欲しい物
放課後、普通科の廊下を歩いていたら、天羽ちゃんに声をかけられた。
「あ、香穂。ちょうどよかった」
「どうしたの? 天羽ちゃん」
聞き返すとごそごそと分厚い封筒を手渡された。
香穂子はそれを受け取りながら、小首を傾げた。なかなか重みがある。
「セレクション中の写真。最終セレクションの準備前に撮った写真まで、全部入ってるよ。結構な量になったけど、記念になるでしょ」
パチン、とウィンクしながら見てくる姿はいつもながら美人だな、と思い、カサカサと封筒の中を見た。
「うわっ、本当にたくさん。いいの? こんなに?」
「ん、いいって、いいって。こっちも取材とかさせてもらったしね。あ、そうだ、他の参加者の分もあるんだけど……もしよかったら渡してくれないかな? 一人だけでもいいから」
「え、いいけど」
「やった! じゃあ、せっかくだし月森くんのを頼むよ」
ニヤッと笑ってくる顔に思わず顔に熱が集まりそうになる。
「他のは私が渡しておくからさ、香穂が他の参加者に渡しに行ったら怒りそうじゃない? 特に土浦くんとかさ」
「そんなことないよ」
いくら月森くんが土浦くんと折り合いが悪くても、写真を渡しただけで怒るなんてことはないはず。
同じ普通科の頼れる友人だというのに。
「ま、そこまで心狭くもないか。おっと、時間時間。じゃあね、香穂。頼んだ」
そう言って天羽はパタパタと廊下を走っていった。
香穂子は自分の写真が入った封筒を鞄に入れ、月森に渡す写真が入った封筒を持つと音楽科棟へと足を向けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
未だに慣れない音楽科棟へと渡り、さらに奥にある練習室棟に行けば、そこにちょうど月森がいたから香穂子は声をかけた。
「月森くん」
「ああ、君か。どうした、俺に何か用があるのか?」
初めて会った時より大分柔らかくなった表情に、少し笑いながら天羽から手渡された写真の事を告げた。
「はい、これ。天羽ちゃんから、コンクールの時の写真。焼き増ししてくれたんだって」
「コンクールの時の写真? 天羽さんが焼き増ししてくれたのか。わざわざありがとう。写真を確認してもいいだろうか」
そう言うと、カサリと封筒を開け、中身を確認していく。
そして、一枚の写真を取り出しているのを見ると、参加者の男五人で写ってる写真だった。
「へぇ、みんなで撮ったんだね」
「…ああ、この写真は、君や冬海さんが控室に戻った後に撮ったんだ。残念だな、一緒に写りたかった。できれば、二人で……あ、いや、その…。なんでもないんだ。すまない」
突然の言葉に思わず香穂子も頬を赤く染めてしまう。ちらり、と月森をみれば目元が赤くなってるのが目に入る。
「う、ううん。気にしないで。……で、でも本当に写真いっぱいあるよね。私も渡されたけど封筒分厚くてびっくりしたよ」
なんとなく気まずい、というわけではないが雰囲気を変えようと香穂子は自分の鞄にしまった封筒を取り出した。
いくらか月森よりも写真が多いような気がする。
「君ももらったのか?」
「え、あ、うん」
「よかったら……見せてもらってもいいだろうか?」
「へ? あ、うんいいよ」
「ありがとう、ここで話しているのも邪魔になるから入らないか」
「そうだね」
廊下でずっと話しているのも、防音しているから声は聞こえないとしても、練習している最中に目に映ったら邪魔だろうと思い、月森が使う予定の練習室に滑り込んだ。
まだ自分もそんなに見ていなかった為、香穂子は月森に並んで写真を眺めていた。
パラパラと写真を眺めていく内に、月森の眉間に皺がよっていく。
「どうかしたの? 月森くん」
「……いや、別に」
そう言うわりににますます眉間の皺が深くなっているように見える。
そんなに耐え難い自分の見苦しい姿があるんだろうか?
一緒に見ているがそれほど気になるような写真はない(…はず)
「……なんで、こんなに…」
ボソリと呟かれた科白に彼が持っている写真を覗き込む。
別にたいしたことない写真で香穂子は小首を傾げた。
「月森くん? その写真がどうかしたの?」
「いやっ……その、多いな、と思って」
「ん? 確かに月森くんと比べたら写真の枚数多いよね」
「そうじゃなくて……その、他の参加者と君が写ってるのが多いな、と思って…」
「え、そうかな?」
貸して、と月森が持っていた写真を受け取り、何枚が眺めていく。
舞台裏で冬海ちゃんと談笑している姿
屋上で火原先輩と合奏している姿
志水くんと冬海ちゃんと一緒にいる姿
普通科の廊下で土浦くんと談笑している姿
森の広場で土浦くんと一緒に練習している姿
確かに、他の参加者と一緒にいる写真が何枚かあり、同じ普通科の土浦と一緒にいるのが多い気がする。
「あー、本当だね」
「…………」
フイッと顔を逸らす姿に、香穂子はどうしたものかと思う。
何枚か見ても月森と一緒に写っている写真はほんの数枚。二人だけとかではなく、一緒に火原先輩や土浦くん、または志水くんや冬海ちゃんが写っているのだ。
自惚れてはいけないのかもしれないが……もしかして、と思ってしまう。
「あの「香穂子、」」
話しかけようとして、名前を呼ばれ遮られた。
見ればやや照れているような顔をしている。
「今度一緒に出かける時、君の写真を撮らせてもらえないだろうか? その…君の写真が欲しいんだ」
「え、」
「好きな人の写真を欲しいと思うのは、当たり前だろう? 俺の腕では不安かもしれないが、被写体がいいから、きっと大丈夫だ。今度の休日、君の都合がよければ俺と出掛けないか?」
「……月森くん」
「……それに俺以外の男と一緒に写っているのが多いのが……少し、いや、かなり」
香穂子の手にある写真を一瞥し、再び顔をしかめるのを見て、香穂子は頬が緩んだ。
「だめ」
「えっ?」
「一緒に出かけるのはいいけど、私だけの写真はだめだよ。私だって、月森くんの写真が欲しいよ、ううん、一緒に写ってるのが欲しいな」
「香穂子……」
驚いている月森に香穂子はやや顔を赤らめて、言った。
「私だって、好きな人の写真は欲しいんだよ」
END
あとがき
おかしい。予定とは全く違う、甘々な話になってしまった……。
月森くんを虐めようと思っていたのに、なにこの糖度は……。
くっ、リハビリがまだまだ必要な様子です。
あ、ネタはイベントの『記念写真』からです。
2008/05/19