綻び始めた恋蕾

♪♬♪

別に付き合っている訳じゃない。

互いの関係は、同じ普通科で、同じコンクールに参加している仲間というもの。
たまに校門前で会えば、同じ方向でもあるし、一緒に帰ることがある。
それが2、3日続いただけなのに、左側にアイツがいないと妙に落ち着かない。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


土浦は放課後、音楽室のピアノを借りて練習をしていた。
家に帰れば、自室は防音な上に自分のグランドピアノが置いてある。
それなのになぜか学校で時間ギリギリまで練習をしていた。
最後の一音が終わると、周りに集まっていた生徒たちから拍手を貰う。
お辞儀をして、楽譜を鞄に仕舞うと下校の時間の鐘がなった。
タイミングばっちりだな、と思いながら、エントランスを抜け、正門前に出る。
周りは普通科の生徒はもちろん、音楽科の生徒もいる。
カツカツと歩きながら、妖精像の横を通り過ぎて、思わず辺りを見渡した。

(…………いない、か…)

無意識にだろうか、探してしまうのは同じ普通科でコンクールに巻き込んでくれた張本人の日野香穂子。
しかし彼女の姿はどこにもない、別に一緒に帰る約束をしている訳でも、付き合っている訳でもない。
それでも、帰る時に会えば、交差点までだが、一緒に帰っていたりした。ここ最近は。
だから、探してしまうのだろうか?
くしゃり、と前髪をあげ、土浦は頭を掻いた。

「……なに、やってんだ。俺」

早く帰って、次のセレクションの曲を完成させなければ。
日野がいないから、なんだというのだ。──でも、なにか物足りないのは確かで。
彼女の傍はなんだか心地がいいのだ。
他の女子とは違って、怖がったりしない、きちんと自分を持っていて……危なっかしいけど、自分でなんとかしようとしている、前向きさが気に入ってる。

「…………はぁ」

それがなんなのか、まだ気付かない方がいいのかもしれない。

「あ、土浦くーん」

そんな事を思っていると後ろから声をかけられた。
振り向けば逆光でも、シルエットでそれが日野だと分かった。
ヴァイオリンケースを持った女子なんて一人しか知らない。
パタパタと足音が聞こえ、傍に寄ってきたのはやはり、日野香穂子だった。

「土浦くんも今帰りなんだ」

「おう、お前もか」

「うん、一緒に帰らない?」

その言葉に、ホッとしたような気がした。

「いいぜ」

「よかった、じゃあ、帰ろ」

自分の肩までくらいしかない日野を横目に、なんだか安心して頬が緩んだ。
もう自分の左側はいつも日野がいて、定位置な気がする。

「今日は何処で練習してたの?」

「ああ、音楽室だ。そういうお前は?」

「私? 今日は練習室取れたからそこで」

「へぇ」

他愛もない会話だが、居心地がいい。そう思えるのは日野だから、なんだろうな。

「あ、じゃあ……」

気付けば、いつもの交差点まで来ていた。だけど──。

「たまには送っていってやるよ」

まだ離れたくないのか、自然に言葉が零れた。

「えっ、うん……ありがと…」

夕日のせいかは分からないが、日野の顔が紅いのが分かった。
なんだか、隣で歩く日野が落ち着かない様子を目の端で見ながら、土浦は気付かない振りをした。
あっという間に着く日野の家は、自分の家からそう遠くもなかった。

「あ、ありがとう。ここだから」

門の前に立つ日野がそう言えば、「ああ」と返事をした。

「それじゃ、バイバ「日野、あのさ──…」」

言葉を遮り、土浦が続けた言葉に日野は驚いたものの、快く返事をくれた。

「サンキュ。じゃあ、また明日な」

そう言って手を上げて、歩き出すと後ろから「バイバイっ! 土浦くん」と声が掛かる。
肩越しに振り返ると頬を紅くした日野が目に入る。
それにまた手を上げると、緩む頬を抑えながら帰路へとついた。



END



あとがき

す、すいませんっ!なんだか台詞がバラバラでございますっ!!
はい、今回は土浦視点で頑張ってみました。
物足りない土浦くん、日野ちゃんを意識してます!
連日帰っていたら、きっと物足りないのではないかと思いまして……。
しかもラストは強引に終わらせてしまいました、ひそかに修正するかもしれません。


こんな拙い文ですが、感想頂けたら幸いです。


2008/09/05


-7-

金色のコルダ top