02
むくりと起き上がった棗は困惑気味の蜜柑の姿を眺めた。
(………この姫が流架の言っていた…)
ふと、親友の流架を思い出した。
まだ幼い頃、姻戚関係にて同盟を結んでいる乃木家に棗は何度か父に連れていかれた。
始めは人質として出されるのかと思えば、同じ年の若君がいるから仲良くやれ。という事だった。
むろん、すぐに仲良くなったのは言うまでもなく、剣術や馬術、勉学を通じ良きライバル、親友へとなっていった。
そんな折り、彼は話してくれた『好きな姫がいる』と…。
時折、両親に連れられ近隣の大名家へ遊びに行ったいたという。
「そこの姫君は、姫というのにあどけなくて、使用人などにも優しく可愛らしい姫なんだ」
「…へぇ〜さしずめ流架の花嫁候補か?」
「えっ…!?……だったらいいけどね…」
照れながら話す流架が羨ましいと思った。今のこの世、好きな女がいるというのは…。
所詮、武家の子供として生まれたからには好きな女と必ず結婚出来るとは限らないのだ。
それは流架とて同じ事であり、姫にとっては道具でしかない。
しかし、流架の場合は好きな姫と結ばれる確率は高い。家同士が交流を持ち、なおかつ似合いの若と姫がいるのだから。
流架から何度その姫の話を聞かされたかは分からなかったが、乃木家にいる時にこの姫を見た事があった。
父と共に滞在中に、佐倉家の当主と姫がやって来たのだ。
むろん、父らは難しい話をしていたが棗は偶然にも姫を庭先にてみてしまった。
流架と一緒に楽しそうに笑う姿は、周りを華やかにしているようだった。
―どきんっ…
くるくると変わる表情は瞳を釘づけにしていた。
(あれが……蜜柑姫…)
全身に何かが走ったような感覚に陥った。
ずっと聞かされていたせいなのか…
『逢いたい』と…
『話したい』と…
『手に入れたい』と思った。
しかし、あの姫もきっと流架の事が好きなんだとそう考えた。あんなに仲良ければ、そうとしか思えない。
初めて出来た親友を応援しようと、棗は自分の気持ちを抑えた。
しかし、運命とは皮肉なもので日向家当主である父親が縁談を持ってきた。
どうせ、そこらの姫であろう。などと思えば、聞き覚えのある名だった。
「棗!!縁談だ。領民を抑える為に佐倉家の蜜柑姫と結婚しろ!!」
正に青天の霹靂というべきだった。
その後、いくら棗とて当主である父親に逆らう事も出来ず今日を迎えた。
流架からは、祝いの手紙をもらったがなんとなく後ろめたかった。
本当はこんな風に…この姫を獲たかった訳ではない。
出来るならば、流架と競ってきちんと自分から求婚したかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……あのっ…」
色々と考えを巡らせていると蜜柑が、意を決したのか話し掛けてきた。
「…なんだ」
「認めない。とはどういう事なのでしょうか?」
「お前は…流架と……乃木家の流架と約束をしていたのではないのか?」
「………は?…そのような…話はないですけれど…」
突然の言葉に蜜柑は、またもや呆然とする。
乃木家の流架様といえば、何度かお会いしたことのある若君であり、幼なじみに近い感覚だった。
たぶん、両親が健在ならば結婚する確立の高い相手だったが、友達と過ごした日々が長かったせいか蜜柑にはそんな風に考えた事はなかったのだ。
「……お前は流架が好きなんじゃないのか?」
「? それは好きではございますが…よき友人です」
「…………お前は俺の嫁になるのは嫌ではないのか?」
「…え?………嫌もなにもまだよく分かりませんので、仕方ありません。それに始めは暴君と聞き及んでおりましたが、あのお優しい流架様のご親友なのですから、きっと棗様もお優しいのでしょう?」
棗は、胸がつまる思いをした。
たいていの人間は噂で人を判断しがちで棗はいつも恐がられていた。が、この姫はそうではなく流架の親友だからやさしいと決め付けてきたのだ。
(……こんな女、初めてだ…)
棗はそんな風に思い、蜜柑姫を眺めた。
蜜柑は、棗からの視線がやたら恥ずかしくなり俯いてしまった。
(……ウチ…なんか変な事言ってしまったんやろか?)
「………俺は…ずっと前からお前を知っていた」
「えっ…?」
突然の棗の言葉に蜜柑は、思わず顔を上げた。みれば真剣な眼差しにて見つめられていた。
―どきっ…と胸が高鳴り、蜜柑もまた棗の真意を聞こうと高鳴る胸を抑え、眼差しに直視した。
「俺は…前からお前を知っていた。たぶん…その頃から……気になっていたのかもしれない…」
「………しかし、先程この縁談を認めないとおっしゃったのは棗様ですが…」
蜜柑は、顔を少し赤く染めながも床入り前に言われた事を復唱した。
「…それはっ……お前が流架を好いていると思っていたからだ」
「…はぁ?」
「………それに流架もお前に好意を抱いていたし、俺は……」
流架と同じようにきちんと出会ってから、求婚したかった。まぁ、流架は求婚はしていませんが。
「流架様がウチをっ!? そんなはずありませんよ…」
「…なんでそう思う」
「だ、だって…そんなん言われた事なかったし…」
「流架はいつもお前の話をしていたぞ。だから…俺はいつのまにかお前を気にしていた…」
急に恥ずかしい事を言われ、困惑する蜜柑だったが胸が熱くなった。
「…では…実物を見ましてがっかりなさったから縁談を認めないのでしょうか?」
「違うっ!!むしろ……ホッとした」
行灯に照らされた顔は真剣そのもので、蜜柑は改めて棗の端正な顔立ちにどきりとした。
既に瞳も昼間みたような恐さなどなく、穏やかな眼差しで自分を見ていた。
蜜柑は、真っ赤になりながらこの人に惹かれていく自分に気付いていた。
――この人となら…幸せになれるかも知れない…――
やはりあのお優しい流架様のご親友だと確信し、ニコリと笑った。
「……それでは、不束者ですがよろしくお願いいたします。…………あなた…」
その言葉だけで、自分を受け入れられたと確信した棗はそっと蜜柑の頬に手を触れた。
やがて、優しい口付けと共に二人は仲良くなりました。
その後、戦乱の世でありながらも棗は蜜柑を大切に扱い、二人の間にはたくさんの子供たちが生まれ幸せに暮らしました。
END
あとがき
web拍手でお礼SSで使用していた時代パラレルです。
まあ、私のオリジナルのどうでもいい話でございました。
楽しんで頂けたら幸いでございます。
2005/07/21