参
それから数日、戸部の仕事を手伝っていた燕青だったが、帰るときは実にあっさりしていた。
「さーて、じゃ、お別れだ、姫さん方」
ある晴れた日の朝、燕青はいつもの笑顔でくしゃくしゃと秀麗の頭をかき撫でた。
「結構長く居座っちまって悪かったな。ありがとよ。姫さんたちの飯サイコーだったぜ」
「本当に行っちゃうの? 父様今日は用事があっていないのに……明日とかにすれば」
「そうよ。私あまり燕青さんと話せなかったから残念だわ」
「うわー、琳麗姫さんにそんなこと言ってもらえるなんてうれしーなー。でも、未練たらしくなるから、だめ。あ、黄尚書には昨夜文出しておいたから。人も戻ってきはじめたから大丈夫だってさ。姫さんもそろそろお役御免になるんじゃねーかな?そうそう、俺のぶんの手当も出してくれるみたいなんだけど、姫さんがもらっといて。宿代ってことで。邵可さんに挨拶できねーのが心残りだけど、姫さんからよろしくいっといて」
燕青は憎らしいくらいいつも通りだった。あっけらかんとして、名残惜し気な様子もない。でもだからだろうか? また会えるかもしれない──そうなんの根拠もなく思えるのだ。
「はい、燕青さん。お弁当作ったから持っていって」
「おぉっ! 琳麗姫さんあんがとー。でも多くないか?」
差し出された弁当の多さに燕青は目を見開いた。
「道中は一人じゃないでしょ? あの子たちの分もなの……あと、お願いがあるの────」
琳麗は微笑すると袷から文を取り出して、燕青に渡した。
「えっ……あー、分かった。必ず渡すよ」
「……よろしくね、また会いましょう」
「……また、行き倒れることがあったらうちの前にしたらいいわ。たいしたものないけど、あなた一人くらいなんとかなるわよ」
「静蘭のお友達だし、いつでも歓迎するから」
お友達という言葉に静蘭は微妙な表情をしたが、何もいわなかった。燕青は破顔した。嬉しそうに秀麗と琳麗の頭を撫でる。
「姫さんたちはほんといー娘だなぁ。元気で優しくて飯うまくて努力家だし。……姫さんがうちの上官になってくれたら、おもしれーんだけどなぁ」
最後の呟きは秀麗には聞こえなかったようだが、琳麗には聞こえていた。
「じゃな。姫さんたちも静蘭も元気でな。またな」
そしていかにも気軽な様子で、燕青はふらりと去っていったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
猛暑も和らぎはじめた夏の終わり、朝廷でひとつの議案が可決された。
──国試女人受験制である。
琳麗はその話を朝廷三師の室にて霄太師、宋太傅から聞かされた。
「そうですか」
一言呟いた。そして二人の為にお茶を入れた時、ふと瞑目する。
秀麗の事を思えば、長年の夢を叶える機会であった。
だが、主上は?彼は気付いたのだろうか?
秀麗は『官吏』として、王宮にいることになる。それは彼が望んだ形とは違う物だと……。
琳麗は瞳を開いた。
後でお饅頭とお茶を運ぼう。とりあえず、議案を通して安堵している彼らの為に。
そう思い、まずは目の前の老臣二人にお茶とお茶請けである饅頭を差し出したのだった。
最終幕/終
あとがき
えと、もはや夢でもなんでもない話になってますね(アハ)
まあ常に夢要素皆無ですけどね、うん。感想頂けたら嬉しいなーと思ってます。ええ、涙流しながら喜びます!
次は一気に『お見舞い戦線異状あり?』でしょうか。だけど、あまり夢主出ないかも(え)
どっかでオリジナル入るかもしれません。
では、ここまで読んで下さってありがとうございました!
2007/03/13