琳麗は静かに目を覚ました。
突然、夢から醒めて途端に溢れ出る涙は、自分でも意味が分からなかった。


(今のは……夢?それとも―…)


色々な感情が混じり、なぜ泣いているのかさえ分からない。
ただ怖かった。ただ、迷い子のような気持ちで哀しかった。

やっと知る事が出来た声の主
かの声は優しく、包み込んでくれていた。きっと出会ったら嬉しい気持ちになると思っていた。
しかし、触られるのが嫌だった。だって──彼は果てしなく闇だった。でも、一瞬だけ、彼に近寄ろうとしたのも事実


龍蓮の言葉を思い出した。

──闇は光りを求め、光りも闇を求める

琳麗は顔を覆って泣いていた。
その場にいた医師や女官は困惑していたのが目に入ったが、涙は止まらなかった。

人前で泣いたのは何年ぶりだろうか…………


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あの事件から一週間、琳麗は眠っていたようだった。
霄太師が私を連れて戻った時には、宮城は大混乱だったらしい。(なんたって貴妃が回復に向かっているとはいえ重体なのだから)
しかし、秀麗も静蘭も無事に目を覚ませば今度は琳麗が眠ったままだと聞いて、ヨロヨロの身体で駆け込んだらしい。
だが、目覚めないままの彼女の姿を見て不安がっていた。と医師たちから聞かされた。
琳麗が起きたという知らせを受け、飛び込んで来た秀麗は物凄く泣いていた。


「姉様っ! よかっ……もう…目覚…めない…かと……」


母様の事があるからだろう…眠るように逝ってしまった母。その恐怖からか秀麗は泣いていた。琳麗はゆっくりと寝台から立ち上がると、俯いている秀麗を抱きしめた。


「ごめんなさい、心配かけて」

「……怖かった…私、本当に怖かったのよ! 姉様!!」

「…うん、怖かった──」


──私も怖かった…


解毒が出来なかったかもしれないと聞かされた時、本気で怖かった、静蘭の傷の深さを聞いた時も怖かった。
そして、みたあの夢が。


「琳麗様っ!」

「琳麗、秀麗」


また扉が大きく開いて、飛び込んで来た人達に目をやった。静蘭が劉輝に肩を借りて足を引きずりながら、室に入って来た。


「静蘭、主上」

「ちょっ、静蘭大丈夫なの!?」


秀麗は慌てて、静蘭の方へ寄るが傍らにいた劉輝が秀麗の腕を取った。


「えっ? 劉輝?」

「静蘭、余は邵可を呼んでくるぞ」


そう言って、秀麗を引きずって出て行った。


「…なんで秀麗も?」


キョトンとする琳麗に静蘭は苦笑した。きっと気を遣ったのだろう。
彼にはきっと気持ちが知られてしまったのだ。怪我した足を引きずりながらも飛び出した自分を見て。


「――静蘭、足大丈夫?」


琳麗は、静蘭を椅子へ座らせようと手を引いた。しかし、逆に琳麗が引き寄せられ抱きしめられてしまった。


「静蘭?」

「ご無事で……」


掠れた声で呟かれ、琳麗は顔を上げた。困ったように眉が下がっている静蘭の顔を初めて見たような気がした。
琳麗はそっと頬に手を添えると、ふわりと笑った。


「……心配かけてごめんね、静蘭」


その笑顔に静蘭は引き寄せられるように顔を近づけようとしたが、口を手で遮られた。その行為に静蘭は目を見開き、琳麗は苦笑した。


「そんな簡単にされる訳にはいかないわよ、静蘭」

「──それは残念です」


そう話す静蘭にクスッと笑ってしまった。
静蘭の手を取り、今度こそ椅子に座らせようとしたが、足が痛いだろうと思い寝台の方へ促した。


「琳麗様の方こそ大丈夫なのですか?」

「うん、大丈夫。怪我とかしている訳じゃないし……」

「──では、なぜそのような顔をなされているのですか?」

「え?」


ぐいっと手を掴まれ、静蘭の隣に引っ張られた。頬を撫でられ指が目元をなぞる。


「……医師たちが起きた時泣いておられた、と申しておりました」


何かあったのですか。と重ねて訊かれ琳麗は口ごもった。なかなか話そうとしない琳麗に静蘭は辛抱強く待っていた。そして、ぽつりぽつり話し出した言葉に耳を傾けた。


「…前に──話した事覚えてる?」

「?」

「…声が聞こえてくるっていうの」

「あ、はい」

「……夢を見たの」

「夢、ですか?」


静蘭は困惑した顔で見ていた。琳麗もどう言っていいのか分からない状態だった。


「…声を掛けてくる人に……夢であった……の…わ、私を『愛してる』って…怖かったっ……でも、また会う時は私を……」


ぶるっと身体が震えてしまう。自分はどうしたいのか、分からない。
もしかしたら、心の奥底では迎えに来るのを望んでいるのかもしれない。──でも、怖いと感じた。

そんな矛盾した想いを抱いていると、ぎゅっと抱き寄せられた。


「あなたをそんな分からない者になど渡しません」

「……静蘭?」

「なにがあろうと私が傍におりますから」


傍にいさせて下さい。そう言う静蘭の真摯な眼差しに、琳麗はなぜか朱くなってしまった。
それには静蘭も驚いたが、次の瞬間、顔を綻ばせていた。
言葉だけでこんなに真っ赤になっている琳麗の姿は貴重で見た事なんてなかったのだから。
ようやく言葉が伝わったのだろうか?信じてもらえたのだろうか?
今まで誰の気持ちも、想いも信じて来なかった、この人は。


「せ、せせ、静蘭ってそんな恥ずかしい台詞よく言えるわねっ」

「──おかしいですか?」

「だ、だって!……ひゃっ…」


真っ赤な琳麗が可愛いらしくて静蘭は、笑みを浮かべ頬に口付けをしたのだった。


「覚悟しておいて下さい」


それは宣戦布告。
琳麗に対して。彼女の周りに対して。そして、まだ見ぬ琳麗を捉える者に対して。


──そう簡単には手放す訳にはいかないからな。


彼女は、私の“光”なのだから。








第六幕/終





あとがき

書きたい事が全く書けなかったです(苦笑)とくに声の主な!
脳内では、全く違った事を描いていたのにいざ文字に興せばこんなんだし。
つくづく文才がないですなー。
とりあえず読んで頂き、感謝感激でございます。
次章にて「はじまりの風は〜」編は終了。
「黄金の約束」編の前にインターバルになると思いますがお付き合い頂ければ…と思います。


2007/01/24


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蒼天の華 / 恋する蝶のように