【3】

ONEPIECE


 時々、妙な夢を見る時がある。
 大きな帆船に乗り、大海原を旅しているのだが、どこか現実離れしていて、海にはこんな生物いないでしょ?というくらいな大きさの怪獣みたいなのがいて、それに遭遇すれば誰かが勢いよく船から飛び出していく、何故か炎を纏っていて、火ダルマ?なんて思ってしまうが、それが呆気なくもその怪獣みたいなのをやっつけてくる。そして「無事か?」と必ず声をかけてくれるのだ。私・は何もしていないし、船にいただけで怪我もしようもないのに、逆光で顔も分からないその人は私・を心配していて、私・はその人に抱きついた。笑ってくれる彼・にくっつきながら、嬉しくも不安になる。

「ねぇ───、お願いだから……置いていかないで……」



 ピピピッ、ピピピッ、ピピピッとアラームの音に枕の横に合ったスマホをスワイプして音を止めた。
 今日もまた一日が始まる。マリィはベッドから起き上がり、背伸びをした。カーテンの隙間からは朝日が射してして、今日も良い天気なのだと、思った。
 パジャマを脱ぎ捨て、部屋着に着替える。部屋から出ようとして、ドアの横にある姿見が目に入る。鏡に手を合わせて、いつもと変わらない自分を見つめるも、夢で心配されていた彼女・・は自分なのだろうか、と首を傾げる。成長するにつれ、偶に不思議な夢を見ると、違和感に陥る時がある。ここ・・がどこがなのかと、不安になるのだ。

「……………」

 じっと見るもそこ・・に立つのは私・でしかない。バカバカしいと思いながら、洗面所で先に顔を洗う。我が家は意外と大所帯だから、後々だと取り合いになるからだ。パジャマを洗濯機に入れ、スイッチを押す。ご飯食べたら干そう、なんて思いながらキッチンへといく。
 シンクにグラスが置きっぱなしなのを見て、洗ってよ…と思いながら、冷蔵庫から卵や昨夜用意しておいたお弁当のおかずを取り出す。お弁当は何故か8個も作らなくてはならず、卵の消費もたまったものじゃない。ルフィが3個、エース、サボが2個ずつ、自分は1個だ。卵を割り、何回かに分けてやらないと卵焼きも出来やしない。

「おはよう」

「おはよう、サボ」

「はは、今日も朝から大量だな…」

 苦笑いするサボに「サボがお弁当1個にしてくれたら少しはラクになるよ?」と言えば、「すみません」と謝るばかりで1個でいいとは言ってくれなくて、ムスッとしてしまう。

「これ、詰めてっていいか?」

「うん、お願い。ご飯もね」

「了解」

 二人で手分けして、詰められていくおかずだが足りない時はもうあれだ、ウィンナーとか入れたりして誤魔化しちゃえ!とそれでもルフィが喜ぶ・・からついついタコさんウィンナーにしちゃったりしてる。

「ルフィに甘いなぁ〜」

「弟って可愛いからついね〜」

 二人だってそうじゃない!と笑えば違わねェ!と笑うサボに、余ったタコさんウィンナーを差し出した。

「サボ、あ〜ん?」

「……あ、あ〜ん…」

 サボを見上げる形で食べさせれば、少し困ったような顔をするから、イヤだったかな?と思いつつ、今度は朝食の用意も始める。私やお父さんはパンとかでもいいんだけど、おじいちゃんやルフィたちは「朝は米!じゃないと力が出ない!」というよく分からない事をいうものだから、必然的にご飯である。生活費はおじいちゃんやお父さんが出しているとはいえ、食費が毎月とんでもない額を越えるのだが、特になにも言われないのはみんなの食欲を分かってくれているからだろう。
 ルフィは朝から肉!とかいうけど、おじいちゃんの友人が釣ったという魚があって、尚且つ切り身にしてくれてるから、助かっている。それを焼きながら、味噌汁の具は野菜でいいか、と作っていると、「おはよう」と声が聞こえた。

「お父さん、おはよう!」

「おはようございます、ドラゴンさん」

「いい匂いだな」

「今に爺さんやルフィたちも起きてきますよ」

 和やかに笑いながら、言ったように祖父やルフィ、エースも頭を掻きながら起きてきた。

「ねーちゃん、肉は?!」

「今日はお魚!」

「え〜〜!肉が良い」

「ルフィ、弁当は肉入ってるぞ」

「やった!肉弁当だな!!」

 喜ぶ弟には悪いけど、彼が望んでるような弁当ではないんだよね…とマリィは苦笑いするしかない。

「エース?どうかしたの?」

「え……あぁ、べつに……」

「お水飲む?」

「……あぁ、ありがと」

 なんだか様子が違うエースが気になりながら、冷蔵庫から出したミネラルウォーターをコップに注いで渡した。

「なぁ、食べていーかぁ?」

 末っ子のルフィは腹減ったと待ち切れないらしく、テーブルで手を叩いている。一応、全員座ってから手を合わせて、朝食を摂ったのだった。その際もやはりエースの様子がいつもより元気がなくて、心配になる。昨日はいつも通りだったよね…と思いながら箸を持つ指を見て、マリィは赤面してしまったのだった。
 朝食後の片付けは食洗機様々だ。少ない時は簡単に済ませるが、朝は忙しいからこれである。洗濯機も終わったようで、カゴに入れて外へと干した。

「終わったのか?」

「エース?どうかした?」

「いや……手伝おうかと思ったんだけど…」

「そうだったの?じゃあ、帰ったら取り込んでもらえる?」

「あぁ、任せとけ!」

 笑顔を向けてくるエースに笑いながら、(あれ?)と思ったのは既視感を感じたからだ。

「どうした?」

「え?……なんか、前もこんな会話しなかったっけ……?」

「?いつもことだろ?」

「……そだっけ…」

 ぽん、と頭に手が乗せられる。なんとなく、胸が締めつけられるような気がした。

「早く支度しろよ」

「あ、うん…」

 エースもサボも既に制服を着ていたけどルフィはまだ部屋着のままで「腹減ったぁ」と呟いてて、サボが呆れていた。どうやらおにぎりを握るようだ。
 マリィも自室に戻ると制服に着替えてから、歯磨きをして、髪の毛を整えた。一応、日焼け止めをして、軽くファンデを叩いておいた。

「ねーちゃん!そろそろ行かねぇと遅刻すっぞ!」

「はーい」

 玄関へと向かうと、三人が待っていてくれた。

「ごめんね、待たせちゃった」

「マリィは朝から忙しいんだから少しくらい大丈夫だよ」

「ふふ、ありがとう、サボ」

 労ってくれるサボに礼を言えば、ルフィも「ねーちゃん、毎日ありがとな!」と負けずに言ってきて、頭を撫でてやれば、引っ付いてくるルフィと共に外に出て、学校へ向かった。
 ルフィと並びながら、学校への道を歩いていくと、ノジコやナミちゃんに会うし、デュースも先を歩いているのが見える。ナミちゃんに寝坊でもしたの?と聞かれたのは、ルフィがおにぎりを食べているからだろうけど、足りないからだ!と元気いっぱいに話す弟にナミちゃんは呆れていた。
 所謂、幼馴染にあたる彼女たちとは付き合いも長い。でも彼女たちに会う前にもう一人幼馴染の女の子がいたんだけど、幼い頃に父親と海外に行ったきりだ。歌が上手くて、歌手になりたい!っていってたのを思い出す。
 学校へと向かうまでにルフィもエースもサボもよく声をかけられている。ルフィは人懐っこいから、可愛がられているし、エースとサボはモテる。どちらかと言えば女の子にモテてるのはサボの方だけど。エースは男の友達が多い方だ。
 私といえば、親友のノジコと幼馴染のデュース、サボと同じ生徒会のコアラちゃんくらいしかあまり話さない。あ、ルフィの友達のサンジくんはよく話しかけてくれるけど、すぐにウソップくんやゾロくんが連れて行くんだよね……。私ももう少し友達が欲しいんだけど、ルフィたちの過保護が学校まで及んでてなかなか友達が出来なかったりする。あ、女子は平気だけど、男子だと彼らのガードが固くなるのをなんとかしたい。
 一度、学校なんだし、変な人なんていないよ!と言ったけど、エースとサボは真顔で「「は?」」と言った時は怖かった。大事にしてくれるのさ嬉しいけど、これじゃあ恋人なんで出来そうにないじゃない?
 そんな事を考えながら、学校へ着くとルフィたちは中等部の校舎へと移動していった。同じクラスなのはノジコとデュースで、エースとサボは違うクラスだったりする。まぁ、エースはデュースに会う為にしょっちゅう来てるからみんなから準クラスメイトとか言われてる。
 隣を歩いていたルフィは別校舎へ行き、教室までエースが隣を歩いていたけど、見てくる眼がいつもと違っていて、気になった。

「ねぇ、エース」

「なんだ?」

「ちゃんと寝れた?」

「は?」

「いや、なんか…考えてるっていうか、いつもと違う感じがして…」

「え〜、そうお?」

「なんとなくだよ…」

 横からノジコがエースを見るが「いつもと同じよ」というけど、なんとなく心配してしまうくらい、どこか、様子が違うのだ。でもエースはぽん、と頭に手を乗せると笑顔を向けてきた。

「やっぱり、マリィだよな!」

 あんまりにも嬉しそうな顔をするもんだから、意味が分からずに頬が熱くなるのが分かった。

「おぅおぅ、見せつけてくれちゃって」

「ちょ、何言ってるのよ!ノジコ!!」

「はは、マリィとは付き合い長ぇしなぁ〜」

 肩を引き寄せられながら言われて、びっくりする。いつもは「そんなんじゃねーよ!」と言っていたのに……。ノジコもその反応に驚きながらも、教室についてしまい、エースたちは「じゃあなぁ〜」と行ってしまった。

「?!?!」

「ちょ、どうしたの?!エース!!」

「知らねえよ!」

 ノジコがデュースを掴まえて話しているが、本当にどうしたんだろう。
 マリィはどことなく、熱くなる頬を押さえながら席に座り、突っ伏したのだった。

「マリィ〜」

「…………その顔止めて」

「突っ伏して見えてないくせに〜」

「喋り方で分かるわよ、ノジコ、ニヤニヤしてるでしょ」

「え〜、そんな事ないわよ〜」

 そんな事言われても、付き合いの長さから分かる。顔を上げれば、にやにやと笑っているノジコがいた。

「ほら、やっぱり!」

 ぷいっとそっぽ向きながら、ハァ……とため息を吐いた。エースの先ほどの態度になんとも言えない気持ちになる。嬉しいような、懐かしいような、哀しくなるような、ごちゃごちゃした思いかマリィの中で渦巻いていく。
 ガタン、と前の席にノジコが座りながら頬杖をついている。

「マリィってさぁ……」

 身構えるも次の言葉を続けないノジコを見ると、「ん、ここじゃなんだから後でね」とフッと笑っていた。ノジコの思いやりにありがたくなりながら、昨日のスイーツビュッフェの事を話したのだった。
 いつも通りに担任か来て、いつも通りに授業が開始される。マリィはノートを取りながら、エースの事が気になった。昨日のチョコの件もそうだが、今朝の様子に違和感というか、悩んでいたような、何か吹っ切れたような、心情の変化というのだろうか。

 中間の休み時間はよくエースがやってくる時間であるが、ノジコはマリィを連れて、階段下へと行く。ちょっとした穴場なのだが、きちんとデュースにはエースにマリィは借りてるから、と伝えるように言っている。じゃないと探しに来るからだ。

(あのエース過保護め…)

 人がいないのを確認してから、ノジコは親友たるマリィに話しかけた。

「アンタってさ、エースのことどう思ってるの?」

「え?……ノジコ、エースのこと?」

「違うわよ!」

 聞き方間違えた。彼女がよく問われる言い方をすれば、誤解されるし、この子はそれを真に受ける。

「どう、って……そりゃ、好きだけど……そういう意味でじゃないよね?」

「もちろん、家族愛ではなく、異性としてどう思ってるかよ!」

「………分からない…」

「…そりゃないでしょ…」

 マリィとの出会いは幼稚園の時だった。エースよりはちょっとだけどノジコの方が付き合いが長い。それはデュースも同じだけど、それは腐れ縁ってやつだ。
 弟がね…と話してくれた時にエースの事を聞いた。自分にもナミという妹がいて、もしナミが自分より違う誰かに懐いたら嫉妬してしまうかもしれない。
 最初はそんな話だったが、親戚だからかしょっちゅう家に来るというエースはルフィと仲良くて、自分も仲良くなりたいけど、なんだか、仲良くしていいのか分からないの…。という彼女の言葉に首を傾げたものだ。まだあの頃は幼くていたが、マリィはエースをとても気にしていたような気がする。
 ノジコはこめかみを揉んだ。距離が近すぎるという弊害のせいか、自覚出来ないのか、エースがヘタレだからなのか、マリィは自分の気持ちに気づいていない。
 彼らなんかはわかりやすいくらいだったのに。エースとはマリィの家で出会った。というか、遊びにいったらエースも来ていたというだけだったが、ノジコやナミには素っ気ないが、マリィに関しては見つめてることが多くてすぐにピンと来たし、サボも分かりやすかったのだ。まぁ、サボはサボで自分の立ち位置をすぐに把握していたのが、今思えばの気の毒としか思えないが。

「………マリィってさ、もし、エースに恋人とか出来たらどうするの?」

「………えっ…あ…エース、モテるもんね…」

 ショボンとするマリィにもう答えを表してるじゃん!となる。確かにエースはモテる。サボ程ではないが、外見は良いし、背も高い、運動神経も抜群だし、どこか人を惹きつける。彼に片思いする女の子も前は多かったのは事実だ。
 だけど、それを諦めさせるくらいにエースはマリィの事しか見ていない。長い付き合いのある奴らは『いい加減にしろよ』とかほざいてるくらいだ。決してマリィとて鈍い訳ではないが、互いが互いに遠慮しているみたいに、どこかズレている。

「あのねぇ、マリィ……いい加減、自覚しなさいよ?」

「………………あの、ね……エースに初めて会った時、なんだけど……」

「…うん?」

 今更なによ?と思いながら聞き返すと、マリィは言葉にするのが躊躇われるのか、難しいのか、少しだけ唸った。

「……せつなくなったの……多分……私、この子の事好きになるんだろうな、って思った……」

「………は?」

「………だけど、好きになっていいのか、分からなかったの…」

 彼女からの言葉にノジコは何を言い出すのかと思っていると、マリィはどこか不安になりながら「これは私の気持ちなの?」と訊いてきた。

「………エースの事、好きだと分かってるんだけど、……ほら、うちの人たちって過保護でしょ……今更、なんていうか……気持ち違ってるかもしれないし……」

 そんな事を言い出す親友にノジコはガックリとくる。自覚してたなら、してたで言ってよ!!と思う。本当にエースが哀れだし、サボも気の毒だ。

「マリィ!エースやサボが彼女作らないのなんでだと思うの?」

「え?……兄弟で過ごしたい、から?」

「あ〜〜〜、それもあるだろうけど!二人ともマリィを大事にしてるからよ、勿論、恋愛的な意味でね」

「…………ウッソだぁ〜」

「サボはそう思うだろうけど、エースは違うの分かるでしょ!」

 十年近くもあんな熱量高くているのに。まぁ、本当はサボもだけど、いまいちサボの気持ちには無頓着というか、自分はありえないっていうスタンスなのよね、この子。

「…………き、昨日……エースに指、舐められて……恥ずかしかった……」

「アイツ、そんなことしたの?」

「チョコ……ルフィに食べさせてたら怒ってて、食べたいのかなって差し出したら……」

 なんとなくその場面が思い浮かぶ。ルフィに嫉妬したであろうエースが、無自覚にも食べさせてこようとする彼女に自分を意識して貰いたかったのだろう。なんだか、聞いていて馬鹿馬鹿しくなる。いや、莫迦らしい。

「…………マリィ、はっきりしてあげなよ」

「…………」

「誰も幸せになれないよ?」

 エースもサボも、彼らを好きな女生徒も、そして、マリィも。

「ねぇ、ノジコ……私、エースを好きでいいのかな?」

 誰かに阻まれない?
 世界なにかに拒まれないかな?
 ──幸せになってもいいのかな?

 なにかに拒まれるって、誰が拒むのだろうか?誰が阻むのだろうか?偶にマリィは不思議な事を言う時がある。

「好きでいて良いし、幸せになって良いに決まってるでしょう!」

 そう答えれば、少しだけ安堵した顔をする親友に、ノジコは一抹の不安を持つ。まだ、うまくいきそうにないのかもしれない。こうなったら、エースには頑張って彼女の不安を取り除いて貰うしかない。
 あんなに愛されているというのに、彼女は何が不安になるのだろう。──ノジコは知らない。前世むかし、彼女は彼を助けようとして、何度も阻まれ、世界から拒まれてきたかを。

 ────無意識に出る不安は、今の彼女を踏みとどませるばかりだ。
 好きでいると、せつなくて、何か足りなくて、踏み出せないままでいる。

「……人を好きになるのって………苦しいなぁ…」

 独り言のように呟かれた声に、何言ってるのよ!と言ってやろうかと思ったノジコだったが、マリィの表情かおをみて何も言えなかった。
 そこにはノジコが知っているマリィではなく、どこか知らない女性がいた気がした。


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