弐
──チャポン…
ちょっと熱めの湯に身を沈め、琳麗はほぅ…と息を吐いた。
「気持ちいいわね〜」
「本当ですね。秀麗様、琳麗様」
「本当〜なんか疲れが取れて気持ちいい」
「姉様ったら、なんだか年寄り臭いわ! その台詞」
「あら、ごめん」
ついつい気が緩んで姉妹の口調になってしまっていたのに気がつかず、ハッとした時には香鈴が可愛らしい大きな瞳を見開いていたのだった。
「あ、の……秀麗様と琳麗様はご姉妹でいらしたのですか?」
「えーっと…その…」
「あー、もういいわよ! 香鈴にならばれても!」
言い淀んでいた時には、秀麗が私たちが姉妹である事をばらしていたのだった。
「香鈴は信用出来るし、ずっと騙すっていうか、香鈴の前で他人の振りするのが出来なかったのよ」
ダメだった?と聞いてくる姿に、琳麗は笑うしかなかった。まだこれからの事を考えるとあまり得策ではない。
でも、彼は私が秀麗の姉だと知っている。
……なんとかなるか。とため息を吐いたのだった。
その時、どこからともなく「あーはっはっはっはっ…」と笑う声が響いてきたのだった。
「…なんか男湯の方盛り上がってるわね」
「久しぶりに皆さん、羽をのばしているんでしょうね。そうそう、秀麗様。此処は貸し切りのお風呂もあるんですよ」
「ほ?」
「あとで、劉輝様とお二人でお入りになってはいかがでしょうか?」
キョトンとする秀麗に香鈴は爆弾発言をしたのだった。
香鈴はニコニコと笑っていて、琳麗は笑いを堪えるのがいっぱいになった。
「……劉輝と二人でお風呂? ──ひぃっ!? ちょ、ちょ、ちょっと! とんでもない!!」
真っ赤になり声を上げる秀麗に香鈴はニコニコと笑みを絶やさなかった。
「あら、そんなにお照れになって」
「照れてるわけじゃないわよ…」
脱力という感じに答える秀麗に、琳麗はクスクス涙を溜めながら笑っていた。
(──確かに本物の夫婦ならいいだろうけど…劉輝様はいいとしても秀麗はねぇ〜)
肩を震わせてる琳麗に秀麗はむぅっとしていた。
「でも、一緒に入れるということは幸せな事ですよ。香鈴はお背中を流して差し上げたくても…」
「? 香鈴?」
「はっ! いいえ、なんでもありませんわ」
「そう…?」
秀麗には聞こえなかったようだが、琳麗には最後の呟きは聞こえていた。
フッと瞑目して、思いを寄せる。
まだ、自分には分からない感情を彼女は知っている。
この中で自分たちよりも幼いのにきちんと『女』の部分を持っていた。だから、間違わないで欲しい。気付いて欲しい。
そう願わずにはいられなかった。
ザバッと湯から上がり、琳麗は身体を洗っている秀麗の元へいき、背中を流してあげた。
男湯から聞こえる喧騒を無視し、琳麗は秀麗に話し掛けた。
「ねぇ、秀麗」
「なーに、姉様?」
「お土産、何か買って帰らないといけないわね」
「あ! そうね、父様に何がいいかしら?」
「あら、父様にだけ?」
「え? ああ、後、珠翠にも必要よね」
すっかり秀麗にまで忘れられているあの家人が大層哀れになってきた。琳麗は、はあ〜とため息を吐くとキョトンとしている妹に進言した。
「静蘭よ」
「静蘭……って! そうよ!! なんかおかしいと思っていたのよ!」
「……気付かなかったの?(あまりにも悲劇だわ)」
「ち、違うわよ! 私もなんで静蘭いないのかなーって思っていたのよ!でも、なんか、ついつい…忘れちゃって………オホホホホ…」
ごまかすように笑う秀麗に、琳麗は肩を竦めるしかなかったのだった。
「……明日、宮城に戻ったらお土産渡して謝ればいいわ」
「そ、そうね! そうよね!!」
「秀麗様、琳麗様。あまり長く入ってますとのぼせてしまいますわ」
香鈴が声をかけて来たので、琳麗たちは湯から上がったのだった。
「っ香鈴!? 変な気遣わないで!!」
「ふははは、抵抗するな〜」
「するに決まってんでしょう〜」
なんとも言えない合戦(笑)に頭が痛くなる。
「劉輝様、そんな強引になさっても……物事には順番というものがっ…」
「あの、順番に話す為に、まず、相撲がどういうものか教えないといけないのだ!さあ! 脱げ!! 脱ぐのだっ!! ほれほれ脱がすぞ――」
無理矢理脱がそうとするのは頂けない。
例え、話を聞いてる限り、秀麗を手篭めにするつもりはないのだとしても、さすがに限界だろう……
琳麗は、はぁっとため息を吐き止めようとした時、先に秀麗がキレた。
「いい加減にしなさい! このドアホ――っ!!」
「どあぁぁぁ〜!? どうしてだ? どうして、ぶつのだ――!?」
乱れた服を掻き合わせ、秀麗は「なんで?」という劉輝を見て怒鳴った。
「どうしてもこうしてもないわよっ! あんた、頭悪いんじゃないの――っ!!」
はぁ、はぁ、と肩で息をする秀麗に香鈴は微笑みながら言った。
「仲睦まじいことですね」
「どこがっ!?」
香鈴の言葉には、さすがの琳麗を額を覆いたくなった。何がどうなると「仲睦まじい」く見えるのだろうか?
確かに脱がせようとしないで話をする、聞くだけならば仲睦まじい…のかもしれない。と、考えているとジトッとこちらを見ている視線を感じた。
「……あ、秀麗…」
「っひどいわっ!! 姉様ったら、助けてくれないなんて――!!」
「えっと…助けようと思ったのよ? でも、その前に秀麗がね…」
あははは〜と笑っていると、楸瑛がやって来た。