琳麗が濡れた服を着替えている頃、劉輝は三人の元に汗をびっしょり掻いて息を乱していた。


「はぁ…はぁ…はぁ…ダメだった……ぜぇ、ぜぇ…全力疾走で逃げられだぞ」

「「「ワー、残念デシタネ」」」


その様子に三人は棒読みの如く、とりあえず感想を述べた。こうなる事は分かっていたのだから。
ぜぇぜぇ…と肩で息をして、劉輝は最後の頼みの綱である静蘭をみた。


「もう! こうなったら兄ぅ……静蘭だけが頼りだ!! 頼む、静蘭! 秀麗と親睦を深める何かいい方法を考えてくれぇ」

「…私がですか? そうですねぇ、『情熱的な男』というのはどうですか?」

「お! 情熱的?」


ちらりと、中洲を見て静蘭は呟いた。


「幸い、中洲で花火の用意がなされているようです。主上の溢れる愛を花火にのせて。まさに情熱に燃える男の象徴です」

「そぉか! 燃える男。それは恰好いいな〜ありがとう! 静蘭! やってみる!!」


兄上である静蘭の助言に劉輝は嬉々として受け止めると、また走っていってしまった。その姿を見送りながら、楸瑛は呟いた。


「上手くいくのかな?」

「まあ、失敗するでしょうね。あんなにトンチンカンな方向にギラギラとしていては秀麗お嬢様と親睦など深まる訳がありません。フッ」


その言い草には、前回置いてけぼりを喰らった恨みなのか、はたまた大事なお嬢様をそう簡単に渡すものか!という意味合いの怒りがあったのかもしれない。
と、楸瑛と絳攸は背中に冷たい汗を流れたのを感じたのだった。そして、しみじみと呟いたのだった。


「静蘭、黒いなあ〜」

「うーわ、絶対敵には回せんな」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


──夜
ドドーンと花火が上がる。
夜空に広がる花のような光りがとても綺麗だった。
皆が天に咲く光りを眺めていると、霄太師がいきなり叫んだのだった。


「たーまやー! かーぎやー」


秀麗が不思議な響きに首を傾げながら霄太師に話しかけたのだった。


「なんですか? それは」

「東の島国では、花火を作った職人に敬意を表してそう叫ぶのだそうですぞ。意味はよく分かりませんがの」


白い髭を撫でながら霄太師が説明した。秀麗は感心したように話を聞き、自分も試してみた。


「はあ〜 そうなんだ。じゃあ、私も! えーっと、たーまやー! かーぎやー」


ドドーンと花火が上がる度、また天が彩り、花が散っていった。と、花火が打ち上げられる中洲に人影があるのに琳麗が気付いた。


「? ね、秀麗…あれって……」

「あれ? あそこにいるのは劉輝?」

「どう見てもそうよね」


琳麗は中洲を指差して、秀麗に教えたが二人は首を傾げるしかなかった。


「劉輝様、中洲で一体なにを?おや、何か叫んでますね」

「なにを言ってるのかしら? 花火の音で全然聞こえないわ」

「ええ、全く聞こえませんね」


なんだろう?と不思議に思っている琳麗と秀麗に、静蘭はにこりと笑っていた。
傍らでその顔をみた楸瑛は、また引き攣りながらも努めて明るくしようとした。


「静蘭、やっぱり黒いな〜」

「暗黒の使者だな」


しみじみと絳攸はある意味すごいことを話していたのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


劉輝は必死に声を張り上げるが、その声は――――


『愛してるよー!』


「お一人でもなんだか楽しそうですから、放っておきましょうか」


秀麗の耳には届いていなかった。
そのうえ、静蘭に突き放された事を知らない劉輝に、琳麗ははあっとため息をついたのだった。
秀麗は、別段気にする事もなく上がった花火に掛け声を上げた。


「そうね、たーまやー!」

「「「かーぎやー!!」」」


ドーン!ドーン!!と色鮮やかな花火が次々と上がっていく。


「「「たーまやー! かーぎやー!!」」」


『うぅわあぁぁ〜〜!?』


ババーン!ドドーン!!


「「「りゅうきぃぃ〜」」」


『しゅ、秀麗〜情熱に燃える余を見ているか〜!? あ、あつっ!! あつっ! あ、落ちる〜〜はらほれ、ひれはれ…』


ザッパーン!!


「たーまやー」


花火とどうやって打ち上げられたのか、花火の中に劉輝がいた。しかし、静蘭はそれでもにこやかに掛け声を上げていたのだ。


「ん? なんか今、花火の中に劉輝が見えたような」

「そんな訳ありませんよ、秀麗お嬢様。見間違いです!!」

「は、そうよね〜」

「……そうかな?」

「琳麗お嬢様、見間違いですって!」


言い渋る琳麗に静蘭は、笑顔で言ってきたため、琳麗は湖の方を眺めてから劉輝の為に綿布を取りにその場から離れたのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「綺麗ですわね〜、鴛洵様」


香鈴は、愛らしい声で茶太保に話しかけると、好々爺の顔をしながら髭を撫でしみじみと答えた。


「ああ〜ぱっと咲いてぱっと散る…人生もかくありたいものだ。なあ、霄よ」

「ふん、お前など殺しても簡単には死なんわい」

「ほぉ、はっはっはっ……」

「さて! もうひと泳ぎしてくるか!!」

「宋よ! まだ泳ぐのか…」


そんなしみじみと雰囲気もなんのその、宋太傅はまた立ち上がったのだった。傍らの霄太師はぎょっ!としたのは言うまでもない。
近くにいた絳攸はぽつりと零すとすでに服を脱ぎ始めていた。


「…元気ですね」

「あ、もう脱いでる」


自分を見てくる視線に、宋太傅は二人をみた。


「ぬう、おぬしらも一緒に泳ぐか?」

「「遠慮します」」


二人はぶんぶんと首を横に振るが、彼にはそんなことは通用しない。高笑いをすると、ガシッと二人を掴んだ。


「はっはっはっはー! 遠慮するな、さあ来い!! 男は身体が資本だぞ!」


バサバサと楸瑛と絳攸の服を脱がす。


「ああっ! だあ!」「うわっ…」

「え、え、遠慮します!」

「私も出来ればその方向で!」


抵抗しようとしても無理なので口で進言しても、やはり無駄だった。


「がっはっはっはっ、問答無用! それー!!」


ザバーン!と先に文官である絳攸は湖に投げ込まれた。


「うわあぁ〜」


さすがに武官である楸瑛は踏ん張っていたのか、宋太傅には敵わなかったらしくこちらも服を剥ぎ取られて湖に投げ込まれた。


「ふん!」

「だあぁ〜」


ジャバーン!
ぶくぶくぶく……と二人は湖に入れられてしまったのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「本当に綺麗ね、姉様、静蘭」

「そうね、綺麗だわ」

「ええ、お嬢様。本当に」


花火を見上げる秀麗と琳麗を眺め、静蘭はうっとりと答えたのだった。


「あれ? 私たち、なにしに来たんだっけ?」


今になって疑問に思ったのか、そう話す秀麗に、琳麗と静蘭は顔を見合わせ苦笑したのだった。


「さあ? いいじゃない、花火綺麗だし」

「そうですよ、お嬢様」


笑う二人に、秀麗はうーんと首を傾げたが


「まあ、楽しかったからいっか」


と笑ったのだった。そこへ、ようやく湖から上がってきたのか劉輝がふらふらとしながらやってきた。


「ぶはっ…はぁ、はぁ、しゅ、秀麗〜」

「あら、どうしたの? 劉輝! そんなずぶ濡れで、焼け焦げて、ふらふらで…」


その姿に琳麗は急いで綿布を掛けてあげた。


「す、すまない。琳麗……。秀麗、余は…情熱に燃え尽きたのだ……ははははは…真っ白にな」

「はあ…?」


「あ、倒れた」


訳の分からない事を言っている劉輝に意味の分からない秀麗は、首を傾げるしかないのだが、次の瞬間、劉輝が倒れて驚いたのは無理もなかった。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



花火が終わり、静寂が訪れた湖の波打ち際にて琳麗は立っていた。

今夜も新月だった。
暗闇の中で今日も声が聞こえる。


 ──私はお前を愛してる…

 いつか…私を見つけてくれ……

 私の元へ…戻ってくれ

 愛しき我が君よ──



「────あなたは誰?」



何度、呟いたか分からない問い。しかしいつもと変わらず答えなど返ってこない。
琳麗はため息を吐いた。


湖に映る星天が揺れている。それを見つめ琳麗は歌を口ずさむ

静かな歌声は風に乗り

湖の上を流れていく


声の主を想い、紡ぐ歌はまるで恋の歌であった。琳麗は瞑目して、呟いた。



「……恋焦がれているのかしら」



見知らぬあなたに──。






親睦花火大会/終





あとがき

こちらもドラマCD2からのネタです。
もう温泉旅行に連れて行って貰えなかった静蘭を聞いて、これはネタとして書かねば!と意気揚々と携帯に打ち込みました。
ですから、インターバルの中で一番長かったりします。
もっと静蘭の暗黒の使者っぷりを増大させようかと思ったのですが、オリジナルには勝てませんでした(笑)

2007/01/20


-24-

蒼天の華 / 恋する蝶のように