【if】白ひげ海賊団へご挨拶に行きます

ONEPIECE

 感動の再会をしたものの、麦わらの一味を乗せたサウザンド・サニー号はコーティングされ、いざ魚人島へと目指した。
 “魚人島”まで乗せて貰うことにしたエースは未だに涙が溢れていた。それを茶化すのは船長ルフィくらいだが、彼は今、船員たちとこれから先のことを話している。エースといえば、シャボンディ諸島に着いた時点で、マルコに電伝虫で「今から魚人島に向かう」などと簡単に連絡し、白ひげ海賊団側と魚人島で落ち合う予定となった。あまりにも急な話に相手は急いで準備するから待ってろ!と騒いでいたが、エースは「おぅ!」と答えるだけだった。
 簡単な言い分にそれだけでいいのか、とも思うが彼が(一応)常識人であれど結局は船長ルフィの兄貴だしな…との言葉に納得するというのも怖いものだ。
 しかし、そんなことよりもエースは目の前の幼子に一喜一憂していた。心配かけていた恋人と会うのは二年半ぶりである。最後にあったのは黒ひげを追いかけている途中、シャボンディ諸島に寄った時だった。
 心配する恋人に、黒ひげに始末をつけたら今度こそ白ひげ海賊団に連れていこうと伝えていたのだ。嬉しいと喜ぶ彼女が愛おしくて、朝まで何度も身体を重ねた。まさか、黒ひげに敗北し、それがきっかけで海軍本部との戦争の引き金になるとは当時思いもよらず、死を覚悟したエースは己が死んだ後、彼女が後を追わない事だけを願っていたのだ。
 頂上戦争では鬼の子である自分を助けに来てくれた弟ルフィや仲間たちによって、自分は生きててもよいのだと教えられた。まさか、弟に救い出されるとは兄としてどうかと思うが感謝しかない。他にも、オヤジや白ひげ海賊団の仲間、傘下の海賊たち、ジンベエに治療をしてくれた“北の海ノースブルー”のトラファルガー・ロー、療養先を提供し、匿ってくれた王下七武海の海賊女帝 ボア・ハンコック。そして、何故か現れた革命家ドラゴン。ルフィが連れてきたイワンコフデカい顔が「ドラゴンが来た」と言っていた。
 ルフィとは義兄弟とはいえ、ドラゴンとの面識はない。むしろ、ジジイから教えられたマリィとルフィの父親が世界最悪の犯罪者である革命家ドラゴンだなんて思わないだろう。しかし、むかし、マリィが言っていたのは自分と似た境遇だったからなのだとその時知ったのだった。
 けれど、ドラゴン彼が来てくれなければ、勝敗は変わっていたとエースは思っている。己は強いと思っていたが、ジジイに勝てない自分が大将たちを抑えることは出来ても倒すことは出来ないと今では分かる。二年間、元海賊王の右腕からしごかれてきたから余計にだ。自分がまだまだだったことを。
 閑話休題。今は過去のことはいい。それよりも大事なものは目の前にあった。
 マリィの足元に隠れて、ちらちらとこちらを見てくる幼子は彼女が産んだ、自分との子供だという。いつの間に?!と問えば、彼女は女ヶ島に匿われていたという。教えてくれれば、と言ったものの「修行の邪魔はしたくないもの」とあっさりと伝えてきた。子供は一歳半、エースに身に覚えはある。自分のした事に落ち込みたくはなるが、マリィに「迷惑だった?」と言われて、情けなくなる。
 そんな訳はない。マリィとの子供なんてそんな夢は見てはいけないものだと思っていた。自分に流れる血は世界中から疎まれているのを理解していたから。自分が受けた苦い思いを我が子にさせたくはなかった。だけどエースが愛した女はそんなこと気にしない、構わない。海賊王の血筋なんてどうでもいい、私はエースとの子供が出来て嬉しかったのよ。そんなことを言ってのける彼女をエースは抱きしめるしかなかった。
 彼女の肩へ頭を乗せて、ぐりぐりと押しつけていれば「泣かないでよ」と優しく頭を撫でられた。こんな風に自分を受け入れてくれる彼女には頭は上がらない。

「…………愛してる…」

「っ、…………私も、愛してるわ」

 好きだ、とは何度も伝えてきたが、愛してるとは言えずにいたのはそれだけじゃ足りないと思えていたからだ。愛してる、そんな言葉じゃ足りないくらいに彼女を愛している。

「あ、あーー!」

 盛大な愛の告白に、麦わらの一味は赤くなったり、微笑ましくみていたりとしていたが、甲高い声が抗議するように上がる。見れば、エースの足をぽかぽかと叩く娘の姿だ。

「お母さんを泣かされたと思ったんじゃないかしら」

 クスクスと紹介された考古学者ニコ・ロビンが言えば、なるほどとエースは納得した。足元の娘の脇を抱えると、目線を合わせる。
 自分ではマリィに似ていると思うのだが、ルフィは「エースにも似てるぞ」と言ってくれる。髪は、くるんと少しうねっているのは自分に似てしまったのだろう、マリィに似ていればサラサラだったろうに…なんて思うが、エースは破顔するしかなかった。

「……と、とーちゃん、だぞ…」

 なんて言えば良いのか分からず戸惑いながら話せば、聞いていたルフィの仲間がどっ!と笑う。マリィも可笑しそうに笑い、ルフィは「あっひゃひゃひゃ!」と腹を抱えて笑うから、覇気を纏った拳骨を食らわせてやった。

「……とぅちゃ?」

「あぁ、父ちゃんだ!」

「マんマ!とぅちゃ!」

「……パパって感じじゃないものね」

 「おれがパパなんて柄じゃねぇだろ…」そんな呟きに「それもそうね」と同意するマリィの眸には笑い涙があった。
 ルフィが「おれも抱っこしてぇ!!」と言うものの、迫ってくる海賊船があり、一人乗り込んで来たヤツがいたがルフィたちがなんとかしていた。
 前も魚人島へ行く際にみた光景だが、それをまたマリィと、そして娘と弟ルフィと見れるのは感慨深い。しかし魚人島へと道は危険でもあるので、ルフィではなく、航海士のナミに注意をしておいた。
 多少のトラブルをルフィが引き寄せるのかは不明だが、焦りはしたもののなんとか魚人島へとたどり着いた。変わらずオヤジのナワバリのままだが、反乱分子はいるし、ルフィは人魚姫を連れ出すし、ジンベエも加わり、敵対した。魚人島が破壊される寸前までなったが、海王類が巨大な船ノアを止めてくれた。もはやなにがなんだか分からないままだが、エースとしてはマリィと娘が無事でなによりだった。
 ルフィへの輸血をジンベエが協力してくれたこと、ルフィがジンベエに仲間になるよう願ったこと……本当にたった一日でこんなに色々と起きるのは昔から変わらない。
 ジンベエはマリィと娘エマを見て「無事に生まれてたんじゃなぁ」と呟いたのを聞き、エースは「知ってたのかよ?!」と思わず声を張り上げた。ジンベエは困った顔をしていたが、マリィが「秘密にして欲しいとお願いしたのだから怒らないで」というのでまたしても怒らずにいる。当事者のおれより娘を知る奴がいて、なんかムカついただけだ。
 魚人島で国をあげての宴会中、エースはそわそわとしていた。横にいたサンジが「マーメイドゥ〜」とハイテンションだったが、そうではない。そろそろ、白ひげ海賊団が来てもおかしくはないのだ。
 エースとしては、オヤジたちに挨拶をし、新世界へ戻ったら、傘下の海賊船にも顔を出さなくてはならない。あの戦争で亡くなった奴らもいる。その詫びにも行かねばならないだろう。海賊としての仁義を重んじなければならない。
 ふと、当たり前にマリィたちを連れて行く気でいたが、オヤジたち驚くだろうなぁなんて思いながらも、ちとマズいのではないかと思えてきた。何も伝えていないのだから。
 自分のした事を思えば、これから自分は忙しくなるのが目に見えている。そんな中妻子マリィたちを連れて行っていいのだろうか……しかし、また離れるなんてとんでもない。うーん……と悩むも、まぁ、なんとかなるだろうという考えになる。まさか、ルフィの船に乗せて置く訳にはいかないだろうし、きっと白ひげ海賊団アイツらならマリィたちを歓迎してくれるはずだ!うんうんと頷くエース父の横でエマはきゃっきゃっと人魚たちのダンスを楽しげに見ていた。
 楽しい時間も酔いが回る者が増えてくる。まだ宴会は続いているが、麦わらの一味はホーディたちと戦って疲れも出たのだろう。思い思いに休んでいた。

 新世界でエースを待っていた白ひげ海賊団は彼から『今から魚人島に向かう』という要件のみの電伝虫に、こっちも魚人島に向かうから待ってろ!と告げた。
 白ひげことエドワード・ニューゲートは愛する数多あまたの息子の一人であるエースが“北の海ノースブルー”のルーキー、トラファルガー・ローにジンベエ、弟共々救助されたことをベッドで聞かされた。死に場所にする気だったマリンフォードだったが、何者・・かの介入により、白ひげは愛する息子たちの元へと戻された。
 あの戦争直後は白ひげも負傷しており、ほぼほぼマルコに任せきりにしていた。本来ならば家族や傘下の海賊たちの弔いもしなくてはならないが、そこは赤髪が率先して手厚く葬ってくれたと聞かされた。
 戦争から約一ヶ月後、まだ怪我が癒やされていない白ひげの下にジンベエがやって来て、エースの事、修行の件などを聞かされた。よりにもよってレイリーに修行か、と思ったがレイリーはどちらかといえば、エースの弟である“麦わらのルフィ”を鍛えたいようであったという。エースは便乗したといい、苦手であろう詫び文を受け取った。強くなって戻る!簡潔に言えばそんな風に書かれていて、マルコがこめかみを揉んでいた。
 そして白ひげはジンベエから人払いを願い出された。マルコたちは渋ったが、相手がジンベエである以上は信頼出来る。白ひげは彼からもたらされた話に思わず笑ってしまい、身体に痛みが走ったが、そんなこと些末なことである。
 あの戦争で介入してきたのは、革命家ドラゴンであったこと。そして、ドラゴンの娘とエースの間に子供が出来ていることを知らされていたのだった。だからこそあの戦争でドラゴンは“革命家”という肩書を捨て、娘、ひいては生まれてくる孫の為に白ひげたちに手を貸したと聞き、笑ったのだった。世界最悪の犯罪者であろうと家族は大事らしい。
 白ひげも怪我など一刻も早く治す気になったのは、生まれてくる義理の孫に会う為である。白ひげ海賊団は今は女の戦闘員は乗せないが、所帯を持つことは禁止していない。ただ、海賊に付いてきてくれる女が然う然うそうそういる訳ではない。ナースは何人もいるが、彼女らが仕えたいのは白ひげオヤジ様であり、デリカシーのないヤロウ共には興味がないという、なかなかの女傑たちである。
 海賊である以上皆が所帯を持とうとしないだけで、過去に所帯を持ち陸へと定住を決めた息子たちもいる。
 エースの場合、どうするかはエースとその嫁次第であるが、エースを考えるとアイツは船に乗る気でいるはすだ。ならば、その家族も船か、と考えると白ひげの口角があがる。昔を思い出す、小さな子どもがいたあの頃の事を。
 エースから「新世界に戻る」と連絡が入ったと聞き、子供のことはどうした?!と思いながらマルコたちは何も言わないので、首を傾げた。

(…………まさか、振られたとかじゃあねぇだろうな…)

 もし、そんなことになったのであれば、末っ子エースを殴ってでも妻子を連れてきて貰わなければならない。
 ましてや嫁は頂上戦争で助太刀してきた革命家ドラゴンの娘で、あの麦わら小僧の姉ときている。麦わら小僧はエースとは盃を交わした義兄弟というし、頂上戦争で恩義はある。エースが惚れ込むくらいならばさぞかし良い女に決まっているだろう。礼は尽さねばならん。
 白ひげは“可愛い家族”が増えるのを楽しみにしてきたのだ。孫の顔をみるまで死ねるか!と治療を受け、酒も我慢出来る程度を我慢した。それがようやく報われる。末っ子エースが戻れば宴会は必須、きっと嫁と孫も来るであろう現実を楽しみにしている。
 幹部や船員たちも末っ子エースが戻ってくるのを楽しみにしている。ティーチの件がなければ、鍛えてやろうと思っていただけに、よりにもよって冥王レイリーに鍛えられてしまうとは。とにかく、白ひげ海賊団は両手もろてをあげて、末っ子エースの帰還を楽しみにしていたのだった。
 新しいモビー・ディック号が魚人島へとついた時には、すでに宴も佳境に入っていた。ネプチューン王が白ひげの登場に驚きながらも彼らを歓迎し、事の次第を聞かされた。
 ナワバリの島でそんなことがあったのかと驚くが、またしてもエースの弟、いや、“麦わらのルフィ”に助けられてしまった。エースが白ひげ海賊団仲間が来たことに喜びながらも、その場で膝を付いて頭を下げた。まずは謝罪をと、していると、白ひげを始めとする幹部たちが「そうじゃねぇだろ」と言う。
 ここは腹でも掻っ捌いてしまうべきか、と思っていると、白ひげが声をかける。

「エース……」

 その器の大きさに、エースは戸惑った。勝手に、勝手なことばかりをしてきたのに、戸惑ってしまう。言うべきことがあるのに言葉が出てこない。口を開けては、閉じるを繰り返してしまう。そんな末っ子の気持ちなんて皆分かるのだろう。不器用で意地っ張りな弟だ。

「どうした、エース」

「……オヤジ、みんな………た、ただいま……」

 そう告げた瞬間、オヤジのデカい手が頭に乗る。

「あぁ、よく戻ったな、エース」

 泣きそうになるのを堪らえる。だって、すぐ近くで弟が見ているんだ、泣き顔なんて見せてられない。だけど、ぽろり、と熱い滴が乾いた頬に伝う。

「エース、泣いてんのかぁ」

「こら、ルフィ空気読めよ!!」

 ルフィが船員に諌められているが、生温かい目で見ないで欲しいと切実に願う。

「…………ところで、エース」

「な、なんだ、オヤジ」

 白ひげオヤジからの声がけに、エースは涙を拭うと、どうした?と見上げる。座っていても見上げる彼は立つと尚更デカい。
 チョッパーやウソップたちはあまりの大きさと威圧さにゾロやサンジ、フランキーの後ろに隠れている。ルフィなんかは相変わらずデケェおっさんだなぁ〜と失礼な事を考えているが、ルフィが白ひげ海賊団に恩があるように、白ひげ海賊団もルフィには恩がある。最悪の世代と呼ばれるルーキーであるルフィだが、一端の船長である。片や大海賊時代以前からを今日こんにちまで海賊王の椅子の前に君臨する四皇 白ひげであるが、彼はルフィの事を気に入っているのは誰の目から見ても分かりやすい。

「そうだ!」

 ルフィは何かを思い立ったようにその場から離れる。ナミが「ちょっと、ルフィ!」と声をかけるが、とある部屋へと向かったので、はぁ、と大きなため息を吐いたのだった。先ほどまで人魚やしらほし姫を誘拐しようとした、カリブーという海賊はぶっ飛ばしているから、大丈夫であろう。
 エースは白ひげオヤジの様子に首を傾げ、マルコたち幹部もまたどうしたのか、と疑問を抱いていると、ダダダっ!と走ってくる足音が聞こえた。

「エマ〜〜、見てみろよ!でっけぇおっさんだぞ〜!」

「うきゃあ?!」

 麦わらの一味も、白ひげ海賊団も、そしてエースが振り向いた先にはルフィが幼子エマを肩車して走ってくる姿だった。

「ルフィ!!」

 エースが思わず声を上げるも当のルフィは姪っ子が喜んでいると思い、そのままぐるぐると回りだす。さすがに幼子にそれは…と白ひげ海賊団のクルーたちは思うも、エースがそれを止めようと必死の様子にどうしたんだ?と首を傾げる。
 白ひげはルフィが肩車している子どもこそ、会いたいと切実に願っていた孫だと理解した。

「おい、麦わ「ルフィっ!!」」

 白ひげが話しかけようとした所で、怒鳴るような声がルフィを咎める。みれば、どことなく麦わらに似てなくもないが、どちらかといえば綺麗な女性が、ルフィへと近づいていく。
 なんだ、なんだ?と白ひげのクルーたちは思うも麦わらの一味はこの後の展開は予想出来た。ロビンが能力を使い、ルフィから幼子エマを引き離すと同時に女性から拳骨を食らったのだった。

「……イテェ…」

 ルフィは“超人系”の能力者でゴム人間であるのを知っている白ひげ海賊団は打撃効かないんじゃないか、と思うが当の本人の頭にはたんこぶが重なっていた。

「せっかく寝そうだったのに急に連れて行かないでよ!」

「……ご、ごべんなざい……」

「…はぁ…私も強く殴りすぎてごめんね」

 たんこぶの部分を撫でる女性に、彼女も麦わらの一味なのか?と思われているなか、エースはロビンからすっかり目を覚ましてしまったエマを受け取ると、マリィの腕を掴み、白ひげの前へと連れて行った。

「オヤジ!紹介するぜ、おれの嫁のマリィと娘のエマだ!」

「「「「はっっ???」」」」

「ちょっ…………は、はじめまして、マリィです」

 急な紹介に白ひげ海賊団は驚くが、白ひげはグラララララ!と声をあげて笑った。エースらしいといえばエースらしい紹介である。マリィもマリィであまりにも急なことに目を晦ませた。
 ジンベエから話は聞いていたとはいえ、まさか本当に末っ子エースに子どもと嫁が出来ていようとは……。しかも相手は麦わらのルフィの実姉、であるならば彼女もまた“英雄”ガープの孫であり、自分たちを救った“革命家”ドラゴンの娘でもある。
 最早ただの一般人では扱いようがない存在であるのは身内のせいでもあるが、なにしろ白ひげの愛する息子の子を産んだのだ、どのみち彼女はこれからどうやっても海軍や世界政府に狙われる存在になる。
 白ひげはゆっくりと彼女と彼女の腕に抱かれている幼子へと手を伸ばした。女子おなごの扱いなど難しい。ましてや普通・・の女子おなごなら尚更だ。
 マリィは白ひげの行動の意味を汲むと、エマを抱えなおし、触れやすいようにした。大きな指先がちょん、と幼子の頭に触れると、きょとんとした顔をされた。ホッとしたのも束の間、ぎゃあぁぁん!!と大きな泣き声が響き渡る。

「……………」

「「「お、オヤジぃぃぃ!!」」」

 泣き叫ぶ幼子に白ひげオヤジが凹んだのは言うまでもなかった。
 今まで人見知りせずにいたのにどうしたんだ?とエースは首を傾げてみたが、普通に考えれば、座っていても巨体である以上、幼子は泣くモノである。まして、エマが初めて「じぃじ」と発言した相手はシルバーズ・レイリーであることをマリィ以外誰も知らないのだ。レイリーはシャボンディ諸島に戻ってからというもの、エマの相手をしていて、懐かれていたのだ。
 それが、いきなり巨体なおじいちゃん・・・・・・に撫でられては驚くものである。
 感動のご対面はあっけなく、幼子の泣き声により終わってしまった。マリィはもう一度愛娘を寝かしつける為に今度はサニー号へと戻っていったが、さて、これかどうするかの話し合いになった。
 エース曰く、マリィとエマは自分の妻と子どもであるから連れていくと主張した。当然と言えば当然だが、エースはこれから頂上戦争での挨拶参りがあった。ならばマリィやエマを知らない船に乗せておくことは出来ない!とルフィに入れ知恵をした船員クルーによって、話し合いはなかなか進まない。
 しかもルフィはジンベエに「仲間になってくれ!」と勧誘したりで、もうハチャメチャである。ジンベエも二年前の事があるからか、ルフィの事を気に入っている。如何せん、王下七武海は辞めてしまったし、魚人島は変わらず白ひげ海賊団のナワバリのままである。魚人海賊団は傘下の海賊という訳ではなく、魚人島は白ひげの友人の国にあるからナワバリになっている。いうなれば、ジンベエの身柄はジンベエが決めることで良いと白ひげは思っている。
 今の白ひげの問題はどうすれば、エースの嫁と孫を連れて行けるかである。なんせエースも娘エマに会ったのは昨日が初めてである。そんな家族を離れ離れにするのは偲びないのだ。
 麦わらの一味とて同じことである。自分たちと同じように・・・・・・・・・・バーソロミュー・くまに飛ばされたにも関わらずマリィは危険を省みずに身重の身体でエースを、ルフィを助けに言ったと聞かされ驚いたものだ。
 自分たちの船長を助けてくれた恩人をそう安々と渡したくはない。渡したくはないはないが、エースとの仲を知り、子どもが生まれていたことすら知らなかった彼らを離れ離れにさせるのは良心の呵責になる。
 だが、我らが船長はそんなことはお構いなしに急に生えてきた姪っ子さんにメロメロになっているのだ。姉の事が大好きなんだ!と二年前にも教えられていたが、彼のシスコンがここまでとは思わなかった。

「ねーちゃんとエマはおれたちの船で冒険するんだ!」

「せっかく会えた家族・・を引き離す気か、小僧」

「じゃあ、エースもおれの船に乗ればいーじゃん」

 けろりと発言するルフィに白ひげは「俺から家族を奪う気か!」と怒鳴った。
 昔、とある男に言った台詞を言うも「? ねーちゃんの家族はおれだぞ!姉弟だからな!」となんでもないように言うものだから、麦わらの一味は頭を抱え、白ひげ海賊団も頭を悩ませている。

(おまえの弟、どうにかしろよぃ)

(…………)

 ルフィの頑固には頭を悩ませるエースだったが、ここはもうマリィに任せるしかない。エースのいうことは聞かないで無茶ばかりするルフィも、マリィの言う事は聞いていたので彼女に任せることにしたのだった。
 白ひげ海賊団も混ざり、宴は楽しいひとときを得たのだった。ネプチューン王や魚人たちに厚い歓待を受けている間に、マリィはエマを寝かせた後、腕に抱いて宴会場へと顔を出した。途端にマリィの身体に巻き付く腕と、彼女の腕を引っ張る力に混乱した。

「!? ちょっとエマが起きちゃうでしょ!!」

「ねーちゃんはおれたちと冒険するよな?!」

「マリィはおれと白ひげ海賊団に行くよな!?」

 助けを求めようとナミたちを見るも首を横に振られ、白ひげ海賊団の方を見れば来るよな!来るよな!と期待の目で見られていた。

「……え、えぇ?」

 彼女とてエースと生涯を過ごすつもりではあるが、彼がこれからするであろうお礼参り(良い意味で)の事を考えると、居づらいのである。まさか自分たちを連れていく訳にもあるまい。ならば、と彼女はひとつ考えてたいたことがあった。
 エースのお礼行脚の間、娘エマを父ドラゴンに見せに行こうと。無論、革命軍の本拠地へと向かう訳にはいかないからどこかの島で合流しようと思っていたのだが……これ、言っても大丈夫だろうか…。
 相談していたロビンさんはきっと喜ぶわと可愛らしい笑みを浮かべてくれたし、連絡先は父から教えられた電伝虫がある。

「こんな可愛らしい子ともう少し一緒にいたいけれど…」

 惜しまれてしまうので、新世界のどこかの島で降ろして貰おうと思っていたのにまさかの取り合いに発展していた。
 久々の兄弟喧嘩は魚人島を壊しかねないので、マリィはロビンたちにエマをお願いして早々に拳を握りしめた。
 ぎゃあぎゃあと耳元で、身体を引っ張るものだから、「うるさい!!」と怒鳴れば二人がピタリと止まったが、すかさず拳骨を喰らわせやった。

「「……お、おぉ……」」

 どこからか、感心した声がしたが素知らぬ振りをする。ぷるぷると頭を押さえる二人はしゃがみ込んでいるので、マリィは目線を合わせた。

「で、いったいどうしたの?」

 ルフィのたんこぶを撫でてやりながら、エースに問えば、ムスッとした態度をとる。はいはい、とエースのたんこぶも撫でてやると「マリィはおれと一緒にいるんだよな」と聞いてきた。

「そのつもりだけど、エースが嫌なら「嫌な訳ねぇだろ!!」ぅぐ!」

 力いっぱい抱きしめられると、白ひげ海賊団の皆さんが「ウオォォオオォ!」「やったあぁぁぁ!」と太い声をあげる。
 傍らのルフィが泣きそうな顔をして「うぅ、ね〜ちゃ〜ん」と情けない声を出している。相変わらず甘えただな、と思うがそれをする相手はマリィだけなのである。
 しかし、マリィはやりたい事があるのよと呟いた。彼女からの話に麦わらの一味も白ひげ海賊団もだんだんと顔を険しくさせていく。そもそも新世界のどこかの島に下ろして、ドラゴンとどこで合流するかの間に何かあったらどうする気なのだ?!と訊けば、「商船にでも乗って移動すればいいのでは?」ときょとんとされる。
 なんだが、変なところでルフィと血が繋がっているのだと麦わらの一味は思ってしまった。だが、そんな危険なことをエースもルフィも、そして白ひげも許せる訳もない。
 白ひげ自身もドラゴンに礼をしたいが、四皇である自身が革命軍と接触するとなれば海軍が動くのは必至。だからといって、エースの礼節を伸ばすのはよろしくはない。そこに手を上げたのは思いがけない人物だった。

「わしがついていこう」

 ジンベエである。彼もまた頂上戦争でイワンコフを始め、ドラゴンにも助けられて今に至る。ドラゴンと会話もしたし、直々に白ひげに伝言を頼まれたのは彼である。
 ジンベエは既に気持ちはルフィにあるらしいのを白ひげは感じ取り、ルフィとエースはジンベエならば安心出来る!と信頼を寄せている。
 白ひげとは盃を交わしてはいないが、それ以上の関わりを持つ為にケジメは必要であるから、二人はその場から離れて、ジンベエは白ひげに頭を下げている。
 元王下七武海であり、魚人海賊団の船長が一介の、しかもルーキーの海賊船の船員になるとは大ニュースであるが、しばらくは離れ離れである。


 話は一応纏まり、マリィはぐっすり寝ているエマの荷物がサニー号にあるからと新世界までそちらに乗る事を伝えると白ひげはがっかりし、エースも面目ねぇと頭を下げている。しかし直ぐにでもずっと一緒に過ごせると思えば、楽しみが少し伸びたのだと思うことにした。
 サニー号とモビー・ディック号が連なりながら、新世界へと向けて出航する。途中海上へ危うく違う海流に乗るところをクジラの群れに助けられた。
 目を覚ましたエマは群れる大きなクジラとモビー・ディック号白いクジラに指をさして、キャッキャッとしていて、ロビンが和んでいた。
 海上へ浮上すれば、嵐のど真ん中だ。ナミに「マリィとエマちゃんは船内にいて!!」と言われて、素直に従う他はない。一味のみんなとエースはナミの指示に従いながら、この荒れた海を越えていく。
 マリィは困ったことに好奇心旺盛な愛娘が甲板に出ないようにおんぶをすると、濡れ鼠になっているであろう彼らの為に、せめて温まることが出来るようにとキッチンで湯を沸かしておくことにした。何分、余所の船であまり勝手は出来ない。
 バタバタとした騒音が大人しくなり、外から中へ入ってきたのはコックのサンジだった。

「んマリィちゅゎん!!エマちゅゎん!!無事かい?」

「えぇ…ごめんなさいね、何も出来なくて」

「マリィちゃんの仕事はエマちゃんを守ることだ、気にしないでくれ。それに、お湯を用意してくれたんだね、ありがとう」

 キッチンにあるケトルから湯気が出ていて、野郎どもはともかく、ナミやロビンさんに温かい飲み物をすぐに用意できるとサンジは笑みを浮かべる。

「大したことじゃないわ」

 ふふ、と柔らかく笑う彼女にサンジは本当に船長ルフィや海軍の英雄ガープと血が繋がっているのだろうか、と思うのだった。

「お茶淹れるなら手伝いましょうか?」

「ありがとう、マリィちゃん」

 レディたちには美味しい茶葉を用意し、野郎どもにはテキトーに用意する(とはいっても美味い)。

「ルフィ、猫舌だけど飲むの大丈夫?」

「あ〜、前はよく勢いよく飲んでは、あちっ!て言ってたけど、冷まして飲むようになったよ」

「成長したんだねぇ」

 ふふふ、と楽しげに笑うマリィを見て、サンジも笑みを浮かべる。不本意にもカマバッカ王国に飛ばされたサンジは、女王のイワンコフから頂上戦争の話を少しだけ聞かされた。マリィの事を知っているかと聞かれたが会った日にくま・・に飛ばされたから、悔しながら知らねぇとしか言えなかった。
 モビー・ディック号と連絡を取りつつ、近くの島へと!なるも“火の海”へと出てしまい、マリィたちはルフィやエースたちに船内に押し込まれた。が、次から次へと起こる事件に、麦わらの一味はルフィが船長というのは命が足りないくらいだ。
 エースとジンベエはマリィとエマをモビー・ディック号へと移すべく抱きかかえる。ルフィたちとはがちゃがちゃしたままお別れしなくてはならないのが残念である。ルフィはしぶとく「ねーちゃん、エマ〜」と名残惜しそうにしていたが、エマを抱きしめ、マリィからのキスに「またな!」と再会を約束したのだった。

「ジンベエ、待ってるからな!」

「あぁ、しっかり護衛を終えたら戻るわい」

 ジンベエと約束をし、ルフィはエースと顔を合わせた。エースはルフィの頭を撫でると「ありがとうな、ルフィ。お前が弟でおれは誇らしいぜ」と感慨深く言うものだから、ルフィはこれまでの二年間、一緒にいた期間を思い出し「今度は負けねぇぞ」と決意した。コルボ山から、ルスカイナ島での修行期間、姉を除いて誰よりも傍にいた兄は相変わらず自分の目標であり、道しるべでもある。海賊同士である以上ぶつかることもあるが、それでもルフィにとっても、エースにとっても、互いに大事な兄弟だ。

「エースっ!今度、ねーちゃんとエマ悲しませたら、奪いに行くからな!!」

「…………わかってるよ」

 ぽん、と麦わら帽子越しに手を置くと「じゃあ、またな」と告げると、マリィを抱きかかえると跳力のみだけで、モビー・ディック号へと乗り移った。
 マリィはエマの手を持ち、「ルフィ、またね」とむかし、先に出航した時のようにルフィを心配するような顔を見せてきた。

「ねーちゃん!」

「うん?」

「あんま心配するな、おれには最高の仲間がいるんだ!海賊王におれはなる!!」

 敵対はしていないとはいえ目の前に海賊船があるにも関わらず、大声で宣言するルフィにマリィは「楽しみにしてる」と笑顔を向けた。なかなかの強かさに白ひげは笑いたくなる。守られてるだけの女かと思っていたが、そうでもないらしい。
 くるっと横を向いて「宜しくお願いいたします」と告げてきた女に、彼は盛大に笑ったのだった。
 麦わらたちか“火の海”の先にあるであろうパンクハザードを目指していったのを、見送り、自分たちは航路を変えたのだった。


 先ほどまでいた麦わらの一味ではなく、屈強な男たちに囲まれたエマはマリィかエース、ジンベエにべったりくっつくようになった。エースは嬉しそうに娘がくっついてくれることに幸せを噛みしめていた。白ひげも早く懐いてもらいたいが、マルコたちに徐々にだ、オヤジ!と言われてしまえば、なんとも言えない。
 ドラゴンとはどうにか連絡を取り、本拠地には呼べないから、どこか、白ひげのナワバリの島で落ち合うことにした。エースは白ひげ海賊団の船員たちに詫びを入れ、二番隊隊長を辞退しようとしたが、白ひげを始め、皆から止められたのだった。エースの実力も人柄も受け入れられているということに、出自なんてもの関係ないことにエースは嬉しそうにしていた。傘下の海賊団たちは分からないが、きちんと礼をすることにしたのだった。
 ドラゴンとの再会は、エースの行脚が終わってからで構わないという知らせに、あちらも各地のことで忙しいのだと理解した。

 広い海、サニー号よりも大きな船にようやくマリィたちも慣れてきた。
 甲板に響く幼い声は、野太い声とは違い心を潤していく。きゃっきゃと可愛らしい声を耳にして飲む酒はとても美味い。白ひげは穏やかな気持ちでいると、遠くから「じぃじ?」と聞こえた。エマはマリィのことは「ママ」と呼び、エースのことは「とうちゃ」と呼ぶ。なんならジンベエは「ベェ」だ。他の船員たちも出来るならばあの子に名前を呼ばれたいが、そこは白ひげが先であるべきである。
 では「じぃじ」とはとなる。どうやらマリィが電伝虫で誰かと話しているから、ドラゴンだろうと当たりをつけていたマルコたちであったが、マリィの言葉に「は?」と真顔になる。

「エマ〜、レイじぃから電話だよ〜」

「じぃじ!」

 レイじぃって誰だよぃ!そう言いたげにジンベエを見ると顔を逸らされた。アイツ、知ってやがる。こいこいと手招きをすれば、今は客人と乗っているジンベエを呼び寄せた。

「で?」

「……なんじゃ」

「レイじぃって誰だ?」

 目を逸らしながらも、ジンベエは口を開いた。マリィからの話らしいが、彼女たちはシャボンディ諸島で冥王レイリーたちと暮らしていたらしい、その言葉だけで、もう答えがわかってしまった。ついでにドラゴンもじぃじ呼びらしいが、彼はれっきとした血の繋がりのある祖父であるから何も言えない。
 傍らのオヤジは額に青筋を立てている。辛うじて覇気を抑えてはいるが、怒り心頭だ。
 するとこちらに気づいたのかマリィはエマを呼び、こしょこしょと幼子に話しかけている。すると、とてとてとて、と軽く小さな足音が聞こえてくる。その子の手には電伝虫がある。
 オヤジの足首くらいしかない小さな身体は、両手に収まりきらない電伝虫を掲げてくる。なんだ?話せ、と?と思っていると、「ひげじっじ、レイじぃじからだよ?」とコテンと首を傾げた。
 重いから早く持って欲しそうだったが、白ひげオヤジには青天の霹靂である。あんなにギャン泣きされた孫娘から「ひげじっじ」と呼ばれたのだ!ぷるぷると震える白ひげオヤジはエマを撫でるしかないので、マルコが電伝虫を受け取った。とたん、マリィの元へと戻るが褒められたかったのだろう。

「……あー、もしもし?」

『おぉ!ようやく変わったか、なかなか出ないから切れたのかと思ったぞ』

 電話の向こうはやはり冥王 シルバーズ・レイリーであった。麦わらたちとは既に別れたと聞かされたらしく、彼女たちを心配していたらしい。その後、オヤジが怒鳴るように会話をしていたが受話器の向こうからは豪快な笑い声がしていたのだった。

 エースはまだ戻ってきてはいないが、ドラゴンと会う算段がついたという。近くにいるらしく、ちょうど無人島があるというので、エースにも連絡をし、合流することになった。
 先に島についたのはこちらであった。屈強な海賊たちが、オヤジやマリィとエマ、恩人にあたるドラゴンの為に、過ごしやすいようにと場所を整えた。海賊同士ではないから、適当にとはいかない。エースも合流すれば一目散にエマとマリィに抱きついていた。「充電!」というエースに、コイツは……と頭を痛めていると、そこへ強風が吹いた。気づけばそこにはドラゴンの姿があった。

「……おとうさん!」

「…久しぶりだな」

 どこかぎこちない感じだったが、マリィはエースを促し、エマを抱き上げる。エマはドラゴンを見て、ポカンとするものの「おじいちゃんよ」と伝えられたからか「じぃじ!」と元気な声をあげた。エースもエースで、直角に頭を下げている。変な所で、礼儀正しくなるアイツは謎である。
 難無くドラゴンに抱っこされるエマだったが、こちらを指差した。

「じぃじ!ひげじっじ!」

「そうか、彼もじぃじなんだな」

 フッと笑う、どちらかと言えば凶悪な顔だが、目は優しい。孫娘に導かれるままオヤジの元へとやってくる。

「初めてお目にかかる。モンキー・D・ドラゴンだ」

「グラララララ!初めてではないだろうが、会話は初めてだな……その節は助かった」

「……娘・の願いだったからな」

 本来ならば助ける義理はない、といった感じであろう。革命軍と名乗らないあたり『父親』としてまたは『祖父』としてやって来たという訳だ。
 しかし、ガープは辛うじてだが、マリィや麦わらとは似てないな、と思っていると「ドラゴンさんっ!!」と声が響いた。どうやら追いかけてきたのか、あれは、手配書で見たことがある革命軍No.2の参謀総長ではなかっただろうか。

「置いていかないで下さいよ!」

「お前まで来ることはなかったのだが…」

「行きますよ!エースやマリィに会えるんですから!!」

「ぁん?」

 名前を呼ばれたことにエースは訝しげな顔をした。自分のみならずマリィの名前まで出してきたのが、気になるらしい。

「誰だ、軽々しくマリィを呼ぶんじゃねぇよ」

「……あ、いや、その……憶えてない、か?」

 困ったように眉を下げてくるが整ってる顔をしているのは参謀総長。彼はエースへと話しかける。柔らかそうな金髪は、左目のあたりを隠しているのかあまり見えないが、傷跡が見える。
 マリィを庇うように前に立ち、警戒するエースだったが、当のマリィはその彼をじっと見つめている。何か引っかかることでもあるのだろうか。

「……ね、ねぇ……エース、この人って……」

「ぁん?知り合いか?」

「知り合いというか、どちらかと言えばエースとルフィに関係しない?」

「はぁ?おれとルフィに関係するのなんて、………は?」

 マリィの言葉にエースはぐるん!と勢いよく、話しかけてきた男を見た。そして「はぁぁぁぁぁぁ?!」と大声をあげた。

「いやいやいやいや!だってサボ・・はあん時、」

「……むかし、ダダンの酒を盗んで、」

 男・は少しだけ笑みを浮かべる。伝えてきた言葉だけで、エースは彼がサボ・・、親友であり、盃を交わした兄弟だと分かると抱きしめたのだった。

「おま、お前!!生きてたのかよっっ!!」

「……はは、ワリぃ」

 参謀総長、サボも涙ぐみながら話している。ワリぃ、助けに行けなくて、と話す彼にエースはそんなんいい、生きててくれてうれしい……と会話している。そんな二人の邪魔をしたくなかったのだろう、マリィはこっそりと離れるとエマといるドラゴンと白ひげの方へとやって来た。

「話しは出来ているか?」

「おとうさん、知ってたの?」

「あの後、記憶を戻したらしくてな」

 どうやら参謀総長は記憶を失っていたらしく、頂上戦争でエースや麦わらの記事を見て、思い出したという。この二年、会いに行きたいがいけないと悩んでいたという。
 そんな会話を聞きながら、白ひげやマルコはああ、エースの腕の入れ墨のSは彼の事なのかと合点がいった。
 海賊と革命軍、両者に仁義はない。受けた恩は別である。願う理由もなければ、受け入れる理由もないが、両者の間にはなんらかの合意が出来たらしく、ここに革命軍と海賊の縁が出来てしまった。
 会話をしていると、バタバタと走り寄る音に見ればエースとサボが騒いでいた。先ほどまで感動の再会をしていたんじゃねぇのか?と幹部たちは思うも、どうやら何かあったらしい。
 参謀総長はマリィの前に立つと懇願するように彼女の両手を掴んだ。

「マリィ!まだエースと結婚してないなら、おれとどうだ?!」

「何言ってんだ、テメェ!!」

「は?」

 意味が分からずにいると、エースは横からマリィを抱き寄せて「マリィはおれのだぞ!一生、傍にいると誓ったんだからな!!」と言って、幹部たちを沸かせたのだった。
 真っ赤になるマリィに、エマがぺちぺちと頬を叩いていたが、白ひげオヤジもドラゴンも笑っていたのだった。

「……え、エース…」

「マリィ!好きだ、ずっと前から、手放せないくらい、」

 勢いよく告白するエースだったが、最後はマリィの耳元で何かを囁いた。おおよそ予想は出来るものだ。何しろ、それを聞いた彼女がぽろぽろと涙を零しているのだから。涙を拭いながら、彼女はエースの耳元へ内緒話をするように口元に手を添える。

『私も、エースを愛してる』

 愛してるも気持ちを表すには足りない。でも言葉にしなければ、こんなに嬉しそうに、はにかむように微笑うわらう彼女は見れなかった。あぁ、本当に好きだ、好きすぎる、なにより、愛している。気持ちが溢れるのが分かりぎゅっと抱きしめる。
 隣で苦笑いしているサボに、親友で同じルフィの兄だから彼女を取られる訳にはいかないのだ。
 オヤジや幹部たちが、ひやかすように何かを言っているのを「うるせぇ!」と照れ隠しに怒鳴りながら、マリィと顔を見合わせて笑うしかなかった。

「グラララララ!めでてぇな!お前ら、式でも挙げやがれ!!」

 オヤジの言葉に驚くも、ケジメとしてそれも良いと思えるが、まずは挨拶が大事だろう。
 エースはドラゴンの前に立つと会った時と同様に頭を下げた。予想は出来るのはエースが単純だからだろうか。

「マリィとの結婚、許してください!」

「…………………………既に子どももいる以上、わたしは君たちを引き離すつもりはない……だが、」

 次の瞬間、ドゴォォ!と強烈な音と共にエースが殴り飛ばされた。仲間たちが対応しようとしたが、オヤジが手を出すな!と指示を出す。これは白ひげ海賊団が関わることではないからだ。

「エース!! お、おとうさん!!」

「とうちゃ!」

 マリィたちが声をあげるが、まぁ、エースのした事は一般的に男親からされたらたまったことではないオンパレードだ。殴られるのも然り。
 心配そうにマリィはエースに駆け寄るが「大丈夫だ」と鼻血・・を出しながら言う台詞ではない。しかし、ドラゴンの実力は謎が多いがかなりの強さだというのが解る。エースとて冥王から修行を受けた身だが、それを上回るくらいだ。
 『革命家ドラゴン』という世界最悪の犯罪者は戦闘力もとんでもないようだ。

「………マリィあの子たちを泣かせたりしたら、すぐにでもわたしの元へ返してもらうぞ」

「ルフィとも約束してんだ、もう泣かせたりなんかしねぇ!」

 変なところで親子なんだな、と思いながらエースは再び頭を下げる。大事な娘を奪う男なんぞ許したくないだろう。エマがいるから解る。

「…………あぁ、もう悲しむ姿は見たくはないのでな。よろしく頼む」

「…あぁ!じゃなくて、はい!!」

 エースの様子に苦笑するドラゴンだったが、結婚式はルフィもいるべきだろうと話になった。それまではお預けであるが、写真撮るだけでもいいんじゃないか、とサボが言い出した。余程、マリィのドレス姿が見たいらしい。
 しかし、行かねばならぬ仕事があった為に、コアラとハックという仲間に引きずられるように連れて行かれたのだった。
 ちなみに、ジンベエはコアラという少女と再会し、涙ぐんだのは彼らだけの秘密の話だった。


 後日、ルフィがあのトラファルガー・ローと海賊同盟を組んだというニュースが流れたと思えば、七武海ドフラミンゴを討つということをやり遂げた。今やエースの懸賞金に迫る勢いに、ルフィ弟大好きとはいえ「ぐぬぬ…」と唸っていた。サボに関しても懸賞金を抜かされていて、炎を出してはマルコに怒られていた。
 エースは暫くは傘下の海賊団に出向いては仕事を手伝う為、モビー・ディック号に不在の間、ルフィに護衛を申し出たジンベエだったが、マリィから「慣れたから大丈夫」と笑顔で「早くルフィの元へ行ってあげて」と背中を押されたのだった。
 それでもエースが戻ってきてから、彼はルフィの元へも向かい、そして白ひげもまた自ら船を降りる決心をした。年齢もだが、病にも侵されている。彼とて一人の人間である。故郷へ戻り、隠居するという。
 白ひげ海賊団は解散、及び傘下の海賊団も独立するものは独立するが良いという船長命令に誰もかれもが涙した。それほど彼は偉大で敬われる人間なのだと思うと、マリィはエマに「すごいね」と話しかけた。
 基本的に海賊は一代限りだ、船長は一人。その一人に付いていくと決めた集まりなのだから。エースもまたどうするかと考える。このまま海賊をするかどうか。しかし彼には海に出る理由が今はない。愛おしい家族がいるのだ。まだまだ自由に海に出たい気持ちもあるが、今は彼女と娘と生きて行きたいと思っている。

「マリィ」

「決めた?」

「……あぁ、」

「おれはお前らと一緒にいる」

「……いいの?」

 海賊のままじゃなくて?と訊くマリィにエースはなんとも言えない気持ちになる。ずっと幼い頃から海賊になるのだと、海賊になった。ヤツ・・を越える、自由に生きる、そうして生きてきた。
 今更、生き方を変えられない訳ではないし、海賊が身に染み付いている。だが、今はそうではない。愛おしい家族と一緒にいたいという気持ちが大きいし、出来るならば白ひげオヤジの傍にいたいとも思う。
 そんなことを言えば「アホンダラ」と言われるだろうが、皆の気持ちは同じだった。

「あぁ、海賊になろうと思えばいつでもやれる」

「……わかった、」

 ふふ、と笑うマリィにエースが近づき、抱きしめた。

「……どうしたの?」

「お前が一緒にいてくれてうれしい…」

「言ったでしょ、私はエースが生きて、傍にいてくれるだけで幸せなんだよ」

 やっすい幸せだな、と思いながらも、エースは涙ぐんだのだった。

 この後、白ひげは孫娘と戯れたり、非公式で孫に会いに来たガープやレイリーとやり合ったり、シャンクスが孫娘に会いに来た〜と言ったら一切会わせなかったり、とお孫様中心に牽制が起こりつつ、愉しい余生を過ごした。
 ちなみにルフィたちがワノ国へ行ってる間はエース、マルコ、イゾウは出向いているし、イゾウも無事に故郷の土を踏んだ。
 エースはルフィになんでねーちゃんたち連れて来ないんだよぉ!!とぎゃあぎゃあ言われてしまうが、ワノ国の友人を心配したマリィはなんとエマを連れて、四皇の船にいたのだった。




END


-3-

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