「な、なんだ?」

「陛下の即位の折りには事情があって副官を行かせましたので、お初にお目にかかります」


燕青はいつもの大雑把な態度からは考えられないほどの優雅な仕草で膝を折った。


「茶州州牧、浪 燕青です」

「茶州州牧〜?」


それには秀麗を始めとして、楸瑛、絳攸、静蘭も驚いていた。


「あいつが、あのっ…」

「国試を通ってもいないのに州府長官に抜擢された異例中の異例の人物だ」

「国試を……そんなことありえるの?」


そんな中、劉輝は厳しい目付きで燕青を見た。


「で、その茶州州牧がなぜここにいる」

「茶州には中央の支配から逃れ、茶一族が実権を握ろうとしてきた歴史があるのはご存知でしょう」

「だが、茶太保、茶 鴛洵が当主となってから一族を上手くまとめ上げたと聞いているが…」


絳攸の言葉に燕青が真面目な顔をして答えた。


「一時的にはです。鴛洵様は紫州で王の側に控える身になり、茶州に目が届かなくなってしまった。結果、茶一族による茶州府長官への謀略を赦す事になった。ある者は買収され傀儡に成り下がり、ある者は暗殺された」

「そんなのって……」


その話に秀麗の顔が曇り、燕青はひどく微妙な顔をした。


「ひどい話だろ。おかげで誰も長官になりたがらなくなっちまった」

「それで、どんな刺客もことごとく返り討ちに出来るような者を州牧に据えればいい。と茶太保が言ったとか──それがそなたか!」

「その通りです。確かに腕っ節には自信がありましたが、国試どころか準試にすら合格していなかった私ですから、とりあえず、臨時という事で赴任したんです」

「臨時だろうがなんだろうが、茶太保の目は確かだった。新任の州牧は忍び込んでくる刺客をことごとく撃退した。それだけじゃない、政事も見事だったと聴いている。確かに有能な補佐官を同行させてはいたが、最終判断は統べて自分で下し、誰が茶州の長であるかを周囲に示した。その上で茶一族のどんな諌言も脅しも一切無視した」


絳攸の言葉に、燕青は先ほどよりもややゆるまった表情で苦笑した。ついでに口調も砕けてくる。
そしておもむろに袷から何かを取り出した。


「そう言われると照れます。んで、本題なのですが、私が貴陽に来たのは陛下にこれを預かって頂きたかったからです」


差し出されたものをみて、劉輝は瞠目した。


「これは──茶州州牧の持つ佩玉と印ではないか!」

「鴛洵様が亡くなられ、茶一族の動きが活発になり始めたんです」


その言葉に劉輝はカッとして叫んだ。


「ならばなぜここへ来た! そなたが茶一族を抑えなくてはならない時だろう!」


燕青は苦笑した。


「本当に茶州府長官だと胸を張れる立場なら私もそうしました」

「なに……?」

「後見役だった鴛洵様はもういない。国試にも通っていない身で正式な長官だとは認められないと言われれば、それまでです。だからこそ、ここへ来たんです。新王陛下がどのような方なのか、周りにはどんな方々がいるのか、見極めた上でお話がしたかった」

「賊に付け狙われてたのは?」

「この首に懸賞金が懸けられたようです。一応、睡眠時間を削って退治してたんですが」


その言葉に琳麗がぼそりと呟いた。


「やっぱり、燕青さんだったのね。宋太傅が余計なことをと怒っていたのよ」

「余計なこと!? うわひでー。毎晩目をしぱしぱさせながら頑張ってたのに」

「あの子供は? お前を追ってきたようだが、賊なのか?」

「はあ、まあ、見ての通り逃げ足と運の良さしかとりえないんで、ほっといたんですが」

「逃げっぷりと勘の良さは確かにすごかったがな」

「ええ。ま、害はないですし、俺が責任もって茶州の山まで送り届けますから、あいつらだけはちょっと見逃して下さい」

「……まあ、別につかまえても仕方ないしな……」

「で、話を元に戻して茶州のことなんですが」


劉輝はハッと現実に戻った。


「事情は分かった。すぐに正式な任命書を出す」

「言ったはずです。私は国試に受かっていないと、同じ事を繰り返しても意味がない。ちょうどいい機会です、今度こそ誰にも文句をつける事の出来ない正当な州牧を派遣して下さい」


燕青はまっすぐに劉輝を見た。
劉輝は無言で佩玉と印に手を伸ばした。彼は文字通り命をかけて、茶州の状況を伝え、直訴にきたのだ。


「……そなたは、どうするのだ」

「茶州に戻ります。州牧でなくても出来る事は沢山あります」

「燕青、命令だ」

「はい?」

「せめて準試には受かれ。そうすれば州牧補佐には任命出来る」

「補佐ならもう有能なのがいますが、準試は受けるつもりです。茶州文官になるのが私の夢でしたからね。もう一度、一から頑張るのもいいかなーって思いまして」


燕青は、秀麗の方をちらっと見ながら言ったのだった。琳麗はそんな彼を見て微笑するとパンっ!と手を叩いた。


「さ、そろそろ中に入りましょう? 秀麗とご飯作っておいたのよ。お腹空いてるでしょ」


その言葉に劉輝に楸瑛、静蘭、もちろん燕青も異論はなかった。彼らは夕飯も食べずに他人様の庭院で暴れ回って空腹だったのだから。






第五幕/終



あとがき

いやあ〜、いったい何を書きたかったのやら。
見事に原作とアニメのごちゃまぜですよ!
ちょっと順番も変わってますが、見逃して下さい。
夢主ちゃんは黎深様と一緒に来ちゃいましたー。
静蘭たちとはほぼ同時でしょうか?
原作で黎深が、奇人と絳攸の会話を盗み聞きした上に最初から室内にいたようでしたのでね。
夢主ちゃん、礫投げたりしたのはなんとなく…というか絳攸の言葉を信じていたからです(笑)
今回は珍しく夢主ちゃんと燕青が会話をしました!

次で「黄金の約束」編は終わる予定です。
次は秀麗の風邪話と影月くんとの出会いでしょうか?
頑張りたいと思います。
しかし、夢要素ないな……。
拝読ありがとうございました!

2007/03/09


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蒼天の華 / 恋する蝶のように