劉輝がまたも秀麗と親睦を深める為に、今度は貴陽から程近い湖にやって来ました。


「「「「「おぉ〜〜〜」」」」」


あまりの美しい風景に皆は声を上げた。横にいた秀麗は、瞳を輝かせていた。


「うわぁ〜綺麗〜」

「これは見事だな」

「話には聞いていましたが、これほどの光景とは」

「さすが彩雲国百景に数えられるだけの事はありますなぁ」

「眼福、眼福。あの世へのいい土産になりました」

「鴛洵様っ! 縁起でもない事言わないで下さい!!」

「確かに、素晴らしい景色だね〜。ね、絳攸」

「ふん。ま、素晴らしいのは認めざるおえんな」


皆が、美しい風景にそれぞれ思い思い言っていると、ちょうど琳麗の隣にいた宋太傅は叫んだ。


「ようし! 泳ごう!!」

「「「「「ええっ!?」」」」」

「あ、脱いだ」


皆が驚くのも構わず着物をバサバサと脱ぎ、琳麗は慌てた。


「そ、宋太傅っ!?」

「服を持っていろ、琳麗。ふん! うん! うん! 我が筋肉が泳ぎたいと絶叫しておるわぁ!」


慌てて止めようとするも、着物を押し付けられてしまった。身体を動かし叫ぶが、すかさず楸瑛が突っ込みを入れたのだった。


「あのー…まだ、湖の水冷たいんじゃないですか?」

「無用な心配だ! 行くぞぉぉぉ!! とりゃあぁぁ!!」


湖に飛び込むとバシャバシャバシャ…とあっという間に泳いで行ってしまった。
その光景に、着物を畳みながら琳麗は頭が痛くなったのだった。呆れたように、絳攸が呟いたのを聞いて苦笑いするしかなかった。


「……本当に泳いで行って仕舞われたぞ」

「……まあ、一緒に来いとか誘われなかったのはよかったよ。ん? 主上と霄太師、二人で何を話しているんだろ?」


その言葉に、琳麗と絳攸は会話をしている二人の方へと目を向けたのだった。


「なに、話しているんでしょうか?」

「どうせ、ろくでもないことだろ」


……確かに。とは、ため息をついたのだった。


「そういえば、琳麗殿」

「なんですか? 藍将軍」

「先日なんですが、もしかして温泉行った時の事……静蘭に何か言ったかい?」


この場には、絳攸と琳麗、楸瑛しかいないのだが、楸瑛はなんとなく小声で聞いたきたのだった。


「え?──ああ、静蘭が公務だから来れなかったというのですか? でも、静蘭、結構怒ってましたよ〜私あんな静蘭をみたの初めてでした。笑顔で怒ってるの」

「……静蘭が笑顔で怒っていたのを見たのかい?」

「ええ、見ていてちょうど怖かったですわ」


ニコッと笑うのだが、その姿は本当に怖かったのかと疑問に思う位のんびりとした雰囲気だった。
一方、劉輝と霄太師は、ニヤニヤとなにやら密談をしていたようだ。


「「あーはっはっはっはっ…」」


傍目にも怪しく笑う姿に、絳攸はぽつりと呟き、琳麗も頷いたのだった。


「……気持ち悪いな、あの二人」

「……そうですね」

「おや、話が終わったと思ったら、今度は主上、静蘭に話しかけているぞ」


見れば、劉輝が静蘭と何か言葉を交わした後、傍にいた秀麗は静蘭と湖のほとりへと歩いていく。


「んん? 静蘭と秀麗が小船に乗ったな…二人で湖に出ていくようだぞ」


静蘭が秀麗の手を取り、小船に乗せてから岸から離れていった。劉輝はそれを笑顔で見送っていたのだった。
その光景に三人は首を傾げた。


「主上、にこやかに手を振って見送っているけど…いいのかな?」

「あ、噂をすれば、脳天気な馬鹿殿がこっちへ歩いて来るぞ」


見送った後、こちらに気付いたのかにこにこと笑いながらやってくる劉輝を見ていた。


「やあ、楸瑛、絳攸。ちょっと相談があるのだが」

「「相談?」」


楸瑛と絳攸は、首を傾げたのだった。琳麗は、なんとなくどのような相談なのか察して笑った。
お邪魔してはいけないと思い、琳麗は宋太傅の服を持ち、近くにある四阿にそれを運んだのだった。
湖を見てみると、秀麗がこちらに向かって手を振っていたので微笑んで手を振り返した。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ギーコ、ギーコ…と静蘭が小船を漕ぎいでいた。


「姉様も、呼べばよかったわね。それにしても、どうしたのかしら? 劉輝、私と静蘭と二人で小船に乗って楽しんで来い。だなんて」


琳麗に手を振った後、前に座って漕いでいる静蘭に秀麗は呟いた。
その呟きに静蘭は理由を分かっていながらも、素知らぬふりをした。


「何があったんでしょうね」

「なんだか、やけに気を遣ってたみたいだけど…心当たりある?」


じっと見つめられながらも静蘭は平然と答えていく。


「私に心当たりなどあるわけがないではないですか、お嬢様」

「おぉ〜二人とも〜」


バシャバシャバシャと、そこへ泳いでくる宋太傅がいた。小船の縁に手をつくと、元気に語った。


「ぶぇ〜さあ! 競争するかー! ぷはー、ふはー…」

「いいでしょう! 剣では負けても競争なら負けませんよ!!」


負けん気なのか、剣で負けたのがよほど悔しかったのか、静蘭はいうなり小船を漕ぎ出した。


「負けませんぞ〜〜!! わしの筋肉に負けるという言葉はないのですからな〜」


宋太傅は、意味の分からない事を言いつつ船に負けまいとまた泳ぎ始めたのだった。


「はっは…たーのしいですね〜お嬢様! それっ! それっ! それそれそれそれっ!!」

「……っふふ、そうね〜────なんか静蘭、変っ!!」


いつもとはかなり違う姿に秀麗は少し引き気味だったが、静蘭は気がつかなかった。宋太傅も勝負事が楽しいのか笑いながら泳いでいた。


「はっはっはっは〜〜ぶほっ!楽しいですな〜〜ぷはっ! あっはっはっはっはー」


その楽しそうな(異様な)光景を見ながら、琳麗は絳攸たちがいる所へと足を向けていた。
近くまで行くと話し声が聞こえて、なんだか声を掛けるのに戸惑ってしまった。


「やけに楽しそうだね〜静蘭たち」

「やれやれ、これで兄上…んんっ! 静蘭の機嫌は直ったようだな。となれば次は、余と秀麗の番だ!! さっ! どうしたら親睦が深まるのか教えるのだ!!」


縋るような劉輝に楸瑛は顎に手をやりながら答えた。


「ああ…そうですね〜…定番ですが水際で追いかけっこというのはどうですか?」

「追いかけっこ?」


少し首を傾げ、劉輝は想像し始めたようだ。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇



『オホホホホ…さぁ〜秀麗〜余を捕まえてごらんなさ〜い』

『待て待て〜こいつーっ!』

『いや〜ん、アハハ〜』

『アハハ〜』


   ◇◇◇◇◇◇◇◇


「…………逆だろ」

「あ、逆!? 逆かぁ〜〜…そうすると?」


なんとなく想像していたのが安易に解りやすいのか、役柄を逆で想像していた為、絳攸がすかさず突っ込みを入れた。
その漫才のようなやり取りに琳麗はクスッと笑った。


「琳麗どう思う?」

「……楽しいと思いますよ」


馬鹿馬鹿しい作戦だと考えてる絳攸の隣に行くと、上から声がかかり、琳麗は少し苦笑した。
劉輝はなおも妄想を膨らませているようだ。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇


『オホホホホ…私を捕まえてごらんなさ〜い』

『待て、待てったら、こいつぅ〜』

『うふふふふ…あっ!』

『えい! 捕まえた〜』


   ◇◇◇◇◇◇◇◇


「──そうして、熱い砂の上に抱き合うようにして寝転がる二人。ふと、真顔で見つめ合い、そして──」


楸瑛が語るように話していると


「あっつ!」

「どうしました?」


急に声を上げた劉輝に楸瑛はキョトンとした。


「駄目だ、楸瑛。太陽に焼けた砂の上で秀麗と親睦を深めようとしたら、砂が…」

「砂が?」

「砂が熱すぎるのだ!!」


ガクッ…と前のめりになるのはなんでだろう。なんという想像力の豊かさだ。
琳麗は、もうたはは〜としか笑えなかった。傍らの絳攸は、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりにそっぽ向いていた。


「ああ、もう! 変なところで想像力豊かなんですね〜」

「んまあ〜しかし、定番とはいえ追いかけっこか〜よーし! いーい考えを聞いたぞ!!」


また無駄な知識を手に入れた劉輝は、意気揚々と歩いていってしまった。


「──上手くいくと思うのか?」

「無理だね」

「だな」


少し遠ざかってから声を掛けた絳攸に、話をした楸瑛までもが無駄だと判断していた。琳麗は苦笑して、楸瑛を見た。


「では、なぜあのような事をおっしゃったのですか?」

「うーん、面白そうだったから…かな?」


ちろりと横目で琳麗は、劉輝の後ろ姿を眺めため息をついたのだった。


「琳麗はこの作戦どう思う?」

「え? そうですね〜」


頬に手をあて考えてみるが、とても意味がない行動に思えて外ならない。


「──追いかけっこしてどうなるのかが気になるところですね」


その言葉に、絳攸は確かにと頷き、提案した楸瑛は苦笑いしたのだった。


-22-

蒼天の華 / 恋する蝶のように