居間に戻ると邵可と克洵がのほほんとお茶を啜っていた。


「克洵さん、父様お茶のお代わりを持って来ました」

「ああ、ありがとう。琳麗」

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「後、甘味も用意してますから」

「す、すみません」


謝る克洵に「気にしないで」と言ってまた談笑をしていると、邵可が琳麗を見て微笑した。
その意味に琳麗も笑った。邵可が黎深たちがいることに気付かない訳がない。


「それにしても遅いね」

「そうね、見に行ってみましょうか」


卓子に置いてあった小皿を持ち、立ち上がった琳麗に克洵は「手伝います」と言って、三人は庖厨へと向かった。
聞こえた会話に三人は耳を傾けた。


『……どうした?』

『ふふ、玖琅叔父様、私の初恋の人って玖琅叔父様みたいです。私、この赤くていい匂いのするうさぎさんを作ってくれた人が大好きだったんですもの』


赤い林檎のうさぎ。
それはまだ秀麗が揺り籠に揺られ、母様がいて、穏やかに紅家本家で過ごしていた頃によく玖琅が作ってくれた林檎のうさぎさん。
秀麗はそれが大好きで、父様母様が作るうさぎの林檎は下手くそで、静蘭が練習して綺麗に剥いてくれるようになるまでいつも不機嫌だった。


『考えてみれば、叔父様は私の好みにどんぴしゃりですよ。お料理上手で気が利いて、頼もしくてお優しくて』

『……そ、そうか』

『はい。参考になりましたか?』


さすがの玖琅も動揺したのか、咳払いをした。
その時、邵可が笑いながら声をかけた。


「ほー。玖琅が初恋の相手とは、秀麗もなかなか目が高いね。あのころの玖琅はまだ十代の少年でねー。目元涼しい――」

「邵兄上!」


邵可も琳麗もクスクス笑いながら少し動揺を見せた玖琅を見た。
邵可は何やら秀麗に耳打ちをすると、秀麗は首を傾げつつも頷いて、パタパタと庖厨を出て行った。


「ああ、克洵くん。このお盆を持って、秀麗のところへ行ってくれますか?」

「はい。わ、美味しそうですねー」


出来上がった甘味の皿を見て、克洵が目を輝かせる。そして二皿すくいとると、言われた通り秀麗の後を追った。
琳麗も自分の分を持つと彼らの後を追った。


琳麗が室へ入ると、秀麗がゆっくりと二胡を奏で始めた。
その曲はよく母様が奏でていた曲。
克洵は卓子に皿を置いて、たゆたう音色を椅子に座って聴いている。
琳麗も椅子に座り、母様の奏でる音色に近い秀麗の二胡を聴いた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夜、久々に琳麗と秀麗は同じ室で横になっていた。


「そういえば、静蘭、今夜は戻らないみたいね」

「今日も羽林軍の人たちと飲んでいるのかもね」


バサッと掛布を掛け直して、琳麗は秀麗の横へと滑りこんだ。


「ねぇ、姉様。玖琅叔父様って素敵よね。あの父様と血が繋がっているのが不思議だったけど……髪を下ろした姿を見たら、本当に叔父様なんだと実感したわ」

「兄弟だもの。同じ髪質だしね」

「うん、ついつい見ちゃったわ」


それを聞いて琳麗はクスクスと笑う。


「そういえば、秀麗の初恋の相手は玖琅叔父様だったのね」

「そ、そうみたい。でも本当に理想的なのよね。……ねぇ、姉様の初恋って誰なの? 私と同じで玖琅叔父様? それとも静蘭か父様? あ、でも静蘭ともうアツアツなのよね、ということは静蘭?」


珍しく聞いてくる秀麗に琳麗は微苦笑した。


「……違うと思うわ」

「静蘭じゃないの?」

「初恋というなら違うと思う、ずっと、ずっと前に気になる人がいるから…」


そう話す琳麗の姿があまりにも透明に見えて、秀麗は思わず琳麗の袖下を握った。


「静蘭のことはもちろん、好きよ。でも残念ながら初恋は別みたい」


先ほどの表情ではなくいつもの笑顔を向けられ、秀麗は小さくホッと息をついた。
なんだか、琳麗がどこかに行ってしまうかのように見えたから。


「さぁ、明日も忙しいから早く寝ましょう」

「……うん」


やがて二人は仲良く眠りについた。
琳麗は、ほんの昔、まだ母様が生きていて、父邵可に抱っこされている夢を見た。
夢の中には赤い林檎のうさぎに手を伸ばす秀麗、それを作った玖琅に突っ掛かる黎深の姿があった。
あまりにも優しい、静かな時間はやがて終わってしまうが、それでも琳麗は笑みを浮かべ眠っている。隣で眠っている秀麗も笑みを浮かべていた。



第二幕‐終‐



あとがき


またしても久々の更新で申し訳ございません。
今回は幕間的な話でした。
次は璃桜と接触……するんでしょうか、琳麗さんは。ちょっと思案中です。


2010/01/14


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蒼天の華 / 恋する蝶のように