05
雨が降り続く中、流架は窓の外を眺めていた。
いつからか気付いてしまった。
本当は気付きたくなんてなかった。
でも…接しているだけで、感情が流れ込んでくる。
一緒に出掛けても、そばにいても、キスはしてても佐倉の心は違う人間を見ていた。
ただ、本人が気付いてないだけで…
だから…気付いてないならば
そのまま、ずっと
縛り付けておこうと…
傍にいてもらおうと…
卑怯な考えがあった。
――コンコン
またドアがノックされ現実に戻された。カチャリと開けると今井と委員長の姿があった。
「…どうしたの?」
「る、流架くん…」
「蜜柑知らない?部屋にいないのよ」
どこか怒りが含まれた口調だった。
「……戻ってないの?出ていってから随分経つけど…」
「………ケンカでもしたのかしら?いつもなら飛び出してでも捜しに行きそうなのに」
相変わらず、鋭い今井には感心してしまう。フッとどことなく笑うと
「………普通に…ケンカなら………よかったよ…」
「…………そう」
「えっ?蛍ちゃん」
踵を返す今井に、委員長は問い掛ける。
「…知らないなら、いいわ。落ち込んでいるみたいだし…」
そう振り向き言い放つ口調は、他人からみればキツめだが、どこか流架をやさしくさせる。
「…俺も行くよ“彼氏”だからね…」
そう言い聞かせた。
たとえ、この後どうなるか分からない関係になってしまっても、現状では【彼氏と彼女】なのだから…放っておく訳にはいかないし…放っておきたくない。
やはり、ダメになっても自分は彼女が好きだから…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
避難小屋の中。棗は、蜜柑の言葉に不思議さを感じ取っていた。
「…ウチ……流架ぴょんの事…ほんまに好きなんよ…?嫌いやないんよ…それなのに…なんで…?」
………好きだから…
嫌いじゃないから…
大丈夫だなんて本気で思っているんだろうか…?
好きだったら…
平気だなんて…。
ケンカの原因なんて、俺は知らない。こいつらがケンカなんて初めてじゃないのか?
しかし、流架のあの態度は……
「………お前…流架を好きなんだろ?」
「…えっ…?うん…スキ……」
「………愛してるのか?」
「へっ?あ、愛!?………愛してる?」
そのまま考えるかのように黙りはじめた蜜柑を見て、棗はただ見つめているしかなかった。
ただ…どんな答えが…もしかしたら…と思ってしまう。
流架が大事なのに「別れて欲しい」なんて考えるのは最悪だ。
しかし、もし目の前の少女がフリーであるならば、押し倒してでも、どんな手を使ってでも、手に入れたくて…触れてみたくて…すべてを奪ってしまいたくなる。
それが「恋」なのだと分かっていた。
どんなに「流架は親友だから」「流架が幸せなら」とかキレイ事を頭の中で言いきかせても、心の内側を覗けばドロドロとした感情が心を蝕んでいく。
頭で考えるのと心で思うのは違う、理性が保てなくなる。本能が剥き出しになる。
「……なんか…よく分からん。………流架ぴょんは好きやけど……愛してるとかはまだ分からへん」
さっきまで、うつむいていた少女が顔を上げた。
なぜか、顔が紅い。炎のせいだろうか…?
でも、彼女は今までに見せたことのない顔をしている。
どこか…急に大人びたかのように……どうしても触れたくて手が知らぬうちに蜜柑の頬を包んでいた。
「……な、棗…?」
「……………」
気付けば、触れるだけのキスをしていた。
真っ赤になる蜜柑を見るのが嬉しかった。可愛らしく頬を染めて、照れているんだろうか?俯いている。
こんな姿を親友は、常に見ていたのかと思うと悔しくて…でも、同時に親友に罪悪感が生まれた。
俺はなにをしたんだろう
気付けば動いていた自分
抑える事が出来なかった自分
そして…
それを受け入れた蜜柑に驚いていた。
なぜ、怒らないのだろう?
普通なら、彼氏でもないヤツにこんな事されたら怒るだろう。
好きでもないヤツに……されたら…
怒る…だろう?
疑問がよぎる。
コイツの性格なら、怒るハズだ。
なのに…なぜ?真っ赤になって俯くだけなんだ?
「……………みかん?」
不意に名前を呼んでしまう。
「……えっ…―――あっ…」
「…………おい」
「――っな、何すんねん!!こっち来んな!!変態!!痴漢っ!!!!」
慌てたように叫ぶ蜜柑を見るが、棗はじりじりと近寄る。
本能がそうさせる。頭で考えるより、心で分かってしまった。
「コイツは俺を好きだ」と…。
嬉しくて、どうしようもなかった。
もう一度頬に手を添えるとビクつき、身を縮める。
「…………みかん」
「…………な…つめ…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前を呼ばれ、蜜柑は真っ赤になるしかなかった。
どうしよう…どうしよう…このままでは…気持ちが止まらない。バレてしまう…。
気持ちが高まってきた蜜柑は瞳に涙を浮かべた。
棗の手が止まる。
あぁ、泣きたくなんかないのに、こんなん、全身で『好きや』って言ってるものや
このまま身を任せてしまいたい。
でも……でも。
ウチは今、流架ぴょんと棗の親友と付き合ってるんや。
そんなことは許されへん、許したくない。
だから、近寄らないで…。
スッと棗は手を戻すと、蜜柑から離れた。
「お前、もう寝ろ!!明日の朝には救援来るだろうから」
「えっ……でも…」
蜜柑は、呆気に取られながら棗を見ると
「お前が起きてようがなんだろうが、なんにも変わんねぇよ!!ブス!!」
「Σ ブス言うな!!イヤミキツネ!!!」
「ブスはブスだろ!!鏡見てみろよ!!」
「ブスやないもん!!流架ぴょんは可愛いって……あっ…」
「…………」
「…う、ウチ寝る!!こっち近寄るなよ!!棗!!!!」
「フン」
蜜柑は毛布に包まり、棗に背中を向けた。
なんとなく…棗を見る事が出来なかった。
やがて、疲れていたのか蜜柑は微睡みながら意識が遠退いていった。
スヤスヤと聞こえてくる寝息に棗は、蜜柑のそばに寄った。
『流架ぴょんは可愛いって…』
その言葉を思い出し、苦虫を噛むような顔をした。
なんで素直に云えないんだろう「好きだ」と…たった一言。
あの時伝えていれば、変わっていたのかもしれない。
意地ばかり張って、本当に欲しいモノを逃してばかりだ。
そっと蜜柑の頬に口付けると甘い香りが漂った。
これからどうなるのだろう?
俺たちの関係は……
To be Continued
あとがき
お、終わらなかった…。
はい。無駄に長い【感情シリーズ すれ違う感情 ACT 5】でございました。
もう、皆さん互いの気持ちの変化に気付いておりますね。
棗が、後一歩踏み込めないのは流架の存在です。
いくら、蜜柑が自分を好きだと分かっても、実状は流架と蜜柑は恋人同士と知っているからです。
互いに大切な親友であり、大切な思い人であるからです。
あ〜だんだん言っている事が分からなくなってきました。
今後どうなるんでしょうね?(オイ)
'04/11/17