remembrancer
テスト前の教室
生徒たちは早めに帰り、勉強へと励んでいるのかは定かではないが一人の少女が誰もいない教室で居残っていた。
「うぅ〜… ちっとも分からへんよ〜 蛍も蛍や!!親友のウチの勉強くらい見てくれたっていいやないか〜〜」
ぶつぶつと大好きな親友の言葉を思い出し、蜜柑は嘆いていた。
『蜜柑、勉強って同じくらいの成績同士じゃないと捗らないと思うの。それにアンタと一緒だと勉強にならないわ』
そう言って、頼みの綱の委員長に顔を向けるが否やさっさと連れて行ってしまった。
「蛍のハクジョーモーン!!」
本人がいたら、バカン砲で撃たれていたに違いない。
そんな叫びをしつつ、また机に向かって問題を解こうとするもやはりさっぱり分からない。う〜んう〜ん…と頭を抱えていると
「あれ?蜜柑ちゃん?」
聞き馴れた声に振り返ると、教師というには掛け離れた派手な恰好をしている担任の鳴海が立っていた。
「鳴海先生!」
「どうしたの?あ、勉強?偉いね〜蜜柑ちゃんは。でもそろそろ帰らないと学校閉まっちゃうよ?後は寮に戻ってからしたらいいよ」
見回りで来たのか、鳴海は鍵を振り回しながら、蜜柑に優しく言った。しかし、蜜柑は
「せやかて…勉強してもちっとも分からへんねん!蛍は自分の勉強が忙しい言うて、教えてくれへんし……委員長は蛍に連れて行かれたし、ウチ……ウチ、どないしたらいいねーん!?」
半泣きで叫ぶ蜜柑を鳴海は、苦笑しながら眺めていた。そして、考えるように「う〜ん」と顎に手を添えて蜜柑を見つめた。
「ねぇ、蜜柑ちゃん?僕の担当教科は教えられないけど、他の教科なら少しは教えてあげられるよ?」
「ほんま!?」
「うん。じゃ、僕の家に行こうか?とりあえず学校はもう閉まっちゃうしね」
「うわぁ〜 ありがとうございます!!鳴海先生♪」
バンザーイと喜ぶ蜜柑にクスッと笑うと、とりあえず学校から出て待っててと頼んだ。蜜柑は、荷物を片付けると「はーい」と言って教室内から出て行った。
鳴海は、その後他の教室を見回り誰も残っていないのを確かめると、教員室へ鍵を置きに行った。
生徒玄関から近い場所にあるベンチに座る蜜柑を見つけると、鳴海は声を掛けた。
「ごめん、ごめん。蜜柑ちゃん待ったかい?」
「鳴海先生、うぅん。そんな待っとらへんよ」
「そぉ?ならいいんだけど……じゃ、行こうか?」
そっと手を差し出すと、嬉しそうに「はーい」と返事をしながら、小さな手が鳴海の手を握った。
その手がなんだか、温かくて心地よく感じる。胸の奥がふわりっと優しくなれるような感覚になったのはこの少女といるからだろうか?
やがて、家に着くと、暖かいココアを入れて、鳴海は蜜柑の勉強に付き合った。
「うぅ〜 鳴海先生ぇ!ここはどないするん?」
「えっとね、これはこっちの数字をこっちに代入してね……」
「………あっ!そうなるんか!!」
決して、答えを教えるのではなく、方法を分かりやすいように鳴海は蜜柑に教えていった。
蜜柑も丁寧に分かりやすく説明され、答えを導き出して合っていた時は「やったぁ!」と笑顔になっていた。そして、時間は過ぎて行き気付いた時には、外は真っ暗。時計を見れば、とっくに夕食の時間さえも過ぎている。
「もうこんな時間やったんやな…」
あまりにも珍しい位に集中していた蜜柑は、呆然とした風だった。今まで、勉強していてこんなに長く集中した事はない。しかもご飯を食べ忘れるくらい。
「蜜柑ちゃん、頑張っていたからね♪もう、寮の夕食も終わっちゃった時間だし、ここで食べて行ったらいいよ!タカハシさんには僕から連絡しておくし、帰りは送っていくからね」
と言われ、漂ってくる美味しそうな匂いに蜜柑のお腹はぐ〜と返事をした。いつの間に用意されていたのだろうか?
「え、えへへ〜お腹ペコペコや!」
「はい、じゃあ、食べようか♪」
鳴海と向かい合わせに座り、出された食事はシングルの身としては口にはしないような物だった。
「な、鳴海先生!いっつもこんなご馳走食べてるん!?」
「まっさかー!今日は蜜柑ちゃんが一緒だし、何たって蜜柑ちゃん頑張っていたからね♪」
パチ♪と驚く蜜柑にウィンクしながら、鳴海は笑い食事を始めた。蜜柑も、鳴海が食べ始めたのを見て口に料理を運んだ。
「……お、美味しい!!」
「よかった、蜜柑ちゃんが喜んでくれて☆さ、食べ終わったら送って行くからね」
にこにこと笑う鳴海に蜜柑はムクムクと気になる事が胸の内に沸き上がる。
「なぁ、鳴海先生?」
「どうかしたの?蜜柑ちゃん」
「あんな、前みたいに泊まって行ったらダメやろか?」
「へっ?」
「泊まりたい!!」
「み、蜜柑ちゃん?」
可愛いらしく上目遣いで見上げられると、鳴海としてもどうしようもない。
「やっぱ、ダメやろか?」
「ダメって訳じゃないけど…どうして?」
「ん――… あんな?なんか鳴海先生が淋しいやないかと思って…」
「え?」
「なんか、いつも一人でご飯食べてるようやし……淋しいんちゃうかな〜思うて………」
「…………そうだね…いつもは一人だったっけね。でもね、蜜柑ちゃん、それは当たり前の事だし、それに珠に岬先生と食事することもあるから、淋しくないよ。」
フッとどこか遠くをみているのか、鳴海はほんのちょっとだけ目を細め哀しそうな顔をしたが、ふぅ〜とため息をついて蜜柑を見た。
「せやからっ!鳴海先生 寂しそうやし!!勉強みて貰ったお礼に一緒にいたいんや!!」
その眼差しに、鳴海はほぅ〜っとため息をついてしまう。
(…本当にこの子は……)
なんて純粋で眩しい子なんだろう……と思い、その優しさにふっと笑った。
「分かった、いいよ。蜜柑ちゃん」
「ほんま!?よかったわぁ〜」
「寮の方には、僕から連絡しておくね」
「お願いしますでーす」
ニコッと笑う蜜柑に鳴海も微笑み返した。いつもより楽しい食事時間を過ごし、また少し勉強をみた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「わーい♪鳴海センセのぶかぶかシャツや〜」
泊まるという事で、鳴海は私服のシャツを蜜柑に渡した。
パジャマ代わりなのだが、鳴海の私服だけあり、フリルがひらひらと付いていて蜜柑が着ていても可愛いらしさが現れる。くるくると回る蜜柑に鳴海は、クスクス笑った。
「さぁさ、蜜柑ちゃん。もう寝る時間だよ」
「鳴海センセ〜 前みたいに一緒に寝よう」
蜜柑は、枕を抱え首を傾げおねだりした。鳴海はその姿をみて、ベッドの毛布をめくった。
「蜜柑ちゃんは甘えん坊だね〜いいよ。」
「えへへ〜」
ごそごそと先にベッドに入り込み、蜜柑はにこにこと楽しそうにしていた。横に入った鳴海と俯せになりる蜜柑の方をみた。
「なぁ、鳴海センセ?お話して?」
「え〜〜?お話か〜」
うーんと苦笑いする鳴海に蜜柑は、はっとしたように瞳を輝かせた。
「なぁなぁ、鳴海センセは好きな人とかおらんの?」
「えっ」
「おらんの?」
再度聞いて来た蜜柑を眺め、そっと頭を撫でた。
「……前はいたんだけどね〜」
「そうなんや…もしかして『柚香(ゆずか)』って人なん?」
「っ!?」
突然の名前に、はっ!とした。
(なんで、先輩の名前を!?)
呆然とする自分に蜜柑は、エヘッと笑いながら言った。
「あんな、前に特力のみんなで大掃除しとったら、アルバム出て来たんよ。それに鳴海センセが写っておって……翼先輩や殿先輩が鳴海センセが『柚香』っていう人に片思いしとったんやないかって……」
「え、アルバム?」
「うん、鳴海センセや岬センセも写っておったのあったし、鳴海センセ結構『柚香』っていう人と写っておったんや…」
申し訳なさそうにいう蜜柑に苦笑して、もう一度頭を撫でてあげた。
「懐かしいな……その名前を他の人から聞くなんて」
(待ってよー 柚香センパーイ)
(るせー、付いてくんな!ナル)
遠い記憶に思わず想いを馳せた。もう戻る事のない、幸せで苦しい思い出。
フッと閉じた瞳を開き、蜜柑をみると傍らで困ったような顔をしていた。ニコッと笑いかけると
「…そうだね、忘れる事が出来ない位好きだったんだよ。でもね、その人にはとても好きな人がいてね……僕は見向きもされなかったんだ…」
――そう彼女はいつもあの『先生』を見ていた。
――僕が見ているように、先生を見ていたのだ。
盗まれた気持ちだったのに、グッと胸の奥が苦しくなる。自然にキュッと心臓の辺りを掴んでいた。
まだ、胸がざわつくなんて――この少女の笑顔のせいだろうか?
「……な、鳴海センセ………ごめん、ウチ、なんか………」
気まずそうに口を開いた蜜柑の頭にそっと手を乗せた。
「大丈夫だよ、蜜柑ちゃん。こっちこそごめんね?気を遣わせちゃったね」
フルフルと横に首を振る彼女を淋しげな顔で見つめて、気付かれないようにため息をついた。
先輩……本当に蜜柑ちゃんは貴方にそっくりだ―――。
やがて、鳴海は蜜柑の頭を撫でた後
「ところで、蜜柑ちゃん?『柚香』は(ゆずか)じゃなくて(ゆか)って読むんだよ」
「へっ?そうなん!?うひゃー ウチ間違ってたんや〜はっ!そんじゃ、美咲先輩も間違ってたんや!!」
慌てる蜜柑にフッと笑い、窓の外を見た。暗闇にちらちらと見える星たち。
「さぁ、蜜柑ちゃん。もう遅いから寝よう」
「えっ…そやな。寒いもんな」
そう言ってもぞもぞと鳴海に擦り寄って来た。
「えへへ〜〜あったかいな〜」
「そうだね」
ニコッと笑い合い、二人は眠りについた。
――――翌朝
ピンポーン♪ピポピポピポピポピポピポピポピポピポ……!!!!!!
鳴り響くチャイムの音で目が覚めた。
「…うぅ〜ん?」「なんや〜…」
二人は目を擦り、顔を見合わせた。
「あ、鳴海センセ、おはよう」
「おはよう、蜜柑ちゃん」
ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポ……!!!!!!!!
軽く挨拶を交わしつつも鳴り止まないチャイムの音。不審がりながら、二人は玄関へと行きドアを開くと―――
「あーら、蜜柑?夕べ帰らずにこんな場所にいるなんて、どういう事かしら〜?」
「どういう事?」
「…………………」
黒いオーラを漂わせ、初等部では怒らせてはならない三人組が立っていたのだった。
「…………………」
鳴海は、朝から地獄を見るような予感がした。
END
あとがき
思いがけず、長くなってしまいました。
皐月ちゃんと電話中に考えた話です。
何気にネタ帳にメモしてる時邪魔されました(笑)
まぁ、まつげパワー&夜マジックのお陰でサクサクとプロットが出来上がりましたけどね(笑)
しかし、書いていく内にキャラ(今回は蜜柑)が勝手に動いてしまい、話がどんどん違う方向へ…
本来の予定では、ほのぼのギャグちっくでしたのに少々シリアスに(ナルだけな)
タイトルの『remembrancer』は、皐月ちゃんに『追憶』を調べてもらい、さらに意味は『思い出させる人』という事なので使わせて頂きました。
ちょっと、最初に考えてたタイトルと話が合わなくなったからね〜
最後は、蛍様たちの乱入によりとりあえずオチがつきました。
では、ここまで読んで下さいましてありがとうございました。
2006/11/19