18
カイドウ、ビッグマム、そしてオロチを討ってから数日、まだルフィは回復していないようで、同じ船員と眠ったままだ。
船医のチョッパーくんに手伝えることはない?と訊くと、ルフィの身体を拭いて欲しいと言われて「お安い御用よ」と快諾した。もう一人の方はこのお城のお姫様がしていた。とてもお綺麗でびっくりしたし、新たな将軍様に会えば「ルフィの姉君?!」と驚かれてしまった。
「ねぇ、ヤマトくんはお風呂、やっぱり入らないの?」
「もう!言ってるだろ、ルフィたちの目が覚めるまでは願掛けとしてご飯とお風呂を断つ!って」
「聞いたけど……じゃあ、エマにはあまり触らないでね」
「えぇぇ!!それはないよぉ!!」
ルフィの為だと言うのならば、ヤマトが決めた事であるし、願掛けならばと思うもやはり汚れたままでエマに触られるのは母としては心配だからだ。
ルフィの身体に触れていると目に入るのは胸にある大きな傷だ。チョッパーくんに聞けば、頂上戦争の時のらしい…。ジンベエさんからもエースが倒れた後も執拗に赤犬がルフィに襲いかかって来ていたと話を聞いた。赤犬から逃げる際に怪我を負わせてしまった、とジンベエさんから頭を下げられてしまったが、むしろルフィを助けたくれたことに感謝しかないので、謝らなくてもいいんですよ、と言えば、エースさんの言ってた通りじゃわいと頭を撫でられた。
エースが何を言っていたかは分からないが、ジンベエさんが良い事しか聞いたことがないわいというので、そうですか、としか言えなかった。デュースたちへ言っていたのと変わらないと思ったし。
ジンベエからは頂上戦争の後、暫くの間ルフィといた事を知り、レイリーさんがルフィの師匠として鍛えていたと聞いた時は、シャンクスはレイリーさんが何かする気だと言っていたのは修行の事だと合点がいった。その後、ルフィの手当をしてくれたのが、海賊同盟を結んだトラファルガー・ローと聞いて驚いた。元々知り合いか何かなのかとナミに聞けば、シャボンディ諸島で会ったくらいと教えられた。お礼を言いたいとも思うが面識はないので、滞在中にでも礼を出来たらとは思っている。
シャボンディ諸島には自分もいたと言えば、みんな驚いていたし、シャッキーさんの所に出入りしていたこと、レイリーさんとも知り合いだと互いに知り、ちょっとした行き違いで二年前に会えなかったことに残念に思えた。あの時はどうしてもエースの事で頭がいっぱいだったからだ。
マリィはルフィの傷跡に触れ、涙ぐむ。こんな大きな怪我をして……生きてて良かった。と心から思う。
きっと知らないところでルフィは沢山怪我もしてきたのだろうと思う。一味のみんなから色々と冒険の話などを聞いてきた。
司法の島で世界政府の旗を燃やし、シャボンディ諸島では天竜人に殴り、七武海とも戦ったともいう。空島では自称神ともやり合ったという。カイドウの前には一度ビッグマムともやり合っていたというから、マリィは目眩さえ起こし掛けた。まぁ、エースも似たように無謀な戦いをしていたが、やはりどこかエースに似たのだろうか。
ゴム人間だからかルフィはあまり筋肉はなかったけど、随分鍛えたのだろう、筋肉質になったなぁと思う。比べる相手がエースだったから、そう思うのかもしれない。
「マ、マリィ?パンツは脱がさなくてもいいぞ?」
「え?そうなの?」
「いやいやいや、ルフィが可哀相だ!」
「なんで?」
「いくらルフィだってねーちゃんに見られたくはねぇよ!!」
「えー、ルフィが十歳まで一緒にお風呂入ってたし」
「十歳と十九歳は違うだろっっ!!」
「あ〜〜、そうね」
別に恥ずかしいとは思わないが、そうか、普通なら駄目か。ついつい小さい頃のような気持ちになってしまうから危ない危ない。
(……そう考えると、いくら能力者になったとはいえ、エースとお風呂もマズかったのか……)
エースの口八丁に騙されていたことに、今更ながら頭が痛くなる。ルフィを例えに出されていたからなぁ、自分がルフィに甘かったのが裏目に出ていたのか。
(ルフィには知られないようにしなきゃね)
「マンマ!」
「あら、エマ」
ぱたぱたと駆けてきたのはエマで、お玉ちゃんやナミ、ロビンが面倒を見てくれて助かっている。
「エマちゃん、早いでやんす!」
「えへへぇ…」
「お玉ちゃん、エマと遊んでくれてありがとう」
「おらもたのしいでやんす!」
「意外と足が早いからびっくりしたわ」
「ナミもロビンさんもありがとうね」
「ふふ、なかなかのお転婆なのね」
女性陣に遊んで貰えたのが嬉しいのか、顔を真っ赤にして、汗もびっしゃりかいていたので、タオルで顔を拭ってやると「にゃあ」と何故か猫の鳴き声を出すから、思わず笑ってしまう。
「エマ、ママとお風呂に入ろうか?」
「はいる!」
「お玉ちゃんはどう?」
「またマリィちゃんとお風呂入りたいでやんす!」
エマもお玉も手を上げるのに対し、ヤマトは「当てつけかい!」と頬を膨らませている。
「違うわよ、後二日くらいだと思うから、ヤマトくんはムリしないでね」
「マリィ!ぼくとも今度お風呂入ってよ!」
「分かったわよ。ナミたちはどうする?」
「あたしたちはいいわ、ルフィ見てるから」
「そう?じゃあ、お風呂頂くわね」
ルフィの身体を拭いたタオルをタライに戻し、エマとお玉を連れて、いつ入っても良いと言われたお風呂へと向かった。
「はわぁぁ、マリィちゃん相変わらず綺麗でやんす」
「あら。でもきっとナミの方がスタイル抜群だと思うわよ」
「確かにおナミちゃんはようえんでやんした!」
脱衣所でタオルを巻いていると、お玉がこちらを見上げてくる。エマの服を脱がしながら、答えると「妖艶」という言葉に随分拘っているなぁと思う。
「お玉ちゃん、妖艶が好きなの?」
「前にエースが言ってたんでやんすよ!次来た時に妖艶なくのいちになったら仲間に入れてくれるって!」
「…………あ〜、言ってたわね…」
「だからおいら、妖艶なくのいちに早くなりたいでやんす!ルフィのアニキやおナミちゃんたちと一緒に行きたいでやんす!」
「お玉ちゃん……ごめんね、エースは約束守れなくなっちゃって」
「!ち、違うでやんす!エースはなにも悪くないんでやんす!ただ、ルフィのアニキはエースと同じ事言ってくれて、エースみたいな技を出してくれたんでやんす!」
「エースと同じ事?」
「“腹いっぱい食えるようにしてやる”って言ってくれたやんすよ……おら、うれしかったでやんす!!」
涙を見せないようにか、ぶくぶくと湯船に潜ったお玉を慌てて引き上げれば、ゴホゴホと咽ている。
お玉もいつの間にか悪魔の実を食べていたので、お風呂でも気をつければ力が出ない。エマを膝に乗せ、縁に掴まっているようにさせて、手拭いでお玉の顔を拭いてやる。
「もぅ、危ないでしょ?」
「うー!」
「ごめんでやんす!」
「ルフィが好きになったのね」
「はい、ルフィのアニキ、スゴイでやんす!!」
「ふふ、そうね」
興奮するお玉にマリィは頭を撫でた。「ルフィはカッコいいのよ」と笑っていえば、強くてびっくりしたでやんす!と言うものだから、ルフィも相変わらず誰からも愛される子だと思ってしまう。
早く目が覚めて、話したいな、と思うマリィだった。
滞在中、イゾウさんのお見送りをした。付き合いは短いが、エマを可愛がってくれたことがあり、エマと手を合わせる。そこにもジンベエが来たが、エースが白ひげの船に遊びによく来ていると言っていたから、顔馴染みなのだろう。
ジンベエがマルコと会話している時に、エマが走り寄って抱っこをせがむと、大層驚いていた。元スペード海賊団には魚人がいたし、エマは特にまだ理解してはいない。ナミュールはエマにも優しかったし。マルコより大きなジンベエが気になるのか、手を伸ばしてる。躊躇するジンベエにマルコが笑いながら何かを話している。
「マンマー!」
呼ばれてそちらを見つめると、ジンベエの頭に登っているエマを見てびっくりしてしまった。
「エマ!なにしてるの!」
「エマがジンベエに上りたいって言ってよぃ」
「マルコさん、止めて下さいよ」
「えぇんじゃ、えぇんじゃ」
ふんすふんすと肩車に落ち着いたようだが、エマの短い足ではジンベエの首には足らないので、ほぼ頭の上に乗っているのがなんだか可笑しくてならない。
「なかなかのお転婆娘だろぃ」
「元気があるのはいいことじゃろうて」
「思いきりの良さはエースに似たのか、麦わらに似たのか……」
「どちらにも似てますよ……血の繋がりって怖いですよね」
「「…………………」」
「どうかしましたか?」
「……………いや、なんでもないよぃ」
「はっはっはっ!エースさんにもルフィにも似てるとは将来どんな娘になるんじゃろうなぁ」
「手がかかるのは目に見えるな……そこはマリィに似て欲しいよぃ」
血の繋がり、マルコとジンベエはしみじみとエマがエースとルフィの姉であるマリィの子なのだと実感する。
マリィを通して、エースとルフィの血を継ぐ娘がエマなのだ。
「マンマ〜」
飽きたのか、やはり母親が良いのか、ジンベエの頭から手を伸ばすも身長差がありすぎて、落ちてしまわぬようにジンベエはエマを持ち上げる。あまりの軽さに幼子はちゃんと食べているのかと心配してしまった。
「あんなに軽くて大丈夫なのか?」
「なにがだよぃ?」
「ちゃんと飯は食うとるのか?!」
「エマもマリィもちゃんと食ってるよぃ……エースを基準にするんじゃねぇよぃ」
あんな大食いであって堪るか!とマルコが言えば、はっ!とした。ついつい、エースやルフィの食べる量を考えてしまっていたからだ。
それに対して、マルコは思わず笑ってしまった。オヤジが、エースが、そして、今度はイゾウまでが先に逝ってしまった。また自分は生き残ってしまったが、まだ笑えるのはあの母娘がいてくれるからだ。
慕ってくれるあの小さな手が、まだだと引き止めているように思えるのは愛おしいと思えるからだろう。父親代わりにはなれないが、気安いおじさん枠は思いの外心地が良いのだ。
「エースさんに、」
「ぅん?」
「エースさんにマリィさんの話を聞いた時は驚いたもんだったわい」
「ジンベエにはしていたのかよぃ?」
「白ひげ海賊団ではなかったから言いやすかったのかもしれんがのう」
「おれたちは、宴で一度だけ名前を聞いた事があったくらいだ……酔っ払っていたからサッチがからかってやろうとしたが、あまりにも泣きそうな顔をしていたからな」
誰もなにも言わずにいたくらいだ、とマルコが話すと、ジンベエは笑った。
「自分で決めたとはいえ、守ると決めた女を船から降ろしたのはエースさんにとってはクるもんがあったんじゃろうなぁ」
弟との約束を破っちまった……といつだか言っていたのを思い出す。姉弟仲が良すぎて、何度も嫉妬したこと、マリィを連れて行く際に弟と約束したこと、彼女からの愛情は嬉しくて堪らないのに自分が全部貰ってもいいのかと躊躇してしまうこと、それでも手離せなくていたこと、彼女の事を話す時のエースは年相応の男だったと思う。
「素直に言えば、オヤジだってマリィを受け入れただろうに」
マリィが敵にやられなければ、毒が効かなければ、たらればをあげればキリがないが、彼女も白ひげ海賊団にいたのかもしれない。
マルコは首に手を当て、傾げる。親子三人でいる姿を見てみたかったと思ってしまう。きっとオヤジは喜んだであろう、孫娘が出来たとすれば。
「そうじゃのぅ」
マリィとエマの後ろ姿を眺めながら、ジンベエもマルコの言葉に同意した。
「お腹すいた、すいてない、すいてない」
ブツブツと呟くヤマトはぐうぅぅとお腹を鳴らしながら、城の屋根にいた。
「水ぐらいは飲めない?」
「マリィ?!」
空腹のせいで彼女がいつの間にか傍にいて、ヤマトは驚いてしまった。
「エマは?」
「ルフィにくっついて眠っているわ」
ふふ、と笑うマリィを見て、ヤマトも笑った。ヤマトが彼女と会ったのはエースと戦った後だった。エースの海賊団が鬼ヶ島に来たのは、カイドウを討ちに来たのもあるが、攫われた娘たちを助けにきたのもある。
ちょうど父カイドウは幹部を連れて遠征に行っていた為に、娘たちを助けることが出来た海賊団はエースを置いて、本土へと戻っていた。エースと戦いながらも意気投合したのは今思えば互いに父親の血筋のせいだったかもしれない。
ヤマトはカイドウの息子、エースは海賊王の息子という望んでもいない血筋故に、人生を狂わされていた。
カイドウの力の象徴である龍の飾りを二人で壊し、部下たちの叩きのめした後に、マリィが現れた。とても海賊には見えない女の子にヤマトはあんぐりと口を開けてしまった。だって、彼女はエースが見つけて近寄ると彼に拳骨を落としたのだ。さっきまで自分と戦っていた相手に拳骨を食らわせて倒すって何者?かと思った。
「アンタは船長なのに、どうしてそう暴走するのよ!!」
「マ、マリィ……良い拳だ……」
「え、エースぅぅぅ?!」
すぐに復活したエースだったが、マリィが怒っているのを窘めながら、三人で酒盛りを始めた。マリィはあまり呑まないらしく、お酌してくれて、今までは女の子と仲良くしたことがなかったから、嬉しくて隣に座って欲しいと願ったら、エースが威嚇してきた。
「そんなに怒らなくてもいいだろ?」
「マリィの隣はおれの場所なんだよ」
「エース?」
「マリィもヤマトが女だからって油断すんなよ」
話が通じないとばかりに、エースの顔を掴むマリィは怒らせてはいけないというのをヤマトに記憶させた。
息子として扱われていたものの、身体は女である以上、女性と関わらなかった訳では無いが、彼女となら友だちになれるような気持ちにさせられた。なんとなく心地良い雰囲気を彼女は持っているからだ。それを無意識でエースは知っているのか彼女を抱きしめて離さないのを見て、笑ってしまう。
彼らから聞く海外の話はワノ国から出られない自分には大変魅力的だった。若い海賊の話にワクワクしながら、耳を傾ける。最終的には彼らの弟──ルフィが一番手強い海賊になる、という話は何回も出てきて、マリィも肩を竦めるだけで笑っていた。エースが弟、弟言うからエースの実弟かと思えば、ルフィはマリィの実弟だという。でも二人の様子にいずれは二人の弟になるのだろうと分かる。いくら色恋沙汰には関係なく生きていても、二人の様子はまさにそれだと分かる。
いつの間にかマリィは眠ってしまっていて、エースは彼女を膝に乗せて、愛おしいといった感じで見つめている。
「随分、大事にしているんだね」
「ぁん?」
「こういっちゃなんだけど、とても海賊には見えないよ、マリィは」
言いたい事が分かったのか、エースはあぁと頷きながら困ったように笑った。
「おれもまさか付いてきてくれるとは思ってはなかったんだがなぁ」
さらりと落ちる髪を弄びながら、エースは呟いた。でも彼女が傍にいてくれるのが嬉しいのだろう、大事にしたいというのが分かる。一瞬、切なそうな顔が見えた。
「もう、手放せないんだ」
「────大好きなんだなぁ」
「いや、────愛してる、だな。言ったことはねぇけど」
自然と話すもエースは恥ずかしいのか、少し頬を赤くしている。きっと彼女は聞きたいだろうに、云ってあげればと言えば、縛りたくはないんだと言う。もう既に雁字搦めに結ばれているように視えるのに、と思うが自分が言う事ではないだろう。
夜明けまでエースと飲み、彼らのビブルカードを作らせて貰ってから、船に戻るのを見送った。また今度会うことを約束して。
エースのビブルカードが消えてしまった時、マリィのビブルカードは消えてはいなかった。彼女は無事なのは分かったが、彼女は海賊を続けているのだろうかと思った。もしかしたらもう二度と会えないのかもしれないと思うと、せっかく出来た友だちを失ったのが悲しかった。
だから、此処で再会出来たとき、嬉しかった。まさかエースとの子供がいるとは思わなかったけど、「気になっていたの、だから会いに来た」そう言ってくれる彼女が笑っていて、泣きそうになった。エースを失くした彼女が悲しまない訳が無い、あんなに互いに相思相愛を体現していた二人が、死に別れてしまうなんて。
「エースがさ、親は選べないって言った時、何が分かる!って思ったけど、エースもだったんだな」
「そうだね、エースも望んで海賊王の息子に生まれた訳じゃないし、ヤマトくんもカイドウの息子として生まれた訳じゃない……ただ、生まれただけなのに、何故親の罪が子へといくのかな……わたしの…あの子もいずれ狙われるだろうなぁ」
マリィが苦い顔をする。新聞で見たのはエースは海賊王の息子故に死に追いやられた。ルフィも狙われた、革命軍の息子だから──ヤマトはマリィを見つめた。
戦慄した、マリィも革命軍総司令官の娘で、エマは海賊王と革命軍総司令官の血を引いていることに。
「マリィ……君たち今どこに住んでいるの?ワノ国に住んだらどうかな?!」
ワノ国は鎖国していた。モモの助くんも今は開国はしないという。他の島にいるよりは安全なのでは?とヤマトは提案する。
だが、マリィは首を横に振る。
「私、エースの傍にいたいんだ」
でもエマに関しては秘密にしてね、と笑うマリィは相変わらず、強いと思えた。
翌日、朝から予感はあったし、エマが始終ルフィの傍に居たがったので、麦わらの一味には「今日あたり目覚めるかも」と伝えれば、彼らはルフィともう一人の仲間の部屋に入り浸っていた。
「ウソップくんはヤソップさんと同じで見聞色の覇気使えるのね」
「まぁな!オヤジもすごいのか?」
「そうねぇ、すごいと思うよ!」
「そっか、オヤジとの共通点聞かせて貰えると嬉しくてよ」
尊敬なのか憧れなのか、どちらにしても良いなと思っている。自分もルフィも父親との思い出はないから。それを別に恨んだことはないし、そもそもいることを教えられていなかったのだから、考えようもないのだ。自分もルフィも、エースだってはじめから親はおらずに育ってきた。それでも祖父やフーシャ村のみんな、ダダンたちが自分たちを育ててくれたことをマリィは感謝しているし、エマを見守ってくれているマルコや元スペード海賊団のみんな、シャンクスたちにも感謝している。
エマにもいずれエースのことを沢山話して聞かせたいと思っている。
「マンマ、るぅ、おっきする!」
ルフィの傍にいたエマが喋ると同時に「肉ぅぅぅ〜〜〜〜!!」「酒ぇぇぇ〜〜〜!!」と眠っていた二人が起きた。
準備されていたらしい食事が運び込まれてるのを驚いてみていると、ナミが教えてくれた。
「戦いが終わると、休息の為に寝ていたのに、食べ損なったと言ったり、寝ながら食べたりと大変なのよ」
呆れながら話すが、その顔は安堵していて、マリィはナミの頭を撫でる。
「な、なに?」
「ふふ、なんとなく」
ルフィを信じてくれているのが姉として嬉しいのだ。
ただ、食べている姿に懐かしさが込み上げる。今はヤマトくんに抱きつかれても食べているから、落ち着いてから話そうね、とエマを言うとコクリと頷いてくれた。
将軍様たちもルフィたちが目を覚ましたことに安堵したらしく、宴を今日やる!と言っていたりする。
将軍様の姿に驚いていたルフィは、目線をずらした先でマリィと目が合ったのはその時だった。
「────ねーちゃん……」
ぽろっと溢れた声音はいつものルフィと違い、一味のみんなは驚いた。ゾロもまたルフィの目線を辿り、そこに見知らぬ女がいることに黙った。船長から溢れた言葉を理解したからだ。
「おはよう、ルフィ」
生まれてこの方、何度も彼女から言われてきた言葉は何年ぶりであろうと、ルフィの中にストンと収まる。十四年間、毎朝聞いた言葉に、点滴されていた管を抜いた。チョッパーが悲鳴をあげたが、ルフィは縺れるのも構わないとばかりにマリィへと抱きついた。
「──ねーちゃん、ねーちゃん、ねーちゃん!!」
ぎゅうぎゅうと抱きついてくる弟にマリィは懐かしく思いながら、よしよしと背が伸びたルフィを撫でる。それが伝わったのだろう、ぶわっ!!と涙を流し、顔をべしょべしょにする顔は昔のまんまの泣き虫ルフィだから、マリィは自分も涙ぐみながらルフィを抱きしめ返した。
「あーもー、泣かないの、ルフィ」
実に五年ぶりの姉弟の抱擁に、麦わらの一味や他のみんなは、泣く人もいれば、笑い合う人がいた。
「だっ、て、ねーちゃん……おで、おで……」
マリィはルフィの顔を掴むと、親指で涙を拭うも涙はボロボロと溢れ、鼻水も垂れている。あまりにもよく見た泣き顔に、手拭いを出して拭ってやる。手慣れたそれにルフィも笑顔になる、変わらない彼女はルフィにとって大好きなままの姉である。
ぽんぽんと落ち着くように優しく叩かれるそれも何もかもルフィのものだったのを思い出し、にしし!と笑えてくる。
不意にグイグイと服の裾を引っ張られたことに視線を向けると、小さな子供がいた。──それが誰かであるとルフィはすぐに理解した。ハハハっ!と声をあげて、エマを抱き上げた。
「お前、エースの子供だろ!!ずっとおれに話しかけてきてくれたろ!!」
「あーい!エマちゃ」
「そっかぁ!エマって言うんだな、オメェ!!」
ずっと眠ってる間、夢を見ていた。小さな子供が眠ってるルフィの邪魔をしてくるのだ。
その子は、ルフィをおじさんだと言うから、おれはまだ十九だぞ!と言ってやった。すると子供はママの弟だからあたしのおじさんだよ!と小さい子供にしてはきちんとした会話になって、ルフィは驚いた。
父ちゃんと母ちゃんは?と聞くと、パパはもういない、ママはいつも傍にいてくれると言った。父ちゃんいないのかぁ…と言った瞬間、子供の顔にエースの顔が重なった。んん?と首を傾げて、この子がさっきいった言葉を思い出す。
オメェの母ちゃんって……ママが来ているよ、早く起きようよ!と抱きついてくる子供に手を伸ばすと、笑った顔がエースに似ていたし、ぬくもりは懐かしさ姉のものだった。
ルフィの意識はそこから浮上していった。何をしていたんだっけ?と考えて、そうだ!カイドウをぶっ飛ばしたんだ!腹減った!と肉食いてぇ!と目が覚めたのだった。
夢でみた幼子の事は一瞬にして忘れたものの、仲間たちの無事を確認して、大きくなったとモモの助に驚いた後、ずっと会いたくて会いたくて堪らなかった姉の姿に目を見開いた。
夢?なんで、ここに??まだ夢見てんのか?と思ったが、懐かしい柔らかい声は何度もルフィが聞いた声だった。
抱きしめて、本当にここにいるのかと確かめるようにぎゅうぎゅうにしてしまう。だが、姉は笑いながら背中に手を回してくれた。ふふ、と笑う声すら記憶の中のと同じでルフィは感情がごちゃごちゃになる。
言いたいことは沢山あった、エースのことを、助けてやれなかった大好きな姉のエースのこと、姉は恨んでいないかと不安になったりもした。姉はそんな人間ではないのを知っているけど嫌われるのは嫌だった。
ぽんぽんと背中を捺せられ、変わらない彼女に嬉しくて泣きたくなる。そこで不思議な気配を感じた。服の裾を引く子供と目が合う。さっき夢に出てきた子供はにっ!と笑ってみせた。
(エースとねーちゃんの子供……!)
本当にいたんだ!と勢いよく抱き上げれば、嬉しそうに声を上げてくれる。
名前を教えてくれた姪っ子に、ルフィは小さい頃姉がよくしてくれたように、エマの頬に口づけをしたのだった。
「なに、エマちゃんにしてくれてんだぁ!クソゴムぅ!!」
「何やってんのよ、アンタは!!」
「ハハハ、いーじゃねぇか、なぁ、エマ?」
「あぃ!」
仲間が何故か怒っているが、肝心のエマと姉が笑っているのだから、いーだろ!とルフィは笑うとエマを抱きしめた。ルフィの中で、守らなくちゃならない人間であるのが分かった。