龍蓮は何も言わず、焚き火の傍にいた。その近くには燕青、葉医師もいる。
天幕の中では、シュウランが秀麗に漢字の名前を教えて欲しいと頼んでいた。
シュウランはあかい伝説の鳥から取ったらしく『朱鸞』と書くらしい。


「これがあたしだけの名前なんだぁ」

「すごい名前よ。適当にはつけれないわ。お母さん、きっとすごく考えてつけてくれたのね」

「そーなんだぁ」


シュウランは秀麗が書いた漢字の紙を大事そうに持った。


「リオウくんは? どんな漢字っていってた?」

「……「瑠璃の桜」……?」

「姉様、なんで知ってるの?」

「なんとなくそう思っただけよ」

「そうなの? でも随分はっきり知っているのね、特に瑠璃なんて。こうかしら」


そういって秀麗は紙に『璃桜』と書いた。


「リオウは自分の漢字知ってるよねー。『ありがとう』だって教えてくれたもんね」

「……俺の名前じゃないけどな」


リオウはポツリと、呟き。琳麗はなんともいえない気持ちで彼を見つめた。


 ボクをみて

 ボクを愛して

 早く、早く、会いたい



突然、耳に入り込んできた声に琳麗は胸が締め付けられた。


(……今のは、なに…?)


天幕から出て星を見上げると、ザァっと風が髪を揺らしていく。
焦燥感が琳麗を襲い、動揺するように鼓動が早まっていく。


(――早く、いかなくては)


「シュウラン、そろそろ行くぞ」


天幕に入ってきた燕青が声を掛けると、さっきまで笑顔だったシュウランは顔を引き締めて頷いた。

「うん」


森の中へと進んでいく二人を見送りながら、秀麗は口を開いた。


「香鈴はただ助けられるのを待っているような娘じゃないわ。香鈴を助けるんじゃなくて、むしろ、私たちが香鈴に助けてもらうのよ」

「そうね、よく気づいたわね。さすが秀麗だわ」

「……姉様が教えてくれたのよ。私が香鈴だったら何をするか、って。だから分かったのよ、ありがとう姉様」

「……でも気づいたのは秀麗だわ」


琳麗は微笑し、秀麗の頭を撫でたのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


天幕の中で秀麗、リオウ、葉医師が眠っていた。
龍蓮はただ秀麗だけを見つめて呟いた。


「心の友、其の一よ。私は一足先に友、其の二の所へ行く」


天幕から龍蓮が出るとそこには琳麗が立っていた。


「……龍蓮」

「君は此処に…」

「いいえ、私は行くわ。行かねばならない……行かなくては…」


龍蓮が止めようとするが、琳麗の真摯な眼差しには無駄であった。


「いいのか」

「わしは構わん。琳麗嬢ちゃんの好きにさせてやるわい。……だがな、藍家の……」


いつの間にか天幕から出ていた葉医師はじっと龍蓮を見つめ、龍蓮もそれを返し、頷いた。


「無論、承知している。行くぞ、琳麗」

「――ありがとう、龍蓮。葉医師も……申し訳ございません、我が儘を言って、秀麗たちをよろしくお願いします」

「きちんと戻ってくるのじゃぞ」

「もちろん、分かっています」


龍蓮は琳麗を馬上へと上げると、手綱を取り、榮山へと駆けていった。
そして、しばらくしてから天幕からリオウが出て歩いて行ったのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌朝、眼を覚ました秀麗は龍蓮、リオウそして琳麗がいない事に気付いた。
天幕から出て辺りを見渡すが三人の姿は見当たらない。
ちょうどその時、燕青がシュウランと共に馬で戻って来た。


「秀麗お姉ちゃーん」

「おはよ、姫さん。よく眠れたか? こっちは首尾は上々だぜ」

「燕青、龍蓮とリオウくん、それに姉様を見なかった?」

「いないのか…?」


燕青はその問いに顔をしかめた。
近道をして来たので誰にも会ってはいない。
龍蓮は1人で先に榮山に行ったことは容易想像出来た。
だが、リオウと琳麗は…?
秀麗が考えているとシュウランが口を開いた。


「あ、もしかしてやること終わったのかな」

「え?」

「リオウ、石榮村の子じゃないもん」

「そうだったの?」

「そうなのか?」

「うん。いつの間にか村に来て、看病とか手伝ってくれたけど、なんかやることやったら出てくって言ってたから。それが終わったのかも…」


秀麗と燕青は顔を見合わせた。そして琳麗の事が気になった。


「姉様……どこに、ま、まさか邪仙教に捕まったとか…」

「いやそれはないだろう。姫さんもいたんだし、琳麗姫さんだけ捕まえる意味は…」

「でも…」


秀麗が顔を青くしながら呟いていると天幕がバサッと開いた。


「琳麗嬢ちゃんなら、藍家の笛吹坊主についてったわい」


振り向くと葉医師が欠伸をしながら、立っていた。


「そうなんですか!?」

「あぁ、心配はいらん。あぁ見えて琳麗嬢ちゃんは強いからのぅ」

「は、はぁ…」


葉医師に気にせず、秀麗嬢ちゃんは影月の救出に向かい、やる事をすれば良いと言われた。
琳麗は絶対大丈夫とまで言われ、秀麗と燕青は頷いたのだった。

時間は少し遡り、龍蓮と琳麗は榮山の坑道近くまで来ていた。


「琳麗は私の後ろにいるがよい」


そう言った龍蓮は笛を取り出すと、ぴろョら〜と吹き鳴らし、坑道の入り口付近まで歩いていた。琳麗はその後をついているが、ここは龍蓮に任せた。
龍蓮に気付いた白装束の男たちが声を挙げた。


「なんだ、貴様はっ!」


男たちは剣を構えるが、素早く動いた龍蓮によって、笛で倒された。


「峰打ちだ。全く、心の友其の二との再会を邪魔するとは、不粋極まりない」

「龍蓮、」


駆け寄った琳麗は坑道に足を踏み入れた瞬間、眼を見開いた。


「……龍蓮、貴方は影月を探しにいきなさい。私は、行くところがあります」


フラりと行こうとする琳麗に龍蓮は手を引いた。


「琳麗、」


だが琳麗はどこか神々しくも、なにものも近付けさせないような双眸を龍蓮に向けた。


「琳麗、そなたは紅 琳麗だという事を忘れるな。そなたには心の友其の一や家族、シ 静蘭が待っているのだからな」


静蘭の名を聞いた琳麗の双眸は少し和み、先ほどとは違う穏やかな口調で「分かっているわ」と告げ、1人坑道内を知っているかのように歩いて行った。
そんな琳麗を龍蓮は見送り、自分は反対の影月のもとへと急いだのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


声が聞こえる。
切望する声が、早く、早くと。
歩いて行く内に琳麗の頬には涙が伝っていた。
辿り着いた場所には横たわる少年を見つけた。

それを見た琳麗はまた涙を溢れさせた。





あとがき

久々の更新。
核心は次当たりで出せたら…。


2010/12/01


-137-

蒼天の華 / 恋する蝶のように