03
「…お前…面白いな…悪かったな…急に移動して……あの野郎がふざけた事抜かすから、頭に来たんだ…」
「…………?」
蜜柑が口を利けないと分かっているせいなのか…棗はぽつり…ぽつりと話始めた。
「今、隣国が戦争しているらしいんだが…そこの国王がその戦っている国を一掃して欲しい。と言って来たらしい…俺のこの『力』を使い火の海にしろ…だと。
ふざけるなっ!!いつもは恐くて近寄りもしない名前だけの同盟国のくせにっ…こんな時だけっ…くそっ…」
『ですが、あなた様の力のおかげで我が国はどの国からも侵略されないのでございますよ』
「うるせぇっ!!!!」
執事の言葉が頭を過り、棗は真紅の瞳を見開き叫んだ。
その途端、蜜柑の目の前で、ボッ!!!!とユラユラと揺らめく、蜜柑にとっては見たこともない紅いの炎が現われた。
蜜柑は手の上で揺らめくモノを怖がりもせずに見つめていた。
(………キレイや…)
そう思い手で触れようと伸ばした瞬間、火はフッと消えてしまっていた。
残念そうに棗を見上げると、驚いたように見つめていた。
「お前…恐くないのか……?」
その言葉に首を傾げると蜜柑はキョトンとしていた。
(……恐い?何が?だって、あんなに綺麗だったのに?)
棗は何か目に見えない何かを確認する為にもう一度、火を出した。
すると、蜜柑の顔がにこやかに笑いだす。
「……お前、恐くないのか…?」
「(せやから恐くあらへんって)」
返事の代わりに蜜柑はうんうんと何度も首を縦にした。
その瞬間、棗の胸の内に何かが言葉に出来ない思いが走った。
「…お前………変なヤツだな」
それは意地悪そうな笑いではなく、ホッ…と安心したような笑みだった。
蜜柑はその笑顔に胸がどきんっ!!と高鳴った。
(なっ…なんや!?急に胸がっ…)
それからしばらくの時間、二人は一緒にいた。
もともと無口な王子は、蜜柑が気にいったのか城から町へと出て色々と案内した。
馬車から見る町並み、景色、そしてたくさんの人間の姿は蜜柑の瞳を輝かせた。
本来、声が出たら王子が煩いと怒りそうな蜜柑の興奮ぶりだったが、喋れないので些かマシというべきだろうか。
それでも、身振り手振りではしゃいでいたので煩かったかもしれないが…。
しかし、町に出て蜜柑は気付いた事があった。この国の王子が城から町へと来たのに、町の人々は遠巻きで見ていた。
蜜柑とて、海の国の王女として育ち海底にも町…というべきか…一般人魚が棲んでいる場所がある。
そこへ宮殿から出て遊びに行けば、皆が集まって来て楽しく笑いが起きていた。
地上とて違いないはずなのに…それなのに、町の人々は棗を―――一国の王子を避けていた。
蜜柑が不思議そうに町人を眺めていると、棗は何かを悟ったのか
「気にするな。民は俺が恐くて近寄ってはこないさ」
その言葉に蜜柑は、くるんっと振り返った。
棗は、やや苦笑しながら
「…恐いのさ。さっき見せたあの『力』が……」
「(そんなっ…)」
蜜柑は哀しそうに顔を歪めた。
――彼は何も悪くないのにっ……
哀しくてぽろぽろと真珠の涙が零れそうになるのをなんとか堪えた。
そして、手にある指輪が目に入った。
――そうや!あの魔法使いが言うとった!!
蜜柑は思い出し、紅い石の指環を棗に差し出した。
「……なんだ?これは」
「(これは、棗の力を助ける指環やっ!)」
訝しがる棗の手を取り、蜜柑はそっと握らせた。
意味が分からない棗は、蜜柑の顔を見るがニコニコと笑っている。
なんだか、言いたい事が分かるような気がした。
「…………お守り…って言いたいのか?」
その言葉に蜜柑は、ぱぁっと茶金の瞳を輝かせた。
そして、返事の変わりにぶんぶんと首を縦に振った。
なんだか、その様子が可笑しくて棗は目を細めて紅い石を見た後、小声で「……サンキュ」と呟いた。
棗はその指環を薬指に嵌めたのだった。
To be Continued