【6】

ONEPIECE

 体育祭は大盛況のまま終わりを迎えた。優勝は紅組。マリィやルフィたちのチームである。ルフィはライバル友だちであるトラ男ローやギザ男キッドに「おれの勝ちだ!」と言っては、二人に「「あぁ?!」」と凄まれている。喧嘩にはならないが、ガラは悪かった。

「こら、ルフィ。あまり煽るんじゃない」

「サボ!……エースとねーちゃんは?」

 答えなんて分かっているだろうに、ルフィが唇を尖らせながら訊ねてきた。サボは肩を竦めながら弟の頭を撫でてやった。

「………………今は、二人にしてやろうぜ」

「むぅ〜!ねーちゃんはおれのなのに、またエースに取られた」

「………はは」

 前世むかしの記憶では十七歳の頃はまだ記憶喪失であったから、二人がどんなふうに結ばれたかは知らなかった。ルフィ曰く海に出る前から仲良かった・・・・・らしい。
 口では文句を言うルフィではあるが、その顔は嬉しそうである。

「でも、ねーちゃんとエースが幸せならいーんだ」

 今度こそいつまでも寄り添っていて欲しい。ねーちゃんが哀しくないように。そう話すルフィにサボは目を細め、やがて目を閉じる。

「…………あぁ、そうだな…」

 あの二人はきっと何度でも惹かれ合うのだろう、と思う。それが当たり前に思えたのだった。

「だけど、まだねーちゃんは独占ひとりじめさせてやんねぇ!」

「………」

「おれのねーちゃんだからな!」

 サボはルフィを見て笑うしかない。かわいい弟ではあるが、ことマリィの事となるととんでもないシスコンが発揮されるようだ。

(ざまぁーみろ!)

 独占出来るまでほんの数年、ルフィに邪魔されるといい。マリィを取られた嫉妬心と、エースが離れていくような感覚を持ちながら心の中で親友に悪態をついたのだった。

「ルフィ!サボ!」

 マリィの呼ぶ声に振り向けば、エースと二人並んでこちらに歩いて来た。手を繋いで。少し頰が赤いのもなんとも魅力的であるが、上手くいったのが目に見えて、ルフィとサボは顔を合わせると頷いた。

「「エースーー!!」」

「な、なんだ………うわっ!?」

 彼らに向かって突進すれば、マリィを庇うように避けるエースにルフィもサボも懲りずに突進する。

「なんだ、お前らっ!おい、危ねえだろ!!」

「マリィの手を離せばいいだろ」

「ねーちゃん寄越せ!」

「はぁ?離さねぇし、やる訳ねぇだろ!」

 昼と同じようなやり取りだが、肝心のマリィは照れながらもエースの手は離す気はないらしい。
 ふふ、と笑いながら彼女はルフィの手を取ると「これで良い?」と聞いた。

「……おぅ!」

 一瞬、間をおいてからルフィは頷いた。それを見ていたエースはハァ…とため息を吐いてから、サボに手を伸ばす。

「なにすんだよ、エース?!」

 ぎょっとしてエースをみれば、口の端を上げながら「イヤか?」なんて訊いてきた。ルフィとマリィがこちらを見ている。サボは手を振り払いたくなりながらも、それは出来なかった。
 行かないでくれ。もう置いていかないでくれ。そんな思いがあったからだ。ルフィもそんな気持ちだったのかもしれない。マリィにくっつきながら、一瞬だが寂しさを滲ませていた顔はすっかりなくなっていた。

「そろそろ帰ろうぜ」

「夕飯なんだろな?」

「今日はおじいちゃんの奢りで焼肉だってよ」

「肉!?ホントか!?」

「昨夜言ってただろ」

「そだっけ?」

「楽しみだね」

「ああ、そうだな!」

「……ああ、そうだな…」

 エースの声音は少し沈んでいた。きっとガープ爺さんやドラゴンさんに懇々と色々言われるだろう。前世の記憶があるドラゴンさんはもちろん、マリィを溺愛しているガープがすんなりと二人の交際を認めるかは不明だからだ。

「…………ザマミロ…」

 八つ当たりだとしても口にして言いたくて、ボソリと呟いたサボであった。


 閉会式の後、エースに連れられて空き教室へと入った。着替え…と言ったが「話がある」と強い眼差しを向けられれば何も言えなくなる。
 話なんて雰囲気で分かっている。散々冷やかされた挙げ句にとうとう口にされたのだから。

「マリィ、」

 名前を呼ばれ、顔を上げれば、視線が交わる。次に紡がれる言葉はまるで昔から聞きたかったような気がしてならなかった。

「好きだ、ずっとずっと前世まえから愛してる」

 はっきりと、真摯に告げてくる言葉に胸が詰まりそうになる。嬉しいのに、少し苦しくなるのは何故なんだろう。そして、頬に伝う涙に驚いたのはエースだけではない。

「……その、泣かせる気は…ないんだ、けど…」

 涙を拭うエースの手が触れて、嬉しいと思う。

「ちが、ごめ……嬉しくて……その、私も…………エースが好きだよ」

「……うん」

「…うん?」

「あぁ、」

「あぁ?」

 頬を包む大きな手に触れながら、繰り返すと、いつもキリッとしているエースの眉がへにゃりと困ったような形になりながら、破顔した。
 ぎゅっと、強く抱きしめられて、あぁ、恥ずかしいのに安心するなんて不思議になる。こうなるのが当たり前かのように、エースの背中に手を回すと、頬にあった手が顎を持ち上げる。
 えっ?と思うよりも先に、瞼に、額に、頬に、そして唇にエースの唇が触れてきた。
 ちゅ、ちゅ、ちゅ、と触れるキスが唇には強く押しつけられた。触れるだけでは足りないとばかりに舌を舐められ、深いキスに変わるのは一瞬で、初めてなのにどこか懐かしい気分になってしまう。ずっと前から知っていたかのように。

「……は、」

「……ワリィ、抑えられなかった」

 さわりと頬を撫でるエースにドキドキと鼓動を鳴らしてしまう。さっきからもう鼓動は早いままだ。

「手ぇ出すの早すぎる……」

 ボソリと呟けば、エースは一瞬焦りながらも「……嬉しくて、つい…」とマリィを見つめていた。

「その……今日から、おれの彼女になってくれるか」

「…………私たち、今日から恋人なんだね…」

「……っ、あぁ!」

「ちょ、エース…」

「はは、ワリィ、本当に嬉しいんだ」

 にかっ!と笑うエースにマリィは恥ずかしいのに、嬉しいという気持ちが優ってしまった。このままでいたいという思いをなんとか抑えた。

「そ、そろそろ帰ろう……ルフィとサボが待ってる…」

「ああ、でももう一回」

 エースは言うなり、マリィの腰を引くとまた熱い口づけをしたのだった。
 二人が待っているであろう昇降口までそれほど距離はないのに、離れがたく自然と手を繋いでいくと、ルフィもサボと突進してきて驚いたのだった。
 シスコンであるルフィはともかく、サボまで突進してくるとは思わずにいたが、兄弟であるサボの気持ちをエースは知っていた。申し訳ないと思いながらも、彼女だけは譲れないのだ。今度こそ、ずっと傍にいたいから。
 寂しがり屋のルフィとサボからエースは離れるつもりはなかった。彼らは大事な兄弟である。もう置いていくつもりはない。
 ルフィの様子にマリィも気づいたのだろう、手を繋げば意図が分かったのかルフィは嬉しそうである。サボにはエースが手を繋いだ。驚くサボだったが、ニコニコと笑うモンキー姉弟に充てられたのか放す気はなかったらしい。

「そろそろ帰ろうぜ」

 四人で手を繋いだまま歩き始める。道路に広がり、邪魔でしかないだろうが、運良く車は来なかった。
 ルフィは夕飯は焼肉だと知り嬉しそうだが、エースは家に帰れば、目の上のタンコブが二人いることにゲンナリする。
 ガープは勿論、きっとドラゴンも面倒くさそうである。それを理解したのか、傍らのサボが「…………ザマミロ…」と呟いていたが、それは甘んじて受け止める事にしたのだった。

 家に帰れば、案の定ガープが怒り、ドラゴンからは無言の圧があった。最終的にはマリィが「私もエースが好きだから…」と言えば、二人はイヤそうな顔をしながらも黙るしかなかったのだった。
 しかし、節度ある交際をしろ!とうるさく言われたものの、エースはそんなのは無理に決まっていると思っている。もうキスはさっき済ませたし。手が早い?仕方ねぇだろ。
 そりゃ、前世むかしと今世いまは状況は全く違う。コルボ山で暮らしていた時は一人で暮らしていたマリィの家に何度も足を運んでいたし、『ルフィの国』に泊まりに来た彼女とは隙を見ては何度も触れ合った。
 ルフィに見つからないように唇を重ねては笑いあった。まぁ、今のマリィには記憶はないが、それでも彼女は彼女だ。触れ合った感触は懐かしいと思えるくらいだ。
 あの頃は口にはあまり出せなかったが、彼女の事は愛おし過ぎてどうしようもない。前世では死に際にしか言えなかった『愛してる』という言葉は何度でも口に出来る、恥ずかしさはあるが、伝えられない方が苦しいから。
 ジジイやドラゴンを前にして『マリィを愛してる』と真っ直ぐ伝えれば、二人とも驚いていた。隣のマリィは顔を真っ赤にしていたが、『私も……その、まだ、エースみたいには強く言えないけど……好き、です』と言えば、二人は「うぐぐ……」とうめき声を上げていた。
 最終的には『交際は許す!』『結婚は大学を出てからだ!』とだいぶ先の話をされて、ポカンとすればジジイが片眉を上げながら怪訝そうにしていた。

「……結婚、て……」

「なんじゃ、不服か?!」

「……いや、その、結婚、許してくれるのか……?」

「っふん!そんな表情かおしおっとるのに、マリィちゃんを娶る気はなかったのか!?」

「いや、そんな訳っ!もちろん、マリィ以外と結婚する気はねぇ!!」

「エ、エース…っ!」

「おじさん、はいいのか……?」

 話を聞いていたドラゴンは前世の記憶がある。反対することも出来ずにいるのは、前世で娘がどれほど彼エースを好きだったのかを知っているからだ。違うと分かっていても、自分の娘は彼を好きになっていた。
 それにまたあの可愛らしい孫娘に会いたいとも思っている。前世は前世、と線引きを引こうと思うも結局は引きずられてしまうが、ドラゴンにとっては娘が幸せになれるのであれば、と反対する気はない。気に食わないのは別として。

「マリィを泣かさないのであれば構わない」

「なんじゃ、ドラゴン、怒らんのか?」

「いや、怒りはある」

 あるのかよ!と突っ込みたくなるが、前世の事を聞いたエースはそれは甘んじて受けようと思っている。
 マリィの父であるドラゴン。記憶では会ったこともなく、当時は知る由もない。マリィとルフィは自分と同じで世界的犯罪者の子供だった。だが後々マリィとルフィも愛されていたのだと知った。愛しているから、彼は子供たちと離れたのだ。自分がマリィにしたように。
 ドラゴンには自分たちが憶えている前世だけではなく、他の記憶があることをルフィとエースは知った。
 マリィがどこまでも自分を好いていてくれたこと、生命を張ってでも何度もエースを助けようとしてくれたことを。それを共有出来るのはドラゴンとルフィ、エースともう一人だけだという。
 そのもう一人は誰なのか分からないが、いつか話してみたい。というか聞いてみたいのだ。
 エースは正座しながらもそんな事を考えていると、ごんっ!!と拳骨が落とされた。イッデェェェ!と頭をおさえるが、もう一発とまたガツン!と重い拳骨を食らったのだった。

「ゔおっ……」

「エースっ!」

「本当はこんくらいでは済まんのじゃからな!」

「一回は一回だ」

「ほれ!今夜は肉食いに行くぞ!!」

 ガープたちはルフィたちに声を掛けている。ルフィもサボもエースが拳骨されていたのを苦い顔で見ていたが『肉』という言葉にルフィは目を輝かせていた。
 エースがまだ痛みで悶えているのを一瞬心配そうに見たサボだったが、マリィの膝に縋るように頭を乗せているのを見て、思わず柱を握り潰してしまいそうになった。

(後で蹴りいれてやる)

 頷きながら、肉、肉と喜んでいるルフィの方へと足を向けたのだった。

「……エース、氷持ってこようか?」

 膝に頭を乗せるも痛みからか苦悶の表情のエースにマリィは心配で仕方なかった。大きなタンコブを早く冷やさないとと思っているが、エースの眉間のシワがよほど痛かったのだと分かるとそれをそっと撫でた。
 さっきの突然としかいえない『結婚』という話に、当たり前かのようにエースが自分と結婚するという話に驚愕した。言い出したのは祖父ではあるが、まさか自分と結婚する気でいたとは思わなかったからだ。
 まだ高校生でしかない子供にそんな事を言うなんて。まして、それを父も祖父も認めるかのような発言に呆気に取られてしまった。
 エースと結婚する。
 それをイヤだと思わなかったし、突拍子もない事だったが、エースの傍にいられると思えば嬉しいと思えてくるのだ。今度こそ一緒に生きていけたら、と思ってしまう。

(……今度こそ?)

 何故、そんな風に思うのだろうか。なんとも言えない気持ちになりながらも、父と祖父に殴られたエースが倒れ込んだままだ。それを見て胸がざわついた。お願いだから、ひとりにしないで。そんな気持ちになっていく。

「……大丈夫?」

 声音に不安が滲み、マリィは(いつものことなのに…)と思いつつ、エースを見つめていた。悶えていたエースだったが、マリィの声音に目を開いた。
 その様に、マリィは何かがフラッシュバックする。こんな風にエースを膝に乗せたことがあった気がする。いや、そんな事した事はないはずなのに見知っている眺めにエースを見た。

「……マリィ」

 心地よい声が耳に響く。
 大きな手が頬に触れて来る。
 それがごく当たり前かのように撫でてくるエースに驚きながらも、その手にすり寄る自分に驚いた。
 今まで触れられたことがないわけではない。ふざけて頬を抓ったり、引っ張ったり突つついたりしたことだってあった。主に摘み食いをする時に。
 こんな甘えるように頬を擦りつけるなんて、なんで……と戸惑っていると、エースがまた名前を呼んでくる。
 ────何故だろう
 エースにされることを当たり前のように受け入れている。

「…………エース、わたし…」

「……ん?」

「……前にも、こんな事あった、?」


 見上げる先にはマリィが眉を下げて悩んでいる表情かおをしていた。
 膝枕なんて前世むかしは何度もした。してもらった。恋人として、してくれない時は船長命令をしてまで幾度となく笑い合いながら。
 最期は頂上戦争だった。涙をぼろぼろ零す彼女を見て、涙を拭う事も出来ずに置いていってしまった。最期に会えて良かったと、自分ばかり満足して。
 昼間も思ったが、もしかしたら彼女には記憶があるのかもしれない。漠然としたものだが、ドラゴンから聞いた話では、マリィは『ヤミヤミの実』を食べたのだという。その時の記憶は、最初の記憶と違っていたのを思い出した。
 その記憶ではサッチは殺されることはなかった。そして、ティーチもヤミヤミの実の能力者にはならなかった。だが、サッチを殺そうとした事に、オヤジの顔に泥をぬったことに腹を立てて逃げたティーチを追いかけた。実力を隠していた事にも驚いた。『ヤミヤミの実』のことは忘れていたが、ティーチが誰かが食べやがったと怒っていた。夢で見たマリィがヤミヤミの実の能力を使っておれたちを助けてくれたのだ。食べたのがマリィだと知った。ずっとおれの傍にいてくれたのだろうか──おれを生かそうとしてくれていたという。鬼の子である自分を愛してくれていたのに、おれは……。
 エースは頭かぶりを振る。前世の事も大切だが、今の方がもっと大事だ。

「ずっと前世むかしにしてくれたんじゃねぇか?」

 誤魔化すように、彼女が憶えてなくともおれにとっては事実だ。
 キョトンとした後に「エースにしたかな?」と言ってくる。
 前世まえは何回も何十回、百回以上はしていたと思う。まぁ、島を出るまでは主にルフィが甘えて、していたのが頭に蘇る。ずっと腹立たしい気分になっていたのは、告白する前から妬いていたのに気づかなかった自分に「バーカ」なんて悪態をつく。

「さぁな」

「なにそれ?」

 マリィの頬に滑らせていた指先は顎のラインを撫でた。ふふと笑うマリィに、起き上がって唇を重ねようとしたがベシンっ!と彼女の手によって阻止されてしまった。

「……っゆ、油断も隙もないっ!」

 頬を赤くしてそっぽ向く彼女に、急かしすぎたとほんのちょっと、本当にほんのちょっと反省した。
 リビングですることじゃない。まだ家の中にはジジイもおじさんも兄弟たちもいる。恥ずかしい思いをさせるわけにはいかないが、それでも恋人とのスキンシップはしたい。
 押さえてくる掌をぺろり、と舐めれば「ひっ!エ、エーっ」叫ぼうとするマリィの唇をすかさず封じてやったのだった。

「んーっ!」

 ボカスカ叩いてくる彼女に笑いつつ、やり過ぎたら、口を聞いてくれなさそうだから、降参とばかりに両手を挙げたのだった。真っ赤になりながらぐいっ!と強めに頬を抓られたのは結構痛かった。
 「にーく、にーく」と微妙な歌をうたいながらルフィが降りてきた。二人の様子に一瞬ムッとした表情かおをしたルフィだったが声を掛けた。

「二人とも、まだ着替えねぇのか?」

「き、着替えるよ」

「あぁ、部屋いってくる」

「早くなー」

 パタパタと二階へあがるマリィを追いかけ、エースも部屋へと戻り、着替えたのだった。

 ドラゴンが運転する車に乗り込み、仕事を終えた母と合流した。
 焼肉は食い放題の店とはいえ、あまりの食いっぷりに店主からは「もうお肉がありません」と泣かれてしまった。
 ルフィが「え〜〜!」と叫び、ガープは「なんじゃと?!」と言っていたが、焼肉屋が可哀想でしかなかった。
 かくゆうエースもサボもたらふく食べた。呆れたようにしていたのはマリィだけで、ドラゴンも母も黙々と食べていた。

 帰宅後、どこから情報が漏れたのかロジャーから連絡があり、先に会話していたガープは「煩いわっ!!」と怒鳴りながら、受話器をエースに渡した。

「ぁ?」

「いいから代われ、煩いんじゃ」

 エースはイヤそうにしながら受け取るしかなかった。

「……………もしもし」

『おぉ!エースっ!!マリィと婚約したんだってな?何故先におれたちに言わん?そりゃ反対する気は全くないが、ガープからいきなり二人が婚約したと聞かされたおれの気持ちわかるか?いやぁ〜しかしお前はむかしっからマリィとルフィの事が大好きだったよな〜おれとしては早く孫見てぇが大学行くんだよな?あーそうすっと子供は卒業まではお預けか?でも籍は入れててもいいな!結婚式はいつにする?国内もいいが海外もいいぞ!新婚旅行がてらこっちに来てもいいんじゃねーか?ルージュなんて喜んでるぜ?大はしゃぎしてる。あ、避妊はしっかりやれよ』

「…………うるせーよ、クソ親父っ!!」

 受話器からベラベラと一方的に喋るロジャーにエースは頭が痛くなる。というか、勝手に話をされていて、エースはガープを見ると、何やら怒りながらもどこか楽しそうに誰かに電話をしている。

「もしもし、センゴクか?聞いてくれ、わしの、わしの可愛いマリィちゃんがエースと婚約したんじゃ!わしゃ、悲しくて悲しくてツラいから煎餅送ってくれんか?」

『何を言っているんだ、ガープ!』

 最早何も言いようがない。
 自分勝手なガープにエースはため息を吐いてしまうが、彼なりに嬉しいのかもしれない……なんて楽観的希望ではある。そういや前世でも反対はされたが、別れさせられることはなかった。彼女への贈り物を託した時、泣きそうな顔をしていたのを思い出した。

『おーい、エース〜〜聞いてるか〜お父さん、寂しいぞ〜〜』

「うるせぇ、クソ親父っ!」

 電話の向こうでは『ルージュぅ、エースが反抗期だぁ』なんて騒がしいから通話ボタンを押したのだった。
 言いふらしているのはエースでも誰でもなく、ガープだというのが手に負えない。サボもルフィもマリィも呆気に取られていると、ドラゴンがどこかに連絡をしていた。やがて掛かってきた電話で、エースの祖母であり、ガープの姉が『見境なく勝手に話をするんじゃないよ!』と怒鳴りつけたが、『なんじゃと?!姉ちゃんにはわしの気持ち分からんじゃろ!!』と壮絶な言い合いが始まり、ドラゴンが額に手を当てながら『話す相手を間違えた…』と呟いていたのを皆で聞いたのだった。
 ルフィが『ねーちゃん、もう結婚すんのか?!』とマリィにしがみつくと、マリィも頭を抱えたくなる。

「い、今すぐってわけじゃないよ……」

「…ふーん」

 ぎゃあぎゃあと騒がしい方を見ながら、ルフィはマリィをぐっと強めに抱きつく。

「おれ、エースとねーちゃんが結婚するのはイヤじゃねぇし、嬉しいけどよぉ、最初の子供は女の子にしてくれよ?」

「……へ?」

「ん?」

 あれ?ルフィの事だからてっきりイヤとか言うのかと思ったら、子供?女の子?
 思いがけない言葉にマリィはポカン、とするしかなかった。次第にとんでもない事を言い出すルフィに対して驚くしかない。

「な、何言ってっ……ゲホ、ゲホっ!」

「ど、どうしたんだ?!ねーちゃん??」

 一瞬呼吸の仕方が分からなくなって、咳き込むマリィにルフィはいつも通りの姉を心配する弟に戻ったが、言われた事が不思議で堪らなかったのだった。


-9-

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