【4】

ONEPIECE

 昼休みは騒がしくなる。
 この学校は、中等部、高等部と分かれているが校舎を中庭と図書館で挟んで隣り合って、そこは中高共有スペースになっている。図書館で飲食は禁止だが、中庭は図書館に合わせているのかなかなか広く、東屋もいくつかあるのだが、それを占領する輩は意外にも多い。

「ねーちゃん!!エース!サボ!」

 東屋の柱に手を回しながら、ソワソワしていたルフィは姉たちがやってくるのを待っていた。ナミなどが大人しく待ってなさいよ、と言っても聞かず、ゾロやウソップ、サンジなども毎回呆れている。
 やがて現れたのは、ルフィの兄姉とナミの姉、その友人たちである。

「ルフィ、食べてて良かったのよ?」

「おれはねーちゃんと食べたいんだ!」

「ンなこといって、早弁はしたんだろ」

「今日はまだ1個しか食ってねぇぞ!」

 会話を聞き、早弁していたのがバレて、スモーカー先生に他の弁当を没収されたことをナミが言えば、サボとエースは呆れていたが、二人も既に1個は早弁で食べてしまっているから、本当に呆れるのはコアラとデュースたちであった。

「じゃあ、お腹空いてるのに待っててくれたの?」

「おぅ!ねーちゃんやエースたち、みんなと食べるとうまいからな!」

 にっこにこと笑うルフィに、ルフィの友達はやれやれといった感じでなんだかんだとルフィに絆されているのだ。

「マリィすゎん!ノジコすゎん!コアラすゎん!こちらにどうぞ!!」

 サンジがナミの隣の席にハンカチを置き、案内するとノジコはナミの隣に座るも、マリィの席はルフィの隣と毎回決まっていた。
 ルフィは兄であるエースとサボは勿論好きであるが、姉のマリィに関しては大好きすぎて有名である。ベタベタとするも湿度は低く、あぁ、コイツ、シスコンだな……と思わせるのだ。仲の良い兄姉弟と有名で、学校の名物となっていた。

「待っててくれてありがとう。ルフィ、みんなも、付き合わせてごめんなさいね」

 ルフィに気を遣い、彼らもまた手を付けずに待っていてくれたのだ。なかなかの大人数が集まり、そろって食べ始めるとそれは賑やかというよりは騒がしくなるのであった。

「おい!ルフィ、それおれんだぞ!」

「欲しかった!」

「欲しかったじゃねぇ!!」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ彼らに年上組高校生は呆れながらも、微笑ましい気持ちになってしまうのは弟妹たちがなんだかんだと可愛いからである。ノジコはナミには同情しかないし、デュースとコアラは唖然としているが。

「ルフィ!他の人のお弁当取っちゃダメでしょ!」

「だって、うまそーだった!」

「今度、作ってあげるから」

「ホントか!?ねーちゃん、大好きだ!」

 ごめんね、と謝られていると、ルフィが横から彼女にくっつく。毎回これを見る度に彼らが姉弟じゃなかったら、彼女は大変だっただろうなぁ、とウソップは思ってしまう。
 ルフィの兄姉大好きっぷりは有名だ。兄たちに対しても有名だが、姉に対してはもっと有名だ。ウソップはルフィとは小学校からの仲である。ルフィに兄姉がいるのを知ったのは仲良くなってすぐだった。年上の彼らはルフィを教室まで迎えに来てくれる優しい人たちであったが、ルフィはマリィが現れるとすぐにベッタリとくっつくのだ。

(今も小学生むかしも変わんねぇな)

 確かにマリィは可愛らしいと思う。ナミは自分の可愛さを武器に野郎を使うくらいだ、ゾロも幼馴染に近いせいか、よく命令されているし。サンジは……まぁ、言わずもがな女ナミの下僕である。
 だが、ルフィは違う。アイツはナミや他の女子が何しようが、さほど気にしない。
 まぁ、女友達が何かされたら怒りはするが、基本、助けを請われなければ友達の距離はそのままだ。しかし姉であるマリィには違う。彼女が現れるとルフィは宝物を守るように彼女から離れようとはしない。
 そして、それは兄たち──特にエースもルフィ同様マリィの傍にいるし、なんなら彼女の隣を取り合ったりしている。エースがマリィを好きだというのも周知の事実である。サボも二人よりは顕著だが、彼女を見ているのを知られている。ルフィは姉弟愛、エースとサボは恋愛としてマリィを大切にしている。
 肝心の彼女は人の機微に鈍い訳ではないが、素知らぬフリをしているのかどうか何とも言えない。本当に恋愛面においては鈍いかもしれないが。
 ウソップはなんとも複雑な関係を見せられると、幼馴染のカヤのことを思う。そういう関係ではないが、気をつけようとなんとなく思ったのだった。

「そういえば、ねーちゃんは体育祭何に出るんだ?」

「あ〜〜、障害物競走かな?ルフィは?」

「おれは騎馬戦と、徒競走と、借り物競走と綱引きと、」

 つらつら出てくる演目に、ルフィは楽しそうに指折り数えながら答える。

「あ!あと、応援合戦」

「お!ルフィも出るのか?」

「俺たちも出るぜ」

「エースとサボも出るのか〜」

 負けらんねぇな!と笑うルフィに、ウソップはゲンナリするしかない。ルフィが出るだけでも大変そうなのに、高等部ではエースとサボが出ようものなら、応援合戦は大変な事になりそうだ。他にもトラ男たちも出るらしいし……面倒なことにならないといいと思ってしまう。

「ねーちゃんは出ないのか?」

「私? チアに出るよ」

「「はぁ?!」」

「えぇ!」

 マリィの発言にエースとサボが声を上げるのと同時に、サンジが目をハートにして声を上げた。

「おぃ!デュース!!」

「あ、あ〜、もう決まったことだから、無理だ」

「ノジコ!」

「うるさいわねぇ、大丈夫よ〜」

 デュースさんたちを見ると苦労してんだなぁっていつも思う。ルフィにはゾロやサンジというストッパーがいるし、ナミもいる。しかし、エースやサボは常識人のように見えて、ルフィやマリィが関わると暴走しがちだ。

「基本、参加だからねぇ」

 全員ではないけど。諦めて、サボくん。と話すのはコアラさんだ。こちらはどちらかといえばサボのストッパーになっている。

「ねーちゃん、チアに出るのか?!」

「そうなの、うまくやれるといいんだけどね」

「ねーちゃんなら大丈夫だ!」

「ありがとう、ルフィ」

「にししっ!」

 頭を撫でられるルフィは本当に嬉しそうだ。う〜〜ん、本当にシスコンだよな、アイツ。しかし、うまい具合に話はまとまり、昼食の時間は終わった。
 ルフィが駄々を捏ねるが、毎日毎日飽きないんだろうか。エースが殴り、ゾロとサンジが引き離して「じゃ、またな」とズルズルとルフィを引きずっていくまでが毎日の光景だ。中等部の校舎に戻ると、未だにルフィがうぅ〜と唸っていた。

「いつまでいじけてんだよ」

「どんだけ姉ちゃんが好きなんだか」

「言うだけムダよ、むかしっからなんだから!」

 ナミはルフィよりも先にノジコを通してマリィと知り合ったという。この中だとナミはルフィの幼馴染のようなもんで、小さな頃からルフィたちのマリィへの愛はすごかったという。
 ノジコと遊びに行けば、マリィの隣に誰が座るかで揉めていたり、ノジコやナミがいるのに一緒に遊びたがったりと散々遊ぶ邪魔をされたらしい。だから、後々マリィがナミたちの家に遊びに来るようになったが、それでもルフィが引っ付いてきていたという。
 やけに馴れ馴れしかったのよ、アイツ。とナミは言っていたが、今もそんなもんだろ?とゾロが言えば、そうなんだけどね…と考えるのをやめた感じだった。
 確かにルフィは出会った時から、まるで知り合いのように話しかけてきたのを覚えてる。小学校に入学してすぐに話しかけてきたのはルフィだった。笑顔で、そしてどこか懐かしそうな顔に首を傾げたくらいだ。まるで昔からの親友のように、嬉しそうなルフィに最初は驚いたものの気が合ったし、直ぐに意気投合したのを覚えてる。
 違うクラスにゾロやナミがいて、紹介され、その後サンジ出会い、ビビにも出会った時、ルフィは本当に嬉しそうにしていたのを思い出す。まるで会いたかったヤツに会えたような喜びで。
 中学入学後も図書館で働くロビンさんやペットのチョッパー、音楽教師のブルック先生と出会った時、泣いて抱きついていたからびっくりした。というか、ペットを連れて来ているロビンさんに驚いたものだ。
 だけど、ルフィを通して知り合いが増えていく度になんだか昔から知ってるような気がするのは何故なのか分からないが、楽しいからいいか!と思った。
 来週には中高合同の体育祭だ。行事好きなルフィはもちろん、ゾロやサンジもなんだかんだと楽しみにしている。かくいう自分も行事は楽しみである。

 中高合同体育祭当日、朝早くからお弁当の支度が大変だったのは言うまでもない。いつものお弁当箱ではなく、重箱になったのはルフィが「いつもの弁当じゃ足りねぇ!」と言ったからだ。
 エースやサボが誰が作ると思ってんだ!とルフィを諌めたが、マリィは手伝ってくれるなら作るよ、と笑顔で答えた。ルフィは「おぅ!」と答えるものの絶対朝起きないだろうなぁ、と兄姉たちは思ったのだった。しかし予想に反して、ルフィは起きてきた。

「ねーちゃん!おはよー」

「る、ルフィ……」

「オメェ、早起き出来たのか…」

「なんだよ!シッケーだな!」

「おはよう、ルフィ」

 サボに起こされたエースはルフィが早く起きたことに、壁に掛けられた時計と弟を交互に見合わせ、サボも驚いている。
 無論、マリィも驚いていたが弟は約束は守る方なので、にっこりと笑みを浮かべて返事をした。それにルフィはにししっ!と笑うと「何すればいいんだ?」と聞いてきた。

「まずは、手を洗ってね」

「おぅ!」

「ルフィには、水筒用意してもらってもいい?」

「分かった!」

 ボトルに氷を入れて、お茶やスポドリを作って貰うことにして、マリィたちはお弁当のおかずを作り、エースはおにぎりを握っていく。途中ルフィがつまみ食いをしてはエースとケンカをしつつ、お弁当はなんとか完成したのだった。
 朝食はいつも通り取ると、学校へ行く支度をして揃って出たのだった。ルフィは重箱は抱えて嬉しそうである。

「ねーちゃんたちも白組なのか?」

「うん、ルフィもでしょ?」

「おぅ!」

「でも偏ってないのか?これ」

 生徒会に所属するサボに訊けば、サボは「まぁ大丈夫だ」と返した。エースとサボが同じ組だけでも偏っている気がしなくもないが。
 それでも違う組にはなかなか手強い相手が何人かいる。前世で、所謂「最悪の世代」と言われていた奴ら数人は違う組であり、能力者たちはバッチリ記憶を引き継いでいるのもいるらしく「海賊王」だったルフィにライバル心を燃やすのがいる。
 流石に四皇だった彼らは学生ではなく、誰かの保護者としてばっちり再会していたが、前世は前世で、今世は今世である。多少大人げない連中もいるが、平和ではある。

 ただの学校行事、されど学校行事。
 お祭り気質な奴らには勉強じゃないので、楽しみにしている輩が多いなか、体育祭が始まろうとしていた。

 昨今、熱中症の危険が多い中、この学校も七月上旬に体育祭をするという無茶ぶりだが、年間行事の為、日程調整は難しかったようだ。
 サボは学校側に注意を促したものの、先生たちも気にしてはいたが、各クラスにテントの設置や、きちんと水分補給をするようにと給水器を置くことにした。無論、飲み物はいつでも飲むようにと促したりもしている。
 無駄に金があるからか、普通、各クラスにテントはないだろうと思うが、女子は日焼けの心配がなくなるのか、これ幸いとテントの下にいたりする。
 ノジコも例外ではなく「あっつぅ〜」と団扇を扇ぎながら水分補給をしていた。先程の徒競走で1位を取ってきた彼女は運動神経も抜群であり、校内にファンも多い。

「ノジコ、お疲れ様」

「ふふ、1位取ってやったわよ!」

「格好良かったよ、ノジコ」

 ふふ、と笑う親友に毒気が抜かれそうになるが相変わらず、他人を褒めるのを純粋なままでいうのでなんとなく気恥ずかしくなったりする。

「マリィはどうだったの?」

「ふっふっふ!私も1位取れました!」

 ピースサインを作って笑顔を向けてくる彼女に、手をあげるとパンッと手を叩き合った。一見、おっとりに見えるが、流石というか、あの三兄弟と一緒に育っただけあるというくらいに、意外にも運動神経が良いのだ。
 グランドの真ん中では、あの弟か、ゾロかサンジ、もしくはそんな彼らに対抗する者たちが競い合っている。中高合同だから、高校生が有利かと思うなかれ、なかなかの豪傑だらけで、放送係たちなんて実況が凄いことになっていたりする。

『おーっと!中等部のモンキー・D・ルフィ!あっという間にゴールだぁ!!』

『続く高等部のトラファルガー・ロー、ユースタス・キッドもゴールを目指して、だが、ここで何故か逆走した中等部のロロノア・ゾロが2位を掻っ攫ったぁぁ!!』

「……騒がしい奴らねぇ…」

「流石、ルフィ!」

 手を合わせて、弟の活躍を喜ぶマリィにノジコはやれやれといった感じになる。テントから弟に向かって褒めていると、弟もにっかりと笑い、拳を突き出している。無論、ブラコンなあの兄ズも騒がしいったらない。
 サボなんて女生徒からの応援が凄いし、エースもなかなかの声援を浴びている。まぁ、あの二人にばっちり声援が届くのはマリィの声なんだろうけども。

「エース〜、サボ〜、頑張ってぇぇ!!」

「ああ!」

「任せろ!!」

 同じチームなんだから、張り合わなくても……3位との差がエグいくらいである。
 さて、お昼前には騎馬戦が始まる。体育祭の花形ともあろう競技は、先生方も加わるという。謎であるが、噂によると、問題児を叩きのめすという名目でちゃっかり先生も出るとかなんとか……。
 それに関しては、今回問題児だらけが出場する為、気合い入れている指導の先生が多いったら仕方ない。ノリの良い先生も一緒に騒ぐ気だろうとしか思えないのが、自由過ぎる校風のせいだろうか?
 テントの最前列で見ていると、隣にいるマリィの様子にノジコは首を傾げた。毎年、エースやサボが参加していて、全力で応援していたのが、今年はどこか不安げな顔をする彼女が気になった。

「ちょっと、大丈夫?」

「え?あ、うん、平気……」

「ルフィが心配なの?」

 中等部一年は騎馬戦これには参加出来ないのは身体が出来上がっていないからで、二年へと上がったルフィたちは意気揚々と参加している。次々と紅組のハチマキを取ってあえるルフィに、元気ねぇ〜なんて見ていた。

「……そんなんじゃなくて、」

『おおっとぉ!!サカズキ先生が動き出したぁ!!狙いは誰もがご存知ゴール・D・エースとモンキー・D・ルフィ兄弟だぁぁ!!サボ選手は、おおっと遠くにいるぅぅ!!』


 騎馬戦が始まった時、意味もなく焦燥に駆られた。今年はルフィが参加をするからだろうか?エースやサボはもう毎年参加しては、競うようにハチマキを取り合っていたが今年は同じ陣営である。
 妙な胸騒ぎを感じながら、騎馬戦が始める。今年から参加とは思えないルフィが紅組のハチマキを取りまくっている。
 先生たちまでが加わる騎馬戦は、去年も参加しては問題児たちをなぎ倒していた。エースやサボは生き残ったが、先生たちの気合いの入りようはヤバいくらいだ。
 放送係で実況をするギャッツさんの声が響き、マリィの視界には騎馬戦とは別の何か違う光景が広がった。
 土埃の中、何故かサカズキ先生の手が燃えているかのように赤く、ルフィを狙っているかのようだった。そこに、エースが庇うように、二人の間へと割り込んだ。
 エースの身体が貫かれ、叫ぶような声が頭の中に響いた。

(……エースっ!)

『あぁ!!まさか、まさかの!ゴール・D・エース選手、モンキー・D・ルフィを退かし、騎馬が崩れたぁぁー!』

 似ても似つかない、でもどこか似ている光景に、マリィは震えていた。
 エースは騎馬から落とされてしまい、続行不能であり、ルフィやサボたちに声を掛けている。その後、騎馬戦は終わり、ハチマキを取った数は圧倒的に紅組が多かった。
 戻って来る彼らに会いたくて、マリィはクラスのテントから出ると、エースたちがいる場所へと走り出した。

「ちょ、マリィ?!」

 ノジコの声が背後から聞こえるが、そんなことお構いなしに、マリィは走ると戻って来るエースたちが目に入る。先にルフィが気づき、それにつられるようにエース、サボがマリィを見るが、ドスンッ!!とエースに抱きついていたのだった。


「あ、ねーちゃんっ……」

 ルフィの言葉に視線を向けたが、ドスンッ!と大きな衝撃があった。見るとマリィが抱きついていて、エースは「は?」と声をあげた。
 傍らのルフィやサボ、ゾロたちも驚いてるし、何より退場したてで、人が多い中マリィが抱きついてくるなんて誰も思わないだろう。

「マ、マリィ……?」

 前世、何度も抱きしめたぬくもりが腕の中にあり、エースは混乱するしかない。周りにいた奴らも、なんだなんだ?と見てくる。
「おっ!とうとう?」
「やっとくっついたのか?」
「勝利の抱擁かよ!」
 周りがそんな冷やかしを入れてくるが、マリィは一向に離れようとはせずに、ぎゅうっと抱きついたままだ。あまりにも懐かしい感触に、抱きしめ返したくなる。

「ね、ねーちゃん…どうしたんだ?」

「マリィ?どうした?」

「エースが何かしたのか?」

 ルフィやサボも、マリィの行動が気になり、慌てふためいている。ぎゅうぎゅうと力いっぱい抱きついたまま離れようとしないマリィに、三人は顔を見合わせると頷き、エースはそのままマリィを抱き上げて移動したのだった。
 何故か、ぐす、といつの間にか泣いているマリィに驚きながら、ルフィもサボも、勿論エースも焦るしかない。

「エース、エースが何かしたのか?」

「何もしてねぇぞ、サボ!」

 さっきまで騎馬戦に出ていたのに何をするって言うんだよ…と言えば、少しだけ彼女が身動いたのだった。
 何故かペタペタと腹部を擦り、見上げてくる顔には涙が溢れていて、エースはあわわわわと慌てた。しかし、彼女からの言葉にエースとルフィ、サボは止まったのだった。

「エース、怪我してない?無事?生きてる?」

「「「?!」」」

 最後の言葉に三人は顔を見合わせた。マリィはどこか周りが見えていないのか、頻りにエースの事を気にしている。

「……もう、どこにも、私を置いていかないで…」

「マリィ!」

 彼女の言葉に、強めに名前を呼べばハッとしたのか、呆然としていた。そして抱きついていたことに、「あ、ご、ごめん!」とパッと離れようとしたが、今度はエースが彼女を抱きしめた。

「エ、エース……?」

「マリィ……」

「ご、ごめん…なんか、変なこと言っ「おれはどこにも行かねぇ……ずっと、これからはずっとマリィの傍にいる!」…へ?あ、あの……」

 三人は気づいてしまった。彼女が無意識に記憶を思い出していることを。断片的であろうと、彼女はさっきの騎馬戦で、頂上戦争の時の事が甦ったのかもしれない。
 あの時、その場にサボはいなかったが、ルフィはいた。しかも、さっきのサカズキの攻撃はまるで再現したかのようなシチュエーションだった。
 あの時、エースが“赤犬”に腹を撃ち抜かれた後に、マリィが現れたのを彼らは憶えている。ふらり、と現れた彼女にルフィは泣き叫び、エースは最期に会えて良かった、と伝えた。置いていかないで……そう嘆く彼女を弱い力では抱きしめることが出来なかった。
 エースが生きていればそれだけで幸せだと、言ってくれた。ルフィを守ったことに感謝し、最後にエースへ変わらない想いを告げてくれた、彼女へ……きちんと言葉で遺せなかったことを思い出す。

「マリィ…」

「……エース…?」

「マリィ、好きだ!愛してる!!」

「……え?え…?」

「「エース?!」」

 前世、最期に言えずにいた言葉を告げれば、隣にいたルフィたちが声をあげるが、エースはマリィを見つめたままである。
 目をまんまるくさせ、次第に耳から頬、顔、首まで真っ赤になるのを見て、エースは堪らなくなる。変わらない彼女をぎゅうと抱きしめたのだった。


-7-

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