19
ルフィたちが目を覚ましたことで、ヤマトがしていた願掛けの食事とお風呂断ちも終わり、ナミがお風呂に入ろうと誘っていた。ルフィといえば、エマを膝に乗せ、マリィの服を掴みながら骨付き肉にかぶりついていて、周りに呆れさせていた。
「ルフィ……エマちゃんとマリィをいい加減離してやったらどう?」
「いやだ!」
「イヤだじゃねぇよ、エマちゃんとマリィさんを離してやれよ、クソゴムが!」
「ねーちゃんらと離れたくはねぇんだろうが、とりあえず風呂に入んぞ!」
「おれはねーちゃんたちと入る!」
「あい!」
どこか誇らしげに言うルフィに、エマが両手をあげて返事をするも、サンジやナミが「なにバカなこと言ってんのよ!!」と怒鳴る。せっかく国をあげての宴をやるとモモの助が言っているし、ルフィとて決戦の前にみんなでデカい宴をしようと言っていたのに、なんなんだ、と嘆きたくなる。
マリィは、ルフィに振り回れている皆をみて、申し訳ないと小さく息を吐いた。それにピクリと反応したルフィに気づいたのは何人いたのか。
「ルフィ?」
「な、なんだ、ねーちゃん……」
「ルフィ?分かってるわよね?」
「な、なにがだ?」
食べるのを止め、顔を逸らすルフィに、一味のみんなが(((お姉さんに弱いのか?)))となる。
「ル〜フィ〜?」
異様な圧とともに、マリィが拳を握り、笑顔でいる姿は一味の皆がどこで見たことある!となった。そういえば、そうだった。あまりにもまとも過ぎて忘れていた。
ルフィと血の繋がった姉ということは、“あの” 英雄ガープの孫であるということを、そして、弱くなんかなさそうだと。
ごんっ!という音と共に、ルフィの頭にはタンコブが出来ていた。お姉さん、あなたも超人なんですか?!と一味は嘆きたくなる。
「……イテェ…」
いや、覇気使えるとか、見た目に反してギャップありすぎだろ!!と思っていると、ルフィは涙目になりながらもどことなく嬉しそうにしている。
五年ぶりに姉に会えて嬉しいのだろうが、宴をしてくれるというのだ身支度もあるのだから、早くひとっ風呂浴びたいのだ。
「ルフィ、後でちゃんと話をしよう?仲間や将軍様たちに迷惑かけちゃ駄目よ?」
「……絶対、後でねーちゃんと話せるのか?」
「もちろん」
「………………分かった…絶対だからな!」
「はいはい」
了承を得られたとばかりに、ルフィはモモの助たちに担がれて、城内の岩風呂へと行き、マリィはナミたちと女湯へと向かった。
「あら?ヤマトくんは?」
「なんか、城の風呂は混浴じゃないって言ってたけど……」
「う!」
『あああぁぁぉぉぁ〜』
「騒がしいわね、男湯」
混浴文化があるとはいえ、まさかヤマトが男湯に入っているとは思わなかったが、そのまさかで、ナミを始め、海外勢は少し頭を悩ませたのだった。
なにやら、マリィたちにまで浴衣を用意してくれたらしく、申し訳なく思いながら袖を通し、エマにも着せて貰った。ひらひらする子供帯が可愛らしかった。
「わぁ!エマちゃん、かわいいでやんす!」
「お玉ちゃんも可愛いわよ」
「こんなきれいなべべはじめてでやんす」
ワノ国は一部を除いて、みな貧困に悩まされていたが、悪政を強いていた者たちはもういない。
もう自由になった彼らを見て、マリィはお玉の頭を撫でてあげた。
国をあげての宴はまるで縁日のようで、食べ物も射的も遊びも全部タダということで、ルフィを始め、チョッパー、鬼ヶ島から出たこともなかったヤマト、それと子供たちが目を輝かせながら、はしゃいでるのを見て、マリィはエマにヨーヨー釣りをさせていた。
どんちゃん、どんちゃん、と祭り囃子の音に、やぐらの上では三味線が奏でられ、ルフィが何度目かの乾杯の音頭を取る。
途中で「麦わらァァ!」と殴り込む者がいるが、今はワノ国の者や戦った者たちの勝利の宴だ。
いつの間にか夜になり、花火も上がる。エマが大きく口を開けて驚いていて、見たことなかったかぁ〜とマリィは苦笑した。興奮気味のエマを抱き上げて、移動する。違和感はきっと他の者も察しただろう。
「マンマ、あっち」
浴衣を掴むエマに、はいはいと指差された方へと向かう。途中で知っている覇気を感じていると、違和感は去っていくのを感じた。
「ルフィ」
「ねーちゃん!エマ!」
くるりと振り向いた顔は笑顔で、誰が来たのか分かったのだろう。
「変なのがいたみたいだけど…」
「あぁ、追い払ってくれたみたいだ」
「そうみたいね……ルフィ、話そうか?」
さっきまで笑っていた顔は、落ち着きを取り戻し、彼の仲間は察したように「あっちに行ってくる」と去っていこうとするが、ルフィが止めた。
「おれたちが移動するよ。ねーちゃん、こっち行こう」
サンジくんが「エマちゃん預かるか」と言ってくれたが、「大丈夫だ」と言って少し離れた所にあった、軒先の長椅子へと並んで座る。
「あーう!るひー」
「ハハ!エマ、オメェおれの名前言えるようになったのか?」
「あぃ!」
「なんか嬉しーな!」
二人のじゃれ合いが微笑ましくて眺めていると、ルフィはエマを膝に乗せて、頭を撫でている。空気が変わったを察したのか、エマはちょこんと座ると足をぱたぱたしながら、大人しく撫でられている。
ルフィは、何度か口を開いては、言いかけようとして口を閉じている。何を言いたいのか察していたが、ルフィは謝る必要なんて何ひとつないのだ。
「ね「ルフィ」ねーちゃん…?」
「謝ることないからね」
「……でもっ…」
ぎゅっとルフィは浴衣の裾を掴んだ。姉には嫌われたくはない、姉が自分を嫌いになる筈はない、分かり切っているのに、エースの事に関しては別だった。
マリィがエースと海に出ると言った時、ルフィは生まれて初めて姉に「なんでだよ!!」と怒鳴り声をあげた。エースにも怒鳴ったが、エースは悪いと謝るが、マリィは譲れないと言い切った。
二人が好きあっているのは年齢が上がると自然に理解はしていた。ただ、姉が自分を置いてどこかに行ってしまうという概念はルフィにはなかった。エースが海へ出ても姉は自分の傍にいるのだと思っていたのに、彼女はエースを選んだ。裏切られた、と初めて感じたのはこの時だった。
大事な姉を奪うエースに怒り、何度も勝負を吹っかけた。今までだって一度も勝てなかった相手に勝てる訳でもなく、エースもまた真剣勝負に手を抜くようなことはしなかった。悔しくて涙を零したが、それでも姉は自分の元に残るという事は言ってくれなかった。
「ごめんね、ルフィも大事だけど、お姉ちゃん、エースを愛してるの」
「おれのことは…」
「ルフィのことは大好きよ」
「じゃあ、」
「お姉ちゃんにとって、エースは離れたくない相手になったの……例え、ルフィに反対されても、おじいちゃんが敵になっても……エースの傍にいたいのよ」
悔しくて暴れるルフィを抱きしめて離さない姉が、近いのに遠くに感じてしまう。悔しかった、ずっと、ずっとずっと姉は自分のモノだったのに。
「エースと行っちまうのか…」
「…うん」
「……どうしてもか?」
「…………うん」
あぁ、覆せないのだと分かった。自分だって我儘な事を言ってる自覚はある。譲れないのだ、姉の気持ちは誰にも止められない、ルフィにはどうしようもない、悔しいくらいに。
「…………………………………………わかっ、た…」
「…………ありがとう…」
「でもっ!!じゃあ、船出まではおれをゆうせんしてくれよ!!」
むちゃくちゃな事を言ってるけど、やりきれない思いがルフィにはあった。エースが「はぁ?」と声をあげるが、エースではなく、姉が決める事だとルフィは姉を見つめた。彼女はふふ、とルフィの大好きな笑顔を見せてくれた。それだけで答えは分かった。ぎゅっと抱きしめられた。
「それまではルフィとずっと一緒にいるわ」
「食う時も寝るのも一緒だぞ!」
「おぃ、ルフィ!」
「エースは黙って!……もちろん、海に出るまではルフィと一緒にいるわ、一緒にも寝てあげる」
「マリィ!!」
「約束だぞ、ねーちゃん!!」
「うん、約束」
そう笑ってくれた姉は、いつものように額に口づけをくれた。エースは怒っていたが、ねーちゃんに睨まれたからか、渋々「船出までだからな!!」と頭を押してきて、撫でてくれた。
「オメェの大事なねーちゃんは、おれが絶対守るからな」
「あたりまえだ!!」
「あぁ、当たり前だ!」
「ねーちゃん悲しませたら、いくらエースでも許さねぇからな!!」
「わーってるよ!おれだって、マリィは大事なんだ、
姉からもエースからも抱きしめられる形になり、苦しかったがルフィはなんだか嬉しくて笑えば、エースもマリィも笑ってくれた。
「でもっ、おれ…、エースをたすけられなくて……ねーちゃん、かなしませた……」
あんなにエースを好きだった姉を独りにさせてしまった。ぐずっと鼻水を啜る。
「…ルフィ、違うわ」
「……ねーちゃん…?」
「エースを助けられなかったじゃなくて、あの時、エースがルフィを助けたの」
「ちがう!おれがもっとつよ「エースは大事な弟を守ったの!」」
目が熱いのはボロボロと涙が出そうになっているからだ。それを擦りながら横を見ると、姉の顔は困ったような顔をしていた。
「エースにとって、ルフィはかけがえの無い大事な弟よ。きっと、何度だって同じことをするわ」
「でも、」
「きっと、あの時ルフィが殺られていたら、エースはきっと………」
「…ねーちゃん?」
「………ルフィ、泣かないで?私たちの大事な弟……あなたが無事で、生きていてくれて、お姉ちゃんは嬉しいのよ……」
ルフィの頭を抱き寄せると、んぐ!と泣くのを耐えるようにルフィの口がへの字になる。しかし、耐えられなかったのだろう「…っ!ねーぢゃん、ねーぢゃん!」と声が荒くなる。
マリィはルフィを抱きしめたまま思う。
(きっと………エースは堪えられない)
ルフィを喪ったら、自分がいても壊れていたに違いないし、きっとあの場でルフィと共に亡くなっていたかもしれない。
マリィとて何も思わなくはないが、それほどにエースはルフィを大事にしていたのだ。生命を投げうっても、何度同じことが起きても、エースはルフィを助けるに決まっている。
エースにとって、ルフィは生命を賭けても守る存在に近かったのかもしれない。無論、マリィの為にだって生命を賭けることが出来るかもしれないが、エースの中でマリィは一緒に生きていきたい相手だったのだ。一見違いがないようで、その実、全く違う。
エマで例えるならば、同じ愛しているでもマリィはエマの為ならば死ぬことは厭わないが、エースとは共に生き、死んでもいいだった。きっと、それは理解してもらうものではないだろう。
「ルフィ……生きていてくれて、ありがとうね」
ぎゅっと抱きしめる。愛おしいこの子たちがずっと幸せであればと願う。
「………っ…!」
「…それに、お姉ちゃん、今は悲しくなんてないわ…」
「ねーちゃん……」
「エマがいるもの……エースが遺してくれたエマがいる……幸せよ…」
それが奇跡のようなことだとしても、エマがいるからマリィは生きていけている。ルフィは膝の上にいるエマを見る。子どもはどうやって出来るのかなんて、いくらルフィだとしても知ってはいる。一瞬、ムッ!とするも、「う?」と見上げてくるエマを自然と撫でてしまう。
「……ねーちゃんは、幸せ、なんだな?」
「えぇ…………生きづらい世界だとしても、ルフィに仲間がいるように、お姉ちゃんにはエマがいてくれる。他にも頼っていいと言ってくれる人がいて、助けてくれる友だちもいる……すごく幸せなことじゃない?」
「ねーちゃん、おれの船には乗らねぇか?」
「もう海賊にはならないよ。エマが大事だもの……つまらない大人になって、ごめんね?」
姉は冒険はしない人だった。いつもルフィが手を引いてあちこちへと連れていってはいた。ただ一緒には付いて来てくれていただけだった。それにルフィはとってつまらないのではないか、といつも姉に聞いていた「ねーちゃん、たのしいだろ!」「ルフィはすごいねぇ」笑顔を向けてくれるだけ。
「ねーちゃんが、ねーちゃんがつまらない訳ないだろ!!分かってんだ、おでだっで……」
「るひー?」
ぐずっと鼻を啜ると、エマは見上げてきた。まんまるの目と目が合う。あ〜、泣きたくないのに、なんでこの角度から見るとエマはエースに似ているんだろう。「泣き虫はキライだ」むかし、エースによく言われた事を思い出す。
「べづに"な"い"でな"い"ぞ」
「う?」
エマには見られたくなくて、彼女の瞼をルフィは片手で覆った。隣にいる姉に話題を無理やり変えたのは話しておきたかったからだ、もう一人の兄のことを。
「そういや、驚くことがあったんだよ!!」
「うん」
「サボが、生きて、だんだ……」
泣きたい訳ではないのに、また涙が出た。マリィは「嬉しい時は涙が出るのよ」と言うから、また涙がでた。
「うん……新聞で見たよ…」
「エースの『メラメラの実』……食ってくれたんだ……おれも『メラメラの実』欲しくてさ、狙ってたんだけど……用事出来て……そしたらサボが出てきて、おれ、死んだと思ってたから……」
「うん……私も知らなかったから……びっくりしたの。お父さん…」
「ん?父ちゃん?」
「お父さんと同じ革命軍にいるんだってね」
「そうみたいだ!」
「サボ……記憶喪失だったんだって」
「記憶喪失?!」
「うん……十二年前、天竜人に撃たれたせいだったみたい……お父さんたち革命軍が助けて……革命軍に入ってたんだって」
「記憶喪失……そう、だったんだ……なんで知ってんだ?サボと話したのか?」
聞いてくるルフィにマリィは首を横に振った。
「お父さんと話して、教えてくれたの。…………エースのお墓にね、おじいちゃんが来てくれて……その時にお父さんの連絡先教えてもらってたのよ」
「じいちゃんが……」
ルフィが最後にガープに会ったのは頂上戦争の時だった。自分たちを『海賊』として、じいちゃんは『海軍』として立ちはだかった。じいちゃんを殴りたかった訳じゃない、でもそうしないとエースが処刑されてしまう……嫌でも無我夢中で殴っていた。ガープが躊躇したことに気づけず、ただエースを救いたかったのだ。
「泣かれたよ、おじいちゃんに」
「じいちゃんが?!」
「うん……おじいちゃんは海軍で、こっちは海賊……おじいちゃんは悪いことした訳じゃないのにね……おじいちゃんは私たちをただ守りたかっただけなんだよね」
「……だからって海兵になれって言われてもなぁ…」
命令されるのは嫌だった。だからずっと反発していた。だけどシャンクスに会って、彼を尊敬出来るようになって、海賊になりたくなった。エースやサボと海賊になろうと誓い合った。
わかりたくはないが、分かる気がする。じいちゃんはじいちゃんなりに自分たちを愛してくれていたことを、愛ある拳はいらなかったけど、自分たちを己の守れる所へ置きたかったのだ。強い海兵になれ、も自分がいなくなっても、その強さではね返させるようにという。
「エマを見て驚いて……でも泣いて喜んでたよ」
「じいちゃんって泣くんだな」
「おじいちゃんだって、泣くよ。初めて見たけどね……エースの事も悔やんでた」
「……………そうか…そっか…」
エースの為に泣いてくれたのなら、それで良いと思えた。きっと、こうしてねーちゃんたちが無事でいるのも、じいちゃんが守ると決めたからなんだろう。孫だから、と一度は見逃してくれたことがあるのだから。まぁ、その後は砲弾投げてきて大変だったけど。
ルフィの膝の上にいたエマが「あー!まぁるぅ〜!」と声をあげた。
「よぉ!」
「…マルコさん!」
マルコが申し訳ないといった態度で降りてきた。
「姉弟水入らずの所に悪いな」
「どうしましたか?」
「あ〜〜、そろそろ行こうかと思ってな」
「えっ?!」
「もう行くのか?」
「近くにいい乗り合い船が来てるみたいでな……マリィたちはどうする?」
いい乗り合い船はきっと彼らのことだろう。そもそも無理を言ってマルコに連れてきて貰った身としては、勝手なことは言えない(言ったけど)。
それにワノ国にいても、エースとの約束は見届けたのだ。マリィはエマを見つめて頭を撫でてやる。
「一緒に、戻っても良いですか?」
「ねーちゃん…」
「いいのかよぃ?」
気を遣っているのだろう。マルコはルフィを一瞥した。マリィはルフィと向き合うと何度目かのハグをした。
「ルフィ、お姉ちゃんね、エマと一緒にエースのお墓の近くにいるの……だから、」
「……だったら、おれは海賊王になって、夢を叶えたら、ねーちゃんたちの所に行く!エースに海賊王になったぞ!って報告に行くっ!!それまで、待っててくれるか、ねーちゃん、エマ!!」
「ルフィ……うん、待ってるよ」
「ほんとはねーちゃんもエマもおれの船に乗って欲しいけど……ねーちゃんはそれ、望んでねぇもんな……」
いつもなら問答無用で仲間にしたい相手は諦めたりはしない。でもねーちゃんの望みは叶えてやりたい。
「るひー、すぐくる?」
ルフィは、浴衣を掴むエマを抱き上げると「あぁ、すぐに行くからな!!」と声をあげた。
「だから!しばらくの間、ねーちゃんとエマをお願いします!」
「……よぃよぃ」
いきなり頭を下げられると思っていなかったマルコは驚きはしたが、笑って答えた。一旦着替えてくるというマリィたちと分かれ、ルフィとマルコはジンベエたちのところへと戻った。
城の女中さんたちに礼を言い、他のみんなにも挨拶出来ないのが残念だが、乗り合い船がどこかに行ってしまう前にいかねばならない。小走りで戻ってきたマリィたちに真っ先に抱きついたのはヤマトだった。
「マリィ!もう行ってしまうのか!!」
「ごめんね、ヤマトくん」
「そんなぁ〜〜マリィちゅあんもう行っちゃうのぉぉ〜」
サンジくんが何か言っているが、ジンベエさんが回収してくれた。今はヤマトくんと話をしたいから、ありがたい。
ヤマトに機会があれば、エースに会いにきてよと伝えれば、必ず行くよ!と答えが返ってきた。
「その時は一緒にお風呂入ろうね」
つい最近した約束をもう一度言うと、マリィはズルいなぁと言われてしまった。
お玉ちゃんには伝言を頼んだ。元気で、妖艶なくのいちになれるよう、頑張って欲しいと思っている。
「行くよぃ」
マルコさんもジンベエさんたちと別れを告げたらしい。マリィは麦わらの一味(この場にいる三人にだが)へ頭を下げた。
「ルフィには手をやくと思うけど、大事な弟なの。よろしくお願いします」
どこかで聞いた事ある言葉にゾロとサンジは顔を見合わせる。小さく笑いながら「あぁ」「任せてくれ」と返事をくれた。ジンベエも頷いた。
ルフィもマルコに「ねーちゃんとエマを頼む、それとありがとう!」と再度礼をした。
エマを抱きあげて、抱きしめる。ルフィには“かわいい”とかという感情はあまりなかったのだが、エマに関しては可愛いという思いが自然と溢れてくる。大好きな姉と兄の子供だからだろうか。この子は絶対何があろうとも守りたいと思っている。
「エマ、何かあれば呼べよ!おれがなんでもしてやるからな!!」
「あぃ!」
元気な返事に、にしし!と笑うと、しろくまぁるい柔らかな頬に口づけをする。昔も今も姉にしてもらう側だが、自分からするのは今のところエマだけだ。ルフィは期待するかのように姉を見つめると、姉は呆れたように、でも笑いながらルフィの頬へと唇を落とす。
サンジが俺も〜と騒ぐが、ゾロがやめとけアホなどと言うからまた喧嘩をしていた。
「じゃあ、またね、ルフィ!海賊王になるの待ってるわ」
「おぅ!おれは海賊王になる!!」
「るひー、ばいばい」
「しっかり掴まってろよぃ」
「はい!」
手を振って、次の再会を約束した。きっと次に会う時は、ルフィは海賊王になっているだろう。これからもきっとあの弟は色々な者たちと戦うだろう。挑戦する側ではなく、挑戦される側になったのだから。
「ルフィが海賊王になって、夢を叶えたら。エースのお墓の前で宴でもしようか?」
そう伝えればルフィは笑顔になった。
その時は、ルフィもサボもおじいちゃんも元白ひげ海賊団やスペード海賊団も、ダダンさんも呼んで、笑い合いたい。
いずれ来るであろう、未来にマリィは笑みを零したのだった。
(エース、もう少しだけ、待っていてね……)
傍らの娘を抱きしめながら、マリィは指輪に唇を落とした。