風より生まれし華
彩雲国の国語りを聞かせよう。
遥かな昔、国中に魑魅魍魎が跋扈していたその時代、いつ終わるともしれぬ混沌のなかで、一人の若者が旅に出る。
跳梁する妖を追い払い、民の安寧を胸に秘め、いつ果てるともしれぬ旅を彼はつづけた。
やがてその想いに心うたれた八人の仙がつどいくる。
藍仙、紅仙、碧仙、黄仙、白仙、黒仙、茶仙、紫仙──色の名をもつ彼らはいつしか彩八仙と呼ばれ、不思議の力を駆使して若者を助けた。
かの若者の名は蒼玄。八仙の知恵を借り、国を基礎を築き、人の世に夜明けを拓いた、彩雲国初代国王。
蒼玄の死後、八仙はいずこかへと姿を消した。
だが彼が仙のために建てた風雅の宮は、仙人の住処──仙洞宮と呼ばれ、今もなお王城の一角にあるという。
そして──誰も知らない話を聞かせよう。
八仙が蒼玄を助け国を築くと、天から一人の美しい天女が降り立った。
彼女は、天界の娘でありながらも人間の蒼玄を愛し、彼もまた彼女を愛した。
しかし、それを赦さぬ者がいた。
闇の力を手にしその主は秘かに彼女に恋していた。
彼女が他の──人間の男に心を許したのが気に入らず、彼女と蒼玄との間に生まれたばかりの娘を掠った。
彼女は狂乱し、蒼玄と仙人たちは怒り、娘を取り戻そうと闇の世界へと軍を送り込む。
しかし───助けにいった娘の姿は何処にもなく風のように消えてしまったのだった。
娘の母は傷心し、嘆きのあまり天界へ自ら眠りについてしまったという。
彩八仙は、その若子を探しているという。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時は流れ、とある邸において朝から慌ただしく人々は働いていた。
しっとりとした美貌の女性が大きなお腹を摩り、今か今かと生まれ出る子を待ち侘びていた。
と、不意に外に疾風が起きた。女性は、ハッとして顔を上げると素早く傍にいる背の君を呼んだ。
「どど、どうしたんだい!? 生まれそうなのかいっ!?」
「いや、それはまだなのじゃが、それよりも外に幼子が倒れておるのじゃ。早う、我が元に連れてくてくれぬか」
「……幼子?」
「そうじゃ! 早う連れて来てたも」
妻に言われ、男は邸の外に出るとそこにまだ本当に小さな子供が倒れているのを見つけた。
年の頃はまだ一歳かそこら。
(なぜ、こんな幼子が……?)
男──紅 邵可は、驚いて少女を抱き上げると妻の元へと連れて行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
特に外傷もなく、眠っている幼子を連れて行くと妻である薔君は、その娘を抱きしめた。
「おぉ、ようやく現れたのか」
「……その子は一体…?」
「我が背の君よ、この子は今日から妾たちの娘じゃ。よいか」
「え」
「よいか、この子は妾たちの娘になるのじゃ」
妻の瞳の奥にその想いの強さを感じると、邵可は一旦瞑目し、眠っている幼子を見つめた。
「分かった、今日からこの子は私たちの娘だね」
にこりと笑い、いまだ眠る幼子を撫でた。
緑ががった黒髪はまだ短く、肌は真っ白で口唇は薄紅色をしていた。顔立ちは、瞳を開いたらどんなに可愛いだろうという容姿をしていた。
「ほっほっほっ…明日にでも生まれるこの子の姉じゃな」
薔君は、にこやかに笑いまた眠る幼子を愛しく眺めた。しかし、その胸のうちは不安があったのは言うまでもなかった。
……そなたもこの子の決してヤツらには奪われはしない。
序幕/終
あとがき
始めちゃいました。彩雲国物語夢小説。
いきあたりばったりな作品ですが、よろしくお願いいたします。