【if】使えるものは使って愛する人を助けさせてもらいます!

ONEPIECE


「旅行するならどこにいきたい?」

問われた事に答える術はなかった。

「ねーちゃん!!!!」

 必死の形相で弟が手を伸ばしてくるもそれに届くこともなく、ぽよん!と何かが身体に触れた瞬間、驚くくらいのスピードで空を飛んでいた。

(?!?!?!?)

 意味が分からない。どうにかしようにも目下に広がるきらめく碧はどう見ても海だし、目の前に広がる蒼は空だ。
 一体、なにが起きているのかさえも分からない。確か、ルフィとシャボンディ諸島で再会し、一緒にいたいという可愛い弟の願いに承諾したものの、ルフィのやらかしで海軍大将が現れた。ルフィは姉マリィは一味ではないからと逃がそうとしたが、海兵が海賊の話なんて聞く訳ではない。
 彼らと戦闘しようにも伊達に大将の地位ではない。まだまだルフィたちが敵う相手ではないと船長ルフィが悟ると「全員逃げろ!」と叫んだ。しかし現れた七武海のバーソロミュー・くまにより、ルフィの仲間が一人、一人、また一人、文字通り消されていく。そして、マリィもまた彼の手により、その場から消されたのだった。

(王下七武海……暴君くまの能力……なのよね…)

 殺された訳ではないが、いったいどこまで飛ばされているのだろうか。身体は特に痛みとかはないが……無事に地上に降りれるのだろうか?海に落ちるのもたまったものではない。マリィは自身の身体、特に腹部を庇うように身を丸めたのだった。
 気づいた時には、どこかのベッドに寝かされていて、飛び起きたのは仕方ないことだと思う。

「……どこ、ここ…?」

 キョロキョロと見渡すもどうも誰かの部屋なのは分かる。机の上には書類が重ねられ、壁には書棚が並んでいるが、清潔な部屋だ。だが、誰もいないというのはどういう事なんだろうか。

(……逃げ……無理かしら…)

 不意に扉を見ていると、カチャリと扉が開いた。マリィがそちらを見ると、眼を瞠った。

「………………え、…?」

「…………目が覚めたようだな…」

 そこにいたのは、手配書でしか見たことのない、父 モンキー・D・ドラゴンの姿だった。

「…………ここは…」

「ここは革命軍の本拠地だ」

「は?」

「私からも質問して良いか?」

「は、はい」

「……君はどうして、くまの能力でここに飛ばされたんだ?」

「あ、あの……その前に良いですか?」

「なんだ?」

「え、えっと……私、の事、分かりますか?」

 思わず聞いてしまったのは、父が私を認識しているかどうかだ。父の事を知ったのは祖父に訊ねたら、誰にも言うんじゃないと教えられた。一緒に聞いてくれたエースと共に驚いたものだ。エースがルフィには教えないで欲しいと願ったのは自分と同じようにならないで欲しいと思ったからだろう。祖父はルフィが聞いてきたら答えるとは言っていたが。
 もし、もしも、彼が私を分からなければ、身の保証はされないかもしれない。
 彼を見ると無表情に見えたが、どこか困ったような様子を見せている。

「……君は、私の娘だが」

 認めていないのかもしれないが、私は君の父親だ。と言った父にマリィはホッと息を吐いた。良かった、知っていてもらえたと安心した。

「よ、良かった……知っててくれたんですね!」

「当たり前だ……で、先ほどの質問に答えてくれないか?」

「あ、はい……。えーとですね、私もどうしてここにいるのかは分からないのですが……」

 シャボンディ諸島にいた事、ルフィが天竜人を殴り飛ばすという事で海軍本部大将に追われた事、そして、現れた七武海の一人にここに飛ばされたことを簡単にだが、説明をした。
 ドラゴンは、考えるように顎に手を当てている。

「君は……」

「はい?」

「君が、親父からポートガス・D・エースと共に海賊になったと聞いたが、何故ルフィといたんだ?」

「へ?え?……え?おじいちゃんから聞いた??」

「あぁ……君が“火拳のエース”にコルボ山から連れ出されたと大層怒っていたが……」

 思いがけない言葉に唖然とする。
 エースと共に海賊をしていたのを知っていたことも驚きだが、それを祖父から聞いたという方が驚きである。

「え、えと……確かにエースとは一緒に島を出ました……今はシャボンディ諸島で知り合いの所でお世話になっていて……ルフィとはそこで会ったんです」

「……そうか…。君はポートガス・D・エースとは…」

「あ、えっと……恋人、です…」

「……………………そうか……」

 少しだけ沈黙が流れる。ほとんど会ったことのない娘の恋愛事情を聞かされても彼は困るだろうな、なんて呑気な事を考えてしまうのは逃避かもしれない。

「話を戻そう。ルフィが司法の島エニエス・ロビーの旗を撃ったのは知っているか?」

「新聞で見ました。ルフィから聞いた話では仲間を連れ戻しに行ったとか言ってましたけど」

「仲間を連れ戻し、なるほど」

「でもおじいちゃんにめちゃくちゃ怒られたと聞きました」

「そうか」

 暫しの沈黙の後、ドラゴンは「少し席を外す」と呟いてから部屋から出ていった。なんだろうと思っていると、不意に動揺するように胸のあたりがもやもやした。
 なんだろう、何か、不安になる……。久しぶりの感覚に鼓動が早くなる。早く、早く戻らなくてはならない。という思いに駆られてしまう。
 カチャリ、とドアが開き、思わず身構えてしまったが、ドラゴンが戻ってきたようだ。その手には新聞が握られている。そういえばシャッキーさんが新聞をずっと見ていたような気がして、ハッとした。自分は新聞をみていないことに。
 どくん、と心臓の音が大きく聞こえた気がした。

「これを知っているか」

 手渡された新聞を震える手で見つめる。大きな文字で一面に書かれていたのは『白ひげ海賊団二番隊隊長 火拳のエース 公開処刑!!』だった。
 マリィは勢いよく掛けられていたブランケットを捲ると、ベッドから降りようとしたが、ドラゴンに阻まれる。

「どこにいくつもりだ」

「エース、エースを助けに「君が行って助けられるとでも」っ!」

 大きな手がマリィの腕を掴み、厳つい眼差しはじっと彼女を見つめている。しかしマリィはそれを真正面から見つめ返した。

「確かに私はいつだってエースやルフィの足手まといで、弱いです。でもだからといってエースを見捨てるなんてことは出来ません、私はエースと一緒に生きると決めたんです」

「…………」

 マリィは考える。革命軍の本拠地ここがどこかは分からない。シャボンディ諸島、ではなく海軍本部までどのくらい掛かるだろうか。
 ぶつぶつと口にしていたのか、ドラゴンはマリィを掴んでいた手にまた力を入れた。

「どうやって行くつもりだ」

「…………船をお借り出来ませんか?」

「貸すとでも?」

「………………」

 マリィはぐっと唇を噛む。そう言われてしまえば、飛ばされてきた人間としては何も出来ない。どうにかして、マリンフォードまで行かねばならない。
 確かにドラゴンの言う通り、マリィが行った所で何も変わらないだろう。しかし、じっとしていられるはずもない。
 きっと行けば、エースは怒るだろう。当たり前だ、なんの為に・・・・・彼女が船から降ろされたかを考えれば、海軍対白ひげ海賊団の戦争に彼女が来たのでは、エースの懸念はなんだったのか、となる。
 それを分からないフリをして、マリィはこの二年、生きてきた。船から降ろされ、陸に戻っても二人の関係は変わらないのは離れても結局は互いがいなくてはならない存在だったからだ。
 独りは辛いと言った弟同様に、彼女もまた寂しがり屋だった。それをずっと補っていた弟は“東の海イーストブルー”におり、マリィは嘆きはしたが、怒りが優っていた。
 絶対殴る!祖父から教えられた愛ある拳骨は彼女へと繋がっている。半年もの間、放っておいて、あっさりと再会した時、マリィからの拳をエースは受け入れた。叩いてくる拳は武装色を纏っていた為に、能力者といえど痛みはあったが、あえて受け入れた。
 絶対に悲しませない、ルフィにそう誓ったはずなのに、涙を滲ませたマリィを見てエースはそれでもどろりとした感情を胸に抱いていた。あぁ、離れても彼女の気持ちまだ己にあるのだと思うと嬉しい気持ちになるのだ。この重い気持ちを彼女が受け入れてくれるのに笑みを浮かべていたのを、マリィもまた知っていた。知っていて受け入れていたのだ。
 だが、今はどうやってマリンフォードへ行くかである。ここが革命軍の本拠地であるならば、商船なんてものは来ないだろう、どうにかしてどこかの島へ乗せて貰うしかないが、新聞の記事からすると処刑まで一週間もない。船を奪うしかないのだろうか、そんな冷静さも欠いていく。

 ドラゴンもまた離れていたとはいえ、愛する我が子を戦場へ送り出すことなど出来ずにいる。ましてや彼女の身体はそれを許すことは出来ない身の上だ。──くまの能力により何者かが飛ばされて来たと報告を受けた際、ドラゴンは直々に足を運び、マリィの姿を見て驚愕したのだ。何故、娘がここにいる?──と。
 一先ず医務室へ運び、医師が軽く診ると「外傷はないが、どうやら妊娠しているようだ」と言うので、ドラゴンは驚いた。自室へと運び、眠る娘を眺めた。すぐに思いついたのは彼女を連れて海へ出たポートガス・D・エースの存在だった。
 親父ガープが怒りながら連絡をくれてから、ドラゴンはポートガス・D・エースの行方を追っていた。彼が名を挙げる度に、彼らの周辺の記事も探す。運が良いのかマリィの姿は記事にはならないでいたが、報告ではいつもフードを被った女らしき人物と共にいたという。やはり一緒にいるのだと分かった。
 白ひげ海賊団に加入した際も一緒だろうと思っていたが、まさか降ろされていたとは思わなかった。だが、己が子ども達と離れたのは弱味になると分かっていたから、敢えて離れることを選んだ。親として自分はそうしたが、きっとあの彼も娘を愛しているから船から降ろしたのではないか、と思ってしまった。
 しかし、このタイミングでの妊娠は思いがけないであろう、彼女にしても彼にしても。ドラゴンからすれば可愛い娘を手籠めにされた以上、エースに対して良い感情はないのは、一緒に暮らせずともやはり娘だからである。しかし、一族の血を考えるときっと娘もまた一筋縄でいかないのは分かっていた。
 我の強い一族であるモンキー家の一人でもある娘は、愛くしんでいた弟ではなく、共に生きる相手をエースという男に決めた時に、既に覚悟を決めていたのだと思う。そんな気がしている。
 ──ポートガス・D・エースが死ねば、彼女もまた生きていないのでないか、とそんなビジョンが過る。見聞色が見たくない未来モノを見せてくる。
 ドラゴンは海賊に手を貸す気はない──否、ローグタウンでルフィの船出を見送る際に危機を助けたのは、父としてだった。ならば、革命家としてではなく父として、また生まれてくる子の祖父としては、娘たちを助けてやりたいという気持ちはある。

「…………聞きたいことがある…」

「…………え?……な、なんでしょう?」

「……君は、今一人の身体ではないというのは分かっているのか?」

「────分かっています」

 マリィはドラゴンから発せられた言葉に首肯した。己の身の上のことならば分かっている。エースの子を授かったのだ。その子がとんでもない血をひいている事を理解さえしている。海賊王の血、世界最悪の犯罪者の血、両方の血を継ぐ子が彼女の胎内で育っている。
 しかし、マリィからすれば血筋など関係はない。愛する男との子を宿したに過ぎない。たとえ、愛する男が己の血を遺したくなかろうとマリィにとってはかけがえのない宝が胎内にいる。母として守りたいと思う。しかし、女としては愛する人を見殺しになんて出来ないという感情の方がまだ大きかった。
 己の腹を撫でる。まだまだ分かりにくいが、ぽこりと膨らんでいるのはそこに子がいるからだ。

「それでも行くというのか」

「行きます」

「……私は革命軍だ」

「?はい」

 言われずとも知っている。父親は革命家だと教えられたからだ。革命軍が助けてくれるとも思ってはいない。海軍対白ひげ海賊団の戦いに革命軍はなんの関係もないのだから。

「だが、君の父でもある」

「はい…」

 マリィはドラゴンの言う事に茫然としてしまう。まさか、まさかと否定しながらも見聞色がビジョンを見せてくる。

「……連れてって、くれる、のですか」

「…………あぁ」

 ポロリ、と涙が溢れる。妊娠が分かってからというもの情緒不安定でもあったせいか涙腺は緩くなっていた。

「っあ、ありがとぉ、ございます……」

「一先ず今は休むといい。明日には出立出来るよう調整する」

「……はい…」

 ぐすっと鼻を啜るマリィを大きな手が撫でる。それが祖父の手に似ていて、どこか懐かしく思う。その後、そのままこの部屋にいることを許された。医師が来て、色々と世話をやいてくれたので感謝の述べた。
 翌朝、ドラゴンが朝食を持ってきてくれた。いくらなんでも総司令官にそんなことをさせてよいのかと、心配になるが、革命軍といえど、自分のことは自分でするらしい。

「調子はどうだ?」

「休ませてもらいましたので、大丈夫です」

 ドラゴンは医師に顔を向ける。医師も問題ないと頷いた。モンキー家故か彼女の身体は丈夫なようだった。
 ローブを手渡された。とりあえず用意した船まで着るように言われ、フードも被る。何人かの幹部に「少し出てくる」と伝えるとマリィを連れていく。何人かが慌てていたが「問題はない」と言う放った。
 案外、自分勝手な部分が祖父に似ているような気がする。やはり親子なのだと思った。船にはごくわずかの船員しか乗っておらず、どうやら総司令官が付き添いで『私』を送っていくという感じらしい。
 行く先はマリンフォードに近い、シャボンディ諸島に舵をきっているが、きちんとマリンフォードへは向かうといってくれた。
 船でも誰かがいるので父とは呼べずにいたが、聞こえないように何度か「お父さん」と呼べば、口の端が上がっていた。どちらかと言えば、厳つい顔の悪人面ではあるが、一緒にいるうちに怖さなどなくなった。

「もしかしたら、ルフィも向かっているかもしれない…」

 呟いたそれにドラゴンは「ルフィも…」と返してきた。

「おじいちゃんから聞いているかもしれないけど、エースとルフィはね、兄弟の盃を交わしているの」

「そうなのか……親父が言っていたような気もするが…」

「本当はもう一人ルフィにはお兄さんいたんだけど、事故で死んでしまって……だからルフィはエースが処刑されると知ったらきっと向かっているに違いないわ」

「ポートガス・D・エースは君やルフィにはなくてはならない存在ということか」

「ルフィにとっては目標で追いつきたい相手だし、私が傍にいられない時はずっとエースが傍にいて、二人で生きていたから……大事なお兄ちゃんなんです」

「……ふむ」

 きっとルフィも助けに向かっているに違いない。無鉄砲で無茶ばかりするルフィだけれど、あの子の選択は間違いはしない。
 エースはきっと私が行っても、ルフィが行っても怒るに決まっている。エースは知らない、それでも助けに行く人たちが助けに行く理由を、理解しようとはしない。愛してるから、大切だから、家族だから、そんなシンプルで大切な想いを分かりはしないだろう。愛を知らない、なんてことはない。信じられないのを知っている。幼い頃、私たちが出会うずっと前からを疎まれ、世界中から生きていることを拒まれていた。エースはなにも悪くはない。生まれてきて、生きていて良いに決まっている。
 海の波を眺め、地平線を見つめる。

(…………エース…)

 言いたい事、伝えたい事はたくさんある。でも、ただ、エースに会いたい…抱きしめてもらいたいし、抱きしめたい。


 革命軍の本拠地がどこかは知らないが、エースの処刑時間までもう猶予はなかった。間に合うのか、と不安になりながら潮風が頬を撫でる。政府管轄の海流を使えばもっと早く着くだろうが、無論使える訳が無い。
 突然の波の引きに、甲板にいると身体がバランスを崩すがドラゴンが隣で支えてくれた。マリンフォードに近づくことはあまりにもリスクが高いが、ドラゴンが島の端に付くように指示を出す。むかし『海軍』にいたと聞き、驚いた。
 おじいちゃんにやはり海兵になれ!とは言われていたという。海兵にはなったものの自分の正義を見つけられなかったと言う。それで何故革命軍、と思ったが、マリィとてゴア王国で育ち、シャボンディ諸島に身を寄せていた。理不尽な世界を知っている。

「……マリィ、私の傍から離れないように」

 船員たちはシャボンディ諸島じゃなかったのか?!と言っていたが、所用だとしか言わないので申し訳なかった。
 島の端には海兵はあまりおらず、縞々の服を着た人たちがいて、躊躇してしまう。

「インペルダウンの囚人たちか」

「なんで?」

 疑問を抱きながら、ドラゴンが何人かを捕まえ話を聞くと、キャプテン・バギーの手によって脱獄してきたという。それが何故マリンフォードに来たのかと問うと、そのキャプテン・バギーが白ひげの首を獲るという。しかし、先に海軍を潰すから白ひげと手を組んだとも…。
 それでも海兵がいる所へリスクを冒すのが不思議だと思えば、麦わらのルフィに海峡のジンベエ、元七武海のクロコダイルに、革命軍のイワンコフが最初からマリンフォードに行く為に脱獄したというので驚いた。
 ルフィが来ているのと同時に、ドラゴンにとっては盟友であるイワンコフがいるとは思わなかったからだ。ドラゴンは電伝虫で船に残っている人たちに、イワンコフたちの話をしていた。

「……ルフィ…」

 やはり来ていた。
 大事な弟の安否を気にしながら、壁の向こう側がどうなっているかが分からない。人が多すぎるせいか、思考がぐちゃぐちゃになる。
 ドカーン!!とあちこちから爆音が鳴り、硝煙と、鉄錆の匂いが風に乗る。

「掴まっていなさい」

 ドラゴンに肩を寄せられ、抱えられた。祖父ほどではないが、エースよりも背が高い父にしがみつくと身体が宙に浮く。驚いていると周りの空気が渦巻いている。父も悪魔の実の能力者なのだと、驚いてしまった。

『エーーーースぅぅ!!』

『ルフィぃぃぃ〜〜!!』

 処刑台を見れば、ルフィが何か坂みたいなのを駆け上っている。そこへ、祖父が坂をぶち抜いて現れた。

「おじいちゃん!!」

『どいてくれよ!じいちゃん!!』

『わしゃあ、海軍本部中将じゃあ!!』

 どうして、祖父と孫が戦わなくてはならないのか!!ルフィが悲痛な声を上げながらも祖父に拳を向けている。

『うわあぁぁぁぁぉ!!!』

 それに対戦しようと拳を振り上げた祖父が目を瞑った。え?と思うも次の瞬間には祖父は落下していく。ルフィはそのまま処刑台へと登りきった。
 ルフィがエースを解放しようとすると処刑台にいたセンゴクが能力で巨大化した。手を下そうとしたが、なにかに阻まれ、処刑台は崩れていく。

「エース!ルフィ!!」

「……大丈夫だ」

 身を乗り出そうとするマリィをドラゴンは彼女を抱えたまま成り行きを見守る。次の瞬間砲撃された爆炎の中に炎のトンネルが出来て、そこにはエースとルフィの姿があった。

「……あぁ!!」

 彼女の歓喜の声とともに広場にも海賊たちの声が上がる。エースとルフィは息のあったコンビネーションで海兵たちをなぎ倒していく。

「………………」

 ドラゴンは周りを見渡す。海賊たちはエースが解放したことで、後は撤退する為に湾頭を目指すも、白ひげはその場に留まる。最後の船長命令は自分以外の者が逃げることのようだ。
 どうやらここでケリをつけるようだ。

(そんな!)

 エースがオヤジと慕う人にひと目お会いしたかった。この子と会わせたかったのに!と思ったせいか、マリィはドラゴンの服を握っていた。それを与したのか「しっかり掴まっていなさい」と頭上から言葉をかけられたと同時に、暴風が広場に吹き荒れる。
 海賊も海兵も眼を開けていられない風に、戸惑う中、白ひげによって広場が分断されたはずなのに、白ひげの巨体は息子たちがいる場所へと飛ばされる。

「「………なっ?!」」

 センゴクやガープたちが驚き、ただの風ではなく、とある人物の仕業だと分かると辺りを見渡す。
 ガープは己の息子・・の姿を見つけると同時に、抱えられている人物にも瞠目した。フードから靡く黒髪は孫娘であるに違いない。
 白ひげをなんとか傘下の海賊たちが受けとめ、離せ!という彼を皆が船へと連れて行く。混乱するなか、いち早く気づいたのは同じ革命軍のイワンコフであった。

「……ドラゴンが来ッチャブル!?まぁ、いいわ!!今のうちよ、ジンベエ!!麦わらボーイとエースボーイを!!」

「あ?」

 分断された境で海兵が多くいる広場の方へ異常な風圧がかかる。地に押し付けられるような力と共に息が出来なくなる海兵たちは、力をごっそり奪われていた。
 しかし、大将赤犬は未来の危険因子である義兄弟たちを逃がすつもりはないらしく、追撃をしていた。エースが対峙していたが赤犬の狙いはルフィに移動したらしく、マグマを纏った拳がルフィに差し掛かった。エースは「ルフィ!!」と声を荒げながら、無茶をし続けたせいで動けないルフィを庇おうとした時、ありえない風圧が赤犬に掛かった。

「ぐっ……なんじゃあ…」

 拳は届くこともなく、赤犬は地面に押し付けられていた。あまりにも突然なことに、覚悟を決めていたエースは来るであろう攻撃が来ないことに振り向いた。

「………は?」

 疑問を抱くのは当たり前だ、赤犬を始め、近くにいる海兵たちがなにかの圧を加えられて地に伏しているのだから。

「なんだ……?!」

「エースさん、ルフィ君!今のうちじゃ!!」

「エース!!オヤジも無事だ、早く船に!!」

「あ、あぁ……いくぞ、ルフィ」

「ワリぃ……エース…」

 しかし限界に近いルフィは体力もなく、走るのも辛いようで、ジンベエが抱えてくれた。エースも赤犬を警戒しながら、振り向くも赤犬はとある方向を見ている。怒りでボコボコとマグマを沸かせ、そちらへとんで行った。
 そちらに目をやると風が渦巻いているのが見えた。いったい、誰なのか?と疑問を抱く。しかし、ソイツは海兵たちを狙っているようだった。

「……ありゃあ、誰だ…?」

「分からんが、相当の手練れのようじゃな」

「ドラゴンが来っチャブルよ」

 いきなり現れたデカい顔にエースは驚いた!デカい顔にもだが、ドラゴンという名前にも。

「は?」

「てっきり、ヴァターシ、ヴナァータも麦わらボーイと同じでドラゴンの息子だと思ってたチャブル」

「……」

 エースはその言葉にぐっ、と唇を噛んだ。出生の秘密が全世界にバレてしまった、自分だけではなく、ルフィのことも。しかし、それでも仲間たちは自分を救出しようと頑張ってくれた以上、生きたいと願っている。

「だけーど、違うと分かっているならどーして、此処にドラゴンがいるのかしーら?」

「ルフィ君を助けに来た、とか」

「麦わらボーイがここに来るとは普通は思わないし、考えないナッチャブル!」

 ジンベエが抱えているルフィを眺めながら言うも、ドラゴンは総司令官なのよ!という顔がデカい人間イワンコフに、エースも何故だ?と不思議で仕方ない。海兵たちの追手はあるものの大将たちではないから、なんとか湾頭まで来れた。
 ルフィの様子を見るに大分重症を負っている…早く医者に見せねば、と思っていると急浮上してきた黄色い船が現れた。

「潜水艦!!?」

「麦わら屋をこっちに乗せろ!!」

「なんだ、テメェ……」

「麦わら屋とはいずれは敵だが悪縁も縁!こんな所で死なれてもつまらねぇ!!そいつをここから逃がす!一旦おれに預けろ!!おれは医者だ!!貴様らも乗れ、火拳屋に海峡のジンベエ!」

 エースとジンベエは顔を見合わせる。罠か、とも思うがこんな場所にわざわざ来るルーキーはそういない。医者だと言うならば、頷いて潜水艦へと飛び乗ろうとしたが、黄猿のビームがエースの身体を貫いた。

「ぐっ……!」

「おい!エース!?」

「くそ、黄猿か!!」

 ビスタが黄猿からの攻撃を躱し、そちらに攻撃をする。その間に医者と名乗った男に声をかける。

「“北の海ノースブルー”のトラファルガー・ローだな、エースとエースの弟、ジンベエを頼んだよぃ!!」

「不死鳥マルコか、分かってる!」

 潜水艦はそのまま潜航するも追っ手も来る。バキバキバキと海水が凍るも間一髪で潜水艦は海の中だ。

「青雉!!」

「あーらら、逃がす訳にはいかないんだけどなぁ」

「くっ!」

 見れば、裂けた広場を越えて海兵が迫っていた。奪い取った海軍の船と、隠していた船、傘下の海賊船に皆が乗り込んでいる。
 逃げるのか、と煽る者がいようとここは逃げるが勝ちだ。煽り耐性がない末っ子がいなくて良かったと思うも、また激しい暴風雨が吹き荒れる。
 革命軍のイワンコフたちも軍艦に乗り込んで、どうやら潜水艦を追いかけるようで既に出航している。後は殿を務めようとしている隊長たちが残りつつ、撤退しつつある。海軍としては、海賊王の息子を救出され、白ひげを潰すことも出来ずに面目丸潰れである。
 それもそのはず、この戦争に最も手を貸さなそうにない第三の勢力に邪魔されたからだ。元帥を始め、大将たちがその男がいる方向を睨みつける。ガープも“海軍本部中将”としてそちらを見つめるも、内心はエースとルフィが逃げおおせたことに安堵している。先ほどまで一緒にいた孫娘の姿がないのにも心配したが、ドラゴン一人ならばなんとかなるだろうも思っている。

「どういうつもりだ!ドラゴン!!」

「……答える義務はない」

「なんだと……!」

 センゴクにより革命家ドラゴンの素性はマリンフォードにいた者全員に知れ渡った。海賊麦わらのルフィを助けに来たのか?麦わらの兄だからエースも助けたのか?と海兵たちが疑問を抱いている。
 ガープはなぜ現れたのかはなんとなく理解していた。理由など簡単だ、頼まれたに過ぎないのだと。どういった経緯であの親子が出会ったのかは不明だが、愛してやまない我が子の願いを撥ね退ける親がいるだろうか。ガープとて葛藤したのだ。エースを助けられる場にいながら、見殺しにしなくてはならない立場に。しかし、ルフィに言ったように、いやな事などいくらでも起こる。息子が革命家に、孫たちが海賊になったように耐えがたいことばかりだ。だが、もう子供でもない彼らは自由に生きていて欲しいとも願っている。それが何故か自分と敵対する立場だというのが、解せぬばかりだが。
 沖を見れば、海賊船は遥か向こうに見え、軍艦は何故か沖に出れずにいるのは吹き荒れている暴風のせいだろう。波も荒いようだ。これがトドメだとばかりに、暴風雨に、風圧でメキメキと砲台が潰れていく。雨のせいか、能力者たちも力を思う存分出せないようだ。
 ローブを翻し、この悪天候の中を悠々と越えて、ドラゴンは姿を消した。収まる嵐に、サカズキは忌々しげにマグマを溢れさせていた。
 ──海軍の敗北
 明日の見出しは予想されたものだろう。ガープはガリガリと頭を掻く。自分も最早ただでは済まないだろうと思っている。しかし、インペルダウンから入ってきた知らせに、大海賊時代は終息するどころか、混乱に陥るのだと分かったのだった。


 イワンコフたちが乗り込んでいた軍艦の海兵たちは、海賊女帝によって石化されていた。ドラゴンたちが追いついた時には、九蛇の海賊船が潜水艦の横にあり、甲板には海賊女帝のハンコックの姿に、海峡のジンベエ、革命軍のイワンコフ、そしてハートの海賊団船長トラファルガー・ローの姿があった。イワンコフ以外がドラゴンの姿に驚いたものだったが、連れている女性にどこか既視感があった。

「やはり来てたようね、ドラゴン」

「……あぁ。ルフィの容態は?」

「……現状、生命は繋いでいる状態だ。だが、あり得ないほどのダメージを蓄積してる、まだ生きられる保証はない」

「…………ルフィ…」

「……火拳の方は」

「そっちもダメージはデカい。だが、麦わら屋よりはまだマシだろうってもんだが、容態が変わればまだ分からん」

「…………あぁ…」

 ローが答えるとドラゴンの隣にいた女は悲痛な声をあげ、手で顔を覆っていた。
 ドラゴンは娘の肩に手を置いた。口には出さないが大丈夫だ、と言っているのだろう。イワンコフはその娘を見ながら、ドラゴンに声をかけた。

「ドラゴン、ヴァナータが来るとは思ってなかっチャブル!」

「……あぁ、“革命軍”として来た訳ではないぞ」

「ヴァナタ、エースボーイとは面識あったっチャブル?」

「いや、ないな」

 始め、エースもドラゴンの息子だと思っていたため、ドラゴンは来るだろうと踏んでいたが、ルフィからエースは海賊王の息子だと聞かされ、目玉が飛び出たものだ。結果的には息子ルフィの危機に助けたが、それにしても前から知らなければ本拠地から来れるものではない。息子ルフィの思考を理解していたとしても、だ。
 そして、ドラゴンが連れてきた小娘を見てデカい顔を傾けた。視線に気づいたのか、ドラゴンはマリィの背に手をやると「この子は私の娘だ」と発言した。

「「は?」」

「娘?!」

「……と、いうことは……ルフィのお姉様?!」

「?…は、はい…」

「!!お、お義父様に、お義姉様……わ、わらわ、は、ハンコックと申します……」

 もじもじとする女帝に驚くも、マリィは「マリィです」と素直に答えると今度はジンベエが声をあげた。

「なんじゃ!ジンベエ!!わらわとお義姉様との話に入るでない!!」

「いや、だか……おぬし、もしやエースさんの……」

「……」

 どう答えたものかとマリィは悩みながら、コクリと頷いた。ジンベエがエースから散々聞かされていたのは何も弟ルフィの話だけではなかった。白ひげ海賊団には言えずにいた、恋人のマリィの話も聞かされていたからだ。
 ジンベエが「早くエースさんに会って欲しい」と言えば、ローが「今は絶対安静だ」と揉めていた。

「あ、の……ひと目、見るだけでも許してくれませんか?」

「……………ついてこい…」

「ありがとうございます!」

 父を見ると頷かれた。まだ待ってくれるらしい。マリィはローの後を追う。どうやら医療に特化した船だと思えた。医務室、いや手術室みたいな部屋に入れば、エースとルフィがベッドの上に横たわっていた。どうやらルフィの方が重傷らしく、痛々しい姿をしている。エースも攻撃を受けた箇所が痛々しい……。マリィは二人の傍に寄り、涙を静かに流した。

「……………助けてくれて、ありがとう…」

「……おれは医者、だからな」

「だとしても、戦場に来てくれて、ありがとうございます」

 危険を犯してまで、二人を救ってくれたことにマリィは頭を下げた。ローはふん、とそっぽ向いたが、マリィは涙を拭いながら微笑んだ。
 そして、眠るルフィの手を握る。エースを助けに来てくれてありがとうね、と唇を当てた。それから傍らに眠るエースにも手を添える。頬を撫で、ぬくもりがある事にじわりと涙が溢れる。

「………っ、エース……良かったぁ…」

 新聞を見た時の恐怖を思い出す。また知らないうちに誰かが死んでしまうのは嫌だ。これからのことを思うとマリィも身を隠さなければならないだろう。どうなるか分からない不安を胸に、部屋から出たのだった。
 甲板に戻ると、話は終わっていたようだ。ルフィとエースは女ヶ島で匿うことになっていたらしい。九蛇の船はその為にいたらしく、待たせたことを申し訳なく思った。

「顔は見れたか」

「はい」

 ドラゴンはマリィを促して、抱きかかえようとした。その様子にジンベエは声をかけた。

「どこに行くんじゃ?エースさんの傍におらんのか?!」

「お、お義姉様?!一緒に女ヶ島に…」

「この子は暫く匿うことにしっチャブル!ドラゴンの素性が知られた以上、この娘も海兵に狙われる可能性が高いからね」

「ならば、女ヶ島でも!」

「この子は我々が守る事にしたから心配することはない」

「し、しかし…!」

「な、ならば、連絡先を!!」

 ジンベエは困惑し、ハンコックが慌てながら、ドラゴンに教えてる間、マリィは名残惜しそうに船内への入口を見つめている。本当は傍にいたい。いたいのだ。だが、身に宿る生命を考えた時、エースに負担をかけたくはなかった。ドラゴン父もまた彼女の身に宿る生命に海軍がどんな手を使っても絶やしに来る事が目に見えていた。
 白ひげは生きているだろうから、そうそう世界の均衡は崩れないと思うが、海軍の敗北に世界はどうなるかは分からない。
 エースがまた白ひげの元に戻ることを考えるとマリィを一人にしてはおけない。エースが連れて行こうと考えても、出産を控えている身に忙しなくなる船では無理がたたるだろう。さすがに本拠地バルディゴには連れていけないが、イワンコフの国ならなんとかなるだろうと考えたのだった。
 だが、もしかしたら女ヶ島ならば彼女はもっと安心することが出来るのではないか、とドラゴンは思った。カマバッカ王国は心が乙女ばかりだが、これから出産を控える彼女の傍には女性がいる方が良いだろうと考えた。
 ドラゴンは再度マリィに訊ねた。

「本当に彼やルフィの傍にいなくて良いのか」

「……いたい、ですけど、この身体では迷惑になりますから」

 無事に目を覚ました彼らは海賊である上に、海軍は海賊王の息子エース革命家の息子ルフィを狙ってくるに違いはない。そんな彼らにとって後々身動きが取れなくなるマリィは弱点以外の何者でもない、足手まといになる人物である。
 それを理解しているからこそ、マリィはドラゴンの提案に乗ったのだ。

「お、お義姉様!!女ヶ島ならばそのような心配はいらぬ!わらわが七武海である限りは守れまする!」

「……ハンコックさん…」

「お義姉様がおられれば、ルフィもきっと喜ぶ!女ヶ島に飛ばされてきた時に心配しておったので!」

「ルフィが……」

 三年ぶりに会った弟は逞しくなったと思ったが、マリィにとっては変わらずかわいい弟である。ルフィに心配かけるなんてマリィにとっては驚くことだ。

「お父さん…」

「君が望むようにして構わない」

 胸元でキュッと手を握る。彼らの邪魔になりたくはない。けれど心配などかけたくはないのだ。

「ハンコックさん、いくつかお願いがあるのですが、呑んでいだだけますでしょうか?」

「お義姉様の頼みならば!!」

 ルフィに盲目しているとはいえ、申し訳ないと思いながら、彼女に身の上の事を話すとかなり驚いたのは言うまでもないし、甲板で話を聞いていたジンベエやトラファルガー・ローも驚きのあまり目を丸くしていた。ドラゴンが他言無用で頼むと圧をかけたのはいうまでもない。
 イワンコフは先にドラゴンに知らされていたが、あまりの事に目玉を飛び出させていた。そりゃ彼女を保護しなくてはならないと思う程に。しかし、イワンコフが庇護するというのは反故されそうである。イワンコフもまた革命軍の仕事をしなくてはならなくなる。それに愛する者の近くにいたいという彼女の気持ちは大事だ。

「…お父さん、ルフィとエースの事、ありがとうございました」

 ドラゴンが船を移動しようとした時、マリィがドラゴンやイワンコフたちに頭を下げて礼を述べてきた。
 ドラゴンはマリィを抱きしめると耳元で囁いた。

「元気な子を産むのだぞ」

「はい」

 父と娘として会った時間は生きてきた時間において、ほんの数分に過ぎないが、ドラゴンはマリィとルフィをきちんと愛してる。別れが惜しいがいつ海軍の追手が来るかは分からない為、彼らはようやく別々の航路を辿るように分かれたのだった。
 マリィは身体に障ると良くないので、九蛇の海賊船へと乗り移る。その時も、ジンベエやローに声をかけた。

「……エースとルフィのこと、お願いします」

 ジンベエはドラゴンとの約束を思い出す。白ひげへの伝言を頼まれているのだ。早く白ひげの元へと行きたい気持ちがあるが、エースやルフィの事、己の怪我の事で、動けるはずもない。
 彼らを見送り、自分たちもまた九蛇の海賊団に導かれて女ヶ島へと船を向けたのだった。


 ルフィとエースたちが女ヶ島の湾岸において、ようやく目覚めたと連絡が入った頃、マリィは九蛇城において、ハンコックたちと対面していた時だった。

「蛇姫様……!ルフィとルフィの兄君が目を覚ましたとの事」

「!ルフィ様が……!」

「本当か!!…はぁ…よかった!!すぐに会いたい!!」

「……はぁ……二人は無事なんですか?」

「……まだ安静のようですが、ルフィと兄君は起き上がれているようで……」

 あんな重傷だったのを見ていたマリィからすれば、目を覚ましたというのに安心しつつ、まだ身体は万全ではないのは理解していたが、もう起き上がっているとは思わなかった。
 ハンコックはすぐに会いたいと言っていたが、ニョン婆が諌めている。ここは“女ヶ島”、本来ならば男子禁制の女傑戦闘民の島だ。ルフィやエース、ジンベエとルフィたちを助けてくれたハートの海賊団という男性を湾岸に停泊させただけで特例中の特例なのだ。
 国の掟というものがあるにも関わらず、ルフィに恋をした“皇帝”ハンコックのおかげで、ありえない場所で彼らは療養出来ている。

「お義姉様、お義姉様もルフィと火拳に会いたいのではのないか?!」

 ニョン婆と言い合いしていたハンコックがマリィに問いかけてきた。客人という扱いであるマリィは笑みを浮かべた。彼女はハンコックたちに頭を下げた。

「お、お義姉様?!なにを……」

「場所を提供して下さったことを改めて感謝申し上げます」

「お義姉様、頭をあげてくださいませ!ルフィのことであるのだから礼を言われるまでもないのじゃ!」

「それでも、姉として礼をしない訳にはいきません。ありがとうございます、ハンコックさん」

 にこ、と笑う姿がルフィと似ていて、ハンコックは「…は、はぅ…」と頬を赤らめた。

「あと、以前お願いいたしましたが、ルフィとエースには私のことは秘密にしてください」

 マリィは腹部に手をやりながら、己の身の上を理解をした上で、ハンコックを見つめる。事の事態を理解したニョン婆はそのことに同意をする。
 ハンコックは思案しながらも、マリィの望みを叶えることにした。そして、彼女に対して、国の最上級客人とすることにした。マリィは遠慮していたが、ルフィの姉君ということで、皆が迎え入れたのだった。



 頂上戦争から二週間が経過し、“麦わらのルフィ”がまた事件を起こしたというニュースが世界中に駆けめぐる。誰もが一体なんだ?と考察する。
 マリンフォードに再び現れ『水葬の礼』をし、十六天鐘をするというので、もしかしたら、救助した兄、“火拳のエース”が死んだのでは?などと憶測がされた。戦争では海軍が敗北したと言えど、海軍自体はなくなるはずもなく、死傷者はあれど、増える海賊たちの対応で忙しないのだ。出払って海兵があまりいないマリンフォードに現れたのも何かしら意味があるはずだ、と新聞は色々と書かれていた。
 白ひげ海賊団もどうなっているのかは全く行方がしれない。ナワバリの島などには傘下の海賊船が見回りをしているとの話だが、白ひげ自身の姿は見られない。──死亡説が流れ、憶測は膨れ上がり、白ひげ海賊団には不名誉ではあるが、隠れ蓑にするには十分すぎる話題になっていた。
 ルフィと言えば、エースも重傷ではあったが、兄を助けられ、生きていて安心していた。しかし、やってきたレイリーにこのままでは新世界では生きていけないと諭され、提案された二年間の修行を決意し、仲間にも新聞で伝える事が出来たのだった。
 エースも白ひげ海賊団に戻っても良かったが、ルフィ同様すぐに動くにも支障があった。流れる噂を使い、ルフィと共に修行に励むことを決めた。無論、白ひげ海賊団には連絡済であり、白ひげオヤジの容態も無事だと知り、安堵した。後気になる事と言えば、シャボンディ諸島にいるはずのマリィ恋人の事だった。
 ジンベエはどう伝えるべきか、悩んだ。エースの恋人であるマリィはシャボンディ諸島にはいない。実は近くのアマゾン・リリーにある九蛇城にいるのだ。彼女はこれから先、大事な仕事が待っているので、彼らに会わない事を決めたというのをハンコックから聞かされた。しかし、事情を知らないルフィはエースに謝った。

「エース……ねーちゃんはシャボンディ諸島にはいねぇ…」

「…………は?」

 弟からの思いがけない言葉にエースは低い声を出した。話を聞くとルフィやルフィの仲間は、王下七武海のバーソロミュー・くまの能力により、どこへは分からないが皆バラバラに飛ばされたとの事だった。だからこそ、ルフィは女ヶ島へ飛ばされ、どういう経緯かは不明だが、女帝と仲良くなったという。彼女が戦争に参加したのはルフィの助けをする為であり、インペルダウンへと彼女の協力で潜入出来たのだ。
 レイリーもバーソロミュー・くまからは麦わらの一味を逃がしたいと聞かされていたから、他のクルーもどこかしらへ飛ばされているに違いないと確信してある。シャボンディ諸島で久しぶりに再会したマリィがいて、そこで船員クルー同様、くまによって飛ばされたのだった。
 その言葉にエースは真っ青になった。己の恋人が行方不明という事実に怒り、無意識に覇王色の覇気を出す。きっとこの無人島にいる獣の大半は気絶しているに違いない。レイリーは血は争えないと思う。間違いなく彼はロジャーの息子なのだと目の当たりにした。

「え、エースさん…落ち着くんじゃ!!」

「落ち着いていられるかよっ!!マリィ、マリィが行方不明なんだぞ!!」

 まだ癒えていない身体で海に出ようとするのをジンベエが押さえる。ここまで心を乱す程に、彼女を好いているのを理解した。

「無事じゃ!!マリィさんは大丈夫じゃ!!」

「はぁ?!」

「ほんとか、ジンベエ?!」

 エースとルフィはジンベエの言葉に詰め寄った。ジンベエは早くも話さなくてはならんのかと思いながらも、ドラゴンと話した事を伝えるしかない。

「お、落ち着いて聞くんじゃ……」

「ね、ねーちゃんになんかあんのか…?」

 不安がるルフィに違うときちんと否定しつつ、彼女が保護されているのを説明し、彼女の身の安全を考えて、とある島にいる事を伝えた。
 レイリーもつい最近、半年ぶりにマリィに会った事を思い出す。だが、彼女は一人の身体・・・・・ではなかったと考えた。ふとエースを見てから、顎に手をやる。見聞色の覇気と言う訳ではないが、伊達に海賊王の副船長をしていた訳ではない。

(今の情勢ならば、離して隠すのは適任だな…)

 さすが、革命軍総司令といった所だろうか、などとドラゴンを評価していた。しかしエースやルフィからすれば、自分たちが守るというのが主だったが、そもそもマリィを船から降ろしたのは“守る”為である。
 エースは頭をがりがりと掻いて、なんとも言えない気持ちになる。

「………………マリィは無事、なんだな…」

「エース?」

「あぁ、きちんと守られておるはずじゃ」

 アマゾン・リリーの女傑たちにだが。一抹の不安があるが、大丈夫だろう。

「…………分かった。ドラゴンはおめェたちのオヤジだ、ないがしろにはしねぇだろ…」

 なんせ、ルフィの危機にマリンフォードに来たくらいだ。ん?ルフィの危機だから来たんだよな??少し疑問になりながらも、そう思う事にしながら、エースはレイリーに向き合った。

「わるいが、おれにも修行つけて……くれませんか」

「ハハハ、とてもアイツの息子とは思えないくらいしっかりしているな」

「…………」

 あの男の関係者、ましてや右腕と呼ばれた元副船長と相対するのは初めてだった。父親ロジャーに対する嫌悪感をこの人に向けるのは間違ってはいるが、長年纏まりついてきた嫌悪はそうそう拭えたりはしない。生きてて良いと教えてくれたのは、弟と白ひげ海賊団──家族たち、そして、マリィだ。今すぐにでも会って彼女を抱きしめたいのに、それが出来ずにいるのはもどかしい。ならばさっさと修行を終わらせて迎えに行けば良い、そう考えたのだった。

「君は覇気はそれなりに使える。覇王色は鍛えるとかではなく、資質だからな。とりあえずは見聞色と武装色を鍛えていこう……まぁ、先ずは身体を癒やしてから、だな」

「……あぁ…」

 自分もルフィもまた身体には包帯が巻かれた状態だった。それはジンベエも同じこと。

「にしし!」

「どうした、ルフィ?」

「またエースと手合わせ出来るなんて、嬉しくてよ!」

「…………三年ぶりだな、ルフィとの生活も」

「おぅ!!」

 嬉しそうに笑うルフィの頭を撫でてやりながら、エースも口の端をあげたのだった。
 ジンベエは二人が修行を開始する前には、一足先に白ひげ海賊団へ顔を出してから魚人島へと戻っていった。白ひげもとある島で療養し、ジンベエからの話を聞いて、エースの修行に隊長格を行かせようとしたのは末っ子が気になったからだった。
 それよりも齎された情報に今すぐにでも革命軍を探そうとしたくらいだ。しかし、あちらの安全を考慮して、二年後を楽しみにしながら療養することになったのだった。



 始め、ルフィとエースはレイリーによる修行を一緒に始めていた。エースは覇気を使えているが、ルフィは覇気というものをそもそも知らないので、レイリーが1から教えていくが、独学で習得したエースもまた真面目に聞くことにした。「なるほど…」と呟くエースにレイリーは遺伝というものは怖いな、と思う。
 ロジャーは能力者でなかったにも関わらず、最強の覇気使いであった。それは二人を鍛えてきたガープも然り。なるべく能力に頼らずに覇気を鍛えさせることにした。覇王色の覇気は成長に任せるしかないが、見聞色も武装色もとんでもないことになると思い、レイリーは愉しくなる。
 しかし、二人一緒にとなるとついついエースがルフィを助けてしまうことが多くなり、二人は早々に別々の湾岸へと分けられたのだった。
 エースは半年で基礎を改め、着々と力を付けていった。成長速度は確かに恐ろしいものであるが、それはルフィも負けてはいない。一年半で大体のことを教えられたルフィとエースは今度は二人で修行する日々に入った。
 レイリーは女ヶ島へと顔を出した。シャボンディ諸島まで船を出して欲しかったといった思惑があったからだ。九蛇城に招かれ、ハンコックや娘たち、ニョン婆たちに挨拶をと思っていた矢先に幼子に出会った。よたよたと歩く幼子がいてもおかしくはない。女ヶ島といえど外海へ出た者が身籠って戻って来る女人が年に何人かいる。
 しかし、レイリーの勘がそうではない、この子は女ヶ島の者ではないということを見抜いた。そして、どこか懐かしく感じるのはその子が誰かに似ているからというものがある。

「エマ〜?」

「う?」

 聞き覚えのある声にレイリーは近づいてくる人物を理解し、じっ!と見上げてくる幼子を見ると「ははは!」と声を高らかにあげた。

「…レイリーさん!!」

「やぁ、マリィ!無事でなによりだ!」

 笑い声に慌てて来たマリィは、よたよた歩いていた幼子を抱き上げた。「マ〜!」と喜ぶ幼子に頬を寄せる彼女は綺麗だった。レイリーはマリィに近寄った。彼女の腕に抱かれている幼子をみて、眸が和らぐ。「う?」と見つめてくるまんまるな眸は可愛らしい。しかし、角度次第では父親に似てもいる。癖毛なのは父親似なのだろう。

「ははは、なんて愛らしい子だ」

「抱っこしますか?」

「小さな子なんて何十年ぶりかな…」

 むかしを思い出し、幼子を抱き上げる。きょとんとしているのを見て、人見知りしないのだな、と思いながら笑いがこみ上げる。
 レイリーは不意に目頭が熱くなる。なんという巡り合わせなのだろうと思う。『おれは死なねぇよ』そう言った相棒は病に侵され、自首をし、処刑台へとあがった。“海軍の英雄”ガープに引き取られ、人知れずに育った相棒の息子もまたその血筋故に処刑台に上がるも、弟や仲間の助けにより、救出されたのだった。
 そして、今自分に抱かれている幼子は、かつて相棒を執拗に追っていたガープと相棒の血を引き継いだ稀有なる次代の宝だ。
 敵対していたガープとの縁がありすぎる。海兵と海賊。誰が思うだろうか、あの敵対していたガープとロジャーが将来家族になるなんて、ロジャーの息子がガープの孫娘と恋仲になるなんて、レイリーは面白くて、楽しくて、嬉しくて、眦に涙が浮かぶ。
 「あーう!」とぺちぺちと頬を叩いてくる幼子に「良い女になるんだぞ!」と掲げれば、マリィは驚き、笑みを浮かべた。
 マリィはエースとルフィの話をレイリーから聞かされた。二人の、主にルフィの師匠になったことに感謝をしていると、私も楽しかったよ、と笑ってくれたのでマリィも笑ったのだった。エースとも話をしたと言われ、きちんと話せたことを知り、内心安堵していた。

「きみは、本当にエース彼の事が好きなんだな」

「………はい」

 恥ずかしげに微笑むマリィに、レイリーも微笑む。こんなに愛してくれる人がいるというのに、彼は自己肯定感があまりにも低かったのは父親ロジャーのせいだというのもなんとも言えない。しかし、それは頂上戦争で覆されたはずだ。彼はルフィ同様愛される人間だった。覇王色の力かと言われてしまえば、それは人を惹きつけるからどうしようもない。エースとルフィが義兄弟だとはとんでもないものだ。

 やがて、呼ばれたハンコックと妹たち、ニョン婆も交えてルフィたちの修行の経過を説明し、自分は先にシャボンディ諸島へ戻る旨を説明した。

「ルフィたちはまだ半年修行の予定だ。半年経過したら迎えにいってくれ」

「そんなことわかっておる……ルフィは強くなったか?」

「あぁ、彼は強くなる」

「さすがわらわの運命の人じゃ!」

 ほわほわとするハンコックが可愛らしくて、マリィは思わず笑みを浮かべていると、レイリーが話しかけてきた。

「マリィはどうする?ルフィやエースと一緒に戻ってくるか?」

 その一言にマリィはあやしていた手を止めた。指で遊んでいたエマは「うー!」と唸っていたが、マリィはそのまままた指遊びを続けた。
 マリィは悩んでいた。彼女が子を産んだのを知るのは女ヶ島にいる人たちと、父ドラゴンと、ついさっき知られたレイリー、身籠っていたことを知るのはジンベエとトラファルガー・ローと少ない。少ないが、生まれた娘の血筋は隠しておきたいのだ。
 無論、エースに会わせたいという気持ちは大きいが、無断・・で産んでしまったことに後ろめたい気持ちがある。彼の生い立ちを思うと血を遺すというのは彼にとって地雷にならないのではないのか、と危惧してしまうことなのだ。
 まして、今後、エースは白ひげ海賊団に戻るにしても子供を連れていっていいのか、と不安になる。頂上戦争あんなことがあったのだ。白ひげ海賊団が仲間に手を出されるのは赦さないとはいえ、誰もがエースを助けたいと思っていたかは不明だ。傘下の海賊団ほどどう思うかさえ分からない。エースと白ひげの命が無事だったが、亡くなった者もいるのが事実なのだ。情勢はどちらにしろ厳しいだろう。

「レイリーさん、シャボンディ諸島へご一緒してもよろしいですか?」

「お義姉様!?こ、ここを出てゆかれるのか?!」

 そんな…とショックを受けるハンコックにマリィは手を握る。

「ハンコックさんには大変良くしていただいて、感謝しております」

「お義姉様……」

「だけど、いつまでも甘える訳にはいけません」

 女人しかいない島というのはお産に関しては、至れり尽くせりだった。お産を経験した者もいるせいか、どうしたら妊婦が快適に過ごせるか、出産後のケアもこれ以上ないほどであっただろう。まして、ハンコックの客人であれば、上げ膳据え膳である。生まれた赤子も皆が面倒を見てくれ、マリィが起きたのはおっぱいを与えるくらいだった。
 彼女が起きれた頃からは、オムツ交換やお風呂、次第に離乳食なども教わりながら、皆が娘とマリィに手厚くしてくれていた。しかし、いつまでもそうはいかないのだ。
 マリィは流されそうに見えて、決めることは決める人間だった。レイリーとシャボンディ諸島に戻ると決めた以上、それは決定事項である。ただ、気になることと言えば、いつエースたちに娘を会わせるか、である。しかし、出立前に会いに行けば引き止められるのが目に見えている。
 残り半年、シャボンディ諸島で会う事を決め、九蛇の海賊船に乗せられ、女ヶ島を出たのは二日もなかった。シャボンディ諸島までには一週間かかり、レイリーはここぞとばかりに幼子を独り占めをしていた。
 ロジャーの妻、ポートガス・D・ルージュとは会ったことはなかった。会ったことがあるのはガープくらいだろう。自分たちも知っていたら保護しに行ったであろうが、ロジャーが妻子を託した相手はガープだった。海賊と海軍、変な所で信頼関係があったことが面白い。
 シャボンディ諸島へ無事に付くと、島自体がどこか荒れているようだった。急いで、シャッキーの店へと行くと、あのシャッキーがマリィの姿を見て涙ぐんでいた。二年もの間、音沙汰なかった娘同様に可愛がっていたのだ、当たり前である。

「マリィちゃん!無事で良かったわ……可愛らしいわね」

 タバコが落ちないように灰皿に押しつけると、彼女が抱く幼子を見つめる。
 そして、シャッキーからは世界情勢を色々と聞かされた。一年前、白ひげ海賊団と黒ひげとの衝突の記事があげられていたが、結果的には黒ひげが撤退したとのことだが、黒ひげ海賊団が解散した訳ではないようだった。
 まだまだ分からない世界情勢に、人々が不安になるのは当たり前である。海軍本部があったマリンフォードは新世界側へと場所を移動したという。ガープとセンゴクの名前は残っているらしいが、事実上職務は離れたらしいと聞かされた。

「……そう、だったんですね…」

 凪の帯カームベルトにある女ヶ島にはニュース・クーは飛んで来ないので、情報という情報はほぼ入ってこない。まして、海軍の内部の話はそうそう新聞に載るものではないので、マリィは驚いた。むしろ、祖父であるガープは無事なのかと懸念していたのだ。あの場に現れ、戦場を混乱させたのはモンキー一家であるからだ。責任を取らされるのでは?と不安だったのだが。
 思考を読み取ったのか、レイリーは「ははは!」と笑った。

「ガープが破天荒なのは昔からだ。それでも処罰されないのは、アイツが海軍の“英雄”と呼ばれていることと、アイツを慕う海兵か山程いるからだ……なんだかんだと憎まれないヤツだよ」

「……はぁ…」

 祖父がかつて敵対していた海賊からそんな事を聞かされるとは思っていなかった為に、祖父の偉大さを知るも、レイリーが「だがなぁ〜」と言葉を続けた。

「ロジャー同様規格外だらけだったよ……当時の海賊たちからは“悪魔”と称されていたしな!ロジャー、ロックス、チンジャオ、シキ、白ひげ……数え切れない海賊と拳ひとつで渡り合うものだからな」

「ふふっ…」

「……うん、やはり君は笑っているのが綺麗だな」

「……はぇ?」

「ははは!とてもあのガープの孫とは思えない可愛らしさだ!」

 揶揄うレイリーにマリィは頬を少しだけ膨らませた。それでも色々な話が聞けて嬉しくもなる。




 頂上戦争から二年が経過をした。当時、麦わらのルフィが『水葬の礼』をしたことで、火拳のエースや白ひげことエドワード・ニューゲートが死亡したのではないか、そして二年ものの間話題に上がらない麦わらのルフィの死亡説も流れていた。時間の経過とともにそれは真実味を増し、そうなのだと思わせる頃、シャボンディ諸島において、“麦わらの一味”募集というビラが広まった。
 無論、“麦わらのルフィ”を知る者は、彼がそんなやり方で仲間を集めようという考えはないことを理解している。騙されそうな素直なクルーはいるが、大丈夫だろう。
 そして、偶然にもルフィからの『三日後ではなく、二年後シャボンディ諸島で』というメッセージを正確に読み取り、散り散りになった仲間たちは自らの修行を経て、再集結をしていた。
 世間は麦わらの一味が復活した事と、誰もが海賊王の血は絶たれたと思っていた、ゴールド・ロジャーの息子“火拳のエース”の復活に慄いたのだが、当の本人たちはそれどころではない事態に驚きの声をあげたのだった。
 彼女と事情を知る数人がやたら楽しそうにしていたので、怒るに怒れずにいたが、当事者の一人であるポートガス・D・エースはただただ地に伏して涙を流し、愛する己の家族・・を抱きしめたのだった。

「…………エース、」

「………マリィ、」

「「会いたかった………」」

 サウザンド・サニー号の甲板で抱き合う二人に、船長のモンキー・D・ルフィは「いかったなぁ、エース、ねーちゃん」と嬉しそうにしていた。そして、幼子に服を引っ張られているのを気づき、おぉ!と目を輝かせるとたかいたかーい!と空中に飛ばせてしまい、エースやマリィ、ナミやロビンにこっぴどく叱られた。当の幼子はキャッキャッと喜んでしまい、ルフィが「喜んでるしいーじゃん!」なんて言うものだから、怒った姉に愛の拳骨をお見舞いされてしまった。
 ルフィにとって掛けがえない、可愛い娘になったのはまた後々の話であった。





END


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