【ドラゴンとマルコの邂逅】

ONEPIECE


 それはごく普通の日だった。
 大学で出会ったサッチは前世の記憶というのもはなかったが、なんだかんだと明るい性格からか友人になれた。ついでにいえば、元白ひげ海賊団のジョズとビスタとも友人関係になり、ジョズとは苦笑いしたものだった。
 昼飯を食べに行き、ぶらぶらと歩いていると目の前に横切る丸い何かに気を取られた。

「ふーせん!!」

 うわぁん!と泣き声に近い声に、あぁ、風船が飛んできたのか、と思っていると隣を歩いていたサッチが風船の紐を掴んでいた。

「ナイスキャッチ!」

 自画自賛するサッチに笑いながら、後ろを振り向いた。たたた、と軽い足音でオレンジ色の風船の持ち主が走り寄ってきたと思ったからだ。しかし、そこにいたのはマルコにとっては思いがけない幼子がいた。

「…………エ、マ…?」

「?」

 やたら見覚えがある幼子はキョトンとしていたが、サッチが「ほら、風船だよ〜」と締まりの無い顔を見せている。

「マリィのふーせん!」

「マリィちゃんって言うんだ〜」

「ありがと!おにーちゃん!!」

 にっこりと笑ってみせる幼子に、かつて一時期、育てたことのある子供ではない事に気づく。違う、エマではなく、この子はマリィだ。とマルコは呆然とする。
 年の頃は二、三歳くらいだろうか?そんな事を考えていると「マリィ!」と彼女を呼ぶ声が聞こえた。

「パパ!」

「急に走り出すのは危ないぞ」

「ご、ごめんなさい……ふうせんが……」

 しょぼんとする娘に「怒ってはいない」と父親が頭を撫でていた。マルコはその男にも見覚えがあった。会った事はほぼないが、『世界最悪の犯罪者』の手配書は見たことがあったからだ。
 ソイツはサッチに礼を言い、こちらを向いた瞬間、止まった。あ、コイツ、記憶あるな…と思ったのだった。

「……君は…不し「久しぶり・・・・だな、ドラゴン?」あ、あぁ……久しぶりだ」

「あん?知り合いか、マルコ?」

「まぁ、な……」

 まさか『不死鳥』などと街中で言われる訳にはいかず、遮ってしまった。そんな二つ名を出すな!厨二病じゃあるまいし!!
 ちらり、とマリィを見ると、あちらも気づいたのだろう。時間はあるか?と聞かれた。
 近くに公園があるからと移動すれば、休日だからそれなりに人は多かった。ちょうど空いていたベンチに座り、マルコは移動販売車があるのを見つけた。

「サッチ、大丈夫だと思うがそのお嬢ちゃんとアイスでも買ってきてくれないか?」

「はぁ?おれぇ?」

「マリィ、このお兄さんとお買い物行ってくれるか?」

「アイス?!」

「あぁ、……良いかな?」

「…………まぁ、いいけど……」

「頼んだよぃ」

 無理やりだが、二人を離れさせた。人懐っこいのか何なのか、マリィはオレンジ色の風船を手に持ったまま、すんなりとサッチと手を繋いでいく。サッチもサッチで文句を言いたそうにしていたが、マリィの可愛さに負けたのか嬉しそうにしていた。

「…………さて、単刀直入に聞くよぃ。記憶・・、あるんだな」

「……あぁ、君も、だな」

「……あぁ…」

 記憶はある。但し、厄介なのが、ひとつだけではなく、ふたつ記憶があるのだ。互いに探り合うながらも、同じ記憶がある事に、なんとも言えない気持ちになる。それはサッチとアイスを買いに行っているマリィの姿を見たからだ。

「……あの子に記憶はないんだな…」

「あぁ」

「ヤミヤミの実、食べてなかったか?」

「……おそらくは………」

 マルコはドラゴンからの話に、首に手を当ててなんとも言えない気持ちになった。
 前世むかしの記憶というものは、鮮明ではないにせよ印象深いものは憶えているものだ。ただ、曖昧なのもある。
 ひとつ目の記憶は思い出せるのが多いのは、彼女たち・・・・とは過ごす日々が多かったからなのだろう。但しふたつ目の記憶が曖昧な事が多いのは、彼女と接した記憶があまりないからだ。エースが助かった世界ではあの子の記憶はほぼないのだ。会ったのは2回だけ。憶えているのは警告してくれたことと、オヤジやエースたちを助け、彼女が犠牲になったこと。
 エースを生かす為だけに、世界線を渡り歩き、遂に運命を覆した彼女に、あの日、こっそりと涙したのを思い出した。多分、その後は忘れてしまったであろう自分がいた。
 彼女に記憶がないのは、平行世界への干渉の代償だというドラゴンに、マルコはツラくなるのは彼女がどれほどエースを好いていたかを知っていたからだ。まだ若い彼女は人柄もあり、何人かに望まれていたのを憶えている。しかし、彼女は誰からの誘いに乗る事もなく、忘れ形見の娘を愛くしんでいた。
 未亡人、未だまだ死んでない人、だと自分を言っていた。一度、もういいんじゃないか?と問えば「自分にはエースしかいない」のだと言った。「なにがあってもエースだけに恋をする」と、今思えば狂気めいていた。多分、気付かないだけで彼女は病んでいたのだろう。エースへの思いの深さ、重み、執着心が平行世界へと渡り歩かせたのか。人の思いとは怖いとさえ思える。
 チラリ、と彼女を見ると屈託ない笑顔を見せている。本来の彼女はああいう風に笑うのだと知る。
 エースを、弟を、前世を憶えていないのは良い事をなのかは不明だが、まだこの世界でエースとは会っていないという。

「エースの居場所、知ってるのかよぃ」

「………………あぁ…」

「会わせないのかよ」

「あの子に何かあったらイヤだからな」

「……まぁ、エース次第でもあるからな」

 恐らく、エースも前世の記憶はあるだろう。自分やオヤジらがそうであったように。どうやら自分と会って、記憶が戻るということはなかったようだ。
 ただ、ドラゴン曰く、あの子には記憶は戻ることがないというのは、彼女は禁忌を犯したからだという。エースの運命は宿命というものだった。
 それはあまりにもないだろう……彼らには今度こそ幸せになって貰いたいと願っているというのに。思わず目頭を押さえていると、ぽん、と膝に何かが触れた。なんだ、と思い目を開けると、不思議そうに覗き込んでいるマリィの顔があった。

「?!」

「おにいちゃん、いたいいたいなの?」

「……っ、いや…そんなことはないよぃ」

 泣きそうになるのを堪えて、頭を撫でてやると、えへへ〜と笑う子に鼻の奥がツンとなる。なんて良い子なんだろうか……。

「……ありがとうよぃ」

「うん!」

「ほら、マリィちゃん、アイス食べようか!!」

「うん!はい、パパ、そっちのおにいちゃんもどうぞ!」

「ほら、マルコ」

 どうやら自分たちのだけではなく、俺たちの分まで買ってきたらしく、サッチに手渡される。マリィはサッチから受け取ったアイスをドラゴンに渡していた。

「あのね、あのね、パパのはチョコにしたの!マリィのはいちご!ひとくちあげるね!」

「じゃあ、パパのも少しあげるとしよう」

「やったぁ〜!」

 くふふ、と笑うマリィはどうやらいちごとチョコで悩んだらしく、サッチの助言でパパたちのも買っちゃえと言われて、どちらも買ったという。
 美味し!と笑顔になる幼女を見つめていると、頬が緩むのが分かる。ベンチに座る足がぶらぶらとしているのも可愛らしい仕草だ。サッチはすっかりマリィの可愛らしさにやられたのか、お兄ちゃんのもあげるぞ〜とアイスのカップに自分が口をつけてない部分を入れていた。
 わぁ!と目を輝かせるマリィに、こんな一面もあるのだと思いながら、マルコもまた自分のアイスを少し分けてやることにした。ドラゴンはなんとも言えない顔をしていたが、食べ終えた後に、知らない人から食べ物はもらわないように!と注意をしていた。確かに考えてみれば、それはごく当たり前なことで、ドラゴンに「悪かった」と頭を下げた。
 だが、妙な信頼はあったらしく(恐らく前世むかしの件で)知り合いになることは出来た。連絡先も交換した。
 とある事件が起き、マルコやサッチが誘拐犯からマリィを助けるという事にドラゴンは感謝しまくった。
 後々、ルフィが生まれたこと、何年か経った後にはエースと出会い、ルフィとエースが記憶を取り戻したことなどを聞かされた。
 いずれ出会うであろう末っ子は、マリィの記憶がないことに大変ショックを受けたらしいが、意地が悪いのかドラゴンが少しだけ笑みを浮かべていたのに苦笑いをした。どうやら前世むかしの所業にやはり思う事はあったらしく、大人げないなどと思い、笑ってしまったのは秘密にした。
 サッチはサッチで、パン屋さんを開業してはマリィが買いに来てくれるのを楽しみにし、高校生になったマリィがバイトをしてくれるので喜んでいた。
 まぁ、そこにエースたちが現れて、なんかイケメンの高校男子にあーだこーだ言われたと疲れたと言っていた。多分、エースが会えた嬉しさにサッチに構いたかったのだろう、と予想をたてながら、マルコはかつての末っ子が今後どうするのか、楽しみになっていたのだった。


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