向こう側の…

GAKUEN ALICE

あの恐怖のバレンタインが終わった。生物教師である岬は、机に置かれたチョコを眺めため息をついた。


「……なんだってバレンタインなんていうのがあるんだ」


好きな人にチョコを渡すなどという日本独特のこのイベントは、菓子店の策略だとしてもおかしすぎる。いや、アリス学園内のバレンタインがおかしいのだ。
一度、バレンタインチョコの廃止に踏み切ってみれば、女生徒の反乱・暴動は凄まじかったらしい。
しかし、貰う側としてみれば何か得体の知れない物が入っているものなど絶対欲しくはない。
大体、なんでセントラルタウンの闇の薬売りから媚薬を買ったり、変な呪いなどを使ってまでチョコをあげたいなどと思うのか。

そして、また机に置かれたチョコを見る。


「…………まあ、これはお返しが目的だろうな…」


どう考えてもそうとしか受け取れない。
なんたって今日一日狂ったように女生徒たちに追い掛け回された。
毎年の事ながら恐ろしい。有休でその日を休んだとしても自宅まで押しかけてくるのだ。
今日は追い掛け回されたのだが、ある教え子によって助けられた。その代わりにこれを渡された。

これに『恋愛』など絡むはずがない。


そう分かりきっているのだが、なぜかため息が出てしまう。


――ピンポーン♪


「こんな時間に誰だ?」


時計を見ればすでに10時を廻っていた。まさかもう生徒は押しかけて来ないだろう。門限があるのだし。
そう考えながらも、ドアを少し開ければ欝陶しい奴が立っていた。


「こんばんわ―♪岬先せ……ってなんで閉めるのっ!?」

「煩い、帰れ」

「うわっ!ひどいな〜…って挟まってる挟まってる!!」


軽い調子でいる同僚を岬は、本気になってドアで挟んでいた。が、次の瞬間、空気がピンク色に染まる。


『あ・け・て、岬センセ♪』

「ぐっ……アリスを使うなっ!変態」


弱いアリスだったが、フェロモンガードを飲み忘れていたためにほんの少しの気色悪いアリスに力が抜けた。
ドアを押さえる力が弱まり、その隙にするっとナルが部屋に滑り込んだ。


「岬先生は今日大丈夫だった?」

「お前はどこに行ってたんだ? 居なかったようだが……」

「ああ、体調悪かったし病院に避難も兼ねて逃げてたよ。なんだか、色々凄かったようだね」


ナルは苦笑しながら、岬を見た。そして、おもむろに机に置かれているチョコをみた。

「あれ、あれあれ? 岬先生、チョコあれだけなの? いつもはすっごいのがあるのに。誰から貰ったの〜?」

「………………今井だ」


その言葉に珍しくもナルが黙った。なにやら顔が引き攣っている。


「……………………い、今井さんか〜」


アハハ〜と空笑いをしているが、岬ははあ〜とため息をついた。これを貰って何度目だろうか。


「珍しいね、岬先生が一人からしか貰わなかったなんて。みんなから貰うか、絶対貰わないかのどちらかかと思ってたよ」

「……今井には、追い掛け回された時助けられたからな。仕方なく、だ」


そう仕方がなかった。あの状態で受け取らなかったら、多分あの今井が作った機械から、上空から落とされかねなかった。だからこそ受けとったのだ。


少しムッとした表情の岬を見て傍らにいたナルはニヤッと口の端をあげた。


「ふ〜〜〜ん」

「なんだ、その含み笑いは。気持ち悪いぞ!!」

「うわっ! ひっどい!!」

「お前がそんな笑いをする時は良からぬ事を考えている時だからな」

「さっすがー♪ 岬先生、僕の事分かっているね〜♪」

「き・も・ち・わ・る・い・こ・と・を・言・う・な!!」


ふんっとそっぽ向いた岬に、ナルは苦笑した。


(――気付いてないのかな? 自分の気持ちに…)

「――ねぇ、岬先生」

「なんだ?」

「――認めるのも厳しい時があるよね、」


まぁ、いつ気付くか面白いけど…と呟いたナルに岬は首を傾げた。自覚がないらしい岬にナルはブッと吹き出した。


「なんなんだ! お前はさっきから!!」

「べっつに〜、岬先生って鈍感なんだなーって思って……そういえばチョコ食べないの?」


机に置かれたチョコを指差すが、岬は引き攣りながら訊いた。


「――お前だったら食うか?」

「え? だってせっかく貰ったのに食べないなんて…………ヤバイと思うよ?」

本当なら「悪いと思う」と言おうとしたが、誰が贈って来たかという事を考えたら「ヤバイ」になってしまった。
なんていってもあの今井蛍の作った物なのだ。絶対裏があるはずだ。何倍物お返しをさせるような何かが入っているかもしれない。そう思うと怖くて食べられない。

はあ〜…と、岬はまたため息をついた。
食べたいような、でも食べたくないような危険なチョコに悩まされる。
まるで今井そのもののようなチョコだった。


「―――――――――ろうな?」


その呟きは、ナルには聞こえず岬は一人頭を掻いた。



食べなくてはいけないだろうな?


それは前向きな想い。
理由がどうであろうと貰ったのは事実。
どんな想い…思惑が込められていようが口にしたいと思っている自分がいたのだった。

じーっとチョコを眺める岬を横目でみて、ナルは楽しそうに笑った。

(――――本能的に分かってはいるみたいだ)


この女の子苦手な親友は、どうやら大変な人を本能的に気になっているようすだった。


「――岬先生、頑張って」


そう言ってナルを踵を返して室から出ていった。岬はまた、チョコを見てため息をついた。その向こうにある人物を思い描いて。







END





あとがき

久々のアリスは、岬先生の話でしたー。
なんかラストが考えてたネタと変わりました。
ってか、考えてたラストがどういうのか書いてる内に忘れちゃいました(笑)
初の岬先生ネタですが、何を書きたかったのやら。
まあ、本誌のバレンタインの話を見て蛍が岬先生にチョコ渡したのを見てからずっと頭にあった話です。
蛍のチョコを見て悩む岬先生の図
というのがあったので書いてみたんですが、なんか違ーう!
片思いみたいな話でしたね(笑)
自覚ないんですけど。


えと、感想頂けたら嬉しいです。
読んで下さってありがとうございました。


2007/1/26


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