇を落とすと、エマはルフィを指差して、キスをしろという。
まるで、小さな時を知っているかのような娘にマリィは「はいはい」と笑いながら、ごく自然にルフィの額に唇を落とした。
誰かが「羨ましい!!」と騒いでいたが、コルボ山から海に出るまで、おやすみのキスは二人にとっては当たり前だった。エースはぶすくされていたが。
にっ!と笑うルフィを撫でてから、エマの頭も撫でる。するとルフィがエマを抱えるように腕を身体に回していた。どこか既視感があるが、大丈夫だろうとその場を離れた。
ちゃぶ台というテーブルに案内され、改めて自己紹介をした。
「改めまして、モンキー・D・マリィです」
「わ、わたしは航海士のナミよ」
「おれはウソップ、狙撃手だ」
「コックのサンジと申します。お見知りおきを」
「船医のトニートニー・チョッパーだ!」
「考古学者のニコ・ロビンよ」
「船大工のフランキーだ!」
「ヨホホホホ、音楽家のホネだけブルックと申します……ところでパ「やめんか!!」」
「操舵手のジンベエだ……そうか、エースさんのお相手はルフィのお姉さんじゃったのか」
我が弟ながら個性的な船員ばかりだと思っていれば、最後にジンベエの言葉にあら?となった。
「私のこと、ご存知なんですか?」
ジンベエさんの事はエースから聞かされてはいたが、エースは私の事は元スペード海賊団にしか話していないと聞いていたのだが……だからこそマルコたちも最初は驚いたのだ。
「あぁ……。エースさんは白ひげ海賊団の船員には言えなかったようじゃが、わしはルフィの話とアンタの話は散々聞かされていたんじゃ」
「それは……大変だったのでは?」
ヤマトもたった一晩といえど、エースからルフィの話を何回も聞かされたくちで、あれを散々…と思ったようだ。
ジンベエは笑みを浮かべた。大変だったが、良い時間でもあった。ルフィの手配書が出た時は
「あっはっはっ!なに、今思えば懐かしい思い出じゃ!アンタの事はそれでも聞いている、自分に付いてきてくれた自分には勿体ない女じゃと」
「…………そう、なんですね。それを聞けて嬉しいです、ありがとうございます」
ふふ、と笑う姿にジンベエも頬をかいた。まぁ、惚気と共に弟に甘い!とも言っていたが、弟の話をしているエースも大概だと思っていたが、先ほどのやり取りを見れば、なんとなく、なんとなくだが、エースも大変だったのだな、と思ってしまった。しかし、とジンベエはルフィと眠る幼子を見る。どう見てもあれは ……。
「マリィちゃん、マリィちゃん」
お玉に腕を引かれたマリィは、なあに?と問いかけると、お玉はエマを見て「おらもエマちゃんと寝てもいいでやんすか?」と聞いている。
「いいわよ」
「やったでやんす!」
ウキウキとルフィが寝ている布団へと行き、エマの隣に横たわった。「あったかいでやんす」と目を瞑るお玉を優しく見つめるそれは彼女が母親であるのを教えてくれるようだ。
ナミやロビンは小さい子供が寄り添い眠る姿が可愛くて癒やされている。
「なぁ、マリィ?いつ子供産んだんだい?」
「え?あぁ、頂上戦争から半年経つかどうかだったかな…」
「……その、エースは……」
知っているのかい?と目で訴えてくるヤマトにマリィは首を横に振った。
「……そう、なんだ……」
二人の会話にウソップは恐る恐ると口を挟んだ。
「あ、あの……もしかして、あの子、エースの子供、なのか…?」
「えぇ、そうですけど」
「「「「「「「「えぇっ?!」」」」」」」」
「じゃ、じゃあ、お前さん、頂上戦争の時はもう身籠ってたんか?!それなのに戦場に?!」
「ジンベエさん、あそこに……あ、ルフィを抱えてくれていた方?!」
「あ、あぁ……」
「あの時はルフィを助けてくれて…」
マリィは礼を述べるが、麦わらの一味はいやいやいやと手と首を横に振る。ジンベエもそうじゃないとしか言えずにいる。
話題にはならないにしても、妊婦があの戦場にいたという事実に医師であるチョッパーはゾッとする。ルフィ、ルフィは知っていたのだろうか。
「というか、皆さん、エースと会った事があるの?」
「あ、あぁ…アラバスタで…」
「ルフィと違って常識人で驚いたわ」
「兄弟思いのイイ兄貴だった」
ここでエースを知る人は首を傾げる。
二人の様子にロビンが「どうやら認識が違うみたいよ」と笑っている。
「え?違うの?」
「ま、まぁ、ルフィのことは大事にしていたのは分かっとったな、兄弟思いだとは思うわい」
「常に食い逃げをするのが常識人かは私には分からないけど……」
「……あぁ、そこは兄弟なのね……」
「?!ちょ、まさかルフィも食い逃げを?!」
そんな所似なくて良いのに、と嘆くマリィにナミたちは(((お姉さんも大変だったんだろうな…)))と憐れんだのだった。
それからは色々な話を聞かせて貰った。なんせマリィはルフィと会うのは頂上戦争以来、あの時も一瞬だけといっていいもので、エースとマリィが船出して以来だ。
五年と少し、きっと離れ離れになったルフィには寂しい思いをさせただろう。だからこそ、ルフィが信頼出来る仲間が出来ていて、マリィは心底安心した。その様子にジンベエはエースの言葉を思い出し、彼女もまた姉なのだと思った。
どんな風に出会ったか、どんな冒険をしたのか、聞いていて嬉しくなる。そんな彼女を見て、麦わらの一味もなんだか嬉しくなる。
「ルフィには手を焼くでしょう?」
「まぁ、大人しくはしてないから」
「昔からそうなの、無鉄砲で、やんちゃで、でも間違えない子だわ」
野生の勘なのか、はたまた見聞色だったのか、確かに肝心なところでルフィは目的を見失ったりはしない。バカなことはするけれど。
「マリィさん、は今までどこにいたの?」
「マリィでいいわ。ナミちゃん、と呼んでも?」
「私もナミでいいわよ」
女の子の知り合いはあまりいないので、素直に嬉しくなってしまう。
「ドラゴン、あなたのお父さんとサボが随分と行方を追っていたのよ」
革命軍から隠れていたのかと思いながら、ロビンは話しかけた。
「隠れていた訳じゃ……あぁ、でも隠されていたかもしれない。出産するまではシャンクス、赤髪のシャンクスの船にいたから……それからはシャンクスのナワバリの島へ降りて、あの子を産んだの。暫くはその島で暮らしていたわ」
「赤髪のシャンクス……」
「ルフィの麦わら帽子は赤髪のシャンクスのだって聞いてるけど」
ルフィの枕元にある麦わら帽子を見て、マリィは懐かしく思う。ナミからの質問には頷いた。
「昔、住んでた村にシャンクスたちが拠点としてて、その時に仲良くなったのよ」
シャンクスというよりは娘のウタと仲良く遊んでいたが、負けず嫌い同士のルフィとウタはいつも勝負をしていたのを思い出す。
「そういえば、ヤマトはどうしてマリィの事を知っているの?」
「あぁ、昔エースが父の首を獲りに来た時に会ったんだよ。な、マリィ」
「え?エースがカイドウの首を…」
「獲りに来た?」
ナミやウソップはウソだろ?とマリィを見るが、マリィは笑いながら答えた。
「エースもなかなか無謀なことをするのよ。七武海の勧誘も蹴ったしねぇ」
「七武海の勧誘を蹴った?」
そうか、エースに関しては知らない事が多いのか。とマリィは納得する。
どうやらルフィはエースに会った時に、兄がいるというのをその時話したらしい。エースとの会話で、姉もいると思ったらしいがすっかり忘れていたとか。エースは散々、元スペード海賊団や白ひげ海賊団でルフィの自慢話をしていたというのに。
マリィはエースの事を簡単に話した。一緒に海に出たはいいが、すぐに遭難してしまい、バラバラになったこと。離れた間にメラメラの実を食べて、相棒や仲間を連れて迎えに来たこと、偉大なる航路に入ってからは女の子の海軍に追われたり、七武海の一人を倒した事、七武海に勧誘されるも拒否した事、シャボンディ諸島では中将とやり合ったり、魚人島で白ひげの海賊旗を燃やした事、シャンクスに挨拶した事、そしてワノ国へ来て、お玉やヤマトと出会った事、他にも色々と冒険はしてきた。
マリィが船に乗っていたのはそれほど長くはない。それでもエースたちとの思い出は沢山ある。
「え、エースって常識人じゃなかったの?!」
「バカいえ!常識人が七武海倒したり、勧誘されたりするかよ!!」
「しかもカイドウにケンカ売るとか……」
「ジンベエさんも戦ったんですよね?」
えええぇぇぇ!とエースの印象をどうやら変えてしまったようだ。ごめんね、エース。ルフィの仲間に破天荒に思われてしまった。
ウソだろ、ジンベエ!!と詰め寄られるジンベエさんにはなんだか申し訳ない。
「あ、あぁ…五日間戦ったのぅ……」
「五日……七武海相手に五日……」
「結局、白ひげのオヤジさんが現れて、すぐにやられておったがのう」
ルフィもルフィだが、さすが兄。その上をいく……とナミたちは恐怖に涙している。
「でもエースは本当にルフィの事が好きだよな!何回も聞かされたよ!」
「なんじゃ、お主もか」
「まぁ、ぼくの場合一晩中だったけど……マリィはその間眠っていたけどな」
ジンベエはヤマトに同情しつつ、麦わらの一味はエースのやらかし具合に、普通だと思ってたのに…常識人じゃないのかよ…と頭を回していた。
「エースはマリィには甘かったんだよ」
「そうでやんす!」
「お玉、起きたの?」
いつの間にか起きたのか、お玉が近くに来てマリィの隣に座った。 エースの話なら混ざりたいらしい。
「なになに、マリィに甘かったって?」
「エースはマリィちゃんには弱いって教えられたでやんすよ?」
「え?誰に?」
「えっと、ガイコツいっぱい持ってた人」
ブルックかお仲間でしょうか?と呟くも、ガイコツを身につけていたのはスカルだ。ロクな事を教えないな、彼は…とマリィは思った。
「えっと、スカルさんが言ってたでやんす!エースはマリィちゃんに甘いけど甘えるって!お風呂いっし「お玉ちゃん、黙って!!」むぐ!」
まさかここで一緒にお風呂に入っていた事がバラされようとは思わなかった。ルフィが寝ていて良かった。
能力者になったからか、なかなかお風呂に入ろうとしないエースをマリィは毎回入れていたのだ。もちろん、服を着たままで。でも今は何を言っても話は聞いてもらえないだろうと思い、諦めた。
元スペード海賊団の時は、エースがくっついてくるのが多くて、眠る時なども同じベッドで過ごしていた。別々に寝ていたのは最初くらいで、執務室が船長室から移動したくらいだ。
「エースはマリィを大事にしてるって本当思えるくらい、二人は仲良しだったよ」
「そうでやんす!」
ヤマトとお玉からによる致命傷な攻撃にマリィは顔を赤くしてしまった。
「わ、私の話はいいから」
そう言ったものの、面白い!とばかりにナミやロビン、ウソップたちがナニナニナニと聞いてくる。
「いや、ほら、ルフィの話を……」
「ルフィだってエースやマリィの話を知りたいわよ」
「えぇ、そうよ」
「いや、もう話すことなんて……」
航海の話は粗方したのだから、もうないだろう。
しかし、恋バナ(?)に移行した途端女性陣の目の色は変わる。助けを求めるようにジンベエやウソップを見るも合掌されてしまった。いや、助けなさいよ。
違う男性陣を見れば、彼らも何故かサムズアップしている、一人だけ畳に手をつけて涙しているが、どうした??と思った。
「ねぇ、マリィ?エースとはいつから付き合ってたの〜?」
肩をガシッと掴まれた。
振り返るとナミがニヤニヤしていて、マリィは顔を覆いたくなる。
「え、えぇ……」
もう玩具扱いだ、ため息も漏れてしまう。デュースにも言われていたが、イチャイチャしていたという。まぁ、確かにエースは甘い時はあったけど……ルフィの事でケンカしてたし(どちらがルフィを可愛がっていたか、どちらがルフィに好かれていたか等)、夜は、まぁ、一緒にも寝ていたのでそれはそれだ。
ナミたちの質問には答えられる範囲で答えていたが、それが当たり前だったマリィにとって答えた内容がバカップルだったのは知りようもなかった。
ロビンはエースよりもサボを知っている側だから、(……サボ…お気の毒に)と内心哀れんだ のは、二年間の修行でサボからルフィやエース、マリィの話を聞いていたからである。エースやマリィとは面識がないロビンは彼らの話を聞くうちに、サボがマリィに関しては恋していたのを読み取れていた。
こうして、マリィは計らずも弟の船員たちと楽しく会話出来たのだった。