二人の会話を聞きながら楸瑛は堅く凝ったこめかみを、指先で揉みほぐした。


「……静蘭、琳麗殿」

「「はい?」」

「そういうことはもっと早く報告するべきだと思うんだが?」

「私がいうのおかしいではないですか?」

「本人はあとでちゃんというつもりだったみたいですから、二度手間かと。そうそう、これで市中を騒がせている賊を残らず退治できたら、特別報酬いただけますか?」

「……まさかそれを見越して黙ってたわけじゃないだろうな」

「いいえ、まさか。まったくの偶然です」


またしてもにっこり。魔性の微笑みだ、と絳攸と楸瑛は同時に思った。ようやく話の筋がのみこめた劉輝は青くなった。


「じゃ、一緒にいる秀麗も危ないではないか!」

「大丈夫ですよ。燕青がそばにいるなら、まあお嬢様に危険が及ぶことは皆無でしょう。じゃなければ預けたりしません」


その絶対の自信に、驚いたのは楸瑛と劉輝のほうだった。


「……ずいぶん、信頼しているようだね」

「信頼というか……あの男より強い人間というのを、彼の師匠を除いて知らないだけです。本人の前では死んでも言いたくありませんが、格闘と棍なら間違いなく彩雲国一です」


琳麗は苦笑した。
「……言ってあげればいいのに」と呟くと静蘭は複雑な顔をしていた。武官・藍将軍としての楸瑛の瞳がわくわくと期待に輝く。


「剣は?」

「さっぱりです。ですから羽林軍には無理だと思いますよ。剣は嫌いだといってましたから」

「……それは残念」

「で、どうします? お三方」


劉輝はぐっと拳を握りしめた。


「行くに決まっている! でなければ、何しにきたのかわからん」

「まったくですねぇ。で、絳攸はどうする?」

「後ろから礫でも投げながら応援してやる。当たっても文句いうなよ」

「うわーやる気になるねー……」


二人のやり取りを見ながら琳麗も声をあげた。


「はいはい! 私も──」

「いけません!」


最後まで言う前に静蘭が駄目押しをした。


「いいじゃない、私が行っても。絳攸様だって行くんだし」

「絳攸殿と琳麗様は違います! 怪我でもなさったらどうするんですか!!」

「……私だけ待つなんて」

「駄目です! いいですね!!」


ぷぅと少し拗ねる琳麗を見て、見馴れない劉輝たちは目を見張った。そんな様子を黙って見ていた邵可に静蘭は顔を向けた。


「ということですので、一晩留守をお願いします。明日の朝には絶対帰ってきますから」

「うん。待っているよ。明日はみんな揃ってお墓参りしないと、妻に怒られてしまうから」


そう、明日はこの家の主・邵可の妻であり、秀麗たちの母である人の、命日だった。


「奥様の雷は恐ろしかったですからね。必ず。──では、行ってきます」


二人がそんな会話をしている時、琳麗は絳攸に頼まれ事をされていた。


「これを……黎深様に届けてくれないか」

「叔父様にですか? いいですよ」

「すまない」


そう言って書翰を手渡すと少し元気がなさそうな顔を見て、頭を撫でてやった。


「あ、いや! 残念だったな……秀麗がいなくて」

「え、でも皆さんが心配でして。静蘭たちだから大丈夫だとは思いますが……」


でも誰かと戦うという事は怪我をしない保証などない。それを聞いていた楸瑛は、にっこり笑った。


「大丈夫だよ、琳麗殿。私は琳麗殿を悲しませたりしないからね」


片目をつぶって笑う楸瑛に琳麗は、目を見開いたあとクスッと微笑んだのだった。そこへ、静蘭がやってきて楸瑛を琳麗から引き離すと


「では、行ってきますね。琳麗様」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「はい、必ず」


そういうと四人は邸を出て行った。がらんとした室で琳麗は邵可に振り向いた。


「君はとりあえず、絳攸殿に頼まれた書翰を黎深に届けなさい」

「……父様は?」


邵可はひとつため息をつくと


「珠翠、黄尚書の邸周辺はどうなっていた?」


はい──という言葉とともに、今までそこにいたかのようにごく自然に珠翠は姿を現した。


「静蘭様の読み通りです。午後の一件で燕青殿のことがばれてしまったようですね。残った茶州賊がまとまって黄尚書邸に夜討ちをかける算段のようで、周辺に集まってきています」

「数は?」

「さほどは。先日までの燕青殿の地道な努力で、だいぶ数を減らされてますから。三、四十人といったところです。一部貴陽の破落戸も混じっているようですが、たいしたことはありません。邵可様自ら参られなくとも、私だけで充分です」


邵可は穏やかに笑って首を振った。


「妻の命日に娘たちの命を人任せにはできないよ。万一のことがあったら悔やんでも悔やみきれない」


そういうと琳麗を見た。


「だからといって君を連れてはいかないよ。君は黎深のところへそれを持って行きなさい。あの子がもし黄尚書邸に行くというなら一緒に行ってもいいよ。でも、乱闘には加わらないようにね」


にっこり笑って釘を刺され、琳麗は仕方なしに頷いた。父・邵可と珠翠を見て呟いた。


「怪我したりしないでね…」

「しないよ、大丈夫だ」

「大丈夫でございますよ、琳麗様」


それを聞いてから、琳麗は書翰を携えて紅家へ向かったのであった。




第四幕/終



あとがき

とりあえず、中途半端なところで切ってしまいましたー。
なんか裏側っぽいですな、夢主。
始めは秀麗たちとお墓掃除を一緒にしているところを書いていたのですが、
燕青とのやり取りがうまく書けなかったので没にして王宮にいるところを書いてみました。
それに本当は一緒に乱闘に加えようかと悩みましたが、どうやっても静蘭から大反対を喰らうであろうと思いまして…。
弱い訳ではないのですが(むしろ絳攸より強い)ここは別行動させちゃいました!

原作とアニメを混ぜ込みましたのでその間を進んでおります。
秀麗と一緒の行動ではないので、燕青と絡まない絡まない…(笑)
本当に駄目駄目で申し訳ございません!
次で終われたら……と思ってます(無理っぽいな)

読んで下さってありがとうございましたv

2007/03/03


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蒼天の華 / 恋する蝶のように