【if】愛娘がタイムリープして父たちを救済しちゃった話
私はごく普通の女の子、ちなみに十七歳。
只今、屈強な男たちに囲まれています。
「名前は?」
「…っぁ……………エマ、です……」
危うくフルネームを名乗るとこであったが、訳あって苗字は言えない!だってありえない事か起きてるんだもの!
理由?それはね、ちょっと時間をさかのぼったからである。うん、意味分からないよね?
まずは私の両親のことを話そう。
大好きな母は所謂未婚の母であった。私が生まれる前に父が亡くなってしまったからだ。父は、四皇の幹部で当時世界最強の男が率いる海賊団の二番隊隊長だったという。
十数年前、海軍本部並びに当時世界政府から認められた海賊たち──王下七武海vs白ひげ海賊団とその傘下の海賊団との全面戦争、所謂『頂上戦争』が起きた。きっかけは父の公開処刑だった。
そこには母の弟、叔父さんも参戦していたからというから驚きだ。叔父さんの知り合いたちは「まだまだ未熟なルーキーだった」「無茶ばかりする」「でも大事な兄を助けたい一心だった」と口々に教えてくれた。叔父さんの仲間が「アンタは似ないでよ」と言っていたが、ある人は「アイツそっくりだろ」と言ってたりする。まぁ、母が亡くなってからは七年は叔父さんと一緒にいたからね。その叔父さんも早まった寿命で昨年若くして亡くなってしまった。
海賊王──モンキー・D・ルフィ。それが叔父さんの名前である。母の名前はモンキー・D・マリィ、父の名前はポートガス・D・エース。調べれば調べる程、私の血筋はとんでもなかった。
祖父は初代海賊王ゴール・D・ロジャー、一般的に知られてる名前はゴールド・ロジャーだ。父 エースはそのロジャーの実子であり、白ひげことエドワード・ニューゲートとは義親子でもある。
母 マリィもなかなかすごい。祖父は海賊王ロジャーと何度も戦った海軍の英雄モンキー・D・ガープ。父は革命家モンキー・D・ドラゴン。ロジャー亡き後世界最悪の犯罪者と呼ばれていた。そして二代目海賊王が弟なのである。それでも大好きな家族であるのは変わらない。
しかも革命家ドラゴン率いる革命軍No.2の参謀総長は父 エースと叔父 ルフィの義兄弟だというのだから、叔父さんを中心にどんな身内なんだ!と叔父さんの船員たちは言っていた。
“偉大なる航路グランドライン”は何が起きるか分からない海域であり、それは重々理解してきた。なんせ母や叔父さんたちとは違い私は“偉大なる航路グランドライン”生まれである。母亡き後、叔父さんが私を引き取ってくれた。叔父さんの船員たちは反対したし、祖父が私を引き取ろうとしたが叔父さんがそれを振り切り「安心しろ!ねーちゃんとエースの子供だ!おれが面倒見るからな!」と強く抱きしめてくれたのを今でも思い出す。まぁ叔父さんに振り回されたりし、みんなは船長の行動には慣れているらしく、結局私を可愛がってくれたし、色々な知識を授けてくれた。
世界一の大剣豪は刀の扱い方を教えてくれた。美人航海士は航海術は勿論、天候を操る術を、神のような狙撃手は銃の使い方を、腕の良い料理人は料理と足技を、船医は薬学と医学を、考古学者は知識とこっそりと古代文字も教えてくれた。船大工は船の扱い方、直し方、音楽家は楽器を、操舵手は泳ぎ方と魚人空手を。様々な分野の知識をたっぷり詰め込まれたものである。叔父さんには覇気の使い方、そして父と母のこと、なにより愛しんでくれたことを感謝している。
船を降りることはないとは言われたが、船長を亡くした“麦わらの一味”もしくは麦わら大船団は解散した。ナミちゃんたちが私を引き取ろうとしたが、私も十七歳。叔父さんが海に出たのも十七といっていたのだから、私も冒険に出ることにした。
フランキーがエルバフから手に入れた宝樹アダムで造った船をくれたのでのんびりと船出をした。まずは父たちが辿った海に行こうと思った。“東の海イーストブルー”から“偉大なる航路グランドライン”へと進んだ。意外にも“東の海イーストブルー”は何の問題もなく進み、“偉大なる航路グランドライン”もなんとか進んだのだった。
色々な島を経由し、“偉大なる航路グランドライン”半分まで来た。シャボンディ諸島は実は初めてであり、叔父さんの師匠がいるとか聞いた。メモを頼りにある場所へと行けば、若々しい見た目のおばさまにお会いした。私を見て一瞬驚いていた。
「あなた、マリィちゃんの娘さん?」
「マ……お母さんを知っているんですか?」
シャッキーさんはタバコに火を付けながら「懐かしいわ」と母のことを教えてくれた。だけど父とは会ったことがなかったという。
彼女は以前海賊をしていたとか、なんなら曽祖父のガープに追いかけられていたと聞いてびっくりした。数年前まで私たちがどこに住んでいたのかも知っていたようである。マルコおじさんのことも知っていたという。マルコおじさんは今思えば父の代わりに母や私を見守ってくれた一人だ。
そのおじさんは今も行方不明だ。数年前、スフィンクスにいた際、黒ひげ海賊団に襲撃され、身を呈して守ってくれたのはマルコだったからだ。村人を守る為、私たちを守る為戦ってくれた。
サニー号が来た時、母と私を連れて行った後に島へと戻り、叔父さんたちが加勢に行ったが行方不明になってしまった。“不死鳥”の名があるのだ、そう簡単にくたばりはしないとジンベエ親分に教えられたものだ。問題は母だった。母もそれなりに強かったが、私を庇い怪我をした。それには毒が塗ってあったのだろうとチョッパー先生に教えられた。
生身の人間である母は叔父さんに私を頼むと涙ながらに話し、叔父さんが泣くのを宥めてながら逝ってしまった。わんわん泣く私を叔父さんも泣きながら力いっぱい抱きしめてくれた。
しんみりしているとお店の扉が開き、お爺さんがいたが、私を見ると目を見開いていた。そしていきなり私を抱きしめると笑い出したのだ。その眸には涙もあった。
詳しく聞けば、なんと祖父であるゴールド・ロジャーの右腕であった冥王シルバーズ・レイリーだという。本に載る人間が目の前にいることに驚きながら、長生きであることにも驚いた。曽祖父のガープとあまり年齢は変わらないという。
「ハハハ!まさか、ロジャーの孫に会える日が来るとは長生きするのも悪くはない!」
すっかり白髪のお爺さんだが、身体は年相応とは思えない。驚いていると「マリィに似ている」と言っていた。母を知っていることはシャッキーさんにも聞いていたが、彼も父とは会ったことがなく、後々母がロジャーの息子であるエースの子を宿していることを知ったらしい。そして、叔父さんの師匠であるとも教えられた。
「君はその年で随分と力があるようだな」
分かるのだろうか?確かに覇気などは叔父さんたちに教えられたりした。まぁ、感覚で教えてくる人たちだったから大変だったが、知り合いのおじさんも教えてくれた。多分それなりに強いとは思っている。
「ロジャー、エース、ガープ、ドラゴン、ルフィ…………血筋的にも覇王色もあるみたいだな…」
「みたいです」
「制御は出来るのかね」
「教えてもらいました」
「そうか……」
末恐ろしいな、と呟く冥王に苦笑せざるおえない。ウソップやチョッパーが「強くなりすぎだ!」と言っていた。私にはそんな気はなかったが、ゾロが満足気にしていたからかなり鍛えられたのだろう。
それを読み取ったのかは分からないが冥王はただ楽しげに笑っていた。
魚人島へ行く為に船のコーティングを頼むが、もう年だからと腕の良い職人さんを紹介された。二、三日掛かるからと言われて、その間お店に泊まらせてもらえることになった。
麦わらの一味の危機の話や、頂上戦争が始まるまで叔父さんが女ヶ島に飛ばされたこと、海賊女帝を虜にした事など、そして叔父さんが父を助ける為にインペルダウンや海軍本部マリンフォードへ乗り込んだことを聞いた。
当時、母はそれこそこの店に住んでいたが、新聞の記事を見て飛び出して行ったとか。叔父さんとはすれ違ったようだったという。
「あれから十八年……早いものだ」
「……十八年…」
酒を煽りながら、レイリーさんが呟いたのを復唱した。自分は十七歳。父は私を知らないまま逝ったという。最期の最期に母と合間見る事が出来たとデュースおじさんが言っていたし、ジンベエ親分が教えてくれた。ジンベエ親分は当時その場にいたからだ。
叔父さんは「おれにもっと力があれば…」と悔いていたが、まだまだ海に出たばかりのルーキーだったらしい。それでも充分力を発揮し、寿命を縮め、精神を壊しかけてでも父を助けたがっていたと聞いたものだ。
あの、人タラシの叔父さんがそこまで助けたがった父はどんな人だったのだろう……母がこよなく愛した父。手配書でしか見たことはない父は怖い顔をしていたと思う。
母は「格好良いでしょ、人望もあったのよ」という。ナミちゃんたちは「ルフィと違って常識的だった」「弟思いの良い兄貴だ」と言い、ジンベエ親分は「ルフィと同じで人タラシじゃったわい、憎めないとこは兄弟揃って同じじゃ」と教えてくれた。手配書からは分からないが、ゾロだって手配書は怖いけど優しい人だと分かっているから、父もそうだったのかもしれない。
色々話を聞き、今までの話をも思い出して、父のことを考える。
十八年前、まだ海軍本部が“楽園こちら”側にあった頃に起きた海軍+王下七武海連合vs白ひげ海賊団及び傘下の海賊団の戦い。新聞や歴史書に残された記事では壮絶な戦いだという。勝ったのは海軍であるからどこまで信用出来るかは分からない。
曽祖父は海軍側だ。海軍の英雄、海軍本部中将の肩書きをもつ曽祖父は、父や叔父さん──孫と戦ったのだろうか、互いにどんな気持ちだったのだろう。父のお墓に来た曽祖父が泣いていたのを思い出した。まだ幼い私を見て、泣いていたのだ。母はそれで祖父を許せたと言っていた。当時は分からなかったけど。
用意されたベッドへと潜る。シャッキーさん曰く母が使っていた部屋だったとか。母はどんな思いでここにいたのだろうか…そんなことを思いながら眠りについたのだった。ついたはず、だった。
はぁ、はぁ、はぁ、と走り回る。人混みに、エマは困惑していた。先程、自分は毛布を被り眠りについたはずである。それがどこかの戦場にいるのだ。
眠る前に『頂上戦争』の話を、父たちの話を聞いたせいだろうか。
邪魔だ、どけ!女ぁぁ!!と海兵から剣を向けられる。どうやら海賊側に見られているようだ。なんで?と思うがまぁ服装を見れば分かるのだろう。水兵さんの格好をした者や『正義』と書かれた白い上着を羽織る者が破落戸たちへと剣を、銃を向けてくる。エマはそれを躱しながら、処刑台と思わしき方を見上げる。そこには、手配書でしか見たことのない父 ポートガス・D・エースと曽祖父 モンキー・D・ガープの姿が見えた。
『家族は違うっ……わしゃどうしたらいいんじゃ…』
『……ジジイ…』
見聞色の覇気かどうかは分からないがそんな言葉が聞こえた気がした。そして、初めて聞く父の声にエマは走り出した。
これが夢だろうがなんだろうが、父を、曽祖父を、やがて来るであろう叔父を救いたいと思えた。夢、夢だ。なら私のしたいようにするっ!襲いかかってくる海兵たちをなぎ倒す。海兵の刀を奪い、技を発揮する。斬った感触が生々しいが人を斬ったのは初めてではない!
「……どんだけ人がいんのよっ…!」
次から次へと刀や銃を向けてくる海兵を往なし、広場から処刑台を見上げていると、空から軍艦が落ちてきた。
「はぁ?!」
唖然としているとその軍艦には叔父さん──麦わらのルフィやジンベエ親分、他にも見たことがある海賊がいた。──そして、叔父さんがデカい人を庇っているのをみて、それが父が慕っていたという白ひげ──エドワード・ニューゲートだと今気づいたし、その傍にはマルコの姿が見えた。何年ぶりだろうか、自分が知っている彼よりもだいぶ若いが忘れもしないあの青い炎は紛れもなく自分を慈しんでくれたマルコである。
「エーーースーー!!」
「来るなー!ルフィーー!!」
助けに来た弟と、危険に晒したくない兄、互いが互いに大事なのだと分かる。
「おれは弟だぁぁぁ!!」
そういって一直線に走り出すルフィにエマは溢れる涙を拭った。
「叔父さんはやっぱり叔父さんだ!」
これが夢だろうが、現実だろうが構わない。私は叔父さんの手伝いを、父を助けてやる!!
そこからは激闘である。話には聞いていたが、バーソロミュー・くまの姿をした兵器がいたり、七武海の強さは異常だ。そして当時の三大将、それぞれが自然ロギア系の能力者である。氷と光とマグマ?冗談じゃない、とんでもない能力だ!これで雷とかあったらたまったもんではないが、それはいないようだ。
ふと見聞色で何かを感じ取ったエマは進行方向を変えた。嫌な予感は的中し、白ひげに向けて剣で刺そうとしている海賊を見つけた。海兵から奪い取った銃で、その剣先を撃てば、それは見事砕けたのだった。
「……スクアード…」
「お、オヤジ……おれ達らは売られたんだろっ?!海軍と話をつけてるそうじゃねぇか!!白ひげ海賊団とエースを逃がすって!!」
「……何をバカなことを言ってる…」
彼は騙されていたようで、ロジャーの息子であるエースの事、傘下の海賊を海軍に売り、白ひげ海賊団は見逃してもらうとかなんとか海軍側の策略で、白ひげに刃を向けたらしい。
普通ならば激昂しそうなもんだが、白ひげは懐が広いようで、そんな息子も許すようである。ふむ、マルコやジンベエが言っていた偉大なるオヤジは本当らしい。
騙されたと、傘下の仲間を策に使ったことで白ひげ海賊団の逆鱗に触れたようで、そこからは白ひげも出るようだ。こちらを見ているのは覇気に気づかれたからだろうか。
海軍側は他の作戦を実行していく。壁が出来て閉じ込められたと思えば、マグマ降ってくるし、とんでもない!!だけど、物には核があると教えられている、それを見つけて壊せば良い!コンコン、ゴンゴンと壁を叩き、武装色の覇気の一撃を入れればあっという間に壁は崩れていく。
まだ少女と呼べる小娘に壁を破壊され、海兵も海賊も慄おののいた。しかし、「早くっ!」とエース救出を促す彼女に海賊たちは勢いを増していく。
まだ幼いであろう少女がいる事に男は驚いていた。傘下の者にしても若い。あんな若い娘が傘下に入った報告は受けてはいない。下っ端だとしても彼女が纏う覇気は只者ではない。その事に気付いている者はこの戦場に何人いるだろうか──白ひげは息子たちに麦わらの援護を伝えるとともに、あの少女を気にかけるようにと伝えたのだった。
少女が壊した壁から次々と海賊が現れ、広場はまた戦場と化していった。モンキー・D・ルフィも壁を越え、大将たちと対峙する。青キジが「まだ早い」と言い、黄猿に蹴り飛ばされた。白ひげがルフィを掴まえて、自分たちに任せろと言っても聞く訳がない。
体力の関係で倒れ込むルフィだったが、イワンコフに頼み込み、ホルホルの実の能力を使おうとした時だった、「待って!」と声が掛かる。ルフィはそちらを見ると姉にそっくりの少女がいることに驚いた。
「……ねーちゃん、じゃ、ねぇよな…」
「私はエマ!」
「…………?」
エマ、知らない名前にルフィは首を傾げる。だが何故だろう、姉に似ているからか警戒する気はなかった。
イワンコフも見知らぬ少女の登場に驚きながらも、ルフィの願いを受けるかの瀬戸際である。インペルダウンで毒を受けたルフィは瀕死の状態で、ホルホルの実の能力──エンポリオ・治癒ホルモンを使い、なんとか生き長らえたのだ。それをまた能力を使えば寿命を短くしてしまうことであり、盟友の息子を危険に晒してしまうことでもある。助ける為に協力し脱獄したのだ。てっきり火拳のエースもドラゴンの息子かと思えば違うというし、大混乱の中、海軍と戦うしかないのである。
「エンポリオ・テンションホルモンは使わないで!!」
「ヴァナータ?!」
「寿命は縮めないで!!お願いだから!!」
懇願する少女は涙目である。本気で麦わらのルフィの心配をしているのだ。だがそれではエースを助けることは出来ない。大事な兄が処刑されるのを指をくわえて見ている訳にはいかないのだ。
「私が、私が手伝うからっ!」
「ヴァナータみたいな小娘になにができっ」
イワンコフが言葉を言い切る前に、エマと名乗った少女はルフィの前に立つと目の前に見える、海兵たちに覇王色の覇気をぶつけた。そのあまりにも強い覇気は白ひげやロジャーに勝るとも劣らない、凄まじい威力に広場は静まり返った。イワンコフは目をカッ開き、口を開けている。
中将の一部まで持っていった覇気に、ガープやセンゴク、大将たちは少女を見やる。白ひげや隊長たち、王下七武海も少女を見た。特にエースとガープは目を見開いた。愛する恋人、または愛する孫娘に似ている少女がルフィの前に立ち、覇気をぶつけて来たのだから。
「なんじゃあ、おのれは」
「とんでもない覇気だね〜〜」
「ちょっとちょっとこんなのがいるとか聞いてないよ」
すかさず持ち直す大将たちはさすがである。センゴクもハッとした。なんという覇気だろうか、ぶつけて来るにしても威力が違う。まるで全盛期の白ひげやロジャーを相手にしているようであった。
「おいおい、あんな小娘が持つ覇気かァ」
「世界にはまだまだとんだ強者がいるようだな」
「わらわと同じ覇王色……」
七武海の者たちも驚いている。それほどに異常な存在がこの戦場にいることに、彼らは訝しげに少女を見ている。
白ひげは少女の思いがけない覇気に驚きながらも、今がチャンスとばかりに息子たちに指示をする。大将たちの気は少女に向けられている。
空からマルコがエースを奪還しようとするが、英雄ガープがそれを阻止していた。大将よりも厄介なのがガープであるのは白ひげ、古参たちは知っている。センゴクが大将たちに守りを離れるな!と叫んだ。
処刑の時間を早めた、映像電伝虫を切れ!と指示するがバギーたちの邪魔が入り難航する。それでも処刑を開始しようとするも執行人やその他の人員は覇王色の覇気で倒れたままであった。
ルフィは驚きながらも体力が切れたままでへたり込んだ状態である。少女はガサゴソと腰に付けたポーチを漁ると「あった!」と声を出した。
「これ飲んで!」
差し出された黒い飴みたいなのは仲間の船医が持っていたモノに似ている。なんだこれ?と見上げると「安心して!体力回復するから!」と同じのを口に入れ、ガリッと噛んでいた。
藁にも縋る思いでルフィはイワンコフが止めるのを聞かずにそれを貰い、口へと運んだ。ガリッと砕き飲むと身体が温かくなる。「んがっ!」と力を込めれば、身体が軽くなっている。
傍らの少女を見れば誇らしげにしているが、彼女は何者なんだろうか。
ルフィに渡したのはチョッパーから貰った丸薬である。薬草学を学び、少しでも体力回復出来る薬欲しいと言えば、無茶するなよ!と幾つかくれたし、調合方法も教えてくれた。万能薬を作ることを目指していたチョッパーの力作である。
体力が回復したルフィは弾丸の如くエース奪還へと走り出した。覇気で倒れた海兵が多いが、依然立っている者もいる。彼らの注意すべき相手はエースを助けようとする海賊たちでもあるが、覇気を浴びせてきた少女も無視は出来ない。
七武海のドフラミンゴは最早白ひげ海賊団との戦いよりも少女に方に興味を持ち、ミホークも興味を示していた。海兵から鈍なまくらの刀を奪いながらの剣技はなかなかのものだが、使い捨てのように使う剣では勝負にはならないだろうと思える。それでも、と剣を向ければ斬撃を躱したが、それは花剣のビスタやダイヤモンド・ジョズに阻止された。
ボア・ハンコックはルフィの傍にいる少女に対し、何者じゃ!あやつは!と激昂したが、ルフィが味方だ!と言ったので妥協するしかなく、パシフィスタから庇うしかなかった。エースの手錠の鍵を渡せば、ルフィからの抱擁に陥落してしまい、エマは苦笑するしかなかった。
(ハンコックさんはこの頃から叔父さんが大好きなんだ)
未来で「ルっフィ〜〜!」とハートを撒き散らしながら会いに来るハンコックに、おじさんは「おぅ!ハンコック!」と出迎えていた。そこにどんな感情があったのかは分からないが、嫌いではなかったはずだ。
ただ叔父さんは結婚する気はなかった。多分、エース父の事があったからかもしれない。お母さんは哀しげな顔をして、父が自分が生きてていいのか、理由を求めていたことを話していた。母は「私にとっては生きててくれてるだけでも良かったんだけどね」と言っていた。鬼の子と蔑まれながら、海賊王の子は生きていることを否定されていたという。そんな父を見ていたからこそ、おじさんは結婚しなかったし、姉の忘れ形見である私がいるから良いと言ってくれた。
あぁ、色々な事を思い出す。母の事、叔父さんの事、父の事、可愛がってくれた曽祖父の事、マルコおじさんの事、此処には知っている人も多い。もう既にお別れをした人が夢の中ココでは生きている。
海賊王の子というだけで、処刑されるのであれば私はどうなるのだろうか。母が、曽祖父が、叔父さんが、みんながいつも私を守ってくれていた。海賊王の血筋だからというならば、私も例外ではなかったのだろう。知ってはいたが、理解まではしていなかった。ここでようやく分かった。己の血の重さに。
それでも母はエースの子だから、あなたを産んだのよ、愛してるから。と言ってくれた。海賊王の、革命家の血筋なんて知ったことじゃないわ。と言っていた母に笑いたくなる。当時はそんなことを知らなかったから。
だから、エース父を、祖父たちを嫌わないで。生まれてきてダメな人間なんていないのよ。そんなことを考えるまでもなく私は母から、叔父さんから、みんなから愛されていたのだ。そして、それは父も同じだろう。父の為にこんなにも戦う人がいるのだから!!
叔父が曽祖父と対面しているのを飛び越え、処刑台へと上がると間近で見る父に笑みを浮かべた。
「…………マリィ…じゃ、ねぇよな……」
「私はエマです」
父との初めての会話に涙が出そうになる。曽祖父は叔父さんによって下に落とされていた。叔父の顔が辛そうに見えた。
「エースっ!!」
「ルフィっ!お前、なんて無茶を……」
「鍵、あるんだ!!」
先程、ハンコックから渡された鍵を出すとすかさず後ろに回る叔父に、海軍の人が驚いている。どこからかビームが飛んできたが、武装色の腕で弾き返してやった。
「……何者だ、貴様っ!」
処刑台にいる、多分元帥がこちらを睨んできた。答える必要などない。ゴゴゴゴゴと光り輝きながら巨大化する元帥に「早くっ!」と急かすも海楼石で出来てるからかなかなか鍵を挿せないようだ。
「代わって!!」
「お、おぅ!」
叔父から鍵を渡されると元帥が拳をあげていた。すかさず『ゴムゴムの風船っ!』で弾き返すと同時に海楼石の手錠は外れたのだった。
ゴゥっと辺りが火に囲まれる。父が叔父さんと私を掴んで空中へと飛べば、処刑台は砲撃を受けて崩れていった。
「ルフィっ!それに、お前っ!!無茶ばっかしやがって!!」
「エースーーっ!」
エースが解放された事に海賊たちは歓声をあげている。さっさとズラかすぞ!とばかりに海賊たちにガードされながら、湾頭へと走り出した。
だが、油断してはならない。ジンベエ親分から聞かされたのは叔父さんは父を解放したが、海軍大将の追手が凄まじかったこと。海賊王と革命家の息子たちが義兄弟だと知り、激昂していたという。大将赤犬は執拗に二人を狙っていたと。
他の大将たちも例外ではない、自然ロギア系の能力でもとんでもない能力者ばかりなのだ。氷の、光の、マグマの攻撃に対処しながら逃げている。白ひげが皆を逃がそうとしていると赤犬が挑発してきた。それにまんまとノせられる父を誰もが止める。
バカじゃないの?!
母がこよなく愛した父は短気すぎない?!と思ったのはバカな挑発にのるからである。
叔父さんが、ジンベエ親分が、マルコたちが止めるなか挑発にのってしまった父は足を止めてしまったが、私はそこに腹パンを食らわせてやった。
「────っ?!」
「「「「「は?」」」」」
「挑発に乗るな、バカ父っ!!」
「……てめ……」
「叔父さん!早く連れってっ!!」
「おじっ?!」
傍らのルフィは同じ位の年の子に「おじさん」と呼ばれた事に唖然としつつ、「早くっ!!」と促されてエースを引っ張る。
エースもマリィによく似た女に怒鳴られるわ、父とか言われるしで混乱の極みである。ジンベエ親分も気を取り直して、二人を担ぐと湾頭へと走り出した。
「ちょ、おまえっ……」
「ジンベエっ、まっ、アイツが…」
エースとルフィは少女の事が気になるが、彼女はこれ以上ないってくらいの覇気をお見舞いすると、あの大将たちでさえ膝を着くことはないが立ってるのが精々といった感じだった。
「…………キサマ、何者ナニモンじゃ…」
「アンタに名乗る名前なんてないわよ」
父の仇でもある赤犬に名乗る気はない。それに、今から忌々しい奴が現れるのだから。睨むように顔を上げると「ゼハハハハハっ!」と嗤う男が現れた。
「海軍大将とあろう男がそんな小娘にやられるとはなァ!!」
父の仇であり、母たちの仇でもある黒ひげ──マーシャル・D・ティーチだ。
ギンッ!と覇気を飛ばせば、狼狽えているのか仰け反っている。そういえばこの頃はまだ能力に慣れていないのか、解放されていないのか、知っている気配よりもまだまだ弱いのが分かる。
「なぁ、おまえ!おれの仲間にならないか?」
突然の勧誘に聞いていた者たちが反応するも、エマは「お断り」と即断した。だが、それで引き下がる黒ひげではない。
「おまえのその力、勿体ないだろう」
「アンタみたいのに使う方が勿体ないわよ」
「…………残念だ。まぁ良い、今は目的は違うからなぁ」
黒ひげは白ひげを見る。怪我という程怪我はしていない。おかしい、本来ならばもっと怪我していても良い筈だ。
途中から戦争に来た黒ひげは経緯を知らない。所々で目の前にいる少女がどれほどの力を持っているのかを。力量を測れていないのだ。
黒ひげはインペルダウンで引き入れた仲間たちと一斉に白ひげに襲いかかるも、ドンッ!と殊更強い覇気が彼らに襲いかかった。
「……な、に…」
「こ、れは……」
インペルダウンの囚人たちはレベル6の凶悪な奴らであったはずだ。名を馳せる悪党たちである。いくら牢獄に入れられて身体が鈍っていたとしてもそう易易とやられるはずはない。
しかし、目の前の小娘一人の覇気に倒れてしまっている。黒ひげもその仲間も膝を付いてしまうくらいだ。
「アンタのせいで…」
元はと言えば、コイツが父を掴まえたせいである。海賊同士のやり取りだと言われればそんな事もあるだろう。命の奪い合いをしていたのだから。
だけど、それでも、と思わない時はない。コイツが父を海軍に連れて行かなければ戦争も起きたりはしなかった。父が船から飛び出さなければ、負けなければ、たらればを出してしまえばとりとめがない。
父が亡くなったのは叔父さんを庇ったから、直接手を下したのは海軍であるが、黒ひげ海賊団が蔑みながら父の事を話していたのを聞いた。叔父さんたちが怒っていたのを覚えている。母が亡くなったのもアイツらが襲撃してきたからだ。
「よくも、ママたちを……」
「あぁん?」
ここにいるコイツは何もしていない。未来のコイツが長閑な村を襲い、村人たちを、友だちを危険に晒した。そして、母も手にかかり死んでしまったのだ。叔父さんたちが助けに着いた時にはほぼ壊滅状態だったらしい。私は倒れている母に縋り付いていたし、マルコが母と私をサニー号に届けた後、村に戻ってから行方不明になった。
一味のみんな曰く、村は黒ひげたちに破壊されていたと。ただ私は母の事が心配だった。息も絶え絶えになりながら、ずっと私の事を気にかけていた。
『ねーちゃんっ!』
『……ル、フィ……エマのこと……おねがい、ね…』
『ねーちゃん、そんな事言うなよ!エマをひとりにすんなっ!』
『……おねがい、だから……ごめんね…ひとりはつらいから、ルフィ……そばにいて、あげて……』
『……ねーちゃん…また、おれをおいてくのかよ…』
『ルフィ……だいすきよ……ひとりにして、ごめん、ね……エマを、たのむわ……』
『……ママ?』
『……だいすきよ、あいしてる…』
『ママっ!やだ、死なないでっ!!』
『ねーちゃんっ!』
『やだ、やだやだやだやだやだっ!!ママっ!!』
頬を撫でてくれた手がだんだん冷たくなっていったのを憶えている。あんなに強かった母が死んでしまう。その事が信じられなくて、信じたくなくて、駄々をこねたし、傍らの叔父さんも『ねーちゃんっ!』と母の手を掴んでいた。
『泣かないの、四皇でしょう』と笑う母があまりにも儚くて、叔父さんは号泣していた。その後の事はあまり憶えていない。
気づいた時にはおじいちゃんやサボおじさんたちが来ていたし、母のお墓は父のお墓の横に並べられた。おじいちゃんが私を引き取ると言ったけど、それは叔父さんが拒んだ。
『ねーちゃんはおれに頼んだんだ!!』
『エマはどうしたい?』
誰もが訊ねてくる質問にエマはルフィの服を握ると『おじちゃんといる』としがみつくようにくっついていると強く抱きしめられた。
一瞬にしてそれを思い出した。ツラく苦い思い出、それでも大事な記憶。
だからこそ、ここではそんな事は起こさせたくない。やがて生まれるであろう自分・・が、父や母と幸せになってもいい世界があるはずだ!!
「アンタなんか……アンタなんか、私がブッ倒してやる!!」
黒ひげは能力を使おうとしたが、相手は非能力者の上、とんでもない覇気使いであった。これ以上の覇気使いなど、四皇かあるいは海軍上層部、それそこ海賊王や白ひげたちと拳を交えた者くらいなものだ。
覇気を纏った拳はまるで海軍の英雄ガープのような一撃であり、それを知るセンゴクやつる、白ひげや古い海賊たちは唖然とするしかない。むしろガープの隠し子或いは孫かなにかか?と思わせるくらいであった。それはあながち間違いではない、強いていうなればロジャーの孫にしてガープの曾孫というとんでもないサラブレッドだ。
秒殺──と言ってもいい重い一撃が黒ひげを地面へと沈めた。見た目は普通の女の子にも関わらず、そんなちぐはぐな強さに一般の海兵たちは恐れ慄いた。──殺される。
「っふん!」
なんだろう、凄まじい威力を見せられた後の出てくる言葉にしてはなんだか軽い。声が高いからだろうか。
だが、流石は海軍大将赤犬、復活した彼は果敢にもその女の子へと能力を使い始めた。マグマグの実の能力、マグマが彼女の上に降り注いでいく。
「ッち!しつっっっっっこいっ!!」
「なっ?!」
戦闘で高揚ハイになっているのか、彼女は舌打ちをしながら上空からくるマグマも拳の風圧でなくしてしまった。それには赤犬も驚愕するしかない。
「…………いーかげんにしてよ、オジさん!しつこいのよ!!」
ギロリと顔に似つかない表情に誰もが「あんな女の子に負けてるぅぅぅぅぅ」と赤犬に見る周りの者たちだったが、そこに誰かが報告を上げた。
「湾頭から、あ、赤髪海賊団がやって来ました!!」
「なにっ?!」
「赤髪!?」
海兵や海賊が驚いているなか、エマはある人が父や叔父に駆け寄っているのが見えた。──若かりし日の母である。
『エースっ!ルフィっ!!』
『マリィ!?』
『ねーちゃんっ!!』
『っあぁ、エース、無事なのねっ!!』
『マリィっ!!』
抱き合う父と母に、あぁ、良かったと、嬉しくなる!叔父さんもくっついていたが、こちらを向いたと思いきやびよーんと叔父さんの腕が伸びてきた。
あ、と思った時にはガシリと掴まれてしまった。あ、これ懐かしいっ!!なんて暢気な事を思っているとぐいっ!!と物凄い力で引っ張られてしまった。
「おまえっ!!ありがとなっ!!」
「おいっ!ルフィっ!!」
「…………あなた…」
「え?マリィ??」
父や母が呆然とし、これまた若い頃のデュースおじさんが私を見て驚いている。まぁ、確かに私は母にそっくりと言われていたし、若い母を見て納得した。でも私の髪の毛そんなにサラサラじゃないよ?
黒くさらりとした髪の母だが、私はどちらかと言えば癖っ毛があるし、黒髪に近くはあるが茶髪にも見えなくはない。曽祖父の話では父の母、おばあちゃんが金髪だったとか。閑話休題。
今はそれどころじゃないでしょう!戦争中だよね?!ほらマルコおじさんが空中から「早く船に乗れっ!!」と騒いでいる。
よし、彼らが船に乗ったら私もズラかろうなんて思っていたら、ジンベエ親分に抱えられてしまった。なんで??いや、これは私も連れて行かれるパターン!!だって反対側には叔父さんが抱えられてるし、父は母を抱えて走っている。
海軍と対立しているのはこれまた若いシャンクスである。わぁ!えー?本当に若ーいー!ベックおじさんもヤソップおじさんもライムおじさんたちも若ーい!!なんとなく感動していると、反対側にいる叔父さんが「……シャンクス…」と呟いていたのが聞こえた。
なんか、残念そうだけどどうかしたのかな?
エマが知っているルフィとシャンクスは仲良しだった。というかルフィがシャンクスを慕っていたようである。ベックおじさんが叔父さんの小さい頃の話を聞かされた事があったから、ここでも親しいのかと思ったんだけど?
シャンクスおじさんは母にも良くしていてくれたし、小さい頃は偶にスフィンクスに来てくれたりもした。マルコおじさんが呆れていたのを思い出す。
そして、話は冒頭へと戻る。
父と母、叔父さんと共に白ひげ海賊団のどこかの船に乗り、私は海賊たち、マルコおじさんを筆頭に(多分隊長さんたち)に囲まれてしまった。
おかしい、確か叔父さんとジンベエ親分はトラ男おじさんの船に助けられたと聞いた事があるんだが??ましてや大きいおじいさん──白ひげさんもいらっしゃるんですが??
いや、確かに夢だし、やりたいようにする!と決めてやりたい放題しまくったけど、これ、夢じゃないの??
「名前は?」
マルコおじさんが訊ねてくる。
「…っぁ……………エマ、です……」
屈強な男たちは背が高い人ばかりである。いや、慣れてはいるけれど、いるけれどこんなに大勢に囲まれることはなかった。
手当てを受けたのか叔父さんと父が包帯を巻いた身体でこちらを見ている。
「お前、なんでねーちゃんに似てんだ?」
叔父さんが声を上げると、イワンコフさんが「ドラゴンにまだ子供がいたっチャブル?!」と驚いていた。母たちが「え?」と驚いている。
「マリィたち以外にも姉妹がいたのか?」
「だとしても……」
なんだか話が勝手に進んでいく。これ以上お祖父ちゃんに隠し子説は良くない!
「ち、違いますっ!私はっ…………ぁ」
「じゃあ、誰だ?」
首を傾げてくる叔父さんがすかさず訊いてくるが言えるはずもない。信じてもらえるとかもらえないとかもあるけど、頭おかしいってしか思われないもん!!
ひぃっ…夢なら早く覚めて!!起きて、起きてよ!私!!
そんな事を思っていると、「あのぅ〜」と母が声を上げた。
「私が話してみましょうか?」
おそるおそるといった感じで母の手が上がる。父が「マリィっ!」と止めていたが、母は「大丈夫よ」と制していた。
海賊たちも私とそっくり(私が母に似てるのだが)な女性に驚いている。父やデュースおじさんが「おれエースの恋人」だと説明していたし、叔父さんは「おれのねーちゃんだ!」と誇らしげにしていた。マルコおじさんたちは初対面だったらしいが、父に恋人がいるのは気付いていたとかなんとか。
マルコおじさんが白ひげさんを見れば頷いたらしく、どうやらOKだったようだ。
母も頭を下げると私を引っ張ると立たせてから「あちらで話してきます」と甲板の隅へと移動した。懐かしい母の手に涙が出そうになってしまった。
「……な、泣いてるの?海賊ばかりで怖かった?」
ふりむいた母がわたわたと慌てた感じで話してくるのに涙を拭いながら「ちがいます」と伝えた。
「……ただ、うれしくて…」
「?」
分からないといった母は首を傾げている。当たり前だけど、彼女は母であって、まだ母ではない。だけど心配してくれているのだろう、懐かしい表情かおをまたひとつ見れた。
「……それで、あなたはどこから来たの?どうして、エースを、ルフィを助けてくれたの?」
そりゃそうだよね、訊くよね。どう話したら良いのか分からない。これが現実でも、夢だとしても、自分のしたいようにしただけだ。そりゃ、父を見たかった、会ってみたかった、助けたかった。感情としてはそれだけだ。叔父さんの事も助けたかったのもある。
なんせ、父の記憶なんてのはないのだから。叔父さんには七年間一緒にいてくれた想いもあるし。
「…………ただ、助けたかったから、です」
「…………」
「…………それ、だけ……です」
母は驚いているのか、なんともいえない表情かおをしているが、「…………そう…」としか答えなかった。いや、本当にただそれだけだったんだ。多分、ちゃんとした理由が必要なんだろうけど……。しかし、母は母だった。あの叔父さんの姉だけある。
「…そうなのね、どうもありがとう!」
「…………へ、」
「エースを、ルフィを助けてくれてありがとう!!私の、私の大事な人たちなの」
ふふ、と笑う母に手を握られた。それと母の顔を交互に見れば、嬉しそうな顔をしていて、私もなんだか笑えてしまった。
「……あなた、」
「え?」
「あなた、なんだかエースとルフィに似てるわね」
「……え」
「笑った表情かおが似ているわ」
また笑みを浮かべる母に驚いた。今まで母に似てるとしか言われなかった。たまに一味のみんなには「ルフィに笑い方そっくり」と言われたり、サボおじさんにも「エースが笑った顔と少し似てる」と言われた事があった。寂しげに「おれの知らない二人の時間があったからか」と言っていたのを何故か思い出した。
知らなくても受け継がれているのだとお祖父ちゃんに言われたけど、そうなんだと嬉しくなってしまった。父を知らなくても父の何かが私に伝わっている、それを他ならぬ母に言われた。
「あの、私っ……あなたの…」
「ん?」
────あなたの娘です。
あなたが今、お腹に宿してる生命は私なんです。そう言いたかったが、言葉に出来なかった。言っちゃいけないような気がした。
「………あの、身体大事にしてください」
だって、妊娠中なんでしょ。
そう話すと驚いた表情をしていたが、優しくお腹を擦りと、「えぇ」と笑顔を見せてくれた。慈しむようにお腹を撫でる母にぐっと何かがこみ上げて来そうになる。
「…………元気な子供、産んでください」
「ありがとう」
「…………」
聞こえない声で、もういない筈なのに母を呼ぶ。──ママ、と。
「……え?」
「……っ、な、なんでも…えっ?!」
「…………っ」
気づけば、手が光りだしていて、父と叔父さんが慌ててこちらへとやって来た。
「マリィっ!!」「ねーちゃんっ!!」
「なんだ、光りだしたぞっ!」
「能力者か?!」
周りの海賊たちも驚いている。父が母を守ろうと背に隠そうとし、叔父さんも前に立つ。すうっと手が透けてきて、あぁ、あちらに戻れるのだ。と思った。
「あ、あのっ!」
「なんだ?!」
叔父さんが母を大好きだったのは知っているが、父もしっかり母を大好きみたいで、それを見ることが出来て嬉しくなる。
母は背に隠そうとする父と叔父を除けて近づいてきた。
「マリィ!」
「ねーちゃん!」
「あ、あの……」
「ありがとう、エマちゃん」
透けている手を取り、真っ直ぐ見つめてくる眸に、なんとなく見慣れた眼差しだと思えてしまった。
「…………ぁ、あの、身体!身体、大事にして元気な赤ちゃん産んで長生きしてください」
「はぁ?!」
「?」
「…………あなた、もしかして…」
父や叔父たちが首を傾げているが、母は何かに気づいたようだ。突然の物言いに周りの海賊たちも寄ってきていたが、どうでもいい。
此処の私・は母と父、叔父さんやみんなに囲まれて幸せになれるだろう。別に私が幸せじゃなかった訳じゃない。私だってものすごーく幸せなのだから。ベクトルが違うのだ。
でも自分がもう会うことすら出来なかった父や母、叔父さんに会える、自分・・が良いなと思えてくるのはしょうがないと思う。
そんな事を思っていたからか、母がぎゅっと抱きしめてきた。驚くのをよそに母が「エース!ルフィも!!」と二人を呼ぶ。叔父さんは分からないながらも母の言う事に素直にくっついてきたし、父は疑問符を浮かべながらも戸惑いつつ抱きついてきた。
なんだ、デュースおじさんがいってた母の言うことを聞くって本当なんだ、と変な事を思い出しながら、もう触れることさえ出来ない三人からのハグに涙が出そうになる。父は生まれた時には亡く、大好きな母と叔父はもういない。まさかまた触れられるなんて思わなかった。
「…………っ大好きです、」
「「??」」
「……私も大好きよ、ありがとう、守ってくれて」
「…………ま、ま」
そう呼んだ途端に目の前が真っ白くなる。光の洪水というべきか、「エマちゃんっ!」と母が呼ぶが抱きしめられてる感触はない。
「ママっ!!パパっ!!おじさんっ!!」
離れたくない!とばかりに手を伸ばしたが、そこには天井があるだけだった。
「……………………」
視界に入る天井と自分の手にエマは目をキョロキョロさせる。ゆっくりと起き上がり、己の手を見つめ、ぎゅっと自分を抱きしめた。
夢、やはり夢だったのだ。
レイリーさんとシャッキーさんに母の、叔父さんの話を聞いたせいかもしれない。でも、と涙が頰を伝っていた。ぐちゃぐちゃと感情が揺れ動く。嬉しくて、哀しくて、切なくて、羨んで、ぐるぐると気持ちが混ざり合う。
「………………………っはぁ」
一通り泣いたからか、声が洩れた。
なんとも言えない気持ちがいっぱいになる。ぐっと腕を伸ばし、ベッドから降りると「ん?」ととある気配を感じて、着替えて降りていく。
「サボおじさんっ!」
「エマっ!」
扉を開けると抱きしめられる。柔らかい金髪の男性は父と叔父のもう一人の兄弟であるサボだった。
「ロビンたちから一人で旅に出たって聞いて驚いたんだぞ!」
「ご、ごべん、なさい…」
ぐにっ!と頰を抓られてしまい謝れば、ぽん、と頭に手を乗せられ撫でられる。目を細めて笑う顔はなんだか父にも叔父にも似ている気がした。
「まったく、誰に似たんだか」
苦笑するサボおじさんにエマはぎゅっと抱きついた。
「……エマ?」
訝しげな声で名を呼ぶサボに、エマは顔を上げると興奮した面向ちで声を上げた。
「おじさん!私ね、パパに会ったよ!ママにもルフィ叔父さんにも!!」
「は?」
「あのね、あのね!」
サボおじさんに話すと、彼は頭を撫でながら言った。
「……そっか、いいな。おれもエースたちに会いてぇな」
「うんっ!私もまた会いたいっ!!」
ひぃぃんと泣き笑いをしながら、あぁ、あっちの母たちにサボおじさんか生きているよと言うのを忘れたといえば、おじさんは大丈夫だと答えた。
「あの戦争がきっかけでおれは思い出したんだ。きっと新聞を見れば思い出すよ」
おじさんは「そっちのおれはエースに会えるのか」と呟いている。
そうかもしれない。あの後どうなったのかは分からないけど、母はもちろん、父も叔父さんにも幸せになってもらいたい。
きっと叔父さんは長生きな海賊王になるだろう。
「エマ?」
「ねぇ、サボおじさん」
「なんだ?」
「冒険に興味ない?」
「あぁ、あるぞ」
「なら、私と一緒に冒険に出ようよ!」
答えなど分かりきっている。だってここにいるのはそういうことだから。
サボおじさんに手を出せば、大きな手がぐっと握ってくる。
「勿論だ」
「やった!」
レイリーさんやシャッキーさんは笑っていた。革命軍の仕事はいいのか?と訊かれているが、大丈夫と答えている。
「おじいちゃんは大丈夫?」
「イワさんやコアラもいる。大丈夫さ。それに可愛い姪っ子を一人で旅させる訳にはいかないだろう」
にっ!と父や叔父さんに似た笑い方をするおじさんに嬉しくて抱きついた。
「ありがとう!サボおじさん!!」
よし!と浮かれているとレイリーさんが「冒険家にでもなるのかね」と聞いてきたから、笑いながら言ったのだった。
「私は冒険王にでもなろうかな!」
「はは、それはいいな!」
シャッキーのぼったくりバーでは楽しげな声が上がったのだった。
END
【モンキー・D・エマ】
エースとマリィの娘。十歳の時に母と死別し、以来叔父であるルフィと一緒に旅をする。
東の海から偉大なる航路の半分を一人で旅する強者。麦わらの一味や他の海賊たちから色々な事を教わる腕力、知力、幸運ととんでもないチート人間。
覇王色、武装色、見聞色を持つ上に見聞殺しも出来る。腕力も最上、剣の腕前、蹴りの力も半端ない。
血筋によるのかは不明だが、全盛期の最強海賊並の覇王色の覇気を持つ。
設定てんこ盛り過ぎ。
【モンキー・D・マリィ】(故)
エマの母親。ルフィの実姉。エースとは恋人同士であり、エースが死ぬ前に子を授かっていた。ルフィを慈しむ優しい姉ながらも怒ると怖い。
頂上戦争直後はシャンクスの保護下でエマを出産。スフィンクスにて暮らしていたが、黒ひげの襲来により負傷。帰らぬ人となる。ルフィにエマを託した。
【ポートガス・D・エース】(故)
エマの実父。頂上戦争にて死亡。
エマの存在を知らずに逝去してしまう。マリィを誰よりも愛していた。
【モンキー・D・ルフィ】(故)
エマの叔父。マリィの弟。エースとは義兄弟で、ねーちゃんを泣かせたらタダじゃおかないシスコンである。
エースと姉マリィの娘であるエマが可愛くて大事にしているが、ガープの教育のせいか強くさせることや危ないことばかりさせて一味のみんなから怒られていた。エマ本人がやりたがった為、感覚で色々と教えた。
寿命を削る戦いをしていた為に早世。
【モンキー・D・ガープ】(故)
エマの曽祖父。孫娘たちを溺愛だが相変わらずめちゃくちゃなじじぃ。
【モンキー・D・ドラゴン】
革命軍総司令。エマの祖父。
孫娘は可愛いのでマリィ亡きあと引き取ろうとしたが、ルフィに引き取られてしまった。
【サボ】
エース、ルフィの義兄弟。
エース、マリィ、ルフィと亡くしてしまった上にエマが一人で船出をしたとロビンから聞き、追いかけた。
義兄弟、または初恋の相手の娘を大事にしていく所存。おれの目が黒いうちは可愛い姪っ子を嫁にはやらん!むしろおれが貰う!と思考が斜めにいっている。
エースやルフィ、マリィと旅が出来なかったのでエマと旅する事を決めた。革命軍?電伝虫で指令は聞こう、だが優先順位はエマである。
【麦わらの一味】
ゾロ→刀の扱い方、剣術を教える
ナミ→航海術、海流、風、または天候の読み方を教える
ウソップ→銃の扱い方、狙撃を教える
サンジ→料理や具材の目利き、蹴りを教える
チョッパー→医学、薬学を教える
ロビン→一般教養、マナーや考古学、古代文字も教える
フランキー→船の扱い方、船大工の基礎なども教える
ブルック→音楽全般、楽器の弾き方、剣術を教える
ジンベエ→泳ぎ方、魚人空手を教える
【赤髪のシャンクス】
ルフィ、マリィの友人。エマに覇気を教える。エマの出産の際には近くにいた。エマを可愛いと思っている。
【不死鳥マルコ】(消息不明)
エマの出産に立ち会ってしまった船医
スフィンクスにて暮らし、白ひげとエースたちの墓守りみたいな事をしていた。
スフィンクスではエマたちとは家族同然の付き合いをしていた。父代わりみたいな存在だったが、襲撃の際、負傷したマリィとエマをサニー号に送り届けた後、消息不明になる。